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白銀の国3
妃候補
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「すみません、そういえば休憩中でしたね。ヒサメ様と話しているといろんな考えが浮かんで止まらなくなってしまうんですよね。」
「同意だ。リビ殿との会話で見方が変わるから話が尽きないな。」
ふと扉がノックされ、シグレが顔を出した。
「ヒサメ様、次の交渉をお願い致します。」
「分かった。それじゃあ、リビ殿は好きなように過ごしてくれ。」
そうしてヒサメが中へと戻っていく。
ガラス窓には、コラッロに挨拶をするヒサメが映っていて、そうして奥の仕切りへと向かっていった。
「有意義に過ごせましたか。」
シグレがテーブルの上を片付けながら静かに言う。
そういえばシグレがいたんだったと内心驚きつつも、私は頷いた。
「そうですね。ヒサメ様の休憩を奪ってしまったような気もしますが。」
「ただ休憩をと言ってもゆっくりできない人ですから。リビさんが話し相手になってくれたおかげで、食事もちゃんとしていますし、良かったですよ。」
「ヒサメ様って、ゆっくりできない人ですかね?食事もちゃんと取る人ですよね?」
そう言うとシグレは困ったように笑う。
「相手に配慮はできるんです。だから、自分一人だと睡眠も食事もどうでもいいと適当になさる。部下には、ちゃんと食べろとか言うんですけどね。」
ヒサメに対してあまりそんなイメージはなかったが、一人行動の延長線上にそういう面があるというわけか。
「誰かしらと一緒にいた方がいいですね、ヒサメ様は。」
「ええ、その方が騎士としても安心できます。リビさんは、その誰かになる覚悟がおありですか?」
急に空気が冷えた気がした。
私は顔を上げてシグレの表情を伺うが、いつも通りの笑顔だ。
「それは、私がヒサメ様の部下になったことを言ってます?」
「ああ、騎士の制服を着ている件ですね。そのことは、随分と前から察していました。貴女は既に、ヒサメ様の内側にいるのだと。貴女の訓練に私を指名したということは、そういうことですよ。」
そういうことなの?
私の納得のいかない顔をスルーして、シグレは続けた。
「そのことではなく。ヒサメ様の婚約者に立候補する気はあるのかということです。」
「ないですね。」
あまりの即答にシグレは笑顔のままテーブルに手をつき、そうして私を見下ろした。
「話は最後まで聞きなさい。ヒサメ様の妃になるということは、国王を支え、国民の光になるということです。生半可な気持ちでなれるものではありません。」
「え、だからないですって。」
「妃になる者は、文武両道・才色兼備を兼ね備えた、人々を導いていけるような魅力のある方が望ましいです。心身ともに健康で信念を貫くことが出来る人、状況判断に長け、人々に手を差し伸べる温かささえ持ち合わせた方でないといけません。」
「全て当てはまらないです。だいたい、立候補してないです。」
私が立ち上がってバルコニーから部屋に入ろうとすると、シグレが真剣なトーンで言った。
「でも、そんな要素を抜いてでも重要なことが一つだけあります。」
「・・・なんですか?」
「ヒサメ様にとって2番目でも構わないという心の広さです。」
聞いて損した。
私はガラス扉の取っ手を掴む。
「フブキさん込みで好きになってくれる妃が見つかればいいですねー。」
そう言って部屋に入ると、ソラがこちらに手を振っているのが見えた。
どうやら起きて果物を食べているようだ。
ソラの元へと行こうと一歩踏み出すとシグレが後ろから言う。
「貴女のせいで3番目になるかもしれないんですよ。責任感じないんですか?」
私は振り向いて首を傾げる。
「なんで私のせいになるんです。何言ってるんですか?」
訳が分からないという顔をすればシグレがため息をつく。
「未来の妃に同情します。」
ボタンに部屋まで送ってもらい、私とソラは久々に同じベッドで寝ることになった。
白銀の国のベッドは大きいから良かったが、もう太陽の国のベッドでは一緒に寝られないほどソラが成長している。
「キュキュ!」
「うん、このベッド柔らかくて暖かいよね。ちゃんと首まで布団かけてね。」
ソラに布団をかけながら私もベッドに入る。
「キュキュー」
「また魔法が強くなったの?見習いの子たちの修行の手伝いをしてたおかげだね。」
「キュッキュ」
「トゥアさんもいっぱい遊んでくれた?良かったね。」
ソラは少し寝ていたせいで眠気がまだ来ないようだ。
泉の谷での出来事を一生懸命話してくれる。
まるで、幼稚園であった出来事を親に話してる子供みたいだ。
「キュキュー?」
「うん、シグレさんの特訓はね、地獄だった。」
お互いの話をしながら夜が更けていく。
そうしてうとうとと、し始めたソラに布団をかけ直す。
「おやすみ、ソラ」
「キュウ…」
「ちゃんといるよ、明日も明後日もずっとソラと一緒だよ。」
眠り始めるソラを見て、私はほっと息をつく。
アイル先生も、トゥアも、アワン族長も言っていたけど。
ソラは私がいなくてよほど寂しかったようだ。
この子にとって私は家族なんだな。
勿論私だってソラが大切だけど、改めてそう思った。
ドクヘビから守らなきゃ。
そんな決意をしつつ、私は夢へと意識を手離した。
「同意だ。リビ殿との会話で見方が変わるから話が尽きないな。」
ふと扉がノックされ、シグレが顔を出した。
「ヒサメ様、次の交渉をお願い致します。」
「分かった。それじゃあ、リビ殿は好きなように過ごしてくれ。」
そうしてヒサメが中へと戻っていく。
ガラス窓には、コラッロに挨拶をするヒサメが映っていて、そうして奥の仕切りへと向かっていった。
「有意義に過ごせましたか。」
シグレがテーブルの上を片付けながら静かに言う。
そういえばシグレがいたんだったと内心驚きつつも、私は頷いた。
「そうですね。ヒサメ様の休憩を奪ってしまったような気もしますが。」
「ただ休憩をと言ってもゆっくりできない人ですから。リビさんが話し相手になってくれたおかげで、食事もちゃんとしていますし、良かったですよ。」
「ヒサメ様って、ゆっくりできない人ですかね?食事もちゃんと取る人ですよね?」
そう言うとシグレは困ったように笑う。
「相手に配慮はできるんです。だから、自分一人だと睡眠も食事もどうでもいいと適当になさる。部下には、ちゃんと食べろとか言うんですけどね。」
ヒサメに対してあまりそんなイメージはなかったが、一人行動の延長線上にそういう面があるというわけか。
「誰かしらと一緒にいた方がいいですね、ヒサメ様は。」
「ええ、その方が騎士としても安心できます。リビさんは、その誰かになる覚悟がおありですか?」
急に空気が冷えた気がした。
私は顔を上げてシグレの表情を伺うが、いつも通りの笑顔だ。
「それは、私がヒサメ様の部下になったことを言ってます?」
「ああ、騎士の制服を着ている件ですね。そのことは、随分と前から察していました。貴女は既に、ヒサメ様の内側にいるのだと。貴女の訓練に私を指名したということは、そういうことですよ。」
そういうことなの?
私の納得のいかない顔をスルーして、シグレは続けた。
「そのことではなく。ヒサメ様の婚約者に立候補する気はあるのかということです。」
「ないですね。」
あまりの即答にシグレは笑顔のままテーブルに手をつき、そうして私を見下ろした。
「話は最後まで聞きなさい。ヒサメ様の妃になるということは、国王を支え、国民の光になるということです。生半可な気持ちでなれるものではありません。」
「え、だからないですって。」
「妃になる者は、文武両道・才色兼備を兼ね備えた、人々を導いていけるような魅力のある方が望ましいです。心身ともに健康で信念を貫くことが出来る人、状況判断に長け、人々に手を差し伸べる温かささえ持ち合わせた方でないといけません。」
「全て当てはまらないです。だいたい、立候補してないです。」
私が立ち上がってバルコニーから部屋に入ろうとすると、シグレが真剣なトーンで言った。
「でも、そんな要素を抜いてでも重要なことが一つだけあります。」
「・・・なんですか?」
「ヒサメ様にとって2番目でも構わないという心の広さです。」
聞いて損した。
私はガラス扉の取っ手を掴む。
「フブキさん込みで好きになってくれる妃が見つかればいいですねー。」
そう言って部屋に入ると、ソラがこちらに手を振っているのが見えた。
どうやら起きて果物を食べているようだ。
ソラの元へと行こうと一歩踏み出すとシグレが後ろから言う。
「貴女のせいで3番目になるかもしれないんですよ。責任感じないんですか?」
私は振り向いて首を傾げる。
「なんで私のせいになるんです。何言ってるんですか?」
訳が分からないという顔をすればシグレがため息をつく。
「未来の妃に同情します。」
ボタンに部屋まで送ってもらい、私とソラは久々に同じベッドで寝ることになった。
白銀の国のベッドは大きいから良かったが、もう太陽の国のベッドでは一緒に寝られないほどソラが成長している。
「キュキュ!」
「うん、このベッド柔らかくて暖かいよね。ちゃんと首まで布団かけてね。」
ソラに布団をかけながら私もベッドに入る。
「キュキュー」
「また魔法が強くなったの?見習いの子たちの修行の手伝いをしてたおかげだね。」
「キュッキュ」
「トゥアさんもいっぱい遊んでくれた?良かったね。」
ソラは少し寝ていたせいで眠気がまだ来ないようだ。
泉の谷での出来事を一生懸命話してくれる。
まるで、幼稚園であった出来事を親に話してる子供みたいだ。
「キュキュー?」
「うん、シグレさんの特訓はね、地獄だった。」
お互いの話をしながら夜が更けていく。
そうしてうとうとと、し始めたソラに布団をかけ直す。
「おやすみ、ソラ」
「キュウ…」
「ちゃんといるよ、明日も明後日もずっとソラと一緒だよ。」
眠り始めるソラを見て、私はほっと息をつく。
アイル先生も、トゥアも、アワン族長も言っていたけど。
ソラは私がいなくてよほど寂しかったようだ。
この子にとって私は家族なんだな。
勿論私だってソラが大切だけど、改めてそう思った。
ドクヘビから守らなきゃ。
そんな決意をしつつ、私は夢へと意識を手離した。
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