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太陽の国
太陽の国
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そうして私が森から出ることが出来たのは、この世界に来てから1年後のことだった。
ドラゴンはすっかり大きく成長し、私一人を乗せられる大きさになった。例えるのなら大型犬くらい。
ドラゴンの背中に乗って空へと舞い上がった瞬間気付かされる。
迷いの森がいかに小さいか。
そして、物凄く近いところに大きな町があったのだと。
長かった。
結局、私は山賊以外の人間に会うことはなかった。
だからようやく人に会える。
町の手前の道でドラゴンに降ろしてもらい、入口の門のようなものから中に入ることにした。
二人の門番はこちらを見るなり、嫌な顔をした。
当然だ。
川で洗っていたとはいえ薄汚れたマントに身を包み、髪は邪魔になったから短刀で雑に切っていた。
しかし、門番はその私の後ろにいるドラゴンを見て目を見開いた。
「□◇◇○□○!!」
ああ、やっぱり言語は分からない。
門番は慌てた様子で一人が中に走っていき、一人はこちらにやってきた。
「○◇◇□□○?」
「いや、分からないです、すみません」
「○◇◇□□○?」
「いやゆっくり言ってくれても分かんないんですよね」
お互いがはてなを浮かべて、門番が苛々とし始めたときだった。
「日本人、ですか?」
久々に耳にした自分以外の日本語に驚いて振り返る。
そこには黒髪ロングが綺麗な女の子が立っていた。
花の柄のワンピースを着た女の子はにっこりと微笑んだ。
「私以外にも日本人がいるなんて驚きました!ところで、その格好一体どうしたんですか?」
女の子は心配そうに問いかけるが、どうしたもこうしたもない。
「あの、私一年前にこの世界に来て、その間ずっと迷いの森にいたんです」
「ええ!?迷いの森ってあそこの禁忌とされてる森ですよね?私も1年ほど前にこの世界に来て、あの森には入っては駄目だと教えられましたよ。生きて出られる人はいないからって」
おろおろとする彼女は、そういえばと門番を見た。
「門番さんとお話中に割り込んですみません。◇○□◇○?」
「ちょっと待って。この世界の言葉わかるの?」
女の子は首を傾げて私を見た。
「え、分かりますよ?私は日本語を話していますけど、この世界の人達とは多分この世界の言葉を話してるんだと思います。この世界の言葉も日本語に聞こえますよ」
それは至極当然のように言われて私は笑いがこみ上げる。
私とこの子の差は一体なんだろうと。
私は自暴自棄にならないように深呼吸してから、女の子に問いかける。
「貴方は、どうしてこの世界に?」
「多分通学中に交通事故に合ったのが原因だと思います。まさか異世界に来るだなんて夢みたいな話ですよね?気付いたら道に座っていて、王宮の騎士の方が助けてくださったんです」
微笑ましく話す彼女は、そうだ、と思いついたように言った。
「私が通訳になりますよ!この町の人達には良くしてもらっていて、王宮の方々にもたくさん知り合いがいますので!」
とてもありがたい提案だった。
もちろん、お願いしたいと思った。
でも、それと同時にとてつもない虚しさや誰にも言えない怒りが募っていってしまう。
それを押し殺して私は笑顔を作った。
「通訳をお願いします」
女の子は笑顔で頷くと門番と話をして中に入れてくれた。
ドラゴンは私の後ろにぴったりと張り付いて離れない。
「門番さんはそのドラゴンを連れて王宮に来てほしいと言っていたので案内しますね。ところでそのドラゴンさん、契約のドラゴンさんなんですか?」
「契約とは、なんでしょうか」
「この世界、魔法世界で従魔契約ができるんです。えっと、互いの了承によって命を繋げる魔法、つまり一蓮托生な存在になるって先生が言ってました」
「先生?」
女の子は時折、町の住人に手を振りながら説明してくれる。
町の皆に好かれてる娘なんだな、とただ歩いているだけなのにそう感じさせられた。
「私、この世界に来てから自分に魔法の才能があるって言われて学校に通わせて貰ってるんです。衣食住は王宮が保証してくれて、光の魔法の治癒が得意だから聖女にならないかって言われてて」
彼女は彼女なりにこの世界で前向きに生きている。
彼女だって、交通事故で急にこの世界に来て不安だったはずだ。
私よりずっと、歳下だし。
まぁ、それはそれとしてこの子と私は何が違うのかと叫びたい気持ちはあるのだが。
ふと、女の子が振り向いて私の顔を見た。
「そういえば自己紹介まだでしたね。私はヒカルと言います。お姉さんの名前を聞いてもいいですか」
暖かな笑顔、それが眩しすぎて私には辛かった。
そして、私は自分の名前が思い出せないことに気付いた。
私が私であることすら許されないということなのか。
私は動揺しつつも、首を横に振った。
「すみません、名前を思い出せません」
「そう…なんですか。王宮に行ったら何か分かるかもしれませんよ。私も色々助けて頂いたんです」
私を励まそうとしてくれてるのは分かる。
だけど、それを素直に受け取れるほど大人になり切れなかった。
曖昧な笑顔を浮かべるだけで、彼女の話をただ聞いていることしか出来ないでいた。
王宮の中に入っても人々は私を奇異の目で見た。
分かってる、こんな汚い格好で王宮に入ってごめん。
ドラゴンは相変わらず私の裾を掴んでいて後ろを黙ってついてくる。
一番奥の部屋は広い空間になっていて、玉座には王様らしき人が座っていた。
壁際には数十人の騎士のような人が立っている。
ヒカルはスカートの裾を持ち上げ、片足を引いてお辞儀をした。
この世界の教養も教えてもらっているのだろう。
私はそんなものは知らないので頭をとりあえず下げた。
ドラゴンが私を見て同じように頭を下げると、何故か周りがざわついた。
ヒカルは王様の言葉と私の言葉を訳してくれた。
「太陽の国へようこそ。貴方はヒカルと同じ国からいらっしゃったようですね。迷いの森から生きて出られる方がいるとは驚いています。さぞ、大変だったでしょう」
王様はどこか友好的で、それはおそらくヒカルのおかげだ。
人柄やコミュニケーション能力を活かし、この町で生きてきたのだろう。
その同じ国からと聞けば多少はよく見えるといったところだ。
「新しいお召し物を用意します、それから住むところと生活できるように援助を」
「いえ、待って下さい。それをして頂く理由がありません」
私は口を挟んでいた。
とてもありがたいお話で、貰えるものは貰っておけばいいのに。
でも、そんな都合のよい話は私には来ないと思ってしまった。
これまでの生活の中で生きるか死ぬかの瀬戸際だった私にそんな都合の良い話が来るわけがない。
王様は私の言葉を聞くと一瞬、顔を曇らせた。
「実はそのドラゴンはブルームーンドラゴンという稀少種でして、絶滅危惧種なんです。この世界の守り神とされているとても貴重なドラゴンでして。王宮で保護させて貰えないでしょうか。その代わり、貴方の命の保証はこの国がさせて頂きますので」
なるほど、交換条件か。
それなら、不運続きの私も納得だ。
いや、でもドラゴンは元いた場所に戻らなくていいのか?
「見たところ従魔契約もまだのご様子。それならば、王宮でのびのびとした暮らしをさせてあげるというのはどうでしょう」
王様の問い掛けに私はドラゴンを見た。
「どうする?今の話分かった?王宮で暮らさないかって」
「キュー!!」
「でもさ、私といるよりは元の場所に戻れるかも」
「キュキュ」
「戻らないって、どうして」
ドラゴンと話していると周りがざわざわとうるさい。
ふとヒカルの顔を見るとなんだか青褪めている。
「あの、ヒカルさん?」
「まさかドラゴンと、話してるんですか」
「え、はい」
そう答えると王様も顔面を蒼白させ、側近に何かを命じた。
その側近が持ってきたのは大きな鏡でそこの前に立つように言われた。
ヒカルはすかさず説明してくれる。
「これは魔法を検知する鏡です。私もこれで光魔法があると分かったんですよ」
そうして私が映った鏡は一瞬にして真っ黒になってしまった。
「ヒカルさん、これは」
「わ、分かりません。でも、王様たちはかなり深刻そうな表情をしています」
それは私も見たらわかるよ。
しかし私は正直あまり驚かなかった。
これまでの不幸から考えても、町に着いてもあまり変わらないだろうなと諦めていたからだ。
通訳がいたことは本当に助かったけど。
王様が話し出し、またヒカルが通訳してくれた。
「黒というのは未知の魔法、または闇魔法を持つものを示している可能性が高いです。大変申し訳無いのですが、闇魔法の場合、この国との相性が非常に悪いのです」
「処刑ですか」
「ま、まさか。昔はそういうこともありましたが、もう100年以上前の話です」
あったんかい、とツッコミを入れたいが我慢する。
「この国は太陽の神によって守られる国。ですから、ヒカルさんのように光魔法を持つ者。もしくは自然を司る魔法はより力を発揮できる環境にあります。しかし、闇魔法は逆です。徐々に力を奪われ、魔法の力が無くなってしまう恐れがあります。ですから、長居はしないほうが賢明です」
「魔法を使ったことがないんですが」
「それならば、気付いておられないだけでしょう。あのように黒くなるのは魔力を持っているからに他なりません。そして、ドラゴンと話せることが何よりの証拠です。本当に稀なことですが、それが貴女の魔法の一部ということです」
ヒカルの方を見ると何度も頷いている。
「ドラゴンさんと話せる人を初めて見ました。勿論従魔契約をしている人は見たことありますが、話すって言っても、どんな感情なのか分かるだけで言葉を交わすなんてあり得ません」
なんか、そんな話どこかの本で読んだような。
自分の名前は思い出せないのに、その本の名前は思い出せそうだ。
王様はドラゴンに向かって話しかけた。
「あなたは月の加護を受ける存在。つまり光側の種族です。本当にこの方と共にいるのですか?」
ドラゴンは私の腕にギュッとしがみついた。
「契約もしていないのに随分と絆が深いようですね。分かりました、あなた方を無理やり引き離すなんてことは致しません。ですが、ドラゴンは守り神…この国にいてくれると非常に助かるのですが、しかし」
王様は考えあぐねて結局答えは出なかったようだ。
「ひとまず体を休めて下さい。部屋を用意します。これからのことはもう少し考えさせて下さい」
そう言われて通された部屋には風呂場と新しい衣服が置いてあった。
約一年ぶりの風呂!!
そう考えただけでも泣きそうだった。
「お風呂入ろっか!」
ドラゴンにそう言うと首を傾げられた。
でも絶対に入ったほうが良いよと説得して、ドラゴンを洗い、私もようやく風呂に入る。
お風呂って、こんなに良いものだったんだ。
石鹸て素晴らしいものだったんだ。
風呂場で泣きながら髪を洗い、体を洗い、湯に浸かる。
体中傷だらけで、肋骨が浮いている。
植物やらきのこやらしか食べてないから当たり前か。
でも、今日まで生き延びた。
そう思うと頑張ったなと自分を褒めたかった。
風呂から上がって、ベッドに寝転がる。
ベッドがある!!
ベッドで寝れるなんて夢のようだ。
ドラゴンも真似して横に寝転がる。
今はまだこの大きさだけど、きっともっと大きくなるよね。
横に眠るドラゴンを見ながら私も、目を閉じる。
王様に、山賊のことを言うことが出来なかった。
1年間あの森を彷徨っている間、何度か洞窟の近くを見回ったが山賊の二人はいなかった。
生きていたのか、それとも別の原因で遺体が消えてしまったのか。
それを深く考えることが怖くて、私は口にすることをやめた。
迷いの森に入ったら生きては出られない。
私自身があの男二人を閉じ込めてしまったかもしれない事実を誰にも言うことはできない。
隣に眠るドラゴンを抱きしめて、私は小さく丸くなる。
この世界で初めて部屋の中で夜を過ごした。
ドラゴンはすっかり大きく成長し、私一人を乗せられる大きさになった。例えるのなら大型犬くらい。
ドラゴンの背中に乗って空へと舞い上がった瞬間気付かされる。
迷いの森がいかに小さいか。
そして、物凄く近いところに大きな町があったのだと。
長かった。
結局、私は山賊以外の人間に会うことはなかった。
だからようやく人に会える。
町の手前の道でドラゴンに降ろしてもらい、入口の門のようなものから中に入ることにした。
二人の門番はこちらを見るなり、嫌な顔をした。
当然だ。
川で洗っていたとはいえ薄汚れたマントに身を包み、髪は邪魔になったから短刀で雑に切っていた。
しかし、門番はその私の後ろにいるドラゴンを見て目を見開いた。
「□◇◇○□○!!」
ああ、やっぱり言語は分からない。
門番は慌てた様子で一人が中に走っていき、一人はこちらにやってきた。
「○◇◇□□○?」
「いや、分からないです、すみません」
「○◇◇□□○?」
「いやゆっくり言ってくれても分かんないんですよね」
お互いがはてなを浮かべて、門番が苛々とし始めたときだった。
「日本人、ですか?」
久々に耳にした自分以外の日本語に驚いて振り返る。
そこには黒髪ロングが綺麗な女の子が立っていた。
花の柄のワンピースを着た女の子はにっこりと微笑んだ。
「私以外にも日本人がいるなんて驚きました!ところで、その格好一体どうしたんですか?」
女の子は心配そうに問いかけるが、どうしたもこうしたもない。
「あの、私一年前にこの世界に来て、その間ずっと迷いの森にいたんです」
「ええ!?迷いの森ってあそこの禁忌とされてる森ですよね?私も1年ほど前にこの世界に来て、あの森には入っては駄目だと教えられましたよ。生きて出られる人はいないからって」
おろおろとする彼女は、そういえばと門番を見た。
「門番さんとお話中に割り込んですみません。◇○□◇○?」
「ちょっと待って。この世界の言葉わかるの?」
女の子は首を傾げて私を見た。
「え、分かりますよ?私は日本語を話していますけど、この世界の人達とは多分この世界の言葉を話してるんだと思います。この世界の言葉も日本語に聞こえますよ」
それは至極当然のように言われて私は笑いがこみ上げる。
私とこの子の差は一体なんだろうと。
私は自暴自棄にならないように深呼吸してから、女の子に問いかける。
「貴方は、どうしてこの世界に?」
「多分通学中に交通事故に合ったのが原因だと思います。まさか異世界に来るだなんて夢みたいな話ですよね?気付いたら道に座っていて、王宮の騎士の方が助けてくださったんです」
微笑ましく話す彼女は、そうだ、と思いついたように言った。
「私が通訳になりますよ!この町の人達には良くしてもらっていて、王宮の方々にもたくさん知り合いがいますので!」
とてもありがたい提案だった。
もちろん、お願いしたいと思った。
でも、それと同時にとてつもない虚しさや誰にも言えない怒りが募っていってしまう。
それを押し殺して私は笑顔を作った。
「通訳をお願いします」
女の子は笑顔で頷くと門番と話をして中に入れてくれた。
ドラゴンは私の後ろにぴったりと張り付いて離れない。
「門番さんはそのドラゴンを連れて王宮に来てほしいと言っていたので案内しますね。ところでそのドラゴンさん、契約のドラゴンさんなんですか?」
「契約とは、なんでしょうか」
「この世界、魔法世界で従魔契約ができるんです。えっと、互いの了承によって命を繋げる魔法、つまり一蓮托生な存在になるって先生が言ってました」
「先生?」
女の子は時折、町の住人に手を振りながら説明してくれる。
町の皆に好かれてる娘なんだな、とただ歩いているだけなのにそう感じさせられた。
「私、この世界に来てから自分に魔法の才能があるって言われて学校に通わせて貰ってるんです。衣食住は王宮が保証してくれて、光の魔法の治癒が得意だから聖女にならないかって言われてて」
彼女は彼女なりにこの世界で前向きに生きている。
彼女だって、交通事故で急にこの世界に来て不安だったはずだ。
私よりずっと、歳下だし。
まぁ、それはそれとしてこの子と私は何が違うのかと叫びたい気持ちはあるのだが。
ふと、女の子が振り向いて私の顔を見た。
「そういえば自己紹介まだでしたね。私はヒカルと言います。お姉さんの名前を聞いてもいいですか」
暖かな笑顔、それが眩しすぎて私には辛かった。
そして、私は自分の名前が思い出せないことに気付いた。
私が私であることすら許されないということなのか。
私は動揺しつつも、首を横に振った。
「すみません、名前を思い出せません」
「そう…なんですか。王宮に行ったら何か分かるかもしれませんよ。私も色々助けて頂いたんです」
私を励まそうとしてくれてるのは分かる。
だけど、それを素直に受け取れるほど大人になり切れなかった。
曖昧な笑顔を浮かべるだけで、彼女の話をただ聞いていることしか出来ないでいた。
王宮の中に入っても人々は私を奇異の目で見た。
分かってる、こんな汚い格好で王宮に入ってごめん。
ドラゴンは相変わらず私の裾を掴んでいて後ろを黙ってついてくる。
一番奥の部屋は広い空間になっていて、玉座には王様らしき人が座っていた。
壁際には数十人の騎士のような人が立っている。
ヒカルはスカートの裾を持ち上げ、片足を引いてお辞儀をした。
この世界の教養も教えてもらっているのだろう。
私はそんなものは知らないので頭をとりあえず下げた。
ドラゴンが私を見て同じように頭を下げると、何故か周りがざわついた。
ヒカルは王様の言葉と私の言葉を訳してくれた。
「太陽の国へようこそ。貴方はヒカルと同じ国からいらっしゃったようですね。迷いの森から生きて出られる方がいるとは驚いています。さぞ、大変だったでしょう」
王様はどこか友好的で、それはおそらくヒカルのおかげだ。
人柄やコミュニケーション能力を活かし、この町で生きてきたのだろう。
その同じ国からと聞けば多少はよく見えるといったところだ。
「新しいお召し物を用意します、それから住むところと生活できるように援助を」
「いえ、待って下さい。それをして頂く理由がありません」
私は口を挟んでいた。
とてもありがたいお話で、貰えるものは貰っておけばいいのに。
でも、そんな都合のよい話は私には来ないと思ってしまった。
これまでの生活の中で生きるか死ぬかの瀬戸際だった私にそんな都合の良い話が来るわけがない。
王様は私の言葉を聞くと一瞬、顔を曇らせた。
「実はそのドラゴンはブルームーンドラゴンという稀少種でして、絶滅危惧種なんです。この世界の守り神とされているとても貴重なドラゴンでして。王宮で保護させて貰えないでしょうか。その代わり、貴方の命の保証はこの国がさせて頂きますので」
なるほど、交換条件か。
それなら、不運続きの私も納得だ。
いや、でもドラゴンは元いた場所に戻らなくていいのか?
「見たところ従魔契約もまだのご様子。それならば、王宮でのびのびとした暮らしをさせてあげるというのはどうでしょう」
王様の問い掛けに私はドラゴンを見た。
「どうする?今の話分かった?王宮で暮らさないかって」
「キュー!!」
「でもさ、私といるよりは元の場所に戻れるかも」
「キュキュ」
「戻らないって、どうして」
ドラゴンと話していると周りがざわざわとうるさい。
ふとヒカルの顔を見るとなんだか青褪めている。
「あの、ヒカルさん?」
「まさかドラゴンと、話してるんですか」
「え、はい」
そう答えると王様も顔面を蒼白させ、側近に何かを命じた。
その側近が持ってきたのは大きな鏡でそこの前に立つように言われた。
ヒカルはすかさず説明してくれる。
「これは魔法を検知する鏡です。私もこれで光魔法があると分かったんですよ」
そうして私が映った鏡は一瞬にして真っ黒になってしまった。
「ヒカルさん、これは」
「わ、分かりません。でも、王様たちはかなり深刻そうな表情をしています」
それは私も見たらわかるよ。
しかし私は正直あまり驚かなかった。
これまでの不幸から考えても、町に着いてもあまり変わらないだろうなと諦めていたからだ。
通訳がいたことは本当に助かったけど。
王様が話し出し、またヒカルが通訳してくれた。
「黒というのは未知の魔法、または闇魔法を持つものを示している可能性が高いです。大変申し訳無いのですが、闇魔法の場合、この国との相性が非常に悪いのです」
「処刑ですか」
「ま、まさか。昔はそういうこともありましたが、もう100年以上前の話です」
あったんかい、とツッコミを入れたいが我慢する。
「この国は太陽の神によって守られる国。ですから、ヒカルさんのように光魔法を持つ者。もしくは自然を司る魔法はより力を発揮できる環境にあります。しかし、闇魔法は逆です。徐々に力を奪われ、魔法の力が無くなってしまう恐れがあります。ですから、長居はしないほうが賢明です」
「魔法を使ったことがないんですが」
「それならば、気付いておられないだけでしょう。あのように黒くなるのは魔力を持っているからに他なりません。そして、ドラゴンと話せることが何よりの証拠です。本当に稀なことですが、それが貴女の魔法の一部ということです」
ヒカルの方を見ると何度も頷いている。
「ドラゴンさんと話せる人を初めて見ました。勿論従魔契約をしている人は見たことありますが、話すって言っても、どんな感情なのか分かるだけで言葉を交わすなんてあり得ません」
なんか、そんな話どこかの本で読んだような。
自分の名前は思い出せないのに、その本の名前は思い出せそうだ。
王様はドラゴンに向かって話しかけた。
「あなたは月の加護を受ける存在。つまり光側の種族です。本当にこの方と共にいるのですか?」
ドラゴンは私の腕にギュッとしがみついた。
「契約もしていないのに随分と絆が深いようですね。分かりました、あなた方を無理やり引き離すなんてことは致しません。ですが、ドラゴンは守り神…この国にいてくれると非常に助かるのですが、しかし」
王様は考えあぐねて結局答えは出なかったようだ。
「ひとまず体を休めて下さい。部屋を用意します。これからのことはもう少し考えさせて下さい」
そう言われて通された部屋には風呂場と新しい衣服が置いてあった。
約一年ぶりの風呂!!
そう考えただけでも泣きそうだった。
「お風呂入ろっか!」
ドラゴンにそう言うと首を傾げられた。
でも絶対に入ったほうが良いよと説得して、ドラゴンを洗い、私もようやく風呂に入る。
お風呂って、こんなに良いものだったんだ。
石鹸て素晴らしいものだったんだ。
風呂場で泣きながら髪を洗い、体を洗い、湯に浸かる。
体中傷だらけで、肋骨が浮いている。
植物やらきのこやらしか食べてないから当たり前か。
でも、今日まで生き延びた。
そう思うと頑張ったなと自分を褒めたかった。
風呂から上がって、ベッドに寝転がる。
ベッドがある!!
ベッドで寝れるなんて夢のようだ。
ドラゴンも真似して横に寝転がる。
今はまだこの大きさだけど、きっともっと大きくなるよね。
横に眠るドラゴンを見ながら私も、目を閉じる。
王様に、山賊のことを言うことが出来なかった。
1年間あの森を彷徨っている間、何度か洞窟の近くを見回ったが山賊の二人はいなかった。
生きていたのか、それとも別の原因で遺体が消えてしまったのか。
それを深く考えることが怖くて、私は口にすることをやめた。
迷いの森に入ったら生きては出られない。
私自身があの男二人を閉じ込めてしまったかもしれない事実を誰にも言うことはできない。
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