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組織の調査2

亀裂の傷

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目が覚めて隣を見れば、ソラが丸くなって寝ていた。
人間とドラゴンが寝れるなんて広いベッドだと思ったが、どうやら二つのベッドをくっつけているだけのようだ。
体を起こそうとすると全身が軋むように痛い。

「リビさん!目が覚めたんですね、良かった。」

部屋の扉が開いて入ってきたのはお湯を入れた桶を持ったボタンだった。
「ボタンさん、ここは・・・。」
どこですか、と聞こうとしたが喉が渇いていて言葉が続かない。
ボタンはすかさず水の入ったグラスを差し出してくれた。
「ここは、黄金の国の近くにある町の宿です。リビさんは4日ほど眠っていたんですよ。強制的に魔力を引き上げたことと、魔力が光の加護ですり減っていたことが原因だとお医者様は仰っていました。」
「4日、ですか。」
あの時に飲んだ薬の強力さから言えば、4日なんて少ない方かもしれない。
「グウル王は、大丈夫でしたか。」
「はい、毒も抜けきって会話できる状態まで落ち着きました。騎士のローザさんがリビさんにお礼を言ってましたよ。」
ローザはあのとき兄上を助けて欲しいと言った。
彼にとって家族同然だったグウル王を救えたことにほっとする。
「お粥を用意しますね。良かったらその間に、タオルで体を拭いて下さい。お風呂は体力を使いますから、ご飯を食べた後にしましょうか。」
ボタンに促され、温かいお湯でタオルを絞り体を拭き始める。
すると体に亀裂のような傷跡がたくさんあることに気づく。
体が痛いのはこれのせいか。
魔法薬の副作用なのか、それとも無理やり底上げした魔法を使ったことへの反動なのか。
その痛々しい傷を見てじんわりと目に涙が浮かぶ。
国王を助けられたことは本当に良かった。
本気でそう思っている。
私が彼を助けると選んだ、それ以外の選択肢は選ばなかった。
でも、ピリピリと痛むその傷が私の体を覆っている事実に悲しくなるのだ。
特別綺麗でもない体だが、他人が目を逸らしたくなるような傷跡を今まで負ったことがなかった。
誰に見せるでもないとしても、自分の体がボロボロに痛ましいさまを見たい者などいないだろう。
デコボコとしたその亀裂の周りの皮膚は内出血のように青紫のような痣になっている。
見るも無残な姿と形容しても間違いではないだろう。
ぽたりと落ちた涙が傷跡に沁みる。
ゆっくりと立ち上がって部屋の隅にある鏡台を覗けば、なすすべなく笑うしかない情けない自分が映る。
頬まで伸びる亀裂と紫の痣は容赦なく顔の形体を損ねていた。
「リビさん、お粥を・・・痛みますか?」
扉から入ってきたボタンはお粥をテーブルに置くと、塗り薬を差し出した。
「一般的な傷薬以外使える薬が無いので、気休めでしかないですが毎日塗っていたんです。この傷は、無理やり引き出した魔力が体に大きな負担となって、それに耐えられない結果だそうです。死ぬ可能性もあったと聞いています。」
「そう、ですか。ボタンさん、ありがとうございます。4日間、大変だったでしょう?」
ボタンは大きく首を横に振る。
「起きてくれたからいいんです、それだけでいいんですよリビさん。」
そんなボタンの微笑みに、涙が落ちていく。


生きていて良かった。
そう思ってくれる人がいることがこんなにも嬉しいなんて。
確かに、この痛む傷をまだ受け入れることは出来ない。
どうして私がこんな目に、という気持ちだってたくさんある。
それでも、この痛みを耐えられるだけの強い気持ちを持つことができる。


「さ、リビさん。着替えてご飯食べましょう!ローザさんからローブを預かっています。高級な絹で作られた王宮御用達の品物らしいですよ。できるだけ傷への刺激が無くなるようにって、リビさんへの贈り物だそうです。」
紺のローブは手触りが良く、今まで触れたことがないくらい滑らかな質感だった。
これ、グウル王とお揃いってことか?
いや、考えないようにしよう。
腕を通して、腰の紐を前で結ぶだけのもので、部屋着なのは間違いない。
着替え終わり、お粥を食べていると隣に寝ていたソラがもぞもぞと動き出した。
そうして、目を開けると嬉しそうににっこりとしてこちらに抱き着こうと手を広げて固まった。
「ソラ?どうしたの。」
「キュウ。」
ソラは上げていた手を下げると、隣にちょこんと座った。
どうやら、私の体に傷があるから抱き着くのを控えたようだ。
「ソラ、優しいね。」
「キュッキュ!」
「大丈夫だよ、ご飯食べたら少し元気になったよ。ソラは?何ともないの?」
「キュ?」
ソラも魔力が暴走したはずだ。
だが、なんのこと?という感じに首を傾げられてしまう。
すると、ボタンがお皿を片付けながら答えた。
「ヒサメ様いわく、ソラさんは暴走の一歩手前だったのではないかということです。光の加護も相まって、ソラさんの魔法はかなり強化されていた。そして、リビさんと離れたことで負の魔力が向上した。様々な条件の重なりが、黄金の国を凍らせることになったということですね。おそらく、暴走していればその周りの町も、この町もただでは済まなかったのではないかと考えられます。」
「そんなにですか?ブルームーンドラゴンって、本当に強い魔法を持っているんですね。」
「この世界で最も強い魔法を持つドラゴンなので。彼らの種族が温厚なことで、世界は救われているようなものですよ。でも、その強さゆえに狙われているのかもしれないですが。」
そのボタンの言葉で、私は短剣のことを思い出した。
「ボタンさんは確か、ドクヘビの短剣について調べてくれていましたよね。実は、私の持っている短剣に仕掛けがあることに気づいたんです。」


鞄から取り出した短剣をボタンに手渡すと、その仕掛けを慎重に確認する。
どうやら、あの地下牢で流れ出た液体はもう残っていないようだ。
「なんの液体かは分かりませんが、石をドロドロにできるような強力なものでした。白銀の国で調べていた短剣の方は大丈夫でしたか?この短剣を何かに強く差し込むようにしないと、液体が出ない仕組みだったみたいです。」
地下牢での出来事を詳しく話すと、ボタンは頷いた。
「確かに、私の両親が調べたあの短剣には仕掛けがしてありました。でも、何か液体が仕込まれていた訳ではなく、短剣の内側に血液が溜まっていたんです。」
ボタンが調べていた短剣にも、私が持っていた短剣同様内側に空洞があったということだ。
「それは、私の短剣と同じ構造になっていて、その部分に血がしみ込んでしまったということでしょうか。」
「私もそう思いました。ですが、おそらくこの短剣は注射器のような役割を果たしているのではないかと思うんです。」
ボタンは言い淀むが、私が促すと口を開く。
「考えられるのは、そもそもこの短剣は血を抜くためにあるということです。この短剣を強く差して仕掛けが開き、引き抜くときにその空洞に血を溜める。」
そして、白銀の国の短剣についていたのは、ブルーム―ドラゴンの血液だ。
私は思わずソラを見る。
ソラは黙って私とボタンの会話を聞いている。
「ソラ、この短剣を持っている人に近づいちゃダメだよ。悪い人だからね。」
「キュ!」
力強く頷くソラに、これ以上の話を聞かせることは出来ない。
この短剣はドラゴンの命を奪うためのものだなんて教えることは出来ない。
ソラに怖い思いをさせないために、私が守らないと。
傷だらけの体にはなったけど、手足はちゃんと動く。
魔力だって、体に流れてるのが分かる。
悲観している暇はないな。
「ボタンさん、ヒサメ様はいらっしゃいますか。」
ヒサメと話をしないといけないことが山ほどある。
ボタンは頷くと扉を出ていった。
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