【完結】異世界転移した私がドラゴンの魔女と呼ばれるまでの話

yuzuku

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泉の谷

悪い大人

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ビルから少し離れたところでシグレは私に耳打ちする。
「あのお嬢さん、とても凄い能力をお持ちかもしれません。本来、魔守石は加工職人しかいない。それもそのはず、魔守石は多くとれるので、使えなくなったら壊れて終いだからです。ですが、多くとれるとはいえ険しい山ばかりにある鉱石です。繰り返し使えるならその方がいい。」
「あの、なんでこそこそ喋るんですか」
「貴女も見たと思いますが、白銀の国が人工的に作った治癒の鉱石。あれは魔守石を元に作られてるんです。ここだけの話、白銀の国に有益な国、例えばとても大きな太陽の国にはあの技術をヒサメ様は教えるつもりらしいですが、あまりその情報が漏れるのは好ましくない。魔守石が技術加工によって、魔力消費で魔法を使えることが知られれば他の国が黙ってないからです。そうなればうちも困ります。もちろん、あの技術はそう簡単に再現できるとは思えませんが、魔守石が凡庸な鉱石だと思われている方が好都合ですからね」
「メリットのないことは教えないってことですね」
「ええ、情報は最小限の人間が知っていればいいんです。そこでリビさん、あのお嬢さんが職人になれるよう協力しませんか」
シグレが振り向くと、やや離れたところにいるビルは顔を赤くして俯く。
「本人の望みを叶えることができれば、私たちの計画の協力もしてくれるはずですよ」
「それだけじゃないですよね、何考えてます?」
「お嬢さんが職人になれば、治癒の鉱石がもっと簡単に作れます。再利用ももっと手軽にできるはずだ。そうなれば、白銀の国はそれを使って他国との国交を有利にすることができるでしょう?」
「それって、ビルさんの協力前提じゃないですか」
シグレはビルの元へと歩いていく。
「お嬢さん、いえ、ビルさん。貴女は素晴らしい魔法をお持ちです。貴女は職人になるべきだ。問題点があれば教えて頂けませんか。どうか、私とリビさんに貴女の望みを叶えるお手伝いをさせてほしいのです」
シグレは騎士のように片膝をついて、ビルを見上げた。
ビルはりんごのように顔を真っ赤に染め上げて、わたわたと手を動かしている。
「あ、あの、そんな、私なんか、あの」
「貴女の魔法が子供たちを救えるように私も協力したい。ですので、ビルさん。貴女の願いが叶う手立てがついたら、どうか私の国を守るお手伝いをしてもらえませんか」
「はい、あの、要塞の鉱石ですよね。それは、そのお手伝いできたらしたいと思ってたので」
「嬉しいです、ありがとうございます。ですが、それだけではなくもっと貴女の魔法を活かせる場所があるかもしれません」
「それは、どういう・・・」
シグレは立ち上がると、丁寧にお辞儀をした。
「いえ、貴女の魔法が素晴らしいからと急かしてはいけませんね。まずは、ビルさんが職人になれるようにお手伝いしても、いいですか?」
「あ、あの、お願いします、えと、貴方様のお名前は」
「これは失礼を。シグレと申します、好きに呼んで頂いてかまいません。これから、長くお付き合いさせて頂くことになるでしょうから」
「え?あ、はい、え?」
私は思わずシグレの背中をどついていた。
いくらなんでもやりすぎだ。
「悪い大人すぎます」
「言ったでしょう、これくらいできなくてどうします」
小声のやり取りを終え、シグレはビルに挨拶をした。
「今日はこれで失礼致します。また参りますので」
「は、はい、お気を付けて」

走り去るシグレを熱い視線で見送るビルを私はどういう目で見たらいいか分からない。
騙されるな、とはちょっと違うか。
男は狼・・・洒落じゃないですよ。
ビルはシグレの見えなくなった方角を見つめたまま呟いた。
「リビさん、シグレさん、素敵な方ですね・・・」
「えっと?そうですね?」
私はこの美少女を守らなくてはと思うのと同時に、どうやって守ればいいか思案していた。



私は全身傷だらけということもあり、ビルに勧められて泉に来ていた。
「精霊様、いつもありがとうございます」
ビルが膝をついて手を合わせると精霊様が泉の中から顔を出す。
『ビルとリビ、こんばんはー』
特訓を終えた後だったので、もう泉には星空が映っている。
幻想的なその風景に見とれつつ、私は精霊様にお願いしてみる。
「泉に入ってもよろしいですか。特訓で傷が増えてしまって」
『うわー痛そうだね。もちろんいいよ』
マントを脱いでカバンを外して泉に入ると、じわじわと傷跡が治っていく。
『顔も傷だらけだね、頭まで浸からないとだめだよ』
精霊様にそう言われ、私は息を大きく吸い込んで泉の中に潜る。
夜にも関わらず、この透明な泉は月明りだけで下の方までよく見える。
美しさと同時に何故だか怖くなる。
深い水の底というのは何故、こんなに不安になるのだろう。
岩の多いその水の底は暗がりで余計に飲み込まれそうに見えるからかもしれない。
水面から顔を出せば、ビルが覗いていて目が合った。
「顔の傷は綺麗になってきていますね」
『足の傷はもう少しかな』
私は陸に手を置きながら陸に膝をついて座るビルを見上げる。
星空をバックに月明りに照らされる美少女。
幻想的なその光景に私は現実味がなくなってくる。
「ビルさんは、魅了をコントロールすることが出来るようになったんですよね」
「はい。今では仕事以外で効果が出ないようにしています。昔みたいに度が過ぎた好意を受けるのは明らかに減っています」
「それって、完全には減っていないってことですか」
ビルは困ったように笑うと、空を見上げる。
「魅了の効果によって引き起こされる好意はとても狂っているんです。もちろん、今ではそれを調整することもできますが小さい頃の私にはできなかった。私がアワン族長の孫ということもあって、知らない人に会う機会はたくさんありましたが、知らないエルフが私に色々買い与えようとしてきたり、全財産投げうってでも私を欲しいと言ってきたり。怖いでしょ?でも、魔力をコントロールできるようになった今でも、同じようなことを言ってくる人間やエルフもいます。これは、完全に相手が狂ってるんですよ」
遠い目をしているビルにとてつもなく同情するととともに、その狂った奴らの気持ちが全く分からないとも言えなかった。
あまりに美しすぎるビルの前では魅了の力などなくても狂ってしまうのだろう。
美人は大変だね、なんて軽く言える問題でもない。
「大変、ですね」
「リビさんは、とても普通に接して下さるので安心します」
「え、そうですか。美少女だなって思ってますよ」
私が水から上がると、ビルはタオルを差し出してくれた。
「私、自分に好意がある人間は一目で分かるんです。リビさんは私のこと何とも思ってないでしょ」
「いや、会ったばかりですし」
「会ったばかりの人が私と結婚したいと土下座するんですよ。リビさんみたいに普通の人ばかりだったらいいのに」
ビルは私の髪を拭いながら微笑んだ。
普通の人である私は確かに初対面で結婚したいと土下座することはないだろう。
『リビはとっても普通だよね!いいと思うよ!』
そんなイルカ、もとい精霊様の言葉に私は普通ってなんだろうと曖昧にほほ笑んだ。
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