【完結】異世界転移した私がドラゴンの魔女と呼ばれるまでの話

yuzuku

文字の大きさ
上 下
94 / 169
黄金の国

隠密の人

しおりを挟む
ようやく城の中へと戻ってきたが、ソラのいる部屋が分からない。
ローザの話では一番奥だということだったが、城の中の構造が分からない。
移動しようと一歩出ようとすると、走る足音が近づいてくる。
私は思わず、階段を数歩下りる。
誰かが走り抜けるのを見て、走った方向に何かがあるのではと追いかけようとした時だ。

「待って。」

すぐ後ろから声がして動きを止めると、たくさんの足音がまた通り過ぎる。
今出れば見つかっていたかもしれない。
後ろを振り向くと誰もいない。
「この先に行くと、ドラゴンがいる。」
声は聞こえるのに、姿が見えない。
私は何もない空間に話しかける。
「ヒサメ様の、隠密の人?」
「うん。」
肯定の返事はされたが、そこからお互い黙ってしまう。
「えっと、ヒサメ様は黄金の国に到着してますか?」
「うん。」
会話が続かない。
そういえばヒサメ様が、口下手だって言ってたような気がする。
「ソラのところに行きたいんです。案内してもらえますか。」
「扉の前に騎士がたくさんいる。」
「他にその部屋に入るルートはありませんか。」
沈黙の後、隠密の彼は姿を現した。
相変わらず全身白い彼は、天使の姿のようだ。
そうして、白い彼は手を広げる。
「窓から入る。ボクに掴まって。」

そう言われたが、彼は私とさほど身長に差はない。
しかも、白くて細くて華奢だ。
大丈夫かな。

「早くして。見つかる。」
「あ、はい。じゃあ・・・」
私は恐る恐る彼の首に腕を回して、体重を預けようとする。
「重・・・。」
「え、すみません!!」
「いや、いい。行くよ。」
そうして彼の白い美しい翼が大きく広がる。
そこから、広い廊下を凄いスピードで抜けて、一つ開いている窓から外に出る。


城を外から見ると城壁が凍っている。
風が吹雪いており、ここから見える限り町も銀世界になっている。
黄金の国が凍っているというのは、ローザから聞いていたがここまでとは。
そうして高い塔の一番上に上がり、そこから窓を覗く。
そこには、泣いているソラがいた。

「ソラ!!」

外から声をかけてみたが、この吹雪の中、声は届かない。
窓ガラスを割らないと。
短剣を取り出して一瞬躊躇する。
鞘に納めているとはいえ、さきほどの液体がもう出てこないとは言えない。
私は短剣を鞄に入れて、水晶を取り出した。
その水晶を思いっきり窓に叩きつける。
窓ガラスにひびが入ると同時、水晶にもひびが入る。

「あ、それ、白銀の国の水晶。」
「そうだけど、今は窓ガラスを割らないと!高価なものだったのなら、頑張って弁償します!」
「いや、そうじゃなくて。」
私は彼の声を遮るように、思いっきり水晶を窓ガラスに投げつけた。
派手に窓ガラスが割れる音がした。
水晶も粉々に砕け散った。
その音にソラが振り向いた。

「キュキュ!!」

割れた窓から手を入れて、鍵を開けて中に入る。
そうして、ソラを抱きしめる。
「ソラ、お待たせ。魔法、こんなに強くなってたんだね。」
「キュウ。」
「この傷?大丈夫、何ともない。ソラ、この魔法止められる?」
ソラが頷くと、外の吹雪が次第に止んでいく。
いずれ扉の氷が解けて騎士が入ってくる。
その前にここから出ないと。
そう思ったが、私が入ってきた窓にソラが入りそうにない。
今まで暴走によって魔力を消費していたソラは疲れており、窓からふらふらと入ってきた隠密の彼も何故か疲れている。

私、そんなに重たかったってこと?

少しむっとしながらも私もここまで来るまでたくさん歩いて疲れていた。
周りにはたくさんの果物が置かれていて、ソラが丁重にもてなされていたことは分かる。
「ソラ、ちょっと果物貰っていい?」
「キュウキュウ。」
「一つも食べてないの?じゃあ、この三日くらい食べてなかったの?」
一日は眠らされていたとはいえ、何も食べないままではこのまま動けない。
私は転がっていた丸い果実を二つ拾い上げる。
「ソラ、ご飯食べよう。あの扉の氷が溶けたら、国王のところに行こう。」

このまま逃げたとしても、黄金の国が追ってくるだけだ。
この国で起こっていることを解決しなくては、また同じことの繰り返しだろう。
それなら、国王に何があったのかちゃんと確認しないといけない。

私とソラが果実に齧りついていると、白い彼も果物を一つ取った。
「ヒサメ様、今国王に謁見してる。」
「え、今、ですか?」
「うん。」
もぐもぐと果実を食べる彼は、いつまで経っても話を続けない。
しびれを切らして私から話を続けることにした。
「あの、シグレさんたちも来てます?」
「うん、騎士数名連れてる。ボクは命令でリビを探してた。」
「それって、私と会えたことヒサメ様は知ってます?」
「いや、まだ。ボクは水晶持ってないし。」
そんなことを答えながら、彼はもぐもぐと口を動かす。
「じゃあ、急がないとですよね?」
「うん。でも、扉が溶けるまでは動けないんでしょ。」
「貴方は飛べるでしょ?先にヒサメ様のところに戻って情報を。」
「あの人、自分の目で見ないと信じないから。知ってるでしょ。」

白い彼は無表情にそう言った。
彼はずっと、フブキを監視していたらしい。
けれど、ヒサメはフブキに会えるまで彼の言葉を半信半疑に聞いていたのだ。
人を信じることを恐れていたヒサメは、一人で行動することを選んでいた。
そんなヒサメを見続けてきた彼は、自分が信頼に値しないと思っているのだろうか。

「フブキさんに会えた今なら、貴方のこと信じてますよ。だからこそ、私のこと探しに来てくれたんでしょう?」
白い彼は、こちらを横目で見てから、また果実を齧る。
「あの水晶、壊れると持ち主が危険だって、シグレさんに伝わる。」
「え、それって、ちょっとまずいですか?」
「うん。ヒサメ様の魔力、徐々に上がってる。」

ヒサメは今シグレと共にいる。
そのシグレが水晶が割れたことによって私が危険だと察知する。
それをヒサメに伝えているとしたら、黄金の国で私になんらかの危害を加えられたと考えるはず。
ヒサメ様の魔力が上がってるって言った?

「あの、貴方はヒサメ様の魔力が見えるんですか?」
「うん。そういう一族だから。空間にある魔力を感知する。それが誰か知っていれば分かる。リビもそうやって見つけた。かなり魔力が減ってるから、難しかったけど。」

なるほど、その能力でフブキの居場所を把握していたわけか。

「それって、相当広い空間を把握できるってことですか?」
「うん。疲れるけどできる。」
今彼はその能力を使いっぱなしということだ。
だから、こんなにも疲れているのか。
「扉の外の騎士の人数、分かりますか。」
「15人。」
外からは氷を砕く音が聞こえる。
ソラの魔法が止まったことによって、氷の強度が弱まっている。
「ソラ、扉が開くと同時に外に飛び出すよ。」
「キュ!」
果実をいっぱい頬張るソラは、暴走によってかなり疲れているのに元気よく返事をしてくれる。
私は頭の包帯を緩めて、ぎゅっと力を込めて固く結ぶ。
手の包帯も血が滲んでいるが、痛みは我慢できる。

「魔法、使わない方がいい。」
白い彼に言われて顔をあげる。
「そんなに魔力が減ってますか。」
「うん。よく動けるね。扉が開いたら、この国をすぐに出たほうがいい。」
「でも、今ヒサメ様が国王と話しているんでしょう?それなら私も行かないと。」

ドクヘビが関わっているのなら、私も話を聞かないといけない。
ソラのこともあるし、国王がドクヘビと接触している可能性があるのならそのことについて詳しく聞かないと。

「リビが無事にこの国を出ることがヒサメ様の望みだと思うけど。したいようにすれば?怒られるのはキミだし。」
そう言いながら白い彼は姿が薄くなる。
それを私は呼び止めた。
「あ、あの、貴方名前は?」
「・・・なんでそんなこと聞くの。」
白い彼は信じられないものでも見るように私を見る。
「え、だって隠密の人って呼ぶの変でしょ。」
彼は少し迷いながら小さな声で答えた。
「ヒメ・・・ってヒサメ様は呼んでる。」
「ヒメさん、ですか。」
「ヒメでいい。さん付けとか気持ち悪い。」
ヒメは無表情なりに嫌な顔をすると、また姿を消してしまった。
多分一緒にいるのだろうが、姿を消している方がデフォルトなのだろう。
「ヒメは、戦闘についてはどうですか?」
「期待しないで。ボクは索敵向きだから。」
確かに魔力を察知したりする能力を持っているなら諜報員向きだ。
私もソラも今魔法はあまり使えない。
やはり、逃げ切るしかないか。
激しい音を立てて、扉の前の氷が砕かれる音がする。
そろそろか。
ソラの背に乗って、扉が開いた瞬間に突破する。
「ソラ、準備いい?」
「キュ!!」
砕く音が次第に大きくなり、そうして勢いよく扉が開いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】魔女を求めて今日も彼らはやって来る。

まるねこ
ファンタジー
私の名前はエイシャ。私の腰から下は滑らかな青緑の鱗に覆われた蛇のような形をしており、人間たちの目には化け物のように映るようだ。神話に出てくるエキドナは私の祖母だ。 私が住むのは魔女エキドナが住む森と呼ばれている森の中。 昼間でも薄暗い森には多くの魔物が闊歩している。細い一本道を辿って歩いていくと、森の中心は小高い丘になっており、小さな木の家を見つけることが出来る。 魔女に会いたいと思わない限り森に入ることが出来ないし、無理にでも入ってしまえば、道は消え、迷いの森と化してしまう素敵な仕様になっている。 そんな危険を犯してまで森にやって来る人たちは魔女に頼り、願いを抱いてやってくる。 見目麗しい化け物に逢いに来るほどの願いを持つ人間たち。 さて、今回はどんな人間がくるのかしら? ※グロ表現も含まれています。読む方はご注意ください。 ダークファンタジーかも知れません…。 10/30ファンタジーにカテゴリ移動しました。 今流行りAIアプリで絵を作ってみました。 なろう小説、カクヨムにも投稿しています。 Copyright©︎2021-まるねこ

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

【完結】神スキル拡大解釈で底辺パーティから成り上がります!

まにゅまにゅ
ファンタジー
平均レベルの低い底辺パーティ『龍炎光牙《りゅうえんこうが》』はオーク一匹倒すのにも命懸けで注目もされていないどこにでもでもいる冒険者たちのチームだった。 そんなある日ようやく資金も貯まり、神殿でお金を払って恩恵《ギフト》を授かるとその恩恵《ギフト》スキルは『拡大解釈』というもの。 その効果は魔法やスキルの内容を拡大解釈し、別の効果を引き起こせる、という神スキルだった。その拡大解釈により色んなものを回復《ヒール》で治したり強化《ブースト》で獲得経験値を増やしたりととんでもない効果を発揮する! 底辺パーティ『龍炎光牙』の大躍進が始まる! 第16回ファンタジー大賞奨励賞受賞作です。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます

時岡継美
ファンタジー
 初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。  侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。  しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?  他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。  誤字脱字報告ありがとうございます!

老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜

二階堂吉乃
ファンタジー
 瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。  白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。  後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。  人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話7話。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~

柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。 家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。 そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。 というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。 けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。 そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。 ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。 それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。 そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。 一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。 これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。 他サイトでも掲載中。

処理中です...