【完結】異世界転移した私がドラゴンの魔女と呼ばれるまでの話

yuzuku

文字の大きさ
上 下
40 / 169
泉の谷

交渉人

しおりを挟む
私は交渉人が外から戻ってくるとアワン族長に教えてもらい会うことになった。
今回もしも、白銀の国との仕事が決まれば交渉をすることになるエルフらしい。
アワン族長の家で待っているとそこにはビルが来た。
「あれ?ビルさんも交渉人の方に用事ですか」
「用事、というか本当なら私も一緒に行かなきゃいけなかったんです」
ビルは伏し目がちにそう言ったが、ということはつまり。
「ビルさんのお仕事って、交渉人だったんですか!」
「はい…すみません、言ってませんでしたねすみません」
「いえそれは全然。」
確かに人見知りとか言ってたな。
そこにアワン族長と一人の美少女が入ってきた。
ビルに似ているが、また種類の違う美人だ。
ビルが儚げ美人なら、この子は男勝りな美人ってところか。
「お兄ちゃんおかえり…」
私はビルの言葉に驚いて二度見した。
「え、お兄ちゃん?」
そのビルの兄だと言う人はビルの元へ真っ直ぐ行くと頭を撫でる。
「ただいま、体調平気か」
「え、うん、あのごめんなさい。仕事、休んじゃって」
「気にすんな、俺の手腕で丸め込んできたから」
そう言うとくるりと振り返り私をじっと見た。
「あんたが闇魔法の人?」
そう言った瞬間アワン族長が杖で頭をコツンと殴った。
「これトゥア!!挨拶が先じゃろうがこの馬鹿孫!」
「痛ってぇなババア、これからすんだよ!!」
トゥアは私をまじまじと見ると軽く頭を下げた。
「交渉人のトゥア、ビルの兄。あんた案外フツーだな」
「これトゥア!!」
「痛いっての!ドラゴンと旅してるだの、精霊様と喋れるだの聞いたからもっとかっけぇ人想像してたんだよ!」
トゥアは頭をさすっている。
「えと、リビです。普通の人です」
「ふーん、精霊様ってどんな感じだった?」
美しい顔面からハスキーなボイスが聞こえてくる。
いや、これはこれで似合うな。
「精霊様は皆と遊びたいし、賑やかな方が好きらしいです」
「それは俺も思ってたわ。帰ろうとすると寂しそうにするもんな。決まりがあったから遊んだことはねぇけど。よし、行こうぜ」
トゥアは突然私の腕を引っ張りこの家を出ようとする。
「トゥア、どこ行くんじゃ!」
「精霊様と遊んでやるんだよ、ご要望は叶えてやらねぇとな。リビは通訳として借りるわ」
「トゥア、精霊様にもリビにも失礼なことは!」
「分かってるっつーの!」



そうして泉に向かうなかトゥアは腕を離してくれない。
「あの、逃げないんで離してもらっても」
「ここらへん足元不安定なんだよ、ビルがよく転ぶんだ」
なるほど、お兄ちゃんらしい一面がある。
手を引かれながら私は、身長があまり変わらないことに気づく。
今までヴィントさんやフブキさん、ヒサメ様、そしてシグレさんが高身長男性だったため新鮮だ。
「…まだ成長期だ」
「え」
「ちっせぇ、って顔してんだろ。顔色をうかがう交渉人なめんなよ」
むすっ、としてしまったので私は慌てて謝る。
「すみません、成長期ってことは若いんですね」
「俺もビルも正真正銘17。まだまだ伸びるわ」
「ビルさん、連れてこなくて良かったんですか」
トゥアの足が止まり、ようやく手を離した。
「それじゃあ、連れ出した意味ねぇだろ」
トゥアが手を叩くと泉の中から精霊様が顔を出した。
「精霊様、いつもありがとうございます」
『トゥアおかえりー。リビやっほー』
ヒレを振りながら精霊様は近づいてくる。
「精霊様はトゥアさんにおかえりって言ってます」
「へぇ、精霊様は俺の仕事もちゃんと知ってくれてるわけね。ただいまです」
トゥアは精霊様と握手すると私に向き直る。
「ビルは度々この泉に来て精霊様に相談してる。本人は隠れて来てたみたいだがバレバレなんだよ。俺はその相談内容を知りたい。だから翻訳してくれ」
『ビルに直接聞けばいいじゃん、お兄ちゃんなんだから』
「と、精霊様は言ってますが」
トゥアはため息をつくとその場にあぐらをかいた。
「言うわけねぇだろ、ビルだぞ」
『たしかにそれもそうだね』
精霊様は激しく頷いている。
『ビルの悩みはだいたい仕事だよー。人と喋るの苦手なんだって』
それを翻訳して伝えればトゥアは頭をがしがしと乱す。
「そんなこと知ってる。だからいつもビルにはいるだけでいいって言ってる。喋りは俺がなんとかしてるし、あいつは黙ってたって商売人がこっちに有利になるような魅力があるんだからな」

「…ブラコン、ですか?美人なのは分かりますけど」

「そういう意味じゃねぇよ。あいつの持ってる魔力が魅了する力があるってこと。魔力には光属性と闇属性以外の付加価値が付くことがあんだよ。知らねぇの?」
ああ、また知らない情報が増えていく。
私は首を横に振る。
「あいつの魔力は周りを魅了する力があって、それと同時にあの顔面だろ?だからこの谷の連中は交渉人に最適だってビルを推した。俺は人見知りのビルを補助するために交渉人をやってる」
「…お母様も、それを望んだんですか」
「なに、なんか聞いたの?母さんはビルが交渉人に選ばれたことにかなり喜んではいたな。ビルは友達作るのも下手だし、引きこもりがちで、そんな時に交渉人に選ばれたから何かのきっかけになればいいと思ったんじゃねぇかな。仕事のためにこの泉の谷から出るだけでもビルにとってはかなりの勇気だ。だから、働きに出るビルを嬉しそうに見送ってた」
ビルさんはそんなお母様のことを思うと仕事をやめられないのかもしれない。
「俺はビルが何か言いたいのを我慢してるって分かってるんだ。それが分かんねぇから精霊様に聞こうとしたんだよ」
『教えてもいいけど、それって意味あるのかな?』
「…どういう意味」
『ビルの言いたいことをボクから聞いたからって現状何か変わるとは思えないってこと。ビルが変わろうとして、ビルがトゥアに言うって決めないと駄目じゃない?』
「うわ、まともなこと言うじゃん。精霊様ってそんな感じなんだ」
私も思ったよ、見た目イルカなのにね。
『もうちょっと待ってみたら?今まさにこの泉の谷に変化が起こってるじゃん。ビルも心境に変化があるかもよ』
「変化?」
『リビ達が来たことによって何もかも変わっていく。変わらなかった日常が変わり始めているんだよ。ボクがトゥアと話せているのがその証拠。変化は連鎖していくものなんだ』 
ゆらゆらと泳ぐ精霊様にトゥアは複雑な表情を浮かべてる。
「リビ、精霊様の言葉に従うのは合ってると思うか?疑う訳じゃねえけど、あの可愛い見た目で言われるとなんか腹立つな」
「まぁ、私達より長生きしてるはずなので言ってることはあながち間違いでもないのではと思います」
「…そうかよ」
トゥアは立ち上がると泉に背を向ける。
「帰るんですか」
「とりあえずはビルが話すのを待つ。俺に言うか分かんねぇけど、ここで精霊様に聞いたところで駄目な気がしてきた。ありがとうございました、精霊様」
私も精霊様にお辞儀をしてトゥアを追いかける。
『次来るときはボールで遊ぼうよ!』
「って、言ってますよ」
「はいはい、俺が忙しくないときに持ってきますよ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】魔女を求めて今日も彼らはやって来る。

まるねこ
ファンタジー
私の名前はエイシャ。私の腰から下は滑らかな青緑の鱗に覆われた蛇のような形をしており、人間たちの目には化け物のように映るようだ。神話に出てくるエキドナは私の祖母だ。 私が住むのは魔女エキドナが住む森と呼ばれている森の中。 昼間でも薄暗い森には多くの魔物が闊歩している。細い一本道を辿って歩いていくと、森の中心は小高い丘になっており、小さな木の家を見つけることが出来る。 魔女に会いたいと思わない限り森に入ることが出来ないし、無理にでも入ってしまえば、道は消え、迷いの森と化してしまう素敵な仕様になっている。 そんな危険を犯してまで森にやって来る人たちは魔女に頼り、願いを抱いてやってくる。 見目麗しい化け物に逢いに来るほどの願いを持つ人間たち。 さて、今回はどんな人間がくるのかしら? ※グロ表現も含まれています。読む方はご注意ください。 ダークファンタジーかも知れません…。 10/30ファンタジーにカテゴリ移動しました。 今流行りAIアプリで絵を作ってみました。 なろう小説、カクヨムにも投稿しています。 Copyright©︎2021-まるねこ

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます

時岡継美
ファンタジー
 初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。  侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。  しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?  他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。  誤字脱字報告ありがとうございます!

【完結】神スキル拡大解釈で底辺パーティから成り上がります!

まにゅまにゅ
ファンタジー
平均レベルの低い底辺パーティ『龍炎光牙《りゅうえんこうが》』はオーク一匹倒すのにも命懸けで注目もされていないどこにでもでもいる冒険者たちのチームだった。 そんなある日ようやく資金も貯まり、神殿でお金を払って恩恵《ギフト》を授かるとその恩恵《ギフト》スキルは『拡大解釈』というもの。 その効果は魔法やスキルの内容を拡大解釈し、別の効果を引き起こせる、という神スキルだった。その拡大解釈により色んなものを回復《ヒール》で治したり強化《ブースト》で獲得経験値を増やしたりととんでもない効果を発揮する! 底辺パーティ『龍炎光牙』の大躍進が始まる! 第16回ファンタジー大賞奨励賞受賞作です。

老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜

二階堂吉乃
ファンタジー
 瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。  白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。  後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。  人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話7話。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~

柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。 家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。 そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。 というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。 けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。 そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。 ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。 それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。 そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。 一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。 これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。 他サイトでも掲載中。

処理中です...