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組織の調査1
魔力の乱れ
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ヒサメは私の背中に手を添えると歩き出した。
「あの、ヒサメ様。この花束大きすぎて前が見えないんですが。」
「顔が隠れたほうが良いだろう。涙を人前でさらすのが好きならば別だが」
ヒサメは顔を隠すためにこの花束を渡したのか。
「あの、泣いてないです。」
「泣いても良いぞ。オレの尻尾であやしてやろうな」
「泣かないですってば。」
私はそう言いながらも目頭が熱くなる。
深呼吸をすると花の香りが広がって、心が落ち着いていく。
「脈がないっていうのは、ああいうのを言うんですね。」
そんなことを呟けば、隣にいるヒサメは視線だけを私に向ける。
「会話、全部聞こえてたんですよね。応援されちゃいましたよ、まさか自分とは思ってもみないのでしょうね。自分だと思ってないから、応援できるんでしょうね。」
そんな卑屈交じりに言えば、ヒサメの尻尾が背中にぽんっと当たる。
「騎士殿はリビ殿のことを褒めていただろう。大切に思っていることは確かだ。ただそれが、恋愛を含んでいないだけのことだ。」
「分かってます。そもそも、当然なんですよ。私が彼に惚れる理由はあっても、彼が私に惚れる理由はない。彼からしてみれば私は、可哀想で助けてあげなきゃいけない人だったんですから。」
言語が分からない、この世界のことを何も知らず金さえも持っていない。
迷いの森で彷徨っていたヤバい奴。
ヒカルがいなければどうなっていただろう。
守り神であるソラがいなければ、森すらも出れなかっただろう。
こんな私を恋愛相手に選ぶような人はまともじゃない気さえする。
「少なくとも今のリビ殿は、この世界に来たばかりのころとは違うはずだ。今から惚れさせる理由をいくらでも作れば良いだけの話だ。なにか問題があるか?」
さすが、長年一途にフブキを想っているだけのことはある。
その言葉に説得力があるな。
そんな長年の想いに比べたら私なんてまだまだだ。
そう思うと、暗くなりかけていた気持ちは軽くなる。
「問題はたくさんありますけど。でも、ようやくスタートラインってことですかね。彼が惜しむ顔を私も見たいですし。」
好きになってもらうというのはとても難しい問題だが、今からできる努力がいくらでもある。
その努力の末、ヴィントが振り向いてくれなければそれは仕方のないことだ。
「可愛くなって、強くなって、頼られる女になります」
「ああ、その意気だ。魔力も安定してきたようだな」
「え、乱れてましたか。」
「多少な。オレと共にいるときはいいが、そうじゃないのなら気を付けろよ。コントロールが効かなくなると危険だ。摂取している毒が勝手に誰かに付与されたら困るだろう。」
私は全力で頷いた。
魔力の不安定でそんなことになるとは本当に困る。
以前不安定になった時は迷いの森に行ったから、人気のないところに移動したほうがいいのかもしれない。
「恋という感情は心を大きく乱す要因になる。それによって魔力が不安定になる者が多い。大抵、その感情は自分自身、もしくは家族や友人によって宥められ事なきを得るが、時折どうしても抑えられない負の感情によって自分でも魔法を制御できなくなる。そんな時は、本人を隔離させるか気絶させる。そうすれば、暴走は止まるから覚えておくといい。」
できればそんな場面に遭遇したくはないが、覚えていて損はないだろう。
「ヒサメ様も、フブキさんと離れている間、辛いのではないですか。」
隣を歩くヒサメを見上げれば、彼のふさふさの耳が揺れる。
「長い間会っていなかったんですよね。ようやく再会したのに、一緒にいられない。私だったらきっと、負の感情でいっぱいになって大変なことになりそうです。」
ヒサメ様は私と違って精神も強そうだ。
そう思ったのに、ヒサメの耳は次第に折れていく。
「大変なことになら、オレもなった。国の外で魔獣に襲われ重傷だったオレが目を覚ました時、親父によって何もかもが決定されていた。フブキが追放されることも、フブキの両親が処刑されることもすべて。オレは親父や上の者に抗議した。けれど若く幼いオレの声に耳を傾ける者などおらず、これが情状酌量した結果だと言われた。本来、光魔法を持つフブキも処刑対象だったが、オレの命を救ったことによって減刑され追放になったと聞かされた。これ以上オレが何か言えば、フブキも処刑されてしまうと口を閉じることしか出来なかった。」
国を追い出されるフブキを見送るヒサメはどれほど苦しかったことだろう。
フブキの両親が処刑されるそのとき、どれほどの苦しみを背負ったのだろう。
「オレの魔力は当然暴走しそうになったが、オレは自ら城の地下室に閉じこもった。強度が高くて頑丈だから、当時のオレの魔力が暴走したとしても城が壊れることはない。まぁ、城は壊れなかったが、地下にあった牢獄のいくつかはぶっ壊してしまった。だがそのおかげで良いこともあった。」
ヒサメの声色がどことなく変化した気がした。
私が見上げればヒサメは、何かを企むような笑みを見せたのだ。
「さきほど長い間会っていないと言ったが、確かに会ってはいないな。だがオレはフブキがどこで何をしてどうやって生きていたのか知っている。ずっと、監視させていたからな。」
「あの、ヒサメ様。この花束大きすぎて前が見えないんですが。」
「顔が隠れたほうが良いだろう。涙を人前でさらすのが好きならば別だが」
ヒサメは顔を隠すためにこの花束を渡したのか。
「あの、泣いてないです。」
「泣いても良いぞ。オレの尻尾であやしてやろうな」
「泣かないですってば。」
私はそう言いながらも目頭が熱くなる。
深呼吸をすると花の香りが広がって、心が落ち着いていく。
「脈がないっていうのは、ああいうのを言うんですね。」
そんなことを呟けば、隣にいるヒサメは視線だけを私に向ける。
「会話、全部聞こえてたんですよね。応援されちゃいましたよ、まさか自分とは思ってもみないのでしょうね。自分だと思ってないから、応援できるんでしょうね。」
そんな卑屈交じりに言えば、ヒサメの尻尾が背中にぽんっと当たる。
「騎士殿はリビ殿のことを褒めていただろう。大切に思っていることは確かだ。ただそれが、恋愛を含んでいないだけのことだ。」
「分かってます。そもそも、当然なんですよ。私が彼に惚れる理由はあっても、彼が私に惚れる理由はない。彼からしてみれば私は、可哀想で助けてあげなきゃいけない人だったんですから。」
言語が分からない、この世界のことを何も知らず金さえも持っていない。
迷いの森で彷徨っていたヤバい奴。
ヒカルがいなければどうなっていただろう。
守り神であるソラがいなければ、森すらも出れなかっただろう。
こんな私を恋愛相手に選ぶような人はまともじゃない気さえする。
「少なくとも今のリビ殿は、この世界に来たばかりのころとは違うはずだ。今から惚れさせる理由をいくらでも作れば良いだけの話だ。なにか問題があるか?」
さすが、長年一途にフブキを想っているだけのことはある。
その言葉に説得力があるな。
そんな長年の想いに比べたら私なんてまだまだだ。
そう思うと、暗くなりかけていた気持ちは軽くなる。
「問題はたくさんありますけど。でも、ようやくスタートラインってことですかね。彼が惜しむ顔を私も見たいですし。」
好きになってもらうというのはとても難しい問題だが、今からできる努力がいくらでもある。
その努力の末、ヴィントが振り向いてくれなければそれは仕方のないことだ。
「可愛くなって、強くなって、頼られる女になります」
「ああ、その意気だ。魔力も安定してきたようだな」
「え、乱れてましたか。」
「多少な。オレと共にいるときはいいが、そうじゃないのなら気を付けろよ。コントロールが効かなくなると危険だ。摂取している毒が勝手に誰かに付与されたら困るだろう。」
私は全力で頷いた。
魔力の不安定でそんなことになるとは本当に困る。
以前不安定になった時は迷いの森に行ったから、人気のないところに移動したほうがいいのかもしれない。
「恋という感情は心を大きく乱す要因になる。それによって魔力が不安定になる者が多い。大抵、その感情は自分自身、もしくは家族や友人によって宥められ事なきを得るが、時折どうしても抑えられない負の感情によって自分でも魔法を制御できなくなる。そんな時は、本人を隔離させるか気絶させる。そうすれば、暴走は止まるから覚えておくといい。」
できればそんな場面に遭遇したくはないが、覚えていて損はないだろう。
「ヒサメ様も、フブキさんと離れている間、辛いのではないですか。」
隣を歩くヒサメを見上げれば、彼のふさふさの耳が揺れる。
「長い間会っていなかったんですよね。ようやく再会したのに、一緒にいられない。私だったらきっと、負の感情でいっぱいになって大変なことになりそうです。」
ヒサメ様は私と違って精神も強そうだ。
そう思ったのに、ヒサメの耳は次第に折れていく。
「大変なことになら、オレもなった。国の外で魔獣に襲われ重傷だったオレが目を覚ました時、親父によって何もかもが決定されていた。フブキが追放されることも、フブキの両親が処刑されることもすべて。オレは親父や上の者に抗議した。けれど若く幼いオレの声に耳を傾ける者などおらず、これが情状酌量した結果だと言われた。本来、光魔法を持つフブキも処刑対象だったが、オレの命を救ったことによって減刑され追放になったと聞かされた。これ以上オレが何か言えば、フブキも処刑されてしまうと口を閉じることしか出来なかった。」
国を追い出されるフブキを見送るヒサメはどれほど苦しかったことだろう。
フブキの両親が処刑されるそのとき、どれほどの苦しみを背負ったのだろう。
「オレの魔力は当然暴走しそうになったが、オレは自ら城の地下室に閉じこもった。強度が高くて頑丈だから、当時のオレの魔力が暴走したとしても城が壊れることはない。まぁ、城は壊れなかったが、地下にあった牢獄のいくつかはぶっ壊してしまった。だがそのおかげで良いこともあった。」
ヒサメの声色がどことなく変化した気がした。
私が見上げればヒサメは、何かを企むような笑みを見せたのだ。
「さきほど長い間会っていないと言ったが、確かに会ってはいないな。だがオレはフブキがどこで何をしてどうやって生きていたのか知っている。ずっと、監視させていたからな。」
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