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組織の調査2

闇の商人

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私が目を覚ますまでの間、ヒサメたちはグウル国王と話をしたらしく、その情報共有をすることになった。
「昨日ようやくグウル国王殿と会話をすることが出来た。ベッドから体を起こし、頭を下げる国王はあの日とはまるで別人だった。」
4日前、ヒサメが謁見した国王は操られている状態だった。
その魔法が解けたことにより、本来の国王へと戻ったのだろう。
「みなに大変な迷惑をかけたと謝罪して、リビ殿にも恐ろしいことをしてしまったと言っていた。キミを落とし穴に落としたあげく、槍で突き刺したそうだな。そう言った本人は、そんなことができるような人間には見えなかった。」
ヒサメにそう言われ、手の甲の痛みを思い出す。
あれは本当に痛かったので一発殴りたい。できないけど。
「黄金の国は、宝石の採掘と加工で富を得た。そのことに利用価値を見出す者や、あやかろうとする者が再現なく寄ってくる。いつしか、良くない商売も受け入れる国として悪評がついていたが、それは無知な周りが勝手につけたものだった。リビ殿も言ったように、黄金の国が泥をかぶったおかげで救われた命がたくさんあったのだ。噂を鵜呑みにすることは愚かなのだと思い知った。」

黄金の国は、山賊や裏の売人の違法取引を受け入れて、奴隷や魔獣を逃がしていた。
おそらく、商売人にはそれがバレていた可能性もあるが、金が手に入るならかまわないのだろう。
表立って見えるものだけが真実とは限らないということだ。

「一か月ほど前、とある二人組の商人が来たらしい。その二人は世間話のようにブルームーンドラゴンの話を始めたという。国王殿は以前からドラゴンには興味があったため、二人の会話に聞き入った。ドラゴンに会いたいか、どうすれば会えるか、ドラゴンが何をもたらしてくれるか。商人の言葉を聞いているうちに、次第にドラゴンへの欲が増幅していく感覚があったと。商人の言葉が嘘や偽りなどとは微塵も思わず、彼らの言葉こそ従うべき道標だとその時から思ったそうだ。」
言葉たくみに誘導し、そうして操られる状態に持っていくという感じなのだろうか。
なんとも宗教じみたやり方に思えた。
「そうして、ドラゴンのことだけしか考えられなくなった。自分の国の加護を強化するため、ドラゴンに会いたいという自分の欲望のためならば、どんなことでもしなければならないと思ったという。それこそ、歯向かう騎士は処刑に値するとまで言ったらしい。周りはすっかり変わってしまった国王に戸惑いながらも、逆らうことは許されなかった。鑑定士でもいれば、魔法がかけられていると分かっただろうが、あいにく黄金の国に鑑定士はいなかった。いや、いないからこそ利用されたのかもしれない。」

もしかしたら、鑑定士に値する魔力コントロールができる人もいたかもしれない。
だが、そのかけられた魔法をどうにかする術など持ち合わせていなかったのだ。
黄金の国が頼れる国など、なかったから。
彼らがやってきた善行は、歪んだ悪行として広まっている。
それを黄金の国自身が理解していたからこそ、誰にも頼ることは出来ない。
私とソラを送迎する騎士が無関心だったのは、心を殺すことでしか自衛できなかったからだ。
変わってしまった国王を見たくなくて、目を背けることしかできなかったのだ。

「あの小瓶に入っていた毒薬は、その商人の片方から手渡されたそうだ。危機に瀕した時に飲めば、貴方の望むような結果になると言われて、それを疑わなかった。オレと対峙したとき、戦闘力では適わないと分かっていたのだろう。だからこそ、あの場面で小瓶の液体を飲んだ。商人からすれば、危機に瀕した際、自分たちの情報を漏らすことがないように口封じのために飲ませるための口実だったのだろう。」

今回も静寂の海のクレタ同様にグウル国王を殺すつもりだった。
だが、幸か不幸か私がアサヒの花を持っていて、解毒方法を知っている占い師が現れた。

「リビ殿はあの時小瓶を見て毒だと叫んだだろう?何故分かったのだ?」
ヒサメの問いに私はなんと答えるべきか迷ったが、素直に言うことにした。
「静寂の海から帰ったあと、夢を見ました。クレタさんが小瓶を受け取り、それを飲み干す夢。周りには血の海が広がっていて、夢の中の私はあれが毒だと思ったんです。だから、今回小瓶を見て、操られている可能性があったことから毒だと直感しました。」
こんな話信じてもらえるだろうか。
そう思ったが、ヒサメもシグレもボタンも、そしてソラもなるほどと頷いている。
「勘が働いたのか、考察によってそんな夢を見たのか定かではないが、あり得ないことではない。静寂の海での件を目の当たりにしたことにより、毒をどのように受け取ったのかというのが、リビ殿の中で引っ掛かっていたのかもしれないな。」

夢で見た小瓶がグウル国王が飲んだ毒の小瓶と同じものとは言えない。
だが、クレタがあの毒を飲む瞬間がとても鮮明に映った。
あまりにリアルなその映像が、本当にそうであったかのように感じたのだ。

「グウル国王が少量飲んだ毒は、現在白銀の国の研究者によって鑑定中です。静寂の海でクレタさんから検出された毒物と同じものか否かも調査中です。」
シグレの説明に私は問いかける。
「毒蛇の毒の解毒方法はない、という話でした。それは、それに関する文献が存在しないということでしたよね。あらゆる効果が書いてあるヒバリさんの植物図鑑にも載っていなかった。しかし、今回あの占い師によってアサヒの花の副作用が毒蛇の毒の解毒になることが分かった。アサヒの花の副作用については、文献にあったはずです。静寂の海の人魚の皆さんもご存知でした。研究者の皆さんから見て、毒蛇の毒に対して、アサヒの花の副作用が効果があると考え付くことはなかったということですか?あ、これは純粋な疑問で、他意はないです。」

白銀の国の研究者が劣っているとか、そんなことを言いたいわけではない。
ただ、単純にそこから結びつけることはできないものかと思っただけだ。

すると、シグレが難しい顔をして答えた。
「簡単そうに言いますけどね、そもそも副作用とは効果に不随しているんです。その効果をもたらす為にやむを得なく副作用が表れる。海熱病の治療は、その効果と副作用を切り離せないから困っていたんでしょう?今回のケースは逆で、解毒には副作用が必要で、熱を下げるという本来の効果は邪魔だった。この効果と副作用を今後別々に分けるとしたら、片方の効果を打ち消す別の薬品を見つけるとか、もしくは効果と副作用の成分を完全に分離することが出来なければなりません。現在の研究ではそれができない。実質、毒蛇の毒を解毒できるのは貴女しかいないということです、リビさん。」
そう言われた私は、ため息が出そうになって飲み込んだ。
「グウル国王やクレタさんだけではなく、操られている人はいるでしょう。その人たちが毒を所持しているとなれば、いずれそれを飲む。私が今回グウル国王を救えたのは、強制的に魔力を引き上げる魔法薬を飲み、既にかかっていた闇魔法に勝てたことにより、解毒が可能になったからです。そう考えると、私すら解毒はできないということになる。」

現在の研究では効果と副作用を分けることは出来ない。
現在、私の魔法ではドクヘビの闇魔法に勝てない。
この二つのことから、毒蛇の毒の解毒が確立できないということだ。

「ええ、ですからリビさん。貴女が強くなるしかありません。」
シグレはさらりとそんなことを言うので、思わず顔を凝視した。
「何を驚いた顔をしてるんです?魔法薬で強制的に引き上げたとはいえ、貴女はげんにドクヘビの魔法を上回ったということです。それは、貴女にはそこまで魔法が強くなるという見込みがあるということ。もちろん研究者の皆さんも、解毒薬を作れないかと粉骨砕身しております。ですが貴女が自分の魔法を強化する方が、解毒薬完成よりもはるかに可能性がある。私と頑張りましょうね。」
シグレの笑顔に恐怖しながら、私はヒサメの方を向いた。
「療養が第一だが、リビ殿の魔力強化には賛成だ。おそらくドクヘビはリビ殿の存在を認識している。奴らにとってリビ殿は目的遂行の妨げだ。今回グウル国王殿がリビ殿を殺そうとしたのも、ドクヘビの意思が絡んでのことだろう。」

ドクヘビはドラゴンを殺して回っている。
そして、ソラをも殺そうとしたが私がいたことにより出来ないでいる。
そして今回、ソラよりもまず私を殺そうとしたがまたも失敗に終わった。
それだけではなく、グウル国王を殺し損ねたことにより情報まで漏洩してしまっている。
次第にボロが出始めている組織ドクヘビと対峙するためには結局、私が強くなるしかない。

「お手柔らかに、はしてくれないですよね分かってます。」
「ええ、これまで以上に大変な訓練となるでしょう。」

シグレにそう言われた私の顔色がよほど悪かったのか、ソラが手を握ってくれた。
「ソラ、ありがとう。」
「キュキュ。」

そんなやり取りをしていると、表にいた別の騎士が扉から入って来てヒサメに耳打ちする。
するとヒサメが私に向かってこう言った。
「黄金の国の騎士がリビ殿に会いたそうだ。どうする?」
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