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太陽の国2
いざ、泉の谷へ
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「それではアイル殿、リビ殿。泉の谷の件は任せた。オレは国へ戻り、器の大きさを証明してみせる」
外に出ると準備運動を始めたヒサメはどうやら走って戻るようだ。
ふと顔を上げると、ヒサメは柔らかい口調で呼びかけた。
「フブキ」
「なんですか」
「オレと戻る気はないか」
「言ったでしょう、寒いから嫌です」
本当は戻れない理由なんて山ほどあるのに、フブキはそうやってヒサメを断るのだ。
ヒサメはポケットから黒い水晶を取り出すとフブキに押し付けた。
「魔力を送り込むと、同じ水晶も持つものと連絡できる。知ってるな?」
「知ってはいますけど、俺は水晶の送る信号なんて知りませんよ」
たしか、魔力を送ると光って、モールス信号のようにして連絡を取るんだっけ。
「別に文章を送れなんて言ってない。魔力を込めたら会いに行く。何をしていても、どんな時でも、オレはお前を一番に想っているよ」
それだけを言い残し、走り去っていくヒサメと呆れたように見送るフブキ。
それを、いつものことだなと見守る私とソラ。
それを初めて見たアイル先生。
「いやぁ、とても驚いたよ。情熱的っていうのはヒサメ様の方じゃないか」
そうして笑うアイルはリビの肩にぽんと手を置いた。
「リビ、ソラ、作戦会議しようか!」
フブキはまた用心棒の仕事を引き受けているらしく、またなと言って仕事に行ってしまった。
私とソラは泉の谷へ向かうための作戦会議のため、診療所の中に戻っていた。
「アイル先生、めまいの薬草が・・・っと、リビとソラじゃないか」
奥から出てきたのは、以前風上の村にいたソルムで、今はアイル先生の助手だ。
もともと薬草を育てる仕事をしていた彼は、今も畑を任されているそうだ。
「ソルム先生、めまいの薬草がどうしたって?」
「ああ、そうでした。めまいの薬草の乾燥が終わったので瓶詰しておこうかと」
「助かるよ、もちろん瓶詰のやり方はばっちりかな?」
「すりつぶして乾燥剤の花とともに保存、ですよね」
「完璧!ソルム先生ありがとうね」
「いえ、あの、それじゃぁまたな、リビ、ソラ」
診療所の二人の関係は良好らしく、リビとソラはソルムに手を振った。
「さて、リビ。一番の難所は森の入口な訳だけど、いける?」
アイルの言葉に私は頷けない。
「精霊がどういうものなのかよく分かっていないんです。それに、会ったこともないですし話せるかどうかも分かりません。迷いの森の妖精と話せたのも先日が初めてだったんです。どうやら、魔力が上がることによって話せる種族が増えているというのは分かるんですが」
私の言葉にアイルは腕を組んで悩みだす。
「それもそうだよね。リビは最初、ソラと話せるようになった。それから竜人族の親子の言葉もわかるようになった。その次が迷いの森の妖精だった。かといって、精霊の言葉も分かるようになっているかは不明だし、もしできないならどの程度の魔力を上げれば精霊と会話できるのか。分からないことだらけだよね」
うーん、と悩むアイルの隣で同じく悩む素振りを見せるソラ。
「そういえば、ソラは最初から妖精の言葉が分かったよね?精霊の言葉は分からないの?」
「キュウ・・・」
「ソラも精霊と話したことがないから分からないか。そうだよね」
うーんと唸る私たちは、結局のところ精霊と話してみないことに始まらないという結論に至った。
「一回行ってみよう。それでダメだったらまた考えるしかないさね!」
そうやって明るく言うアイル先生は、母親似なんだろうなとなんとなく思った。
「あたしは馬を借りていくけれど、リビはいつものようにソラに乗っていくよね?」
「はい、そのつもりです。ソラは今の大きさなら二人でも長距離を飛べると思いますが」
ソラの顔を見れば自信満々に頷いている。
「それは助かるけどやっぱりあたしは馬で行くよ。分かれて行動しなきゃいけなくなったときに、馬がいたほうが便利さね」
「分かりました。それにしても太陽の国は移動用の馬を借りることもできるんですね」
「魔獣と契約したりしていなければ、移動手段は馬が多いね。小さな町であっても馬を貸し出す商売をしている人がいるのが普通さ。子供のころから、馬に乗る練習をしたもんだよ」
そんな話を聞きながら、自転車に乗る練習をした子供のころを思い出す。
そのような感覚に近いのだろうか。
魔法があることで科学的発展が遅いのか、それともまだ私が知らないだけなのか。
どちらにせよ、どんな世界で生きるとしても適応が一番大切な気がする。
「そういえば馬は、乗ったことがないですね」
「そうなのかい?リビにはソラがいるから乗る機会はそうそう無いさね。でも、何かあった時のために乗れるようになっておくと便利かもしれないね」
数日後アイルが準備ができたというので診療所に行ってみた。
診療所の建物の前には馬が一頭繋がれていて、扉が開くと白衣ではないアイルが出てきた。
「そういえばアイル先生、診療所は空けても大丈夫なんですか」
「問題ないさね。ソルム先生もいるし、普段売れる薬は準備しておいたからイレギュラーな依頼がない限りはなんとかなるよ。王宮には他の医師もいるからね、どうしても私じゃなきゃいけない案件なんてないさ」
そう言ったアイルは軽やかに馬に乗った。
「さて、出発しようかね。馬の速度に合わせてもらうのは申し訳ないけど付き合っておくれ」
「いえ、ついてきて下さってありがとうございます!」
そうして私とソラとアイル先生は泉の谷へと出発した。
外に出ると準備運動を始めたヒサメはどうやら走って戻るようだ。
ふと顔を上げると、ヒサメは柔らかい口調で呼びかけた。
「フブキ」
「なんですか」
「オレと戻る気はないか」
「言ったでしょう、寒いから嫌です」
本当は戻れない理由なんて山ほどあるのに、フブキはそうやってヒサメを断るのだ。
ヒサメはポケットから黒い水晶を取り出すとフブキに押し付けた。
「魔力を送り込むと、同じ水晶も持つものと連絡できる。知ってるな?」
「知ってはいますけど、俺は水晶の送る信号なんて知りませんよ」
たしか、魔力を送ると光って、モールス信号のようにして連絡を取るんだっけ。
「別に文章を送れなんて言ってない。魔力を込めたら会いに行く。何をしていても、どんな時でも、オレはお前を一番に想っているよ」
それだけを言い残し、走り去っていくヒサメと呆れたように見送るフブキ。
それを、いつものことだなと見守る私とソラ。
それを初めて見たアイル先生。
「いやぁ、とても驚いたよ。情熱的っていうのはヒサメ様の方じゃないか」
そうして笑うアイルはリビの肩にぽんと手を置いた。
「リビ、ソラ、作戦会議しようか!」
フブキはまた用心棒の仕事を引き受けているらしく、またなと言って仕事に行ってしまった。
私とソラは泉の谷へ向かうための作戦会議のため、診療所の中に戻っていた。
「アイル先生、めまいの薬草が・・・っと、リビとソラじゃないか」
奥から出てきたのは、以前風上の村にいたソルムで、今はアイル先生の助手だ。
もともと薬草を育てる仕事をしていた彼は、今も畑を任されているそうだ。
「ソルム先生、めまいの薬草がどうしたって?」
「ああ、そうでした。めまいの薬草の乾燥が終わったので瓶詰しておこうかと」
「助かるよ、もちろん瓶詰のやり方はばっちりかな?」
「すりつぶして乾燥剤の花とともに保存、ですよね」
「完璧!ソルム先生ありがとうね」
「いえ、あの、それじゃぁまたな、リビ、ソラ」
診療所の二人の関係は良好らしく、リビとソラはソルムに手を振った。
「さて、リビ。一番の難所は森の入口な訳だけど、いける?」
アイルの言葉に私は頷けない。
「精霊がどういうものなのかよく分かっていないんです。それに、会ったこともないですし話せるかどうかも分かりません。迷いの森の妖精と話せたのも先日が初めてだったんです。どうやら、魔力が上がることによって話せる種族が増えているというのは分かるんですが」
私の言葉にアイルは腕を組んで悩みだす。
「それもそうだよね。リビは最初、ソラと話せるようになった。それから竜人族の親子の言葉もわかるようになった。その次が迷いの森の妖精だった。かといって、精霊の言葉も分かるようになっているかは不明だし、もしできないならどの程度の魔力を上げれば精霊と会話できるのか。分からないことだらけだよね」
うーん、と悩むアイルの隣で同じく悩む素振りを見せるソラ。
「そういえば、ソラは最初から妖精の言葉が分かったよね?精霊の言葉は分からないの?」
「キュウ・・・」
「ソラも精霊と話したことがないから分からないか。そうだよね」
うーんと唸る私たちは、結局のところ精霊と話してみないことに始まらないという結論に至った。
「一回行ってみよう。それでダメだったらまた考えるしかないさね!」
そうやって明るく言うアイル先生は、母親似なんだろうなとなんとなく思った。
「あたしは馬を借りていくけれど、リビはいつものようにソラに乗っていくよね?」
「はい、そのつもりです。ソラは今の大きさなら二人でも長距離を飛べると思いますが」
ソラの顔を見れば自信満々に頷いている。
「それは助かるけどやっぱりあたしは馬で行くよ。分かれて行動しなきゃいけなくなったときに、馬がいたほうが便利さね」
「分かりました。それにしても太陽の国は移動用の馬を借りることもできるんですね」
「魔獣と契約したりしていなければ、移動手段は馬が多いね。小さな町であっても馬を貸し出す商売をしている人がいるのが普通さ。子供のころから、馬に乗る練習をしたもんだよ」
そんな話を聞きながら、自転車に乗る練習をした子供のころを思い出す。
そのような感覚に近いのだろうか。
魔法があることで科学的発展が遅いのか、それともまだ私が知らないだけなのか。
どちらにせよ、どんな世界で生きるとしても適応が一番大切な気がする。
「そういえば馬は、乗ったことがないですね」
「そうなのかい?リビにはソラがいるから乗る機会はそうそう無いさね。でも、何かあった時のために乗れるようになっておくと便利かもしれないね」
数日後アイルが準備ができたというので診療所に行ってみた。
診療所の建物の前には馬が一頭繋がれていて、扉が開くと白衣ではないアイルが出てきた。
「そういえばアイル先生、診療所は空けても大丈夫なんですか」
「問題ないさね。ソルム先生もいるし、普段売れる薬は準備しておいたからイレギュラーな依頼がない限りはなんとかなるよ。王宮には他の医師もいるからね、どうしても私じゃなきゃいけない案件なんてないさ」
そう言ったアイルは軽やかに馬に乗った。
「さて、出発しようかね。馬の速度に合わせてもらうのは申し訳ないけど付き合っておくれ」
「いえ、ついてきて下さってありがとうございます!」
そうして私とソラとアイル先生は泉の谷へと出発した。
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