【完結】異世界転移した私がドラゴンの魔女と呼ばれるまでの話

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太陽の国2

アイルの家族

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太陽の国へ戻ると、そこには普段の服装に着替えたヒサメとフブキが待っていた。
「リビ殿、一応お別れを言おうと待っていた。オレは一度国へと戻る。あらゆる問題が山積みで会議を開かねばならんし、兵を呼び戻す必要もあるのでな」
「そうでしたね、国を囲う鉱石はどうするのですか」
ヒサメは腕を組んで考えを巡らせる。
「・・・鉱石を壊すのは現実的ではないとフブキが言うのでな。やはり、鉱石の浄化を試みるしかあるまい。かといって、浄化の技術は並大抵の者では会得できない代物らしい。技術者を集めるとして、人数は限られているだろうし、交渉も難航するだろうな」
「そんなに難しいんですね、鉱石の浄化って」
そんな私の言葉に答えるように背後から声がした。
「鉱石の浄化はね、水魔法の上位者が行える特殊な技術なのさ」
振り返るとそこにはいつもの白衣を着たアイルがいた。
アイルはヒサメにお辞儀をする。
「先ほどはわたくしの身内の葬儀に参列して頂きありがとうございます、ヒサメ様」
「かまわない。安らかであるように祈っている。ところで、鉱石の浄化について何か知っているようだが、伺うことは可能だろうか」
ヒサメの言葉にアイルは顔を上げた。
「お時間があるのでしたら、少し話をいたしましょう」


診療所に訪れた私とソラ、ヒサメとフブキはアイルの話を聞くことになった。
アイルが出してくれた薬草茶はとても苦い。
ソラも一口飲んで、そっと机に置いている。
「さて、まず結論から言うとあたしの母方の一族は鉱石の浄化を生業にしていたんです」
ヒサメの耳がぴんと立って、前のめりになる。
「ほう、詳しく聞きたい」
アイルは少し首を振ると頭を下げる。
「あたしは、母以外の一族の他の者に会ったことはありません。なので、ご紹介できるわけではないのです」
「鉱石の浄化を行える者がいるという確証があるだけでも進展だ。しかし、会ったことがないというのはどういうことだろうか」
「母は・・・母の一族はエルフなのです。そして、人間だった父は母との結婚を認めてもらえず、駆け落ちしたらしくて」
その場にいた誰もが驚いて、そして私も湯呑を落とすところだった。
エルフがどういう種族なのかは分からないが、アイル先生の見た目が若いのと何か関係があるのだろうか。
「駆け落ちとは、とても情熱的なお二人だな。最高だ」
ヒサメは何故か楽しそうだけど、そういう話が好きなのだろうか。
「どうでしょう、二人は駆け落ちして以来、一族との縁を完全に切っていて。それであたしも会ったことがないのです。でも母は、とても水魔法の上手い人でした。早くに病気で亡くなってしまったのですが」
そう言ったアイルは机の上にあった写真立てを見せてくれた。
子供のアイル先生と、そのご両親が写っている。
アイル先生のお母様は、アイル先生と同じ赤髪だ。
「母から聞いた話ですが、母の一族は泉の谷という場所に住んでいて滅多にその場所から出ないそうです。生業の鉱石の浄化も特定の人との取引だけで、決して泉の谷にエルフ以外は入れないそうです」
「狭き門といった感じだな。しかし、滅多に外に出ないならキミの母君はどのように父君に出会ったのだ?」
ヒサメは鉱石の話も気になるようだが、それと同じくらい二人のなれそめが気になるようだ。
ヒサメ様、恋愛ドラマ好きそうだな。
アイルは恥ずかしそうに頬を掻く。
「母は、子どもの時からやんちゃで大人に黙って泉の谷の外に遊びに行っていたらしいです。それは、成長しても変わらずで。もっといろんな国を見たいと言って外に飛び出して、そして、太陽の国で薬草を育てる父に会ったんです。母の水魔法は植物と相性が良くて、二人とも薬草の花が好きで意気投合したって聞いてます。それで、父を連れて泉の谷に入ってしまって・・・」
だんだんと声が小さくなるのは、これからの展開が悪いものだからだろう。
「母は、勝手に外に出たあげく人間の男に恋して、エルフ以外は入れないとされてる泉の谷に父を入れてしまった。あまつさえ母は、”この人と結婚しますんで!”と宣言して長老を気絶させたらしいです。”人間と結婚するならば二度と泉の谷には入れないと思え”そう言われた母は”わかりました、皆様さようなら!”と言って泉の谷を後にしたと・・・」
ドラマのようなその話に感心していると、ヒサメは満足そうに頷いた。
「かっこいい母君だ、己の故郷を捨ててまで共に歩みたい者がいるとは幸せだな」
「そう言って頂けるのはありがたいです。きっと、故郷にいるエルフたちはそうは言ってはくれないでしょう。エルフが泉の谷から出ないのは、その環境がエルフに適しているからなんです。美しい泉、それを囲う森はエルフに力を与えてくれる。免疫力を高めて、魔力の安定にもなる。だから、泉の谷にいれば、母は病気にかかることもなく100年以上生きられたかもしれません。エルフは珍しいですから、人間の国では正しく治療することが難しかったのでしょう。私が10歳のとき、母は亡くなりました。」
エルフは本来100年以上生きている種族なのか。
それならば、先生の見た目が若いのも頷ける。
「父は自分を責めていました。結婚しなければ母は泉の谷を追い出されなかったのにと。父は兄を失った悲しみを癒してくれた母をまた失って、毎晩のように隠れて泣いていました。でも、あたしの前ではいつも通り優しい父でした。それからあたしが大人になって、とあるものを渡されました」
アイルは引き出しから一枚の紙を取り出して机の上に置いた。

それを全員で覗き込むとそれは地図だった。

「泉の谷へ行くための地図です。父は母に連れて行かれて泉の谷へ行ったときの道順を正確に覚えていました。母の血が入ったあたしならば泉の谷へ入るのを許されると思ったのかもしれません。でもあたしは行けなかった。というより、森が入れてくれなかった」
「森が入れてくれない、というのは?」
「その一族ならば、森の言葉が分かるはずだった。でも、生まれた時から外の世界に住んでいたあたしには、森の言葉が分からなかったんです。でもリビ、あなたなら分かるかもしれないの」
「私ですか!?」
突然話を振られて驚いた。
フブキとヒサメも私のほうに注目していて、ソラもなんとなく私を見ている。
「リビは今、迷いの森の妖精と会話することが出来ている。泉の谷の森は精霊なの、だからリビなら可能性があると思う。森にさえ入ることが出来れば、泉の谷に入れる。彼らと交渉できる可能性が上がるでしょ」
「いや、でも人間は入っちゃいけないんですよね?交渉する前に追い出されませんか」
「あたしも一緒に行って説得するからさ。話だけでもできれば、交渉人を連れ出してヒサメ様と鉱石の話もできるはずです」
アイルの言葉にヒサメは真面目な表情をする。
「良いのかアイル殿。オレは白銀の国の王。今までの白銀の国の行いを知らぬわけではあるまい。ここまで話を伺っておいてなんだが、オレを信用する材料は揃っていないだろう」
「現段階では、泉の谷の話し合いさえ上手くいくか検討すらつきません。リビが精霊の言葉が分からなければ入ることさえままならない。それならば、全て同時進行でいきましょう」
「同時、とは」
アイルは余裕そうな笑みを浮かべると、湯呑に魔法で氷を入れた。
「エルフの交渉と、ヒサメ様が信用に値するような行動をすることです。ヒサメ様がそのような器ではないと分かった時点で鉱石の浄化の話はなかったことにします」
「それは分かりやすいな。承った」
ヒサメは立ち上がると、リビに頭を下げた。
私は驚いて椅子から落ちるところだった。
「協力して頂けるだろうか、リビ殿」
初めて会ったときは殺されそうになったというのに、えらい違いだ。
「精霊と話せるか分かりませんよ。それでも良ければ協力します」
ヒサメは私の手を取ってお礼を言い、アイルにも頭を下げたのだった。
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