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黄金の国
水の底
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いつまで経ってもローザが戻ってこない。
日が傾いて窓から月明かりが差し込むようになってもローザは現れなかった。
ここに来ていることが国王にバレてしまったのだろうか。
それとも何らかのトラブルによってここに来ることが出来なくなったか。
どちらにせよ、ここで黙って待っていても私の魔力は無くなっていく。
立ち上がってもう一度床の切れ目を確認する。
短剣の鞘を抜いて、刃を切れ目に思いっきり突き刺す。
そうして、その柄の部分に足をかけ全体重をかける。
壁に手をつくと、その壁の冷たさで手が痛い。
今入れることできる最大の力を込めて、短剣を足で押していくと不穏な音がした。
それは、折れる音だ。
短剣が折れてしまったかもしれない。
そう思って恐る恐る足を退けて、月明りに照らされる短剣を見た。
短剣に傷は見当たらないが、刃の上の方から何かの液体が漏れていた。
その液体が刃を伝って地面に落ちると、その床の石が溶けた。
なにこれ。
今の今まで気づいていなかったのだが、どうやらこの短剣は仕掛けが施されていたらしい。
この短剣を強く押し込むことで、中に入っている液体が外へと流れ出る。
この液体がどんなものかは分からないが、硫酸のようなものなのだろうか。
床の石がどんどん溶けていくことから強い酸性であることが分かる。
この短剣は、確実にドラゴンの命を奪うための剣なんだ。
今までこの剣をどこかに突き刺したことなど無かった。
だから気付くことが出来なかったが、誤ってこの液体に触れていたら危なかった。
これと同じ短剣で、殺されたドラゴンが一体どのくらいいるのだろう。
そう思うと苦しくなる。
でも今はここから出ることが先だと、私は液体で溶けた石を短剣でざくざくと崩していく。
ボロボロになった石は崩れやすく、私の弱った力でも十分崩すことが出来た。
そうして、ようやく床の下が見え始める。
やはり水になっており凍っている状態だが下りる隙間がある。
自分が入れるくらいの大きな穴をなんとか空けて、私は床下に下りた。
立てるほどの高さはないが、中腰で進めるほどの空間はある。
暗がりのその場所を進みながら、窓側へ進もうとしたが氷が多くて進めない。
反対側へと進みながら私はふと、その地面を見る。
凍った足元は本来水だ。
その水はいやに透き通っていて、暗いながらもなんとなく下方が見えている。
結構深いなという感想よりも先に、何かが大量に沈んでいるのが見えてしまう。
人の骨だ。
私は思わず目をつぶり、前を向く。
下を見ちゃダメだ。
私は泣きそうになりながら前へと進んでいく。
集団墓地なんか、無い。
考えちゃダメだと思っているのに、私の思考は止まらない。
あの地下牢で亡くなった人はみんな、水の底に。
そこまで考えて吐きそうで、でもなんとか堪えた。
目の奥が熱くなって、唇を噛んで、涙が出てきて。
処刑があっていたことなど何度も聞いているのに、それでも怖くなった、悲しくなった。
闇魔法の人間が一体何をしたというのだろう。
皆と違う魔法を持っているから。
言語が違うから。
ただそれだけなはずなのに。
目をこすりながら進んでいくと階段が見えてきた。
氷や壁で阻まれて、そこしか行ける場所はない。
仕方なく階段を上り、また地下のような場所に出る。
おそらくここは、地下牢があった反対側なのだろう。
その迷路のようにいりくんだ道を彷徨って、城の中へと戻ろうと考えていた。
窓がないため時間帯が分からない。
しかし、かなりの時間が経過しているはずだ。
地下牢を抜け出したのは夜中だった。
それから氷の上を歩いて、階段を上って。
もう昼は過ぎて夕方になっているかもしれない。
お腹も空いてきたし、ずっと歩いていて疲れてしまった。
先程の地下牢よりは加護が弱いとはいえ、魔力は減少しかしていない。
その場に座り込んで後ろの壁に凭れる。
歩いていたことでマシになっていたが、やはりまだ寒い。
ソラの魔法が弱まっていないということは、まだ誰もソラを止められていないということだ。
暴走したソラが強すぎるのか、それとも部屋にすら入れていないのか。
早くソラのところへ行きたいのにこの地下迷路から出られない。
そういえば昔、迷路は壁に手をついたまま歩けば必ずゴールにたどり着くというのをテレビで見たような。
どうせ今は迷ってしまっているし試しにやってみよう。
私は壁に片手をついて、ひたすら壁沿いに歩いてみた。
しばらくしてようやく上に向かう階段を発見する。
そうして階段を上った先は真っ白な通路だった。
日が傾いて窓から月明かりが差し込むようになってもローザは現れなかった。
ここに来ていることが国王にバレてしまったのだろうか。
それとも何らかのトラブルによってここに来ることが出来なくなったか。
どちらにせよ、ここで黙って待っていても私の魔力は無くなっていく。
立ち上がってもう一度床の切れ目を確認する。
短剣の鞘を抜いて、刃を切れ目に思いっきり突き刺す。
そうして、その柄の部分に足をかけ全体重をかける。
壁に手をつくと、その壁の冷たさで手が痛い。
今入れることできる最大の力を込めて、短剣を足で押していくと不穏な音がした。
それは、折れる音だ。
短剣が折れてしまったかもしれない。
そう思って恐る恐る足を退けて、月明りに照らされる短剣を見た。
短剣に傷は見当たらないが、刃の上の方から何かの液体が漏れていた。
その液体が刃を伝って地面に落ちると、その床の石が溶けた。
なにこれ。
今の今まで気づいていなかったのだが、どうやらこの短剣は仕掛けが施されていたらしい。
この短剣を強く押し込むことで、中に入っている液体が外へと流れ出る。
この液体がどんなものかは分からないが、硫酸のようなものなのだろうか。
床の石がどんどん溶けていくことから強い酸性であることが分かる。
この短剣は、確実にドラゴンの命を奪うための剣なんだ。
今までこの剣をどこかに突き刺したことなど無かった。
だから気付くことが出来なかったが、誤ってこの液体に触れていたら危なかった。
これと同じ短剣で、殺されたドラゴンが一体どのくらいいるのだろう。
そう思うと苦しくなる。
でも今はここから出ることが先だと、私は液体で溶けた石を短剣でざくざくと崩していく。
ボロボロになった石は崩れやすく、私の弱った力でも十分崩すことが出来た。
そうして、ようやく床の下が見え始める。
やはり水になっており凍っている状態だが下りる隙間がある。
自分が入れるくらいの大きな穴をなんとか空けて、私は床下に下りた。
立てるほどの高さはないが、中腰で進めるほどの空間はある。
暗がりのその場所を進みながら、窓側へ進もうとしたが氷が多くて進めない。
反対側へと進みながら私はふと、その地面を見る。
凍った足元は本来水だ。
その水はいやに透き通っていて、暗いながらもなんとなく下方が見えている。
結構深いなという感想よりも先に、何かが大量に沈んでいるのが見えてしまう。
人の骨だ。
私は思わず目をつぶり、前を向く。
下を見ちゃダメだ。
私は泣きそうになりながら前へと進んでいく。
集団墓地なんか、無い。
考えちゃダメだと思っているのに、私の思考は止まらない。
あの地下牢で亡くなった人はみんな、水の底に。
そこまで考えて吐きそうで、でもなんとか堪えた。
目の奥が熱くなって、唇を噛んで、涙が出てきて。
処刑があっていたことなど何度も聞いているのに、それでも怖くなった、悲しくなった。
闇魔法の人間が一体何をしたというのだろう。
皆と違う魔法を持っているから。
言語が違うから。
ただそれだけなはずなのに。
目をこすりながら進んでいくと階段が見えてきた。
氷や壁で阻まれて、そこしか行ける場所はない。
仕方なく階段を上り、また地下のような場所に出る。
おそらくここは、地下牢があった反対側なのだろう。
その迷路のようにいりくんだ道を彷徨って、城の中へと戻ろうと考えていた。
窓がないため時間帯が分からない。
しかし、かなりの時間が経過しているはずだ。
地下牢を抜け出したのは夜中だった。
それから氷の上を歩いて、階段を上って。
もう昼は過ぎて夕方になっているかもしれない。
お腹も空いてきたし、ずっと歩いていて疲れてしまった。
先程の地下牢よりは加護が弱いとはいえ、魔力は減少しかしていない。
その場に座り込んで後ろの壁に凭れる。
歩いていたことでマシになっていたが、やはりまだ寒い。
ソラの魔法が弱まっていないということは、まだ誰もソラを止められていないということだ。
暴走したソラが強すぎるのか、それとも部屋にすら入れていないのか。
早くソラのところへ行きたいのにこの地下迷路から出られない。
そういえば昔、迷路は壁に手をついたまま歩けば必ずゴールにたどり着くというのをテレビで見たような。
どうせ今は迷ってしまっているし試しにやってみよう。
私は壁に片手をついて、ひたすら壁沿いに歩いてみた。
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