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泉の谷
闇属性の種族について
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泉の谷は宝石山よりは近いとはいえ距離がある。
道中小さな町を経由して、それから森に入り、精霊の森を通過することになるだろう。
精霊と会話できればの話だが。
アイルは馬に乗りそれなりに整備された道を順調に走っていく。
リビとソラはその上空を飛んでいる。
「リビ、聞いておきたいんだけどさ。白銀の国はどうだった?」
「どう、というのは?」
ソラは少し高度を下げてアイルと話しやすくしてくれてる。
ソラを撫でながら私はアイルの返事を待っていた。
「あたしが知っている白銀の国は排他的で、よそ者を受け入れず異端者を排除するそんな冷酷な国さ。狼の獣人のみが許されるその要塞の中の国に、入れる人間はほとんどいない。常に兵力を高めていて、先日の宝石山であったような力づくの強奪や、力にものを言わせた交渉をしている、そんな噂を聞いていた。けどさ、それは前の王の話になるわけだよね」
「そうですね、ヒサメ様は父親であるザラ王を殺し自らが王になった。前々から自分側の味方を増やしていたらしく機を伺っていたと聞いています」
アイルは複雑な表情をしていて、私もそんな顔をする気持ちが分かる。
「自分の親を殺したというのは本当だったんだね。ヒサメ様と会話する限りはどこにでもいる若者に見えたけど、見えているのは一部に過ぎないということさね。それはヒサメ様に限ったことじゃなく、あたしもリビも、ソラにも言えることさね」
ソラがうんうん、と頷いているが分かっているのだろうか。
「あたしは確かに白銀の国に良い印象を持っているわけじゃない。でも、ヒサメ様と話してみて可能性を見出しているのさ。ヒサメ様が今までの白銀の国を変えることができる男かもしれないってね。それは勝手な期待に過ぎないし、あたしの勘が正しいなんて思ってもいない。だからこそ、リビの見てきたことを知りたいんだ。白銀の国とヒサメ様、リビとしてはどう思う?」
アイル先生は広い視野を持っている。
この世界のことは私よりも詳しいはずなのに、私の考えを聞いてくれようとしてくれる先生を尊敬する。
「白銀の国の中はとても普通の町でした。商売をしている人がいて、買い物している家族がいて。遊んでいる子供たちと、その子供を見守る母親や父親がいる。ヒサメ様はそんな国民の人たちに愛されているように感じました。みんなヒサメ様に笑顔で挨拶をして、ヒサメ様も同じように挨拶するんです。外から見える黒い鉱石の要塞からは想像がつかないほど、平和な国でした」
そう、冷酷だと言われている白銀の国も、太陽の国で暮らす国民と何も変わらない。
「ヒサメ様は初対面は物凄く冷酷で怖い人だと思っていたんです。父親を殺していますし、宝石山にいた兵3人にも残虐性を見せていたし。でも、フブキさんのことを大切にしていたり、周りへの気遣いを見ていると印象は変わってきて。魔法について教えてくれる時も学校の先生みたいに分かりやすくて、国民がヒサメ様に親しみを抱く気持ちも分かりました。」
ザラ王を殺したのも、そうせざる負えない理由があったのではないか。
そう考えたくなるほどには、ヒサメ様を信用してきているということだ。
「そうかい、それならあたしの見出した可能性もあながち間違いでもないかもしれないさね!国を変えたいと願う若者の背中を押すのもあたしたち年長者の努めさね」
アイルはそう言って笑うと、町に入って休憩しようと指をさした。
小さな町とはいっても出店が並んでいたり、病院があったりととても充実している町だ。
大きな国と離れているほど、それぞれの町で生活が成り立つようになっているのだろう。
私たちは宿屋に宿泊することになり、その宿屋の食堂にいた。
サラダに唐揚げ、チャーハンがテーブルに並べられていく。
普段は植物ばかり食べているせいで、こんな食事は久々に思えた。
「いただきます!え、美味しい、なにこれ」
私が食事に感動するのがおかしかったのかアイルに笑われる。
「大袈裟だね、一体いつも食事はどうしてるんだい」
「魔法のために色んな植物を食べているんで、それが食事みたいになってて。基本的にソラと同じものを食べるので」
「キュ!」
返事をしたソラはサラダを食べている。やはり、草食らしい。
「よくそれで生きてこられたね。リビの魔法と何かしら関連があるのかもしれない。とはいえ、リビの魔法は謎も多い。使いながら新たな発見をするしかないさね」
そう言いながらアイルはガラスのコップに魔法で氷を入れる。
「あの、アイル先生はよく氷を魔法で作って飲み物に入れてますよね。氷がお好きなんですか?」
「え?ああ、まぁ好きだけどこれは癖さ。子供の時から魔力が強かったあたしは、魔力コントロールが難しくてね。それの練習として性質の変化を母が教えてくれたんだ。水を液体から個体に変化させるっていうのは水の温度を変化させるってことさね。”水を冷たくして氷を作ってみようか”って、母が遊びながら魔力コントロールの勉強をさせてくれたってわけさ。今でも手遊びの感覚で氷を作ってしまう。でも、手遊びになるくらいあたしにとって魔力コントロールが上手くなったってことさね」
氷の入ったグラスを揺らすアイルはとても懐かしい目をしている。
「リビの魔法は相手に付与したり、言語をお互いに理解できるようにするものだから、練習と言ってもなかなか難しいさね」
「そういえば私の魔法って現時点で二つあるってことになるんでしょうか」
「そうさね、そう捉えることもできるし、片方の魔法のための能力ともいえるかもしれない」
私が首を傾げるとアイルはノートを取り出して何かを書きだした。
「リビの魔法が植物の効果を相手に施す魔法とするなら、その相手が何を求めているのか知らなければならない。相手が誰であろうと救おうとするならば、ドラゴンも竜人も妖精も、言葉が理解できるというのは重要さ。リビの特殊言語は、そう言った意味では植物の付与に関連がないとも言えない。まぁ、もちろん。2つの魔法を所持しているというだけの話かもしれないけどね」
アイルの描く図はとても分かりやすく、特殊言語が片方の魔法の補助的な役割を示していることが書かれている。
「この世界における魔法の属性をざっくり分けるなら2つになるんだ。光属性と闇属性。光属性には自然魔法の5つと光魔法が含まれる。闇属性には闇魔法が含まれている。闇魔法っていっても、種類が数えきれないほどだけど、基本的に光属性以外は闇属性って分類がされていたんだ、ずっとね」
魔法の種類についてはヒサメも教えてくれたことだ。
自然魔法はたしか、水・風・土・雷・火、だったかな。
「それぞれ人は有効的な魔法が一つあって、あたしの場合は水魔法になる。火魔法を使おうとしても、コントロールができなくて弾けて消えてしまうし、火力も出ない。けれど、水魔法なら努力次第で技術を磨くことが出来る。限度はあっても可能性を広げることが出来るってわけさ」
ノートに次々に書き足される説明に私は頷きながら頭を整理する。
「けどね、有効的な魔法だとしても魔力量は人それぞれ大小さまざまさね。努力で増やせる魔力にも限界が決まっていて、それをコントロールの良し悪しで上手く使いこなしている人もいる。これは魔法に限ったことではないね」
人それぞれが有することができる器の大きさが違うのは当然だ。
その器に入る量だけを駆使して生きていくしかない。
「闇魔法の解明が進んでいないのは知っての通り、淘汰されていた時代があるからさね。得体のしれないものが怖いっていうのが人間で、闇魔法は珍しくて人と違うというそれだけで、恐怖の対象になってしまった。だから闇魔法の人間は魔法を隠すことでしか生きていけなかった」
太陽の国では闇魔法の差別を禁止しているけれど、それは数少ない国だと聞いている。
処刑こそされないとはいえ、嫌厭され差別される対象であることに変わりないということだ。
「一方で闇魔法が当たり前の国や一族がいる。白銀の国の狼獣人の一族や、清廉の海の人魚の一族、境界の都の悪魔の一族。他にもいるだろうけど、有名なのはここらへんさね」
「え、悪魔、ですか?」
「そうそう。この世界は上界と下界に分かれていて、下界が今あたしたちが暮らしているところ。上界が悪魔や天使が暮らすところさ」
淡々と説明するアイルに私はついていけない。
いや、妖精やドラゴンがいるんだから天使と悪魔も当然いるよね。
とは、ならない。
「悪魔や天使、というのはどういう種族なんですか」
「上界と下界は基本干渉できないからそんなに詳しい訳じゃないけど、上界に住む者は下界に住む者とはだいぶ異なった存在らしいのさね」
アイルはノートに更に書き足していく。
そこには黒い翼を持った人と白い翼を持った人を描いた。
「上界に住む者は、下界に住む者の魔力を糧として生きていくことができる存在とされているのさ」
「どういうことですか?」
「まず説明しておくと、感情と魔力は連動していて、負の感情が高まると一時的に魔力が高まるように魔力の性質自体も変化していると考えられている。だから喜びや楽しみの感情によっても性質が変化するのではないかと言われていてね」
ソラもうんうんと聞いているが分かっているのだろうか。
私はまだよく分かってない。
「魔法を使う時、魔力はもちろん魔法に使われる訳だけど100%全てが魔法に消費されず空気中にも分散される。その分散された魔力は上界の者の糧になるわけさ。正の感情による魔力は天使の糧に。負の感情による魔力は悪魔の生きていく糧になる。と言われているね」
「あの、それってこの世界では常識なんですか」
「そうさね、まだ研究途中とはいえ上界に2つの種族がいることは昔から知られていることさ。というのもね、基本干渉できないとはいえ、それは上界と下界の間にルールがあるからで、それを全員が守っている訳じゃない。というのがみそさね」
ルールを守らないやつはどこにでもいる、ということだ。
「ある儀式を通して自分の魔力と引き換えに上界と交渉しようとする人間がいるのさ。天使はめったに人間の交渉には応じないけど、悪魔は違う。面白そうなことなら手を貸してしまう悪魔は、下界の者よりも強い魔法を使うから願い次第では大変なことに成りかねない。まぁ、大抵は願いと本人の魔力が釣り合わず儀式は失敗に終わるんだろうけどね」
「ある儀式っていうのはどんなのなんですか?」
質問をしてみるとアイルはにこっと微笑んだ。
「知ってる人間は少ないに越したことはない。悪魔に願うなんて大抵は良くないことさ。リビが悪魔と交渉する日は来ない。だから内緒さ」
そう言われてしまえば儀式についてはこれ以上追究出来そうにない。
しかし、何故アイル先生は儀式を知ってるんだ?
その時ソラが挙手をした。
「キュキュ!」
「はい、ソラ、なにかな?」
「ソラは上界に飛んでいけるか聞いてます」
「あはは、なるほど確かに上界は空にある。でも、天使と悪魔の翼は特殊なんだって。それがないと上界に入れないという話さ」
ソラは、そうなんだー、と言いながら果物を頬張っている。
「上界についてもっと知りたければ図書館に行ってみるといいよ。現段階まで分かっていることや研究者の考察なんかも見れるだろうさ。太陽の国は大きな国だしね」
「そうですね、行ってみます。アイル先生は医療だけではなく色んなことに詳しいんですね。」
「長く生きてる分、余計なことを知る機会もあるってだけさ。この知識がリビの助けになるならいくらでも話すよ」
アイルはそう言うとデザートを私の前に差し出した。
「自然界にこんな甘味はないだろう?食べられる時に食べておかないとね」
食べられる時に。
そんな言葉が身に沁みている私はしっかりと食堂のご飯を堪能した。
道中小さな町を経由して、それから森に入り、精霊の森を通過することになるだろう。
精霊と会話できればの話だが。
アイルは馬に乗りそれなりに整備された道を順調に走っていく。
リビとソラはその上空を飛んでいる。
「リビ、聞いておきたいんだけどさ。白銀の国はどうだった?」
「どう、というのは?」
ソラは少し高度を下げてアイルと話しやすくしてくれてる。
ソラを撫でながら私はアイルの返事を待っていた。
「あたしが知っている白銀の国は排他的で、よそ者を受け入れず異端者を排除するそんな冷酷な国さ。狼の獣人のみが許されるその要塞の中の国に、入れる人間はほとんどいない。常に兵力を高めていて、先日の宝石山であったような力づくの強奪や、力にものを言わせた交渉をしている、そんな噂を聞いていた。けどさ、それは前の王の話になるわけだよね」
「そうですね、ヒサメ様は父親であるザラ王を殺し自らが王になった。前々から自分側の味方を増やしていたらしく機を伺っていたと聞いています」
アイルは複雑な表情をしていて、私もそんな顔をする気持ちが分かる。
「自分の親を殺したというのは本当だったんだね。ヒサメ様と会話する限りはどこにでもいる若者に見えたけど、見えているのは一部に過ぎないということさね。それはヒサメ様に限ったことじゃなく、あたしもリビも、ソラにも言えることさね」
ソラがうんうん、と頷いているが分かっているのだろうか。
「あたしは確かに白銀の国に良い印象を持っているわけじゃない。でも、ヒサメ様と話してみて可能性を見出しているのさ。ヒサメ様が今までの白銀の国を変えることができる男かもしれないってね。それは勝手な期待に過ぎないし、あたしの勘が正しいなんて思ってもいない。だからこそ、リビの見てきたことを知りたいんだ。白銀の国とヒサメ様、リビとしてはどう思う?」
アイル先生は広い視野を持っている。
この世界のことは私よりも詳しいはずなのに、私の考えを聞いてくれようとしてくれる先生を尊敬する。
「白銀の国の中はとても普通の町でした。商売をしている人がいて、買い物している家族がいて。遊んでいる子供たちと、その子供を見守る母親や父親がいる。ヒサメ様はそんな国民の人たちに愛されているように感じました。みんなヒサメ様に笑顔で挨拶をして、ヒサメ様も同じように挨拶するんです。外から見える黒い鉱石の要塞からは想像がつかないほど、平和な国でした」
そう、冷酷だと言われている白銀の国も、太陽の国で暮らす国民と何も変わらない。
「ヒサメ様は初対面は物凄く冷酷で怖い人だと思っていたんです。父親を殺していますし、宝石山にいた兵3人にも残虐性を見せていたし。でも、フブキさんのことを大切にしていたり、周りへの気遣いを見ていると印象は変わってきて。魔法について教えてくれる時も学校の先生みたいに分かりやすくて、国民がヒサメ様に親しみを抱く気持ちも分かりました。」
ザラ王を殺したのも、そうせざる負えない理由があったのではないか。
そう考えたくなるほどには、ヒサメ様を信用してきているということだ。
「そうかい、それならあたしの見出した可能性もあながち間違いでもないかもしれないさね!国を変えたいと願う若者の背中を押すのもあたしたち年長者の努めさね」
アイルはそう言って笑うと、町に入って休憩しようと指をさした。
小さな町とはいっても出店が並んでいたり、病院があったりととても充実している町だ。
大きな国と離れているほど、それぞれの町で生活が成り立つようになっているのだろう。
私たちは宿屋に宿泊することになり、その宿屋の食堂にいた。
サラダに唐揚げ、チャーハンがテーブルに並べられていく。
普段は植物ばかり食べているせいで、こんな食事は久々に思えた。
「いただきます!え、美味しい、なにこれ」
私が食事に感動するのがおかしかったのかアイルに笑われる。
「大袈裟だね、一体いつも食事はどうしてるんだい」
「魔法のために色んな植物を食べているんで、それが食事みたいになってて。基本的にソラと同じものを食べるので」
「キュ!」
返事をしたソラはサラダを食べている。やはり、草食らしい。
「よくそれで生きてこられたね。リビの魔法と何かしら関連があるのかもしれない。とはいえ、リビの魔法は謎も多い。使いながら新たな発見をするしかないさね」
そう言いながらアイルはガラスのコップに魔法で氷を入れる。
「あの、アイル先生はよく氷を魔法で作って飲み物に入れてますよね。氷がお好きなんですか?」
「え?ああ、まぁ好きだけどこれは癖さ。子供の時から魔力が強かったあたしは、魔力コントロールが難しくてね。それの練習として性質の変化を母が教えてくれたんだ。水を液体から個体に変化させるっていうのは水の温度を変化させるってことさね。”水を冷たくして氷を作ってみようか”って、母が遊びながら魔力コントロールの勉強をさせてくれたってわけさ。今でも手遊びの感覚で氷を作ってしまう。でも、手遊びになるくらいあたしにとって魔力コントロールが上手くなったってことさね」
氷の入ったグラスを揺らすアイルはとても懐かしい目をしている。
「リビの魔法は相手に付与したり、言語をお互いに理解できるようにするものだから、練習と言ってもなかなか難しいさね」
「そういえば私の魔法って現時点で二つあるってことになるんでしょうか」
「そうさね、そう捉えることもできるし、片方の魔法のための能力ともいえるかもしれない」
私が首を傾げるとアイルはノートを取り出して何かを書きだした。
「リビの魔法が植物の効果を相手に施す魔法とするなら、その相手が何を求めているのか知らなければならない。相手が誰であろうと救おうとするならば、ドラゴンも竜人も妖精も、言葉が理解できるというのは重要さ。リビの特殊言語は、そう言った意味では植物の付与に関連がないとも言えない。まぁ、もちろん。2つの魔法を所持しているというだけの話かもしれないけどね」
アイルの描く図はとても分かりやすく、特殊言語が片方の魔法の補助的な役割を示していることが書かれている。
「この世界における魔法の属性をざっくり分けるなら2つになるんだ。光属性と闇属性。光属性には自然魔法の5つと光魔法が含まれる。闇属性には闇魔法が含まれている。闇魔法っていっても、種類が数えきれないほどだけど、基本的に光属性以外は闇属性って分類がされていたんだ、ずっとね」
魔法の種類についてはヒサメも教えてくれたことだ。
自然魔法はたしか、水・風・土・雷・火、だったかな。
「それぞれ人は有効的な魔法が一つあって、あたしの場合は水魔法になる。火魔法を使おうとしても、コントロールができなくて弾けて消えてしまうし、火力も出ない。けれど、水魔法なら努力次第で技術を磨くことが出来る。限度はあっても可能性を広げることが出来るってわけさ」
ノートに次々に書き足される説明に私は頷きながら頭を整理する。
「けどね、有効的な魔法だとしても魔力量は人それぞれ大小さまざまさね。努力で増やせる魔力にも限界が決まっていて、それをコントロールの良し悪しで上手く使いこなしている人もいる。これは魔法に限ったことではないね」
人それぞれが有することができる器の大きさが違うのは当然だ。
その器に入る量だけを駆使して生きていくしかない。
「闇魔法の解明が進んでいないのは知っての通り、淘汰されていた時代があるからさね。得体のしれないものが怖いっていうのが人間で、闇魔法は珍しくて人と違うというそれだけで、恐怖の対象になってしまった。だから闇魔法の人間は魔法を隠すことでしか生きていけなかった」
太陽の国では闇魔法の差別を禁止しているけれど、それは数少ない国だと聞いている。
処刑こそされないとはいえ、嫌厭され差別される対象であることに変わりないということだ。
「一方で闇魔法が当たり前の国や一族がいる。白銀の国の狼獣人の一族や、清廉の海の人魚の一族、境界の都の悪魔の一族。他にもいるだろうけど、有名なのはここらへんさね」
「え、悪魔、ですか?」
「そうそう。この世界は上界と下界に分かれていて、下界が今あたしたちが暮らしているところ。上界が悪魔や天使が暮らすところさ」
淡々と説明するアイルに私はついていけない。
いや、妖精やドラゴンがいるんだから天使と悪魔も当然いるよね。
とは、ならない。
「悪魔や天使、というのはどういう種族なんですか」
「上界と下界は基本干渉できないからそんなに詳しい訳じゃないけど、上界に住む者は下界に住む者とはだいぶ異なった存在らしいのさね」
アイルはノートに更に書き足していく。
そこには黒い翼を持った人と白い翼を持った人を描いた。
「上界に住む者は、下界に住む者の魔力を糧として生きていくことができる存在とされているのさ」
「どういうことですか?」
「まず説明しておくと、感情と魔力は連動していて、負の感情が高まると一時的に魔力が高まるように魔力の性質自体も変化していると考えられている。だから喜びや楽しみの感情によっても性質が変化するのではないかと言われていてね」
ソラもうんうんと聞いているが分かっているのだろうか。
私はまだよく分かってない。
「魔法を使う時、魔力はもちろん魔法に使われる訳だけど100%全てが魔法に消費されず空気中にも分散される。その分散された魔力は上界の者の糧になるわけさ。正の感情による魔力は天使の糧に。負の感情による魔力は悪魔の生きていく糧になる。と言われているね」
「あの、それってこの世界では常識なんですか」
「そうさね、まだ研究途中とはいえ上界に2つの種族がいることは昔から知られていることさ。というのもね、基本干渉できないとはいえ、それは上界と下界の間にルールがあるからで、それを全員が守っている訳じゃない。というのがみそさね」
ルールを守らないやつはどこにでもいる、ということだ。
「ある儀式を通して自分の魔力と引き換えに上界と交渉しようとする人間がいるのさ。天使はめったに人間の交渉には応じないけど、悪魔は違う。面白そうなことなら手を貸してしまう悪魔は、下界の者よりも強い魔法を使うから願い次第では大変なことに成りかねない。まぁ、大抵は願いと本人の魔力が釣り合わず儀式は失敗に終わるんだろうけどね」
「ある儀式っていうのはどんなのなんですか?」
質問をしてみるとアイルはにこっと微笑んだ。
「知ってる人間は少ないに越したことはない。悪魔に願うなんて大抵は良くないことさ。リビが悪魔と交渉する日は来ない。だから内緒さ」
そう言われてしまえば儀式についてはこれ以上追究出来そうにない。
しかし、何故アイル先生は儀式を知ってるんだ?
その時ソラが挙手をした。
「キュキュ!」
「はい、ソラ、なにかな?」
「ソラは上界に飛んでいけるか聞いてます」
「あはは、なるほど確かに上界は空にある。でも、天使と悪魔の翼は特殊なんだって。それがないと上界に入れないという話さ」
ソラは、そうなんだー、と言いながら果物を頬張っている。
「上界についてもっと知りたければ図書館に行ってみるといいよ。現段階まで分かっていることや研究者の考察なんかも見れるだろうさ。太陽の国は大きな国だしね」
「そうですね、行ってみます。アイル先生は医療だけではなく色んなことに詳しいんですね。」
「長く生きてる分、余計なことを知る機会もあるってだけさ。この知識がリビの助けになるならいくらでも話すよ」
アイルはそう言うとデザートを私の前に差し出した。
「自然界にこんな甘味はないだろう?食べられる時に食べておかないとね」
食べられる時に。
そんな言葉が身に沁みている私はしっかりと食堂のご飯を堪能した。
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