【完結】異世界転移した私がドラゴンの魔女と呼ばれるまでの話

yuzuku

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組織の調査1

闇魔法の人間

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「ここはあらゆる本が揃っているんです。この夜明けの国では娯楽が無いので、実用書や小説、絵本まで置いてあるんですよ。」
「絵本、ですか。」
「絵本では地域柄が出ますし、歴史を手軽に学ぶことが出来るツールでもあります。それにこの夜明けの国に来る神官様見習いの中には、読み書きが出来ない方がいらっしゃることもある。絵本の文字は読み書きにうってつけなのです。」
私自身もゼロからこの世界の共通言語を学んだが、確かに最初に読もうとしたのは絵本だった。
結局、植物図鑑が私にとって一番役に立ったが、絵本というのは学びにおいて便利な本なのかもしれない。

すると、ベルへが座っていた男性に話しかけこちらに戻って来た。

「彼はモナさん、今ここにいる中で唯一人間の神官様です。」
頭を下げる彼と目が合ったが、その顔立ちはどう見ても日本人ではない。
「はじめまして、リビと言います。故郷はどちらですか?」
私の問いにモナは面食らったような顔をして、それから首を横に振る。
「今はもう思い出せません。家族の顔も、何もかも。」
「言語はどうですか?」
モナは少し迷ったのち、口を開く。
「〈When in Rome do as the Romans do.〉だからきっと、忘れてしまうでしょうね。」
モナの仕方がないという表情を見て、私が悲しくなった。
「郷に入っては郷に従え、ってやつですね。でも私は母国語を忘れる気はありません。〈Never give up!〉です。」
私の下手な英語にモナは少し笑ってくれた。
「久々に聞いたな、自分以外が話してくれるのをさ。」
そんなやり取りにヒサメとベルへは顔を見合わせて首を傾げていた。



「ボクは10年以上前にこの世界に来て、商人の方に拾われたんです。その人の仕事を手伝っているうちに、この世界の言葉を話せるようになりました。そうしてとある日、その町で結構大きな火事があって、家がいくつも燃えてしまって、その時以前建築に関わっていた技術が役に立ったんです。それから、色んな建物の建築に携わらせてもらい、神官になれる条件を満たしたことでここにいます。」
モナはどうやら迷いの森スタートではないらしい。
闇魔法全員が迷いの森に行くわけではないんだな。
そう思うと、ランダムで運が悪いということにもなるが。
しかし、手に職というのは異世界転移しても役に立つのだから凄いことだ。
何も持たずに来てしまった私とは大違いだな。
そんなことを思いながら、そういえばと聞いておかなければならないことを質問した。
「この世界でルリビというきのみを食べたことはありますか?」
「それって致死毒の実でしょう?食べませんよ!」
「そうですか、魔法の種類次第なら食べられるので一応伺いたかったんです。」

モナは言語と仕事以外のことは忘れてしまっている。
10年ここにいるとして、ヒカルよりも記憶欠如に偏りがある。
記憶している脳の場所の違い?
その差は一体なんなのだろうか。

モナは修行する時間だからと言って頭を下げた。




モナが階段を降りていこうとするので、私はヒサメとベルへに少し待っててと言ってモナを追う。
「モナさんすみません。あと一つだけ質問が。」
「はい、なんでしょう。」
「死因を聞いてもいいですか、この世界に来るときの。」
モナは少し黙った後、少し声を落とした。
「首をくくりました、自分で。理由はもう、あまり覚えていなくて。でもきっと、耐えられないような出来事のせいでしょうね。」
「そう、でしたか。すみません、そんなこと聞いてしまって。」
「いえ、でも貴女も同じようなものなのでは?」
そんな返しをされるとは思っておらず、私は戸惑った。
「いえ、私は事故のようなものだったので。」
ベランダからの転落死。
それはきっと、事故だったはず。
モナは穏やかな顔で瞬きした。
「そうでしたか、それなら違うのかな。ボクはこの世界がボク自身への罰だと思っていたんですよ。」

「罰、ですか。」

「ええ、自ら死を選んだボクが、誰かの役に立てと言われている気がして。まぁ、今はこの神官である暮らしが穏やかで気に入ってはいるんです。休みをとれば、この夜明けの国から出て旅行にも行けますしね。自分が神官であることを忘れなければ案外自由な職でもあるんです。」

モナが神官になったのは、誰かの役に立たなければと思ったからかもしれない。
ここに来た他の神官も誰かの役に立つことで、差別や偏見を無くすためなのかもしれない。
「リビさんもきっと神官になれますよ。機会があればご検討ください。」
みっつの条件を私が満たせるとは思えないが、胸を張って微笑んでみた。

「はい、機会があれば。」



ヒサメとベルへの元へと戻ると二人は和やかに会話していた。
「こんなに立派になられて。幼い頃のヒサメ様もとても可愛らしい子でしたよ。私の後ろをついてきては、服をよじ登ろうとなさって。」
「その話何度目だ?四つの時の話であろう。ベルへがオレを構うから、幼いオレもキミを気に入ってしまったのだろう。」
そんな二人はまるで親子のようにすら見えた。
種族が全く違うのに、なんだか似ているような気がしたのだ。
ヒサメはこちらに気づくと、手招きして私を隣に座らせた。
「モナ殿から何かいい話は聞けたか?」
そんな問いに、いい話だったとは言い難い。

モナはこの世界は自身への罰だと思っていたと言った。
その言葉に私も心当たりはある。
私だって迷いの森で彷徨っていたときに何度もそう思った。
上手く社会に溶け込めなかったことも、両親に心配ばかりかけていたことも。
そうして、引きこもりになったあげくにベランダから転落死したことも。
誰かに迷惑をかけてばかりだった私への罰だとしたら腑に落ちる。

しかし、そうなると光魔法のヒカルはどうなる?

聖女になるために誘導されている彼女を見ていたら、闇魔法を持つ私も何かをさせるためにこの世界に呼ばれたような気がするのだ。
モナさんのおかげで救われた町がある。
ヒバリさんのおかげで救われた命がある。
そう考えると、私は一体何を救えばいいのだろうか。

私は少しだけ黙ったあと、ヒサメの目を見る。
「得られるものはありました。考える材料にもなると思います。」
「それなら良い。」
ヒサメの穏やかな頷きに、私がここにいてもいい理由を探さなければと思った。
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