【完結】異世界転移した私がドラゴンの魔女と呼ばれるまでの話

yuzuku

文字の大きさ
上 下
83 / 169
白銀の国3

要塞の浄化 完遂

しおりを挟む
魔力を増幅する魔法薬をアイルも用意してはいたものの、その数には限りがある。
以前、静寂の海の人魚の海熱病の熱を下げるために使用した薬草はとある農家の特別な薬草で、あれから白銀の国とも契約したらしい。
今回はその薬草を使用して、私が職人ひとりひとりに魔法を付与していくことになる。

集まった職人は約200人。

彼らにそれぞれ魔法を付与するとなると、今までで一番多い人数に魔法を付与することにもなる。
自分の魔力を絶やさずに職人に増幅をかけ続ける、それが今日の私の役割だ。
「それじゃあ、始めます!」
まずは人数分の魔力増強と増幅をかけていき、作業開始したのち魔力が減ってきた者からもう一度かけなおす。


第一の工程では全員でこの大きな要塞を水の膜で覆う魔法をかける。
10か所に分けて行うことにはなるが、それでも大人数の魔法の力を合わせるのは至難の業だ。
だが、そこはプロの皆さんの腕の見せ所。
見習いの子たちも必死についていけているあたり、アイルの特訓の恐ろしさが分かる。


第二の工程では要塞に長年刻まれた傷を水の粒子によって修復する作業に入る。
水魔法の性質変化による修復だが、ここは皆なんなくこなせているようだ。


第三の工程で鉱石浄化をすることになるが、アイルの話では見習いの子たちも完璧らしいから大丈夫だろう。
そう思っていたが、どうやら苦戦しているらしい。
そういえばアイルの授業では浄化の工程は難しいからと二つに分けていた。
つまり、それをいっきにやってしまえるプロの人たちに合わせるには自分たちもそうするしかない。
そして、その職人たちの作業の速さが段違いなのだろう。
そんな彼らの作業を追いかけるので精一杯になってしまうということだ。
「焦る必要はないよ!自分たちがやってきた特訓を思い出して、それから自分にできることだけに集中すればいいさね。」
アイルは見習いの子たちにそうやって声をかけている。
彼らもそのことは分かっているだろうが、そうだとしても自分たちが遅れることによって全体のバランスが崩れてしまうと考えていることだろう。
「ソラ、見習いの子たちに付与しに行こう。」
「キュ!」
できるだけサポートできるように、見習いの皆さんに増強を付与する。
少しだけでも作業スピードが上がるように、魔力が乱れないように。
そんな四苦八苦している見習いとは違う位置。その向こう側で魔力の安定しているビルが見えた。
ビルは本当に独学で努力してきたのが分かる瞬間だった。


この工程を10か所すべて行い、その間要塞全体の水の膜を張り続ける。
シグレが魔力を確認しつつ、ボタンが薬草を用意し、私がソラと共に魔法を付与する。
そんなやり取りをすること何十回が過ぎただろう。
もうすぐ全体の鉱石の浄化の終わりが見えてくる。
日が傾いて、夕焼け空が広がりつつあるそんな時刻。
要塞に長年交わり続けていた魔力と、もともと込められていた魔力が一滴も残さず浄化された。
その瞬間が見ていて分かった。
要塞の石の色は変わっていないはずなのに、その中が澄み切ったそんな気がしたのだ。

「ヒサメ様、お願いします!!」

シグレの声で、ヒサメが魔法を発動する。
綺麗にした鉱石に再び魔法を入れる作業というわけだ。
この魔法によって白銀の国は守られてきたのだろう。
その瞬間、水の膜が消えてヒサメの魔法だけが要塞全てを覆っている。

今まで職人全員で覆っていたその要塞を、ヒサメが一人で。

次の瞬間、ヒサメの魔法が要塞の石へと吸収され、鉱石の浄化は終了した。



「皆の素晴らしい仕事に感謝する。ミゾレからペンダントを受け取って、国の中へ入ってくれ。城でのもてなしと、交渉の細かい話をしよう。疲れているだろうが、騎士が案内するのでゆっくり向かおう。」
ヒサメの言葉で全員が仕事の完了を感じて胸を撫でおろす。
ミゾレから国へ入るペンダントを受け取りながら、皆が門から中へと入って行く。

「魔法の力、上がってるじゃないかリビ!」

後ろから背中を叩かれて振り向けば、元気なアイルがいた。
「アイル先生お疲れ様です。元気そうですね。」
「あははっ、思っていたよりも職人が集まったからね。疲れてはいるけど、こんな機会めったにないだろ?楽しかったというのが勝ったのかもしれないさね!」
笑うアイルの後ろで見習いの子たちがふらふらしているんだけどな。
かく言う私も倒れはしないものの、とてつもなく疲れている。
ソラもずっと飛び続けていたから、眠そうに私に寄りかかっている。
「お疲れ様ソラ、まだ寝ちゃダメだよ。寝るならお城着いてからね。」
「キュウ。」

眠そうなソラの体をゆすっていると、そこにザッフィロがやってきた。
「お疲れさま、ドラゴン眠そうだな。担いで連れて行こうか?」
「ザッフィロさんもお疲れ様です。いえいえ、貴方もお疲れでしょうし。」
「いや、あんたが魔法かけてくれたから、思ってたより疲れてない。それに体力なら自信あるしな。」
ザッフィロが手を広げると、ソラは迷うことなく抱っこされる。
このドラゴン、ほんと人見知りとかしないな。
「ザッフィロさん、さすがですね。私はもうソラを抱っこするのは無理かも。」

「俺もソラを抱えられるけど?」

対抗してきたのはビルをおんぶしているトゥアだ。
「ビルさん、大丈夫ですか?」
「リビさん違うんです、そんなに疲れてないって言ってるのにお兄ちゃんが。」
「もともとビルはそんなに体が強い方じゃねぇんだよ。そんなふらついてるビルにシグレがお姫様抱っこでもしてみろ。許さねぇ。」
トゥアはそんなことを言いながらミゾレにペンダントを受け取りに行った。

「トゥアさんは本当に面白いことを仰いますよね。」

気付いたら隣にシグレがいて、飛び上がりそうなほどびっくりした。
気配消すのやめてほしい。
「貴女もふらついているのなら、私がお姫様抱っことやらをしてさしあげましょうか?」
「遠慮します。」
「ええ、このくらいでばてるような特訓はしてないつもりです。ちゃんと自分で歩けて偉いですね。」
この数か月のシグレの特訓はさらにハードだった。
思い出したくもない。
ザッフィロがソラを抱っこして門の中へと入って行くので追いかけようとすると、シグレが私の肩を掴んだ。
「リビさん、もうすぐ来るのでお待ちください。」
「はい?」
シグレはそう言い残し、他の職人たちと共に国へと入って行く。
要塞の外に残されたまま待っていると、ヒサメがこちらに歩いてきた。
「リビ殿お疲れ様。城へ向かおうか。」
「え、はい。」
私はもともとペンダントを持っていたので門を押さえるミゾレに会釈して中へと入った。




そこには、国民が皆こちらを向いて拍手している光景が広がっていた。



「鉱石を直してくれてありがとう!!」

「これからも安心して暮らしていけるよ!」

「本当にありがとうございます!」



そんな声がたくさん聞こえてきた。
泉の谷のエルフも、静寂の海の人魚も、猟虎の獣人も。
皆が驚いて、そうしてその場にいるみんなが笑顔になっている。
種族が違っても、お互いを尊重し感謝できる。
そんな理想の空間が今、ここにある。
鳴りやまない拍手に圧倒されていると、背中にヒサメの尻尾がもすっと当たった。
「職人はもちろんのこと、リビ殿がこれまで頑張ってくれた結果だ。ありがとう。」
ヒサメの言葉に胸がじんわりと温かくなって、そうして嬉しい感情でいっぱいになる。
「はい・・・!」
震える声でやっと返事した私は、泣かないように堪えながら町の中を城まで歩んでいく。
「忘れたか、胸を張って気高く微笑んでおけと言ったはずだ。」
ヒサメのその優しい声に、私は首を横に振って胸を張る。
「忘れてません。でも気高くは無理ですよ、この笑顔じゃいけませんか?」
周りのみんなの笑顔のおかげか、私も素直に笑顔になれる。
ヒサメは私の顔を見たあと、国民の顔を眺めた。

「その笑顔も悪くないな。」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】魔女を求めて今日も彼らはやって来る。

まるねこ
ファンタジー
私の名前はエイシャ。私の腰から下は滑らかな青緑の鱗に覆われた蛇のような形をしており、人間たちの目には化け物のように映るようだ。神話に出てくるエキドナは私の祖母だ。 私が住むのは魔女エキドナが住む森と呼ばれている森の中。 昼間でも薄暗い森には多くの魔物が闊歩している。細い一本道を辿って歩いていくと、森の中心は小高い丘になっており、小さな木の家を見つけることが出来る。 魔女に会いたいと思わない限り森に入ることが出来ないし、無理にでも入ってしまえば、道は消え、迷いの森と化してしまう素敵な仕様になっている。 そんな危険を犯してまで森にやって来る人たちは魔女に頼り、願いを抱いてやってくる。 見目麗しい化け物に逢いに来るほどの願いを持つ人間たち。 さて、今回はどんな人間がくるのかしら? ※グロ表現も含まれています。読む方はご注意ください。 ダークファンタジーかも知れません…。 10/30ファンタジーにカテゴリ移動しました。 今流行りAIアプリで絵を作ってみました。 なろう小説、カクヨムにも投稿しています。 Copyright©︎2021-まるねこ

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます

時岡継美
ファンタジー
 初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。  侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。  しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?  他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。  誤字脱字報告ありがとうございます!

【完結】神スキル拡大解釈で底辺パーティから成り上がります!

まにゅまにゅ
ファンタジー
平均レベルの低い底辺パーティ『龍炎光牙《りゅうえんこうが》』はオーク一匹倒すのにも命懸けで注目もされていないどこにでもでもいる冒険者たちのチームだった。 そんなある日ようやく資金も貯まり、神殿でお金を払って恩恵《ギフト》を授かるとその恩恵《ギフト》スキルは『拡大解釈』というもの。 その効果は魔法やスキルの内容を拡大解釈し、別の効果を引き起こせる、という神スキルだった。その拡大解釈により色んなものを回復《ヒール》で治したり強化《ブースト》で獲得経験値を増やしたりととんでもない効果を発揮する! 底辺パーティ『龍炎光牙』の大躍進が始まる! 第16回ファンタジー大賞奨励賞受賞作です。

老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜

二階堂吉乃
ファンタジー
 瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。  白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。  後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。  人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話7話。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~

柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。 家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。 そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。 というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。 けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。 そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。 ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。 それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。 そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。 一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。 これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。 他サイトでも掲載中。

処理中です...