33 / 169
泉の谷
守り人への再挑戦
しおりを挟む
特訓を始めて20日が過ぎた頃。
私はソラとシグレと共に精霊の森に来ていた。
そろそろ魔力が上がって魔法に変化が出るだろうとシグレにお墨付きをもらい、森の行き止まりに立っている。
「守り人が現れるのも時間の問題なので、精霊の声が聞こえるか否かすぐに教えてくださいね」
シグレにそう言われて頷くと、耳を澄ます。
風に紛れて鈴の音が聞こえ、その音が次第に近づいてくる。
澄んだ鈴の音が森にこだまして、そうして耳元近くで声がした。
『ここに人間は入れない』
私はとっさに振り向いてシグレに合図する。
「声聞こえます!!」
「会話はできそうですか?」
「え、えと、あの、精霊様、私その」
言葉を考えていなかったせいでしどろもどろになりながら、なんとか文章にしてみる。
「あの、私は太陽の国に住んでいる者でして、そこにアイル先生というエルフと人間のハーフの方がいるんです。先生のお母様はこの泉の谷の出身なのですが、その娘のアイル先生はこの泉の谷へ入ることができますか?」
木々が風に揺れる音がして、私はそのままじっと返答を待った。
シグレは地面を警戒しつつ、ソラはすぐに飛べるように構えている。
『・・・・・・ならぬ』
長い沈黙の後の答えは無慈悲な短い返事だった。
何かの気配がする。
そう思ったのと同時、シグレも臨戦態勢に入る。
次の瞬間。
黒い大きな手が地面から伸び上がって、その影が3人を覆った。
この間の守り人とは比べ物にならないくらいの大きさで、そのまま掴まれたらまずい。
シグレはとっさにソラを抱きかかえて一気に加速した。
そのおかげで私は自分のことを考えるだけで済む。
「どうして人間は入れないんですか!?理由を教えてください!!」
黒いうねうねとしたその大きな手が迫ってくる。
「エルフの娘が入れないなんておかしいじゃないですか、彼女だってエルフでしょ!!」
捕まりそうになりながら、私はその黒い手をなんとか躱す。
あれ、もしかしてシグレさんとの訓練がこんなところで役に立っている?!
「母親の故郷を見たいって思うのも、この泉の谷の決まりに反するんですか!?」
私の叫びに黒い手が一瞬ゆらゆらと迷った。
『・・・この谷にある植物は有毒だ。それゆえに、人間の血が混じるその子が無事でいられる保証はない。もちろん、人間の貴女もだ。帰りなさい』
黒い手が私の体を掴む寸前。
私はカバンから青い実を取り出して口に放り投げた。
「植物の毒が効かないなら、入れますか」
ルリビが一つ地面に転がって、その実を避けるように黒い手が下がっていく。
『・・・それならば長の判断に任せるとしよう。1週間後、エルフの娘を連れてきなさい』
「分かりました、ありがとうございます!」
鈴の音がだんだんと小さくなり、そして風の音だけになった。
精霊の森を出ると、ソラが走り寄ってきてジャンプして抱き着いた。
あ、腰がやばい。
「キュウキュウ!」
「大丈夫だよ、ちゃんと話してきたから」
シグレも駆け寄ってきて、頭を下げる。
「ソラさんを優先して申し訳ありません。貴女ならそろそろ避けられるかと思ったので」
「はい、なんとか避けられましたし、ソラを優先してもらったおかげで話を付けられましたよ。1週間後、アイル先生を連れてもう一度来て欲しいとのことなんですが、間に合うでしょうか」
「間に合いますよ、ソラさんがいれば」
ソラはうんうん、と頷いている。
「ソラ、アイル先生を迎えに行ってくれるの?」
「キュ!」
「ソラさんがいてくれて助かりました。私が担いでもいいのですが、多分嫌がられますから。私はソラさんの代わりにリビさんを守っておきますので」
「キュ!」
元気の良い返事をするソラに手紙を持たせて、私とシグレはソラを見送った。
「さて、リビさん。アイル先生が来るまでの間、特訓を再開しましょうか」
「え」
「せっかく伸びしろがあるのです、技術を磨かないと勿体ないでしょう?」
「・・・はい」
私は頷くことしか出来なかった。
私にとってシグレは今、魔法の先生だ。
鑑定士であり、戦闘センス抜群の先生に特訓をつけてもらえるこの素晴らしい環境を手放すなんて、そんな勿体ないことをするなんて。
そう自分に言い聞かせて、私は麻痺魔法を使うべく、手を構えたのだった。
私はソラとシグレと共に精霊の森に来ていた。
そろそろ魔力が上がって魔法に変化が出るだろうとシグレにお墨付きをもらい、森の行き止まりに立っている。
「守り人が現れるのも時間の問題なので、精霊の声が聞こえるか否かすぐに教えてくださいね」
シグレにそう言われて頷くと、耳を澄ます。
風に紛れて鈴の音が聞こえ、その音が次第に近づいてくる。
澄んだ鈴の音が森にこだまして、そうして耳元近くで声がした。
『ここに人間は入れない』
私はとっさに振り向いてシグレに合図する。
「声聞こえます!!」
「会話はできそうですか?」
「え、えと、あの、精霊様、私その」
言葉を考えていなかったせいでしどろもどろになりながら、なんとか文章にしてみる。
「あの、私は太陽の国に住んでいる者でして、そこにアイル先生というエルフと人間のハーフの方がいるんです。先生のお母様はこの泉の谷の出身なのですが、その娘のアイル先生はこの泉の谷へ入ることができますか?」
木々が風に揺れる音がして、私はそのままじっと返答を待った。
シグレは地面を警戒しつつ、ソラはすぐに飛べるように構えている。
『・・・・・・ならぬ』
長い沈黙の後の答えは無慈悲な短い返事だった。
何かの気配がする。
そう思ったのと同時、シグレも臨戦態勢に入る。
次の瞬間。
黒い大きな手が地面から伸び上がって、その影が3人を覆った。
この間の守り人とは比べ物にならないくらいの大きさで、そのまま掴まれたらまずい。
シグレはとっさにソラを抱きかかえて一気に加速した。
そのおかげで私は自分のことを考えるだけで済む。
「どうして人間は入れないんですか!?理由を教えてください!!」
黒いうねうねとしたその大きな手が迫ってくる。
「エルフの娘が入れないなんておかしいじゃないですか、彼女だってエルフでしょ!!」
捕まりそうになりながら、私はその黒い手をなんとか躱す。
あれ、もしかしてシグレさんとの訓練がこんなところで役に立っている?!
「母親の故郷を見たいって思うのも、この泉の谷の決まりに反するんですか!?」
私の叫びに黒い手が一瞬ゆらゆらと迷った。
『・・・この谷にある植物は有毒だ。それゆえに、人間の血が混じるその子が無事でいられる保証はない。もちろん、人間の貴女もだ。帰りなさい』
黒い手が私の体を掴む寸前。
私はカバンから青い実を取り出して口に放り投げた。
「植物の毒が効かないなら、入れますか」
ルリビが一つ地面に転がって、その実を避けるように黒い手が下がっていく。
『・・・それならば長の判断に任せるとしよう。1週間後、エルフの娘を連れてきなさい』
「分かりました、ありがとうございます!」
鈴の音がだんだんと小さくなり、そして風の音だけになった。
精霊の森を出ると、ソラが走り寄ってきてジャンプして抱き着いた。
あ、腰がやばい。
「キュウキュウ!」
「大丈夫だよ、ちゃんと話してきたから」
シグレも駆け寄ってきて、頭を下げる。
「ソラさんを優先して申し訳ありません。貴女ならそろそろ避けられるかと思ったので」
「はい、なんとか避けられましたし、ソラを優先してもらったおかげで話を付けられましたよ。1週間後、アイル先生を連れてもう一度来て欲しいとのことなんですが、間に合うでしょうか」
「間に合いますよ、ソラさんがいれば」
ソラはうんうん、と頷いている。
「ソラ、アイル先生を迎えに行ってくれるの?」
「キュ!」
「ソラさんがいてくれて助かりました。私が担いでもいいのですが、多分嫌がられますから。私はソラさんの代わりにリビさんを守っておきますので」
「キュ!」
元気の良い返事をするソラに手紙を持たせて、私とシグレはソラを見送った。
「さて、リビさん。アイル先生が来るまでの間、特訓を再開しましょうか」
「え」
「せっかく伸びしろがあるのです、技術を磨かないと勿体ないでしょう?」
「・・・はい」
私は頷くことしか出来なかった。
私にとってシグレは今、魔法の先生だ。
鑑定士であり、戦闘センス抜群の先生に特訓をつけてもらえるこの素晴らしい環境を手放すなんて、そんな勿体ないことをするなんて。
そう自分に言い聞かせて、私は麻痺魔法を使うべく、手を構えたのだった。
11
お気に入りに追加
90
あなたにおすすめの小説
【完結】魔女を求めて今日も彼らはやって来る。
まるねこ
ファンタジー
私の名前はエイシャ。私の腰から下は滑らかな青緑の鱗に覆われた蛇のような形をしており、人間たちの目には化け物のように映るようだ。神話に出てくるエキドナは私の祖母だ。
私が住むのは魔女エキドナが住む森と呼ばれている森の中。
昼間でも薄暗い森には多くの魔物が闊歩している。細い一本道を辿って歩いていくと、森の中心は小高い丘になっており、小さな木の家を見つけることが出来る。
魔女に会いたいと思わない限り森に入ることが出来ないし、無理にでも入ってしまえば、道は消え、迷いの森と化してしまう素敵な仕様になっている。
そんな危険を犯してまで森にやって来る人たちは魔女に頼り、願いを抱いてやってくる。
見目麗しい化け物に逢いに来るほどの願いを持つ人間たち。
さて、今回はどんな人間がくるのかしら?
※グロ表現も含まれています。読む方はご注意ください。
ダークファンタジーかも知れません…。
10/30ファンタジーにカテゴリ移動しました。
今流行りAIアプリで絵を作ってみました。
なろう小説、カクヨムにも投稿しています。
Copyright©︎2021-まるねこ
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜
二階堂吉乃
ファンタジー
瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。
白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。
後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。
人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話7話。
白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます
時岡継美
ファンタジー
初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。
侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。
しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?
他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。
誤字脱字報告ありがとうございます!
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!
珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。
3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。
高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。
これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!!
転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!
この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~
柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。
家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。
そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。
というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。
けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。
そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。
ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。
それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。
そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。
一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。
これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。
他サイトでも掲載中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる