【完結】異世界転移した私がドラゴンの魔女と呼ばれるまでの話

yuzuku

文字の大きさ
上 下
97 / 169
組織の調査2

熱い体温

しおりを挟む
部屋に入ってきたのはヒサメとシグレ、そしてボタンだ。
「傷は痛むか、リビ殿。」
ヒサメはそう言いつつ、ベッドサイドに置いてある椅子に腰かける。
「それなりに痛いですね。全身、顔にもこんな傷が広がっていて驚きましたよ。」
私が笑顔を作るが、ヒサメはじっと私の顔を見て告げる。
「目覚めなかったらどうしようかと思っていた。オレとの約束を、こんな形で反故にするのかと怒りすら覚えたな。」
「あの場で国王を救うには、あの方法しかなかったでしょう?」
「キミは命をかけることに躊躇さえしなかった。死ぬのは怖いと言っていたその口で、命を失う覚悟を語るのか。」
私を睨むその表情は、初めてヒサメが私に向ける怒りだった。
シグレもボタンも部屋の端に立ったまま何も口を出してこない。
ソラはそんなボタンの手を握っている。
分かってる、ヒサメ様が私を心配していることくらい。
「死にたくないことは事実です。でも、あの場の最善を尽くしたつもりです。グウル王が死ぬことで、今成立している環境が崩れるのは良くなかった。彼が他の国の財源になっていることや、闇の商売の引き取り先になっていたことで救われた命があった。それに、重要な情報を持っている可能性があったことも考慮すると助けない選択肢はなかった、そうでしょ。」
私の言葉に頷こうとしないヒサメに少しだけ腹が立った。
氷のような冷たい瞳を向けるヒサメの手を掴み、私は自分の首を掴ませた。
ヒサメは一瞬戸惑って、それからゆっくりと私の首を掴む。
「温かいですよね?」
「・・・ああ。」
「私は生きてます、約束はちゃんと守ってるんですから誉めて欲しいくらいなんですけど。」
私がそんなことを言えば、ヒサメは眉を下げて微笑む。
「ああ、それもそうだな。オレのためにこれからも生き続けてくれ。キミの代わりに生き残った者を、オレが殺さぬように見張っておいてくれよ。」
優しい顔を向けるヒサメとは裏腹に私はゾッとしていた。
思わず、シグレとボタンの顔を見る。
二人は、至極当然のように頷いている。
この人、グウル国王を殺すつもりだったのか。
「私が助けた人を殺すなんて、本当に止めてください。」
「キミ次第だと言っている。リビ殿が待てというのなら、オレはそれに従おう。どんな殺意や憎悪があろうとも、キミの言葉に耳を傾ける。それなら問題ないだろう?」

問題なくはない。
私の意識がこのまま戻らなかったらどうなっていたのだろうか。
黄金の国の王を殺すなんてことになれば、白銀の国がどうなるかなんて目に見えている。
これまで以上に狼獣人の立場は危うくなり、国交を続けるどころではなくなる。
国民を危険にさらすようなことをヒサメがするとは思えない。
しかし、やり方はいくらでもあるはずだ。
ヒサメなら上手くやれる、そんな気がしてしまう。
私は、自分が死んだ後の世界を心配しないといけないのか。
そんな立派な考えができるような人間でもないのだけど。
それでも、この世界には大切にしたい人が増えてしまっている。
太陽の国、泉の谷、静寂の海、夜明けの国、黄金の国、そして白銀の国。
少しの繋がりでも、生きていて欲しいと思う人がいる。
だからこそ、私が死んだ後のことも考えなくてはいけないのだ。

「私の言葉、絶対聞いてくれるんですね?言いましたね?」
「ああ、勿論。オレは約束を守る男だからな。」

ヒサメの言葉に安堵しつつ、私はヒサメから手を離した。
しかし、ヒサメは私の首から手を離してはくれなかった。
私が何か言おうとすると、首を柔く掴まれる。
ヒサメは首元にある傷を確認するかのように指を動かして、それから手を離した。
私の戸惑った表情を見てか、ヒサメは首を傾げる。
「すまない、痛かったか?乾燥で傷が悪化することもあるからな、潤いの高い軟膏でも用意しようかと考えていた。」
「いえ、よくそんなちゃんと触れるなって思って。首を触らせたのは私ですけど。」
私自身、目を背けたくなる傷なのだ。
色も亀裂も気持ち悪いし、半分かさぶたになっている部分がザラザラで。
だいたい、人の傷に触れるのは誰だって嫌だろう。
そう思うと、薬を塗ってくれていたボタンに感謝しかない。
ヒサメは訝しげな表情を浮かべると人差し指で私の腕の傷をなぞる。
肌がぞわっと粟立って、思わずヒサメの指を掴んでしまった。
「何するんですか・・・!?」
「普通に触れることを証明しただけだ。リビ殿が意味の分からないことを言うからだろう?」
「なんで怒ってるんですか?!」
少し不機嫌になったヒサメにシグレがようやく言葉を発した。
「ヒサメ様、未婚の女性にそのような戯れはいかがなものかと思います。婚約なさるなら構いませんが。」
にこやかなシグレの言葉で、私は掴んでいた指を離す。
シグレの隣にいるボタンもにっこにこで居たたまれない。
ヒサメはと言うと機嫌が戻り、涼し気に微笑む。
「オレはオレの部下を心配しただけだ。そうだろう、シグレ、ボタン。」
「はい、ではそういうことにしておきましょう。」
「はい。でも私まだ諦めてません。」
綺麗な敬礼をしておきながら、二人は言葉を付け足した。
何故かこの二人は私をヒサメの婚約者にしたいらしい。
本当に我ながらおすすめできない。
妃候補になれる素質が皆無な上、こんな傷だらけになってしまっていよいよ可能性はゼロだろう。
そんなことを考えていると、ヒサメが口を開いた。

「そういえばあの男、リビ殿の知り合いか?グウル国王を助ける方法を教えてくれただろう。」

ヒサメが言っているのはローブを来た者のことだろう。
「男性なんですか、あの人。」
「骨格からして男だろうな。それすら知らない者なのか?」
声がハスキーだとは思っていたがやはり男性だったのか。
私はヒサメたちに、収穫祭で一度だけ会ったことを話した。
「その時の印象は良くなかったんですよ。追い打ちかけるようなことばっかり言うし。本人は占い師だって名乗ってました。人の過去が見えるって。」
高身長で、顔をベールで隠した占い師。
怪しいところしかない彼だが、どうして黄金の国にいたんだろう。
「どうしてグウル王を助ける手助けをしてくれたのか分かりません。そもそも、何故ドクヘビの毒の解毒方法を知っていたのか。あの占い師は、あの後どうしたんですか?」
私は占い師に抱きかかえられ、ソラに乗せられたところまでは覚えている。
ヒサメがシグレの顔を見たので、シグレが話し出す。
「黄金の国の医師と話しているところは確認しました。ですがその後、行方が分かりません。黄金の国内外を捜索してみましたが、見つけることは出来ませんでした。」
シグレの耳が少しだけ下がる。
見つけられなかったことが悔しいのかもしれない。
「収穫祭にリビ殿の前に現れ、そして今回グウル王の危機にタイミングよく現れた。偶然とは思えない。占い師は、リビ殿の位置を完全に把握していたのかもしれないな。」
常につきまとわれていたのか。
それとも、ヒサメの護衛であるヒメのような魔法を持っているのか。
「他の騎士に捜索を続けさせてはいるが、見つからない可能性は高いだろうな。今の今まで身を潜めるだけの能力を持っている。それに城で会ったとき、何か違和感を覚えた。気配を感じづらい、そんな気がした。本当にストーカーなのだとしたら、かなりの手練れだな。」
フブキを監視していたヒサメが言うと、余計に手強い相手のように感じる。
「だが、ドクヘビの毒について知っているならその情報を聞き出す必要がある。白銀の国の研究者たちが毒について調査していたが、解毒の方法など載っている文献は一つもなかった。占い師が組織となんらかの繋がりがある場合も考慮したほうが良さそうだ。」
組織に関わりがあるから知識があるのか。
それとも、別の理由があるのか。
占い師の足取りを追うと共に、組織との関連も調査することになりそうだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜

二階堂吉乃
ファンタジー
 瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。  白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。  後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。  人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話8話。

異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。 そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。 【カクヨムにも投稿してます】

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?

サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。 *この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。 **週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

処理中です...