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泉の谷
守り人への再挑戦
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特訓を始めて20日が過ぎた頃。
私はソラとシグレと共に精霊の森に来ていた。
そろそろ魔力が上がって魔法に変化が出るだろうとシグレにお墨付きをもらい、森の行き止まりに立っている。
「守り人が現れるのも時間の問題なので、精霊の声が聞こえるか否かすぐに教えてくださいね」
シグレにそう言われて頷くと、耳を澄ます。
風に紛れて鈴の音が聞こえ、その音が次第に近づいてくる。
澄んだ鈴の音が森にこだまして、そうして耳元近くで声がした。
『ここに人間は入れない』
私はとっさに振り向いてシグレに合図する。
「声聞こえます!!」
「会話はできそうですか?」
「え、えと、あの、精霊様、私その」
言葉を考えていなかったせいでしどろもどろになりながら、なんとか文章にしてみる。
「あの、私は太陽の国に住んでいる者でして、そこにアイル先生というエルフと人間のハーフの方がいるんです。先生のお母様はこの泉の谷の出身なのですが、その娘のアイル先生はこの泉の谷へ入ることができますか?」
木々が風に揺れる音がして、私はそのままじっと返答を待った。
シグレは地面を警戒しつつ、ソラはすぐに飛べるように構えている。
『・・・・・・ならぬ』
長い沈黙の後の答えは無慈悲な短い返事だった。
何かの気配がする。
そう思ったのと同時、シグレも臨戦態勢に入る。
次の瞬間。
黒い大きな手が地面から伸び上がって、その影が3人を覆った。
この間の守り人とは比べ物にならないくらいの大きさで、そのまま掴まれたらまずい。
シグレはとっさにソラを抱きかかえて一気に加速した。
そのおかげで私は自分のことを考えるだけで済む。
「どうして人間は入れないんですか!?理由を教えてください!!」
黒いうねうねとしたその大きな手が迫ってくる。
「エルフの娘が入れないなんておかしいじゃないですか、彼女だってエルフでしょ!!」
捕まりそうになりながら、私はその黒い手をなんとか躱す。
あれ、もしかしてシグレさんとの訓練がこんなところで役に立っている?!
「母親の故郷を見たいって思うのも、この泉の谷の決まりに反するんですか!?」
私の叫びに黒い手が一瞬ゆらゆらと迷った。
『・・・この谷にある植物は有毒だ。それゆえに、人間の血が混じるその子が無事でいられる保証はない。もちろん、人間の貴女もだ。帰りなさい』
黒い手が私の体を掴む寸前。
私はカバンから青い実を取り出して口に放り投げた。
「植物の毒が効かないなら、入れますか」
ルリビが一つ地面に転がって、その実を避けるように黒い手が下がっていく。
『・・・それならば長の判断に任せるとしよう。1週間後、エルフの娘を連れてきなさい』
「分かりました、ありがとうございます!」
鈴の音がだんだんと小さくなり、そして風の音だけになった。
精霊の森を出ると、ソラが走り寄ってきてジャンプして抱き着いた。
あ、腰がやばい。
「キュウキュウ!」
「大丈夫だよ、ちゃんと話してきたから」
シグレも駆け寄ってきて、頭を下げる。
「ソラさんを優先して申し訳ありません。貴女ならそろそろ避けられるかと思ったので」
「はい、なんとか避けられましたし、ソラを優先してもらったおかげで話を付けられましたよ。1週間後、アイル先生を連れてもう一度来て欲しいとのことなんですが、間に合うでしょうか」
「間に合いますよ、ソラさんがいれば」
ソラはうんうん、と頷いている。
「ソラ、アイル先生を迎えに行ってくれるの?」
「キュ!」
「ソラさんがいてくれて助かりました。私が担いでもいいのですが、多分嫌がられますから。私はソラさんの代わりにリビさんを守っておきますので」
「キュ!」
元気の良い返事をするソラに手紙を持たせて、私とシグレはソラを見送った。
「さて、リビさん。アイル先生が来るまでの間、特訓を再開しましょうか」
「え」
「せっかく伸びしろがあるのです、技術を磨かないと勿体ないでしょう?」
「・・・はい」
私は頷くことしか出来なかった。
私にとってシグレは今、魔法の先生だ。
鑑定士であり、戦闘センス抜群の先生に特訓をつけてもらえるこの素晴らしい環境を手放すなんて、そんな勿体ないことをするなんて。
そう自分に言い聞かせて、私は麻痺魔法を使うべく、手を構えたのだった。
私はソラとシグレと共に精霊の森に来ていた。
そろそろ魔力が上がって魔法に変化が出るだろうとシグレにお墨付きをもらい、森の行き止まりに立っている。
「守り人が現れるのも時間の問題なので、精霊の声が聞こえるか否かすぐに教えてくださいね」
シグレにそう言われて頷くと、耳を澄ます。
風に紛れて鈴の音が聞こえ、その音が次第に近づいてくる。
澄んだ鈴の音が森にこだまして、そうして耳元近くで声がした。
『ここに人間は入れない』
私はとっさに振り向いてシグレに合図する。
「声聞こえます!!」
「会話はできそうですか?」
「え、えと、あの、精霊様、私その」
言葉を考えていなかったせいでしどろもどろになりながら、なんとか文章にしてみる。
「あの、私は太陽の国に住んでいる者でして、そこにアイル先生というエルフと人間のハーフの方がいるんです。先生のお母様はこの泉の谷の出身なのですが、その娘のアイル先生はこの泉の谷へ入ることができますか?」
木々が風に揺れる音がして、私はそのままじっと返答を待った。
シグレは地面を警戒しつつ、ソラはすぐに飛べるように構えている。
『・・・・・・ならぬ』
長い沈黙の後の答えは無慈悲な短い返事だった。
何かの気配がする。
そう思ったのと同時、シグレも臨戦態勢に入る。
次の瞬間。
黒い大きな手が地面から伸び上がって、その影が3人を覆った。
この間の守り人とは比べ物にならないくらいの大きさで、そのまま掴まれたらまずい。
シグレはとっさにソラを抱きかかえて一気に加速した。
そのおかげで私は自分のことを考えるだけで済む。
「どうして人間は入れないんですか!?理由を教えてください!!」
黒いうねうねとしたその大きな手が迫ってくる。
「エルフの娘が入れないなんておかしいじゃないですか、彼女だってエルフでしょ!!」
捕まりそうになりながら、私はその黒い手をなんとか躱す。
あれ、もしかしてシグレさんとの訓練がこんなところで役に立っている?!
「母親の故郷を見たいって思うのも、この泉の谷の決まりに反するんですか!?」
私の叫びに黒い手が一瞬ゆらゆらと迷った。
『・・・この谷にある植物は有毒だ。それゆえに、人間の血が混じるその子が無事でいられる保証はない。もちろん、人間の貴女もだ。帰りなさい』
黒い手が私の体を掴む寸前。
私はカバンから青い実を取り出して口に放り投げた。
「植物の毒が効かないなら、入れますか」
ルリビが一つ地面に転がって、その実を避けるように黒い手が下がっていく。
『・・・それならば長の判断に任せるとしよう。1週間後、エルフの娘を連れてきなさい』
「分かりました、ありがとうございます!」
鈴の音がだんだんと小さくなり、そして風の音だけになった。
精霊の森を出ると、ソラが走り寄ってきてジャンプして抱き着いた。
あ、腰がやばい。
「キュウキュウ!」
「大丈夫だよ、ちゃんと話してきたから」
シグレも駆け寄ってきて、頭を下げる。
「ソラさんを優先して申し訳ありません。貴女ならそろそろ避けられるかと思ったので」
「はい、なんとか避けられましたし、ソラを優先してもらったおかげで話を付けられましたよ。1週間後、アイル先生を連れてもう一度来て欲しいとのことなんですが、間に合うでしょうか」
「間に合いますよ、ソラさんがいれば」
ソラはうんうん、と頷いている。
「ソラ、アイル先生を迎えに行ってくれるの?」
「キュ!」
「ソラさんがいてくれて助かりました。私が担いでもいいのですが、多分嫌がられますから。私はソラさんの代わりにリビさんを守っておきますので」
「キュ!」
元気の良い返事をするソラに手紙を持たせて、私とシグレはソラを見送った。
「さて、リビさん。アイル先生が来るまでの間、特訓を再開しましょうか」
「え」
「せっかく伸びしろがあるのです、技術を磨かないと勿体ないでしょう?」
「・・・はい」
私は頷くことしか出来なかった。
私にとってシグレは今、魔法の先生だ。
鑑定士であり、戦闘センス抜群の先生に特訓をつけてもらえるこの素晴らしい環境を手放すなんて、そんな勿体ないことをするなんて。
そう自分に言い聞かせて、私は麻痺魔法を使うべく、手を構えたのだった。
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