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組織の調査1
眠れない夜
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「ヒサメ様、私聞いたことがあるんです。悪魔の儀式のことをアイル先生から」
白銀の国へ到着し、ようやく城へ戻ってきた私は部屋で休めと言われて思わずヒサメを呼び止めていた。
振り返ったヒサメは尻尾をわざとらしく私にぶつけてきた。
「嘘偽りなく話す、と言っていたはずではなかったか」
「いえ、アイル先生から聞いたことがドクヘビと関係があるのか頭の中であまり繋がってなくて。でも、聞いたと言っても上界と下界のことを知らなかった私に、アイル先生が授業してくれたというだけなんです。そのときに悪魔の儀式をする人間がいるって聞きました」
決して意図的に黙っていたわけではない。
ヒサメは私をじっと見ながら、それから?と促した。
「アイル先生は、その儀式によって上界と交渉できると言っていました。でも大抵はその対価である魔力が足りないから失敗するだろうって。でも儀式について聞いたら、知る必要がないって言われてしまって」
「分かった、泉の谷に行ってアイル殿に話を聞こう。だが、その前にリビ殿は休め。ボタン」
後ろにいたボタンは名を呼ばれると、私の背中を押して部屋へと誘導する。
「あの、ボタンさん?」
「お風呂につかって、ベッドでゆっくり休んでから泉の谷に行こう、とヒサメ様は仰っています。リビさん、隈が出来てますよ」
夢見が悪かった私は山であまり眠れなかった。
そのことをどうやら気にかけているらしい。
迷いの森で慣れない頃は眠れないなんてざらだった。
もともと眠りは浅いほうだし、そこまで気にしなくても問題はない。
しかし、一目でわかるような隈があると先生やソラを心配させることにもなるだろう。
「そうですね、寝たほうがいいですね」
私は素直に風呂に入り、広いふかふかなベッドに入った。
白銀の国のベッドは暖かくて柔らかい布団だ。
城の中とはいえ雪山なので、ぬくぬくと眠れるようなベッドなのだろう。
私はその日夢を見た。
流れていく血が足元を濡らし、私はその血を目で追った。
黒い影がクレタと話しているのが見え、そうしてその影は小さな瓶をクレタに渡す。
ああ、きっとあれが毒なのだ。
私は走ってクレタの元へと行こうとするが一向に近づくことは叶わない。
そうしてその小さな瓶の中身を飲み干したクレタが私の方にぐるりと首を回す。
「おまえのせいだ。」
そう言われて飛び起きた。
汗が背中を伝うほどびっしょりで、私はテーブルの上の水を飲んだ。
あれは、自分が自分に見せているだけだ。
そう言い聞かせて私はもう一度ベッドに寝転んだ。
「あまり、寝れていないようだなリビ殿」
凛とした姿で立っているヒサメは疲れを感じさせない表情で私を待っていた。
走って帰ってきたヒサメの方が疲れているはずで、慣れない場所で事件まであったというのにやはり鍛え方が違うということか。
「睡眠改善の植物が必要なら持ってこさせるが」
「いえ、泉の谷に行くんですよね。この雪山には無くても、泉の谷の近くの森にはその植物があるので大丈夫です」
「そうか」
ヒサメはそう言うと平たい木箱のようなものを渡してきた。
「なんですか?」
「白銀の国には専門店があると話しただろう。食べた事はあるか?」
箱の中には四角いチョコレートが並んでいる。
やはり、結構甘党なようだ。
「私の世界では食べたことありますね、こっちではまだ」
「違うものかもしれないが、試しに食べてみないか」
そう言われて私はその立方体を口に入れた。
甘さは思っていたよりは控えめだが、チョコレートに近いものがある。
私の様子を見てヒサメはその箱を私の手に置いた。
「口に合ったようだな。疲れたときには甘いものがいい。持っておけ」
「ありがとうございます、ヒサメ様」
ヒサメが歩きだすので少し早足で追いかける。
「今回泉の谷にはオレとリビ殿、二人で向かうことにする。あの組織に関することを調べる以上、少数で動くほうがいい。ボタンには短剣のことを調査してもらう。鍛冶屋の娘だからこそ分かることもあるだろうからな」
そうして私は泉の谷へと戻ってきた。
入ることの出来ないヒサメが外で待っている。
真っ先にアイルがいるであろう鉱石浄化の訓練部屋に行けば、ソラが突進してきた。
「キュウキュウ!!」
久々のもふもふと久々のこの重みに私はその場に倒れ込む。
「ソラ、どうしたの」
「キュキュキュ!」
「置いていったと思ったの?違うよ、ちょっとヒサメ様の仕事を手伝ってるの」
ソラはぐいぐいと頭突きしながら拗ねている。
「寂しがってたんだぞ、リビが遅いから」
トゥアが見下ろしてそう言うものだから、私はソラを撫でる。
「トゥアさん、ソラと遊んでくれてたんですか」
「時々な。今日は俺だって仕事して戻ってきたばっかだよ。せっかくだからソラに会いに来たわけ。」
トゥアはすっかりソラと仲良くなっているようで、ソラを抱っこした。
意外にも軽々持ち上げたので私は目を丸くする。
私とあまり背も変わらないと思っていたが、私よりも筋力はあるらしい。
「なんだよ、ソラくらい持ち上がるぞ失礼だな」
トゥアはそう言うとソラを抱っこしたままアイルを呼びに行った。
「リビ戻ってたんだね、ヒサメ様との仕事は順調かい?」
休憩時間になったとのことでアイルと話をすることができる。
私は真っ向から悪魔の儀式について聞くことにした。
「なるほど、ヒサメ様が悪魔の儀式に関する情報を集めてるんだね。無いとは思うけど、まさか儀式がしたいわけじゃないよね?」
私はその問いに全力で首を横に振る。
「ヒサメ様は強いので儀式なんて必要ないですよ」
「あははっ、そこはそんなことするような人じゃないって言うとこさ。でもまぁ、その言い方のほうが納得はできるね。」
アイルは腕を組むと一瞬迷うように視線を動かす。
「私もその儀式を実際にやったことはもちろん無いよ。ただ、もしかしたら、していたかもしれないって話さ」
アイルの表情は悲しげに見えた。
しかし、それは一瞬ですぐに笑顔になった。
「あたしよりも詳しい人が太陽の国にいるんだ。その人から聞けば、ヒサメ様の欲しい情報が掴めるかもしれないさね。あたしは今、見習いの皆を一人前にするので忙しいからさ!悪いんだけど太陽の国に行ってみてくれないかい?」
自分では話せない、話したくない。
そんな雰囲気を感じ取って私は頷くしかなかった。
「誰に聞けばいいですか」
「リビも会ったけど、腰の治療をしたおばあさまだよ」
アイルはまた見習いに呼ばれて行ってしまった。
「話終わったか?」
トゥアがソラを連れて戻ってくると、ソラは私の手を掴む。
「ソラ、私今度は太陽の国に行かないといけないんだ」
「キュキュ」
「行くって、でもソラは今見習いの人の特訓を手助けしてるでしょ?」
ソラは私の手をぎゅむぎゅむと握っている。
「アイル先生の訓練はかなりハードだからな。見習いの皆は、ソラに癒やされてるらしいぞ」
トゥアがそう言うと、周りの見習いの人たちが頷いた。
「ソラちゃんが可愛いので助かってます」
「ソラがいなかったら心折れてるよなぁ」
そんなことを口にする見習いを見て私も安心する。
やはり、ここはソラにとって安全だ。
狙われる可能性があったとしても、ここなら心配はいらない。
「ほら、ソラのおかげで皆頑張れるって言ってるよ。だから、皆と一緒にここで待ってて」
ソラはゆっくりと手を離すと頷いた。
それがなんだか寂しげで心が痛む。
「ちゃんと戻ってくるから、ね?」
頭をもふもふと撫でれば小さく頷くソラ。
まだ子供だからな、お留守番が寂しいのは分かる。
でも、ドクヘビのことが何もわからないままではソラが危ないのだ。
私は見習いの皆にソラをよろしくと言って泉の谷を出た。
精霊の森を抜け、その入口に待つヒサメの横顔が見えた。
「あれが白銀の国王?」
ふいに後ろから声がして振り向けばトゥアがいた。
「ど、どうしたんですか」
「いや、仕事相手になる予定の国王様の顔を拝んどこうと思ってさ」
トゥアはそう言うとヒサメの顔をじっと眺める。
そして、ため息を付く。
「俺の顔が使えねぇタイプじゃん、あの人」
「どういう意味ですか」
「俺美人じゃん、この顔に騙される男って少なくないんだよね。でも、あの人はみてくれで騙されてくれるような人じゃないってこと」
トゥアはそう言うと、ヒサメに駆け寄った。
「はじめまして、俺は泉の谷の交渉人を務めていますトゥアと申します。白銀の国王ヒサメ様にご挨拶申し上げます」
トゥアは可憐に裾を少し上げると深々とお辞儀をする。
「ご丁寧にありがとう」
「仕事が決まった際には俺が交渉を務めることになるかと思います。双方の納得いく有意義な時間を過ごせるように願っております」
「ああ、同感だな」
トゥアはお辞儀をするとこちらに走ってきて私の肩を叩く。
「全然駄目だわ、あの人どんな奴がタイプ?リビじゃないだろ?まさか」
まさかとはなんだ。
と思ったが、確かに私ではないので首を横に振る。
「真っ直ぐで、義理人情に厚く、強い人?」
「見た目の話してんだけど。まぁ、いいや。とにかく仕事頑張れよ」
そう言うとトゥアは精霊の森を駆け抜けていった。
「ヒサメ様、聞こえてましたよねはじめから」
「耳が良いからな。面白い少年だということは分かった」
「綺麗な子ですよね、私最初女の子だと思ったんです」
そんなことを言ってみればヒサメは興味もなさそうに頷いた。
「そうだな。ところでどうだった、アイル殿の話は聞けたか」
「それが、太陽の国にもっと詳しい人がいるからそっちに聞いてと言われてしまいまして」
「分かった、それなら太陽の国へ行こうか」
特に疑問を持つことなく速やかに移動しようとするヒサメを呼び止める。
「気にならないんですか、アイル先生のこと」
「太陽の国に行けば情報が手に入るのだろう?それなら何も問題はない」
あっけらかんとそう言われ、私はそういうものなのだろうかと思いながらも黒羽鳥に乗った。
白銀の国へ到着し、ようやく城へ戻ってきた私は部屋で休めと言われて思わずヒサメを呼び止めていた。
振り返ったヒサメは尻尾をわざとらしく私にぶつけてきた。
「嘘偽りなく話す、と言っていたはずではなかったか」
「いえ、アイル先生から聞いたことがドクヘビと関係があるのか頭の中であまり繋がってなくて。でも、聞いたと言っても上界と下界のことを知らなかった私に、アイル先生が授業してくれたというだけなんです。そのときに悪魔の儀式をする人間がいるって聞きました」
決して意図的に黙っていたわけではない。
ヒサメは私をじっと見ながら、それから?と促した。
「アイル先生は、その儀式によって上界と交渉できると言っていました。でも大抵はその対価である魔力が足りないから失敗するだろうって。でも儀式について聞いたら、知る必要がないって言われてしまって」
「分かった、泉の谷に行ってアイル殿に話を聞こう。だが、その前にリビ殿は休め。ボタン」
後ろにいたボタンは名を呼ばれると、私の背中を押して部屋へと誘導する。
「あの、ボタンさん?」
「お風呂につかって、ベッドでゆっくり休んでから泉の谷に行こう、とヒサメ様は仰っています。リビさん、隈が出来てますよ」
夢見が悪かった私は山であまり眠れなかった。
そのことをどうやら気にかけているらしい。
迷いの森で慣れない頃は眠れないなんてざらだった。
もともと眠りは浅いほうだし、そこまで気にしなくても問題はない。
しかし、一目でわかるような隈があると先生やソラを心配させることにもなるだろう。
「そうですね、寝たほうがいいですね」
私は素直に風呂に入り、広いふかふかなベッドに入った。
白銀の国のベッドは暖かくて柔らかい布団だ。
城の中とはいえ雪山なので、ぬくぬくと眠れるようなベッドなのだろう。
私はその日夢を見た。
流れていく血が足元を濡らし、私はその血を目で追った。
黒い影がクレタと話しているのが見え、そうしてその影は小さな瓶をクレタに渡す。
ああ、きっとあれが毒なのだ。
私は走ってクレタの元へと行こうとするが一向に近づくことは叶わない。
そうしてその小さな瓶の中身を飲み干したクレタが私の方にぐるりと首を回す。
「おまえのせいだ。」
そう言われて飛び起きた。
汗が背中を伝うほどびっしょりで、私はテーブルの上の水を飲んだ。
あれは、自分が自分に見せているだけだ。
そう言い聞かせて私はもう一度ベッドに寝転んだ。
「あまり、寝れていないようだなリビ殿」
凛とした姿で立っているヒサメは疲れを感じさせない表情で私を待っていた。
走って帰ってきたヒサメの方が疲れているはずで、慣れない場所で事件まであったというのにやはり鍛え方が違うということか。
「睡眠改善の植物が必要なら持ってこさせるが」
「いえ、泉の谷に行くんですよね。この雪山には無くても、泉の谷の近くの森にはその植物があるので大丈夫です」
「そうか」
ヒサメはそう言うと平たい木箱のようなものを渡してきた。
「なんですか?」
「白銀の国には専門店があると話しただろう。食べた事はあるか?」
箱の中には四角いチョコレートが並んでいる。
やはり、結構甘党なようだ。
「私の世界では食べたことありますね、こっちではまだ」
「違うものかもしれないが、試しに食べてみないか」
そう言われて私はその立方体を口に入れた。
甘さは思っていたよりは控えめだが、チョコレートに近いものがある。
私の様子を見てヒサメはその箱を私の手に置いた。
「口に合ったようだな。疲れたときには甘いものがいい。持っておけ」
「ありがとうございます、ヒサメ様」
ヒサメが歩きだすので少し早足で追いかける。
「今回泉の谷にはオレとリビ殿、二人で向かうことにする。あの組織に関することを調べる以上、少数で動くほうがいい。ボタンには短剣のことを調査してもらう。鍛冶屋の娘だからこそ分かることもあるだろうからな」
そうして私は泉の谷へと戻ってきた。
入ることの出来ないヒサメが外で待っている。
真っ先にアイルがいるであろう鉱石浄化の訓練部屋に行けば、ソラが突進してきた。
「キュウキュウ!!」
久々のもふもふと久々のこの重みに私はその場に倒れ込む。
「ソラ、どうしたの」
「キュキュキュ!」
「置いていったと思ったの?違うよ、ちょっとヒサメ様の仕事を手伝ってるの」
ソラはぐいぐいと頭突きしながら拗ねている。
「寂しがってたんだぞ、リビが遅いから」
トゥアが見下ろしてそう言うものだから、私はソラを撫でる。
「トゥアさん、ソラと遊んでくれてたんですか」
「時々な。今日は俺だって仕事して戻ってきたばっかだよ。せっかくだからソラに会いに来たわけ。」
トゥアはすっかりソラと仲良くなっているようで、ソラを抱っこした。
意外にも軽々持ち上げたので私は目を丸くする。
私とあまり背も変わらないと思っていたが、私よりも筋力はあるらしい。
「なんだよ、ソラくらい持ち上がるぞ失礼だな」
トゥアはそう言うとソラを抱っこしたままアイルを呼びに行った。
「リビ戻ってたんだね、ヒサメ様との仕事は順調かい?」
休憩時間になったとのことでアイルと話をすることができる。
私は真っ向から悪魔の儀式について聞くことにした。
「なるほど、ヒサメ様が悪魔の儀式に関する情報を集めてるんだね。無いとは思うけど、まさか儀式がしたいわけじゃないよね?」
私はその問いに全力で首を横に振る。
「ヒサメ様は強いので儀式なんて必要ないですよ」
「あははっ、そこはそんなことするような人じゃないって言うとこさ。でもまぁ、その言い方のほうが納得はできるね。」
アイルは腕を組むと一瞬迷うように視線を動かす。
「私もその儀式を実際にやったことはもちろん無いよ。ただ、もしかしたら、していたかもしれないって話さ」
アイルの表情は悲しげに見えた。
しかし、それは一瞬ですぐに笑顔になった。
「あたしよりも詳しい人が太陽の国にいるんだ。その人から聞けば、ヒサメ様の欲しい情報が掴めるかもしれないさね。あたしは今、見習いの皆を一人前にするので忙しいからさ!悪いんだけど太陽の国に行ってみてくれないかい?」
自分では話せない、話したくない。
そんな雰囲気を感じ取って私は頷くしかなかった。
「誰に聞けばいいですか」
「リビも会ったけど、腰の治療をしたおばあさまだよ」
アイルはまた見習いに呼ばれて行ってしまった。
「話終わったか?」
トゥアがソラを連れて戻ってくると、ソラは私の手を掴む。
「ソラ、私今度は太陽の国に行かないといけないんだ」
「キュキュ」
「行くって、でもソラは今見習いの人の特訓を手助けしてるでしょ?」
ソラは私の手をぎゅむぎゅむと握っている。
「アイル先生の訓練はかなりハードだからな。見習いの皆は、ソラに癒やされてるらしいぞ」
トゥアがそう言うと、周りの見習いの人たちが頷いた。
「ソラちゃんが可愛いので助かってます」
「ソラがいなかったら心折れてるよなぁ」
そんなことを口にする見習いを見て私も安心する。
やはり、ここはソラにとって安全だ。
狙われる可能性があったとしても、ここなら心配はいらない。
「ほら、ソラのおかげで皆頑張れるって言ってるよ。だから、皆と一緒にここで待ってて」
ソラはゆっくりと手を離すと頷いた。
それがなんだか寂しげで心が痛む。
「ちゃんと戻ってくるから、ね?」
頭をもふもふと撫でれば小さく頷くソラ。
まだ子供だからな、お留守番が寂しいのは分かる。
でも、ドクヘビのことが何もわからないままではソラが危ないのだ。
私は見習いの皆にソラをよろしくと言って泉の谷を出た。
精霊の森を抜け、その入口に待つヒサメの横顔が見えた。
「あれが白銀の国王?」
ふいに後ろから声がして振り向けばトゥアがいた。
「ど、どうしたんですか」
「いや、仕事相手になる予定の国王様の顔を拝んどこうと思ってさ」
トゥアはそう言うとヒサメの顔をじっと眺める。
そして、ため息を付く。
「俺の顔が使えねぇタイプじゃん、あの人」
「どういう意味ですか」
「俺美人じゃん、この顔に騙される男って少なくないんだよね。でも、あの人はみてくれで騙されてくれるような人じゃないってこと」
トゥアはそう言うと、ヒサメに駆け寄った。
「はじめまして、俺は泉の谷の交渉人を務めていますトゥアと申します。白銀の国王ヒサメ様にご挨拶申し上げます」
トゥアは可憐に裾を少し上げると深々とお辞儀をする。
「ご丁寧にありがとう」
「仕事が決まった際には俺が交渉を務めることになるかと思います。双方の納得いく有意義な時間を過ごせるように願っております」
「ああ、同感だな」
トゥアはお辞儀をするとこちらに走ってきて私の肩を叩く。
「全然駄目だわ、あの人どんな奴がタイプ?リビじゃないだろ?まさか」
まさかとはなんだ。
と思ったが、確かに私ではないので首を横に振る。
「真っ直ぐで、義理人情に厚く、強い人?」
「見た目の話してんだけど。まぁ、いいや。とにかく仕事頑張れよ」
そう言うとトゥアは精霊の森を駆け抜けていった。
「ヒサメ様、聞こえてましたよねはじめから」
「耳が良いからな。面白い少年だということは分かった」
「綺麗な子ですよね、私最初女の子だと思ったんです」
そんなことを言ってみればヒサメは興味もなさそうに頷いた。
「そうだな。ところでどうだった、アイル殿の話は聞けたか」
「それが、太陽の国にもっと詳しい人がいるからそっちに聞いてと言われてしまいまして」
「分かった、それなら太陽の国へ行こうか」
特に疑問を持つことなく速やかに移動しようとするヒサメを呼び止める。
「気にならないんですか、アイル先生のこと」
「太陽の国に行けば情報が手に入るのだろう?それなら何も問題はない」
あっけらかんとそう言われ、私はそういうものなのだろうかと思いながらも黒羽鳥に乗った。
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