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太陽の国2

騎士の葬儀と百合の花

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次の日の朝外に出てみると、ミゾレが建物の前で待っていた。
結構なお年寄りに見えるのだが、まさか白銀の国から走ってきたのだろうか。
涼し気な顔でお辞儀をしたミゾレは黒い制服を手渡してきた。
「ヒサメ様から頼まれた制服でございます。ジャケットとスラックスとなっておりますが裾が長ければお直し致しますので仰ってくださいね」
スーツのようなその制服には白銀の国の紋章である雪の結晶があしらわれており、肌触りの良い内側は寒い国の制服というのがよく分かる。
太陽の国は白銀の国ほど寒くはないが、今は気温が低い季節なので丁度いい。
それにしても、一目でどこの国か分かるこのデザインは大丈夫なのだろうか。
ただでさえ、ドラゴンを連れている闇魔法の人間だと有名なのに、白銀の国の制服を着ることでまた噂の的になったりしないだろうか。
そんなことが一瞬よぎったが、いまさら噂が増えたところで何も変わらないかと開き直った。


表に出てみればヒサメとフブキがすでに支度を終えており、ミゾレと共に待っていてくれた。
ヒサメは元から騎士のような服を着ていたが、今日はより整った格好をしている。
紋章の刺繍と小さな宝石のはまったカフスボタンが上品だ。
そしてフブキもいつもの動きやすい用心棒の格好とはうってかわって、騎士のような制服だ。
ヒサメと同じ場所に紋章の刺繍が入っており、壮麗な姿はとても似合っている。
だが、なんだかフブキは納得のいかない表情をしていた。
「ヒサメ様、フブキさんおはようございます」
「おはよう。服の大きさは問題ないようだな」
「はい、着心地もとてもいいです。ありがとうございます。ところで、フブキさんはどうしたんですか」
フブキはジャケットの襟を気にしながら、私の方を向いた。
「俺は葬儀に出るつもりはなかったんだが、ヒサメ様が無理やり服を着せてきてな」
「フブキはオレの右腕なのだから、一緒に出ないといけないだろう」
「右腕じゃないです」
「じゃあ何がいい。側近か、秘書か、相棒か」
ヒサメはそう言いながらフブキの襟のバッジを真っすぐに直す。
「お前がオレの傍にいるなら名称などなんでも良い」
「・・・勝手にしてください」
そんな二人のやりとりをよそに私はミゾレからリボンを受け取っていた。
「こちらはソラ殿にどうぞ。ドラゴン用の制服はありませんが、式典の際に使われている特注のリボンですので冠婚葬祭にふさわしいかと」
「ありがとうございます、ミゾレさん」
紋章の刺繍が入ったシルクのリボンをソラの首に結んでかける。
「キュ!!」
ソラも気に入ったようで、くるりと一回転してみせた。



太陽の国の騎士が一列に並び、その真ん中を棺が通っていく。
「安からかな眠りをお約束します」
そんな国王の言葉で棺は穴のあいた地面に埋められていく。
どうやらこの国は埋葬のようだ。
黙祷ののち、それぞれが献花して騎士全員が棺に敬礼した。

そうして、葬儀が終わった。

墓石には太陽の国の騎士の紋章が刻まれており、アイルはその文字を指でなぞっていた。
そうして、その墓には名前が刻まれていた。
ザハル、それが彼の名前だった。
アイルは振り返ると私に笑いかける。
その顔はなんだかすっきりとしていて肩の荷がおりたようだった。
「リビ、彼を連れてきてくれて本当にありがとう。迷いの森であったことを聞かせてくれる?」


私は迷いの森でツキから聞いたこと、湖の妖精が彼と過ごしたことについて話した。
アイルは黙って聞きながら頷いていた。
「あたしは彼とは会ったことがないんだ。生まれる前のことだったからね。でも、彼の顔が父にそっくりでね。それに、よく彼のことを聞かされてたから知っていた。兄は国の騎士だったってね。父はいつか彼が迷いの森から戻ってきてくれると思っていたんだ。迷いの森に入ったとしても、生還する人間がいたからね」
たしかにツキが助けた人間がいる例があるし、私も迷いの森から出た一人だ。
もしかしたら、他にも生還した人間がいて可能性は低くてもゼロではないというのが共通認識だったのかもしれない。
この国の王は、迷いの森に闇魔法の人間の処遇を決めさせていたのだ。
島流しのようなものだったのかもしれない。
「まさか彼が、植物でも妖精でもなく、人間に殺されていたなんてやりきれないね。もしかしたら彼は、生きて出られたかもしれないのになんて、今言ってもしょうがないけどさ」
アイルは遠い目をして、献花された花を見ていた。
「それでも、最後の瞬間誰かが一緒にいてくれて良かったと思うよ。その妖精にお礼を言ってくれないかい?」
アイルは献花を一輪取って私に預けた。



私はソラと共に迷いの森に入った。
湖の近くに空から降り立つと、湖の中から妖精が顔を出した。
『人間さん、もしかしてもう彼の家族が見つかったの?』
その言葉に頷いて、私は花を一輪差し出した。
「彼の家族が太陽の国にいたおかげで、すぐに報告に来られました。彼は太陽の国のお墓に埋葬されました。その献花を一輪あなたに渡すように、彼のご家族から」
妖精は花を抱きしめると魔法をかけた。
きっと彼にかけた魔法と同じ魔法。
「ご家族が、彼と一緒に居てくれてありがとうと、言っていました。彼、ザハルさんの姪にあたる人です」
そう言うと、湖の妖精は顔をあげて目を輝かせた。
『彼、ザハル、というの?ザハル、ザハル・・・とても素敵。これからは彼の名前を呼べるんだわ。これから先、ずっと名前を呟けるなんて素敵』
恋する乙女のようなその表情で妖精は微笑んだ。
『リビだったわよね、ありがとう。ザハルを助けてくれて』
「いえ、あの、名前言いましたっけ」
『ツキが教えてくれたわ。あの子、私に親近感があって助けてくれたのねきっと』
「親近感、ですか」
妖精は微笑むと花を見つめた。
『ねぇ、この花の名前、あなたの国の言葉でなんていうの』
「それは多分ユリですね」
『そう、それじゃぁ私はユリって名乗ろうかしら。ザハルがいつか、夢で呼んでくれるかもしれないから』
妖精は、ユリはそう言うとその白い花を持って湖に沈んでいった。
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