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太陽の国
新しい名前
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初めてのベッドの睡眠は懐かしくもあり違和感でもあった。
そのせいかは分からないが、朝早く起きてしまった私はドラゴンと共に外に出た。
外とは言っても王宮の庭で、かなりの広さがある。
色とりどりの花が咲いている中私は、あれは食べられるやつだなと考えながら歩いていた。
ふと、ドラゴンが花をパクリと食べてしまって慌てた。
「待って待って、ここ王宮の中だから!人んちの花だから!」
私は迷いの森で取っておいた果実を取り出してドラゴンにあげた。
「食べるならこっちにしよう、ね?」
「キュ!」
もぐもぐと食べるドラゴンの横で私も果実を口に放り込んだ。
「◆■◆◇◇◇!!」
突然聞こえたその声に驚いて振り返るとそこには片手に剣を持ったガタイの良い騎士らしき人が凄い形相でこちらに走ってきていた。
「なになになに!?」
「◆■◆◇◇◇!」
騎士は剣を地面に突き立て、私の口を開かせる。
え、なに、果実が気になるの?
私が持っていた残りの果実を見せると騎士は次第に青褪めて腕を引いて歩きだした。
連れてこられたのはどうやら王宮の医者のところらしく、申し訳ないことに朝っぱらからヒカルを呼び出すことになってしまった。
「すみませんヒカルさん。私はなんとも無いんですけど、騎士の人が」
ヒカルは果実を見て驚いて、医者と話をしている。
「この果実は毒があるんです、死んでしまいますよ普通なら!!」
ヒカルの話によるとこの果実は強い毒性を持っていて、一粒で致死量らしい。
私はこの一年何個食べたか覚えてない。
もちろん、ドラゴンには効かないらしい。
「どうやら、この果実のせいで名前を思い出せない可能性があるそうです。ですが、あなたの持つ魔力によって毒性が薄まっているのではないかということです」
その説明に騎士は深く安堵のため息をついた。
「あの、驚かせてすみませんでした」
騎士は首を横に振ると、颯爽と立ち去っていった。
「今の騎士さんは、ヴィントさんです。いつも寡黙な方で、剣の腕前はかなり優秀だと他の騎士の方に聞きました。どうやら朝練の最中にあなたを見かけたようですね」
なるほど、稽古の最中に毒の果実を食べるおかしな女を目撃してしまったというわけか、かわいそうに。
「ヒカルさんも本当にすみません。せめて、言葉が分かればこんなことにはならなかったんですが」
「いえ、全然いいのですが。でも、不便ですよね言葉が通じないと。そのあたりも含め王様に話してみましょう」
良い子だな。
ヒカルが町の人々に好かれる理由がよく分かる。
そんなヒカルに私はとあるお願いをした。
銀製のはさみ。
私は鏡の前に立ち、はさみをザクザクと入れていく。
剣で切るよりは整えられるはずだ。
「自分で切るんですか!?以前は美容師とかですか」
「いえ、やったことないです。でも、美容院に行くお金も無いですし」
「それは、王様に頼めば美容師さんが来てくれるんじゃ」
「そんなことまで頼る訳にはいかないので」
私がそう言うと、ヒカルははさみを取り上げた。
「じゃあ、せめて後ろは私が切ります。危ないので」
そうして出来上がった髪型はベリーショートでとても涼しくなった。
「いいんですか、こんなにバッサリと」
「短いほうが楽なので」
その髪型を見たドラゴンは少し驚いていたがすぐに慣れたようだった。
また大きな謁見室に呼び出され王様からとある提案を受けることになった。
ふと視線を感じて騎士の方を見ると、今朝お世話になったヴィントが立っていた。
軽く会釈をすると彼も小さく返してくれる。
王様の話はヒカルを通して分かりやすく伝えてくれた。
「貴女の籍をこの太陽の国に置かせていただければ個人の証明書を作ることができます。それがあれば他の国へ行っても入る手続きが簡単にできますし、個人の情報、医療や物を売買するときにも役立つでしょう。その代わり、年に一度更新するためにこの国に訪れ、光の加護の儀式をドラゴンに受けて頂きたいのです」
私はドラゴンに聞いてみる。
「この国で定期的に光の加護の儀式をしてほしいんだって」
「キュ?」
「何をすればいいの?って言ってます」
王様は首を振り、ドラゴンに笑顔を向ける。
「儀式はこちらで行うのでドラゴンの貴方には居てもらうだけでいいのです。ドラゴンが住処に選んでいるというだけで、この国の光の加護が強くなるということです」
なるほど、そんな効果があったのか。
私はずっと居るわけにはいかないけど。
ドラゴンが頷いたので王様は安堵の笑みを浮かべて、手続きをしましょうと小部屋に通された。
おそらく役所の人なのだろう眼鏡の男性が席を引いてくれた。
その男性は私を見ながら紙に何かを書いていく。
もちろん、文字は読めない言語だ。
ヒカルがその紙を見ながら説明してくれる。
「籍を置く国の名前や、魔法に関する情報が今書きこまれています。この方は鑑定士の方で見ただけで相手の魔力や状態異常が分かる人です。この国の役所のトップの人ですね」
ヒカルさん何でも知ってるな。
「登録には名前が必要だと言っています。お名前が思い出せない場合は自分で付けるしかありませんが、どうしますか」
私は改めて自分の名前を思い出そうとしてみた。
両親に呼ばれていたあのとき。
友達に呼ばれたあのとき。
まだ皆の顔は思い出せることに安堵したが、それでも名前は出てこなかった。
そうして何故かポケットの果実を取り出した。
「この果実の名前、なんですか」
「えっとですね、確か“ルリビ”だったと思います。名前をつけた方は綺麗な青い鳥と似ているから付けたのだと、授業で習いました」
「授業で魔法以外も教えてくれるんですね」
「食べては危険なものなので身を守るためにも授業になっているそうです。私は特にこの世界の植物も食べ物も分からないことだらけだったので、助かりました」
ヒカルも私と同じくこの世界のことは何も知らないという訳か。
違うのはスタート地点と言語。それから魔法。
たったそれだけなのに大きな大きな壁だな。
私はルリビを見つめながら、よし、と決めた。
「この果実から取って“リビ”という名前にします」
「いいんですか?毒がある果実からとって」
ヒカルは心配そうにしていたが、私は思ったのだ。
青い鳥を助けようとして死んだこと。
青い鳥にちなんで付けられた果実で名を失ったこと。
果たして偶然か必然かは分からないが、私には何か関係があるのかもしれない。
「ある意味似合う気がするので」
そう答えるとヒカルは分かりましたと頷いてくれた。
「では次にドラゴンさんも家族として登録しましょう。お名前はなんですか」
「あー、ないですね」
「え!?ずっと一緒にいたんですよね?」
私はそもそも、あの森を出たらドラゴンは帰るだろうと思っていたから名付けることはしなかった。
でも、これから共にいるなら名前は必要だ。
「貴方名前ある?」
そういえば、話せるようになってから一度も名前を聞いたことはなかった。
二人だけの生活の中、名前が無くても成り立っていたのだ。
ドラゴンも首を横に振り袖を引っ張った。
「キュ」
「つけていいの?何が良いかな」
もふもふの体、青い瞳、青いつばさ。白い角。
「ソラ」
「キュウ!」
なんとなく呼んでみたが存外しっくりきた。
こうして私の証明書が発行され、手元には硝子のように透明なカードが一枚。
「カードを裏返すと液晶パネルのようなものが出てきて、そこから色々な情報を確認できますよ。ゲームみたいですよね」
ヒカルの言った通り、カードを裏返すと空間にパネルが現れてそこには特殊言語という文字が見えた。
「そこは魔法の種類ですね、ドラゴンと会話できるからだと思います。このパネルはカードの所持者しか見れませんので失くさないように気をつけて下さいね」
そうして私はカードを持って図書館に来ていた。
なんと、このカードがあれば無料で閲覧可能という訳だありがたい。
さて、私が何故図書館に来たのかと言うと言語の勉強だ。
このままずっとヒカルに翻訳してもらう訳にはいかない。
そう思っていくつかの絵本をテーブルに持ってきたのだが、如何せん読み方が分からない。
スマホの翻訳機能欲しい。
日英辞書みたいなこの世界の辞書がほしい。
隣に座るドラゴンにも本を見せる。
「読める?」
「キュー」
「読めないよね、だよね」
そもそもの話、表記してある文字を理解できていない。
書いてある絵が植物であることは分かるが、この世界の植物であるため難しい。
迷いの森で見た植物ならば食べられることは分かるのだが、名前は理解する必要がなかったから知らないわけだ。
私は絵本をパラパラとめくり、とあるページで止まった。
青い果実、ルリビ。
子供に食べてはいけないと教えるならば絶対に載っていると思った。
これでルリビは読めるわけだが、規則性を見つけないと話にならない。
ひらがな、カタカナなどの表やABCなどの文字基準を取り敢えず学ぶ必要があるみたいだ。
絵本よりも先にそっちが必要だと本棚を探していると、ヒカルがとある人を連れてきた。
「こちらは私が通う学校の先生で、レビン先生です。この国の言語についての基礎を教えて頂けることになりました。ただ、リビさんはこの国に滞在することは出来ないのでほとんどは自分で学ぶことになります」
「ありがとうございます、助かります」
こうして私は文字の基礎、簡単な挨拶を教えてもらい今現在国の外にいた。
長時間太陽の国にいられない私は、じわじわと魔法の力を失っていく。
それを回復するには国の外に出るしかない。
魔法なんてと思ったが、魔力がなくなるということはソラと話せなくなるということなのだ。
唯一翻訳のいらないソラと話せなくなるのは避けたかった。
大通りから少し外れ、原っぱに座って文字の基礎の本を繰り返し読んでいる。
私の隣に座ってソラも一緒に本を眺めながら、言語を学んでいく。
「これは?」
「キュ!キュ!」
「うん、それはこんにちはだったよね。こっちは」
「キュウ!」
「さよならだっけ?おはようじゃなかった?」
そんなことを言っているとぽつり、と雨が降ってきた。
せっかく貰った本を濡らすわけにはいかないと、王宮から貰った鞄に本をしまい走り出す。
これから私はまた、魔力が回復するまでは太陽の国に戻るわけにはいかない。
この世界で生きていくために必要なのはまず、通貨だ。
野宿は慣れたものなのだが、せっかく貰った服も鞄も雨に濡れ続ければボロボロになってしまう。
出来れば宿を取りたいがそれにはお金が必要だ。
光魔法を持っていたヒカルはあらゆる援助を受けていたが、私はそういう訳にはいかない。
服も鞄も、学ぶための方法も教えてもらえた。
処刑もされなかった。
それだけでありがたいと思わなければ。
来る時代が違えば殺されていたかと思うとゾッとする。
走っているととても大きな木を見つけてその下に入った。
まるで神社にある樹齢千年の大木のような見た目の木は、緑の葉で生い茂っていて濡れずに済みそうだ。
雨宿りをしながら言語を繰り返し言って覚える。
私の言語にソラが日本語の意味を言って覚える。
言語が通じなければお金を稼ぐのも難しい。
そう思うと、より一層言語の勉強に力が入った。
太陽の国を出てからはまた、果実やキノコの生活に戻った。
むしろ、こっちのほうが手慣れたものだ。
しかし、問題はモンスターらしき生物が出るということだ。
迷いの森は妖精のような生き物の縄張りらしく、ほとんど生物を見ていない。
人魚らしき者にはあったが、聞くところによるとそれは湖の妖精だったらしいのだ。
だから、普通はモンスターのような生物がいることを今現在、身を持って体感している。
さて、その私はというと猪らしき大型の生物に追いかけられている。
隣で必死に走るソラを見て私は叫んでいた。
「ソラ飛べるよね!?!」
「キュ!?」
そうだった、と言わんばかりにソラは私を背に乗せて上に舞い上がった。
さすがの猪も空は飛べないらしくとぼとぼと諦める姿が見える。
「助かった、ありがとうね」
それにしても、私は戦う術がない。
モンスターと対峙したときに逃げるしかないというのはなんと心許ないことか。
もっと色々な情報が欲しかったが、私の魔法の相性が悪いばっかりに国にとどまれない。
戦える魔法があればいいのに。
そんな現実味のないことを考えてため息が出た。
こうなったら体を鍛えて剣の腕を磨くしかないのかな。
そんなことを素人の私が考えても無駄なことは百も承知。
しかし、このままではいずれモンスターに殺されるかもしれない。
何か見つけなければ。
魔法学校が存在するということは、魔法の使い方や強化が出来るということだ。
とはいえ、私に教えてくれる師はいない。
いや、待てよ。
魔法使ってる人いたな。
私はソラの背中をぽんぽんとすると行き先を告げた。
「迷いの森に行こう」
そのせいかは分からないが、朝早く起きてしまった私はドラゴンと共に外に出た。
外とは言っても王宮の庭で、かなりの広さがある。
色とりどりの花が咲いている中私は、あれは食べられるやつだなと考えながら歩いていた。
ふと、ドラゴンが花をパクリと食べてしまって慌てた。
「待って待って、ここ王宮の中だから!人んちの花だから!」
私は迷いの森で取っておいた果実を取り出してドラゴンにあげた。
「食べるならこっちにしよう、ね?」
「キュ!」
もぐもぐと食べるドラゴンの横で私も果実を口に放り込んだ。
「◆■◆◇◇◇!!」
突然聞こえたその声に驚いて振り返るとそこには片手に剣を持ったガタイの良い騎士らしき人が凄い形相でこちらに走ってきていた。
「なになになに!?」
「◆■◆◇◇◇!」
騎士は剣を地面に突き立て、私の口を開かせる。
え、なに、果実が気になるの?
私が持っていた残りの果実を見せると騎士は次第に青褪めて腕を引いて歩きだした。
連れてこられたのはどうやら王宮の医者のところらしく、申し訳ないことに朝っぱらからヒカルを呼び出すことになってしまった。
「すみませんヒカルさん。私はなんとも無いんですけど、騎士の人が」
ヒカルは果実を見て驚いて、医者と話をしている。
「この果実は毒があるんです、死んでしまいますよ普通なら!!」
ヒカルの話によるとこの果実は強い毒性を持っていて、一粒で致死量らしい。
私はこの一年何個食べたか覚えてない。
もちろん、ドラゴンには効かないらしい。
「どうやら、この果実のせいで名前を思い出せない可能性があるそうです。ですが、あなたの持つ魔力によって毒性が薄まっているのではないかということです」
その説明に騎士は深く安堵のため息をついた。
「あの、驚かせてすみませんでした」
騎士は首を横に振ると、颯爽と立ち去っていった。
「今の騎士さんは、ヴィントさんです。いつも寡黙な方で、剣の腕前はかなり優秀だと他の騎士の方に聞きました。どうやら朝練の最中にあなたを見かけたようですね」
なるほど、稽古の最中に毒の果実を食べるおかしな女を目撃してしまったというわけか、かわいそうに。
「ヒカルさんも本当にすみません。せめて、言葉が分かればこんなことにはならなかったんですが」
「いえ、全然いいのですが。でも、不便ですよね言葉が通じないと。そのあたりも含め王様に話してみましょう」
良い子だな。
ヒカルが町の人々に好かれる理由がよく分かる。
そんなヒカルに私はとあるお願いをした。
銀製のはさみ。
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剣で切るよりは整えられるはずだ。
「自分で切るんですか!?以前は美容師とかですか」
「いえ、やったことないです。でも、美容院に行くお金も無いですし」
「それは、王様に頼めば美容師さんが来てくれるんじゃ」
「そんなことまで頼る訳にはいかないので」
私がそう言うと、ヒカルははさみを取り上げた。
「じゃあ、せめて後ろは私が切ります。危ないので」
そうして出来上がった髪型はベリーショートでとても涼しくなった。
「いいんですか、こんなにバッサリと」
「短いほうが楽なので」
その髪型を見たドラゴンは少し驚いていたがすぐに慣れたようだった。
また大きな謁見室に呼び出され王様からとある提案を受けることになった。
ふと視線を感じて騎士の方を見ると、今朝お世話になったヴィントが立っていた。
軽く会釈をすると彼も小さく返してくれる。
王様の話はヒカルを通して分かりやすく伝えてくれた。
「貴女の籍をこの太陽の国に置かせていただければ個人の証明書を作ることができます。それがあれば他の国へ行っても入る手続きが簡単にできますし、個人の情報、医療や物を売買するときにも役立つでしょう。その代わり、年に一度更新するためにこの国に訪れ、光の加護の儀式をドラゴンに受けて頂きたいのです」
私はドラゴンに聞いてみる。
「この国で定期的に光の加護の儀式をしてほしいんだって」
「キュ?」
「何をすればいいの?って言ってます」
王様は首を振り、ドラゴンに笑顔を向ける。
「儀式はこちらで行うのでドラゴンの貴方には居てもらうだけでいいのです。ドラゴンが住処に選んでいるというだけで、この国の光の加護が強くなるということです」
なるほど、そんな効果があったのか。
私はずっと居るわけにはいかないけど。
ドラゴンが頷いたので王様は安堵の笑みを浮かべて、手続きをしましょうと小部屋に通された。
おそらく役所の人なのだろう眼鏡の男性が席を引いてくれた。
その男性は私を見ながら紙に何かを書いていく。
もちろん、文字は読めない言語だ。
ヒカルがその紙を見ながら説明してくれる。
「籍を置く国の名前や、魔法に関する情報が今書きこまれています。この方は鑑定士の方で見ただけで相手の魔力や状態異常が分かる人です。この国の役所のトップの人ですね」
ヒカルさん何でも知ってるな。
「登録には名前が必要だと言っています。お名前が思い出せない場合は自分で付けるしかありませんが、どうしますか」
私は改めて自分の名前を思い出そうとしてみた。
両親に呼ばれていたあのとき。
友達に呼ばれたあのとき。
まだ皆の顔は思い出せることに安堵したが、それでも名前は出てこなかった。
そうして何故かポケットの果実を取り出した。
「この果実の名前、なんですか」
「えっとですね、確か“ルリビ”だったと思います。名前をつけた方は綺麗な青い鳥と似ているから付けたのだと、授業で習いました」
「授業で魔法以外も教えてくれるんですね」
「食べては危険なものなので身を守るためにも授業になっているそうです。私は特にこの世界の植物も食べ物も分からないことだらけだったので、助かりました」
ヒカルも私と同じくこの世界のことは何も知らないという訳か。
違うのはスタート地点と言語。それから魔法。
たったそれだけなのに大きな大きな壁だな。
私はルリビを見つめながら、よし、と決めた。
「この果実から取って“リビ”という名前にします」
「いいんですか?毒がある果実からとって」
ヒカルは心配そうにしていたが、私は思ったのだ。
青い鳥を助けようとして死んだこと。
青い鳥にちなんで付けられた果実で名を失ったこと。
果たして偶然か必然かは分からないが、私には何か関係があるのかもしれない。
「ある意味似合う気がするので」
そう答えるとヒカルは分かりましたと頷いてくれた。
「では次にドラゴンさんも家族として登録しましょう。お名前はなんですか」
「あー、ないですね」
「え!?ずっと一緒にいたんですよね?」
私はそもそも、あの森を出たらドラゴンは帰るだろうと思っていたから名付けることはしなかった。
でも、これから共にいるなら名前は必要だ。
「貴方名前ある?」
そういえば、話せるようになってから一度も名前を聞いたことはなかった。
二人だけの生活の中、名前が無くても成り立っていたのだ。
ドラゴンも首を横に振り袖を引っ張った。
「キュ」
「つけていいの?何が良いかな」
もふもふの体、青い瞳、青いつばさ。白い角。
「ソラ」
「キュウ!」
なんとなく呼んでみたが存外しっくりきた。
こうして私の証明書が発行され、手元には硝子のように透明なカードが一枚。
「カードを裏返すと液晶パネルのようなものが出てきて、そこから色々な情報を確認できますよ。ゲームみたいですよね」
ヒカルの言った通り、カードを裏返すと空間にパネルが現れてそこには特殊言語という文字が見えた。
「そこは魔法の種類ですね、ドラゴンと会話できるからだと思います。このパネルはカードの所持者しか見れませんので失くさないように気をつけて下さいね」
そうして私はカードを持って図書館に来ていた。
なんと、このカードがあれば無料で閲覧可能という訳だありがたい。
さて、私が何故図書館に来たのかと言うと言語の勉強だ。
このままずっとヒカルに翻訳してもらう訳にはいかない。
そう思っていくつかの絵本をテーブルに持ってきたのだが、如何せん読み方が分からない。
スマホの翻訳機能欲しい。
日英辞書みたいなこの世界の辞書がほしい。
隣に座るドラゴンにも本を見せる。
「読める?」
「キュー」
「読めないよね、だよね」
そもそもの話、表記してある文字を理解できていない。
書いてある絵が植物であることは分かるが、この世界の植物であるため難しい。
迷いの森で見た植物ならば食べられることは分かるのだが、名前は理解する必要がなかったから知らないわけだ。
私は絵本をパラパラとめくり、とあるページで止まった。
青い果実、ルリビ。
子供に食べてはいけないと教えるならば絶対に載っていると思った。
これでルリビは読めるわけだが、規則性を見つけないと話にならない。
ひらがな、カタカナなどの表やABCなどの文字基準を取り敢えず学ぶ必要があるみたいだ。
絵本よりも先にそっちが必要だと本棚を探していると、ヒカルがとある人を連れてきた。
「こちらは私が通う学校の先生で、レビン先生です。この国の言語についての基礎を教えて頂けることになりました。ただ、リビさんはこの国に滞在することは出来ないのでほとんどは自分で学ぶことになります」
「ありがとうございます、助かります」
こうして私は文字の基礎、簡単な挨拶を教えてもらい今現在国の外にいた。
長時間太陽の国にいられない私は、じわじわと魔法の力を失っていく。
それを回復するには国の外に出るしかない。
魔法なんてと思ったが、魔力がなくなるということはソラと話せなくなるということなのだ。
唯一翻訳のいらないソラと話せなくなるのは避けたかった。
大通りから少し外れ、原っぱに座って文字の基礎の本を繰り返し読んでいる。
私の隣に座ってソラも一緒に本を眺めながら、言語を学んでいく。
「これは?」
「キュ!キュ!」
「うん、それはこんにちはだったよね。こっちは」
「キュウ!」
「さよならだっけ?おはようじゃなかった?」
そんなことを言っているとぽつり、と雨が降ってきた。
せっかく貰った本を濡らすわけにはいかないと、王宮から貰った鞄に本をしまい走り出す。
これから私はまた、魔力が回復するまでは太陽の国に戻るわけにはいかない。
この世界で生きていくために必要なのはまず、通貨だ。
野宿は慣れたものなのだが、せっかく貰った服も鞄も雨に濡れ続ければボロボロになってしまう。
出来れば宿を取りたいがそれにはお金が必要だ。
光魔法を持っていたヒカルはあらゆる援助を受けていたが、私はそういう訳にはいかない。
服も鞄も、学ぶための方法も教えてもらえた。
処刑もされなかった。
それだけでありがたいと思わなければ。
来る時代が違えば殺されていたかと思うとゾッとする。
走っているととても大きな木を見つけてその下に入った。
まるで神社にある樹齢千年の大木のような見た目の木は、緑の葉で生い茂っていて濡れずに済みそうだ。
雨宿りをしながら言語を繰り返し言って覚える。
私の言語にソラが日本語の意味を言って覚える。
言語が通じなければお金を稼ぐのも難しい。
そう思うと、より一層言語の勉強に力が入った。
太陽の国を出てからはまた、果実やキノコの生活に戻った。
むしろ、こっちのほうが手慣れたものだ。
しかし、問題はモンスターらしき生物が出るということだ。
迷いの森は妖精のような生き物の縄張りらしく、ほとんど生物を見ていない。
人魚らしき者にはあったが、聞くところによるとそれは湖の妖精だったらしいのだ。
だから、普通はモンスターのような生物がいることを今現在、身を持って体感している。
さて、その私はというと猪らしき大型の生物に追いかけられている。
隣で必死に走るソラを見て私は叫んでいた。
「ソラ飛べるよね!?!」
「キュ!?」
そうだった、と言わんばかりにソラは私を背に乗せて上に舞い上がった。
さすがの猪も空は飛べないらしくとぼとぼと諦める姿が見える。
「助かった、ありがとうね」
それにしても、私は戦う術がない。
モンスターと対峙したときに逃げるしかないというのはなんと心許ないことか。
もっと色々な情報が欲しかったが、私の魔法の相性が悪いばっかりに国にとどまれない。
戦える魔法があればいいのに。
そんな現実味のないことを考えてため息が出た。
こうなったら体を鍛えて剣の腕を磨くしかないのかな。
そんなことを素人の私が考えても無駄なことは百も承知。
しかし、このままではいずれモンスターに殺されるかもしれない。
何か見つけなければ。
魔法学校が存在するということは、魔法の使い方や強化が出来るということだ。
とはいえ、私に教えてくれる師はいない。
いや、待てよ。
魔法使ってる人いたな。
私はソラの背中をぽんぽんとすると行き先を告げた。
「迷いの森に行こう」
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というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。
けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。
そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。
ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。
それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。
そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。
一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。
これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。
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