【完結】異世界転移した私がドラゴンの魔女と呼ばれるまでの話

yuzuku

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泉の谷

魅了の性質

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水晶でシグレとの連絡が取れ、魔力強化のための特訓をするために泉の谷を出ようとした私をビルが呼び止めた。
「リビ、さん!」
「ビルさん、どうしました?」
ちょこちょこと駆け寄ってくるとビルはたどたどしく言葉を紡ぐ。
「あ、あの、おばあちゃんにリビさんが魔力強化の特訓してるって聞いて、それを見てみたくって。あの、見学したら迷惑ですか」
そんなことを言われるとは思わず呆気にとられた。
「ごめんなさい、特訓見たいなんて邪魔ですよねすみません!!」
「いえ、見学して構いませんよ。危ないので離れて観てもらうことにはなりますけど」
「それでかまいません!ありがとうございます」
これもビルさんの心境の変化なのだろうか。



そうして私とビルは泉の谷を出て、精霊の森を抜けた広い原っぱに来ていた。
ビルはかなり遠い茂みからこちらを見ている。
シグレはその茂みを見ながら私に問いかける。
「リビさん、あのお嬢さんはなんです?」
「特訓が見てみたいとのことなんですが、いいですか?交渉人の一人、ビルさんという方なんですが」
「交渉人、ですか。ええ、かまいません。それなら、愛嬌でも振りまいておきましょうか」
シグレはそう言うとビルに向かってさわやかに微笑んだ。
ビルは顔を真っ赤にして茂みに隠れてしまっている。
シグレはクールビューティ系だから笑顔も似合う。
私はもちろん怖い。
「シグレさん策士ですね」
「ヒサメ様の左腕ですよ?このくらいできなくてどうします。さぁ、始めますよリビさん」
その笑顔が本当に怖い。
私は深呼吸をしてから魔法を発動すべく手を構えた。



「さて、今日はここまでとしましょう」
日が傾いて夕焼けが見えるころ、ようやく地獄の特訓が終わった。
相変わらず避けれないし切り傷がいっぱいだ。
ビルが心配そうに駆け寄ってきて側に膝をつく。
「リビさん、大丈夫ですか?今、止血します」
そう言うとビルは魔法を発動させた。
水の膜で傷口を覆うと、その中で水を性質変化させ傷の血を止めてみせた。

あれ?この工程似てない?

「あの、ビルさん。その水魔法、鉱石の浄化の手順に似てますよね」
その瞬間水の膜が切れてバシャンと私の体は水浸しになる。
「あっ、ごめんなさいごめんなさい!!私、なんてことを」
ビルは慌てていたが、魔法が壊れたのは動揺のせいだ。
「大丈夫ですよ。それよりビルさん、もしかして鉱石の浄化できます?」
「…練習、してただけです。独学で、勝手に…」
ビルの声は次第に小さくなりそして。
「私、職人になりたかったんです、ずっと」
私もシグレも顔を見合わせて、そうしてビルの話を聞こうとその場に座った。



「私、小さい時から何故か異様に好意を寄せられることがあって。それが男女問わずだし、年齢も問わずだし、怖くて。お母さんもお父さんもこんなに可愛いんだから仕方ないとか親バカなこと言うし。お兄ちゃんも同じくらい可愛いのに、私より社交的で上手くやってて、余計に私がダメな気がして」
瞳をうるうるとさせるので、私はビルの背中をさする。
「そんなとき、エルフの一人が鑑定士の資格をとったらしく、鑑定してくれたんです。そうしたら、魔力自体に魅了という効果を持っていたということが分かって、幼くてコントロールができていないせいで、色んな人に影響を及ぼしていたと分かったんです。だから今私を好きでいてくれている人みんな魔力のせいだって言われた気がしたんです。だから、余計に部屋から出なくなりました」
自分の知らない魔法が周りに影響していたなんてどれほどショックなことだろうか。
いきすぎた好意というのは恐怖になる。
ビルさんが人見知りになるのも分かる。
「そんなとき、お兄ちゃんが魔力を込めていない魔光石をくれたんです。コントロールできていない魔力なら魔光石が吸収することによって効果を薄められるじゃないかって。職人さんにお願いして売ってもらったからって。私はこのお兄ちゃんがくれた魔光石のおかげで部屋から少しずつ出られるようになったんです」
ビルはペンダントを取り出した。
そこには薄い黄色の鉱石が付いている。
「魔光石は空気中の魔力も吸収してしまう。そうしていずれ割れてしまう。お兄ちゃんから貰ったこの魔光石を割らないように鉱石の浄化を練習し始めました。その練習のおかげか、魅了の魔力もコントロールすることが出来るようになって今では仕事の時にしか使っていません」
ペンダントを握りしめ、ビルは涙を拭う。
「私と同じように魔力コントロールが出来ずに苦しんでいる子供たちのために職人になりたいんです。私は10年間、この鉱石の浄化の練習をしているんです。」
10年というのは、職人が御業を会得するのにかかると言われている年月だ。
独学とはいえビルが自分の魔光石を割れることなく持ち続けている事実はある。
するとシグレが挙手をする。
「少しよろしいですかお嬢さん。その子供たちのために職人になりたいという話ですが、魔光石は希少な鉱石です。子供たちの手に渡ることはまず無いと思いますよ。財のある家の子供ならまだしも」
ビルは首を横に振る。
「分かっています。魔光石とは別に、吸収することしか出来ない魔守石という石があります。それは魔法を取り出せないので、盾につけて魔法を防御するときに使われているものです。しかしその石は魔光石と違って最初の加工が難しい。それゆえにどこの山でも取れるものなのに出回っている数はとても少ない。私はこの魔守石も魔光石と同じ浄化のやり方で加工と浄化ができます。」
そう言うとシグレの耳がぴこっ、と揺れる。
「加工と浄化、両方できるんですか」
「は、はい、できます」
ビルが答えるとシグレはにこっと微笑んで私の腕を引いた。
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