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反撃開始
しおりを挟む遊糸達が潜伏している地下研究所の入口は鏡野総合病院になっている。 更に夜神町に入れば夜刀神の力によって感知される為潜入するのが困難となってしまうのだ。 そこで秋人と優璃は作戦を考えた。 まずは聖光の力で透明化になると時の穴を使って鏡野総合病院の屋上へとやって来た。これなら夜刀神も感知できないと優璃は仮説を立てたのだ。 秋人は半信半疑だったが、警備員が屋上に来ない事を考えると当たっていたようだった。
次に秋人と優璃は別々に行動することになる。 秋人は緋都瀬達を救出する。 優璃は名前は伏せてある女性を救出するらしい。 詳しい事は聞かなかった。 優璃には優璃なりの考えがあると思ったからだ。事前に優璃が地下研究所内を調べてくれたおかげでどこに何があるかは秋人は把握することが出来た。
救出作戦はスピード勝負だと優璃は言った。 瞬間移動を思う存分使ってより早く緋都瀬達を救出することを目的として掲げた。
「じゃ、頑張ってきてね。 秋人君」
「…あんたもな」
お互いの健闘を祈りながら、秋人と優璃は瞬間移動で消えた。 まず秋人は警備室に着くと監視モニターを見ている警備員達に手刀をかました。 気を失っている警備員達を赤いロープで一纏めに拘束すると警備室を後にした。 瞬間移動で緋都瀬の部屋の前に来る足で扉を蹴破った。
「!?」
突然扉が壊れたことに緋都が驚いていると、どこからともなく秋人が姿を見せたことで更に訳が分からないという顔をした。
「ア、アキ!? なんでここに!?」
「いいから来い!! 脱出するぞ!!」
「!」
緋都瀬はすぐに立ち上がると走り出した。 秋人は瞬間移動で信司、羽華、真樹枝、伊萬里を助け出した。 次々と仲間達を助けていく秋人に緋都瀬は驚きっぱなしだった。
「ま、待ってくれよ!! アキ!!」
「遅いぞ! 緋都瀬! 早く来い!!」
「だ、だって…アキが早すぎるんだよぉ…!」
緋都瀬も瞬間移動の力を使って秋人に追い付こうとしたが、全く追い付けなかった。 伊萬里を助け出したのと秋人に緋都瀬が追い付いたのとほぼ同時に警報が鳴り響いた。 警報の音を聞くと秋人は舌打ちすると言った。
「ちっ…バレたか…!」
「ど、どうするの? 秋人君?」
羽華が不安げに言うと、秋人は微笑みながら言った。
「大丈夫だ。 お前らのことは…俺が守る」
「アキ…」
(なんだろう…アキの中から、強い力を感じる…!)
「さぁ…時の穴に急げ! 追っ手が来るぞ!」
「アキはどうするの!?」
「俺は時間を稼ぐ! 早く行け!!」
「…分かった…気を付けて…!」
秋人が壁に手をつくと時の穴が現れた。 緋都瀬達を時の穴へと誘導し、全員が入ったことを確認するとすぐに閉じた。 秋人の背後と正面に特殊部隊が現れた。
「………」
秋人は刀を表出させると鞘から刃を引き抜いた。 正面にいる特殊部隊の隊員達に切りこもうと構えた瞬間一一「全員…その場から動くな」と声が聞こえた。
「お前は…!!」
「初めまして…五十嵐 秋人君…君とは初対面だったな?」
鬼越を構えながら現れたのは、翠堂 千歳だった。 かつて父を脅した男に秋人は嫌悪感を顕にしながら言った。
「まさか…あんたが出てくるとはな…驚いたよ」
「私もだ。 それよりも…貴重な実験体達を逃がしてくれたものだ…何がしたいんだね? 君は?」
「さぁ…? 何がしたいと思う?」
「…私たちへの復讐か?」
「違う」
「悲惨な末路を迎えた双鬼村の人々のためか? それとも…自分の為か?」
「違う…! 俺は…緋都瀬達を助けたかった。 それだけだ!」
「ほう…本当にそれだけか? 私たちへの憎しみはあるのではないか?」
「あぁ…前の俺なら…何も考えずにあんた達の所に来てただろうな。 けど…今は違う…! 俺は変わったんだ!」
「!」
(この数値は…まさか…!?)
千歳は手に持っていた黒い箱型の機械を見て目を見開いた。 以前に比べると秋人の身体能力は上がっているからだ。 目を離した隙に秋人は瞬間移動で消えた。
「うわっ!?」
「ぐはっ!?」
「うがぁ!?」
秋人の背後にいた隊員達の悲鳴が上がった。 千歳が発砲すると、隊員達も発砲した。 しかし秋人に当たる前に弾は力を失い、地面へと落ちていった。 千歳は嫌な予感が当たったと感じると小さく舌打ちした。
「《本来の力》を取り戻したのか…!」
「………」
「くっ…! 全員撃て!!」
銃弾を避けたり、守護結界で弾いたりしながら秋人は瞬間移動で千歳と隊員達の元に移動した。 足で隊員の頭を蹴ったり、手刀を打ち込んでいく秋人に千歳は後退しながら撃っていたが、秋人に届くことは無かった。 隊員達を気絶させた後千歳の背後に回り込むと刀の刃を首元に押し付けながら、秋人は言った。
「無駄なことはやめろ」
「ふっ…! 《復讐鬼の力》を取り戻したとしても…鈴鹿御前様や夜刀神様には敵わないぞ…!」
「それは《俺が一人》だった場合の話だろ? 生憎と…俺は一人じゃないんでな。 余計な心配をしなくて結構だ」
「調子に乗るな…!!」
「撃ってみろよ」
「なに?」
秋人は口元に笑みを浮かべると、鬼越の銃口を秋人の額へと当てた。
「俺の事がムカつくんだろ? この距離で撃ったら、守護結界も間に合わないかもな?」
「お前…!!」
頭に血が登った千歳な引き金を引こうとしたが、「千歳様!!」という声に我に返った。 秋人によって向きを変えられると牧野と鬼塚がやって来た。牧野が鬼越を構えながら、秋人に向かって怒鳴るように言った。
「千歳様を解放しろ!! 五十嵐!!」
「…あんたにも仲間がいたじゃないか…よかったな?」
「何だと!? うっ…!」
「「千歳様!!」」
千歳の首元から刀を外すと、秋人は千歳の背中を押した。 千歳は勢いよく前に押し出され、牧野と鬼塚に受け止められた。 千歳の無事を確認すると牧野は秋人を睨み付けながら言った。
「自分が何したのか…分かってるのか…!?」
「分かってるよ。 けど…《誰も死んでない》だろ?」
「!」
「俺は…誰も手にかけるつもりはない。 傷付けたくないんだ。 俺はあんた達とは違うんだよ」
「…宣戦布告のつもりか?」
「そう受け取ってもらってもいい。 これは、はじめの一歩に過ぎないんだからな。 次に会う時が楽しみだ…!」
「ふさげるなっ!!」
時の穴に入ろうとした秋人を牧野は逃がさないと言わんばかりに発砲した。 しかし銃弾は届かずに地面に落ちた。 秋人が逃げたことを確認すると牧野は壁を殴り付けたのであった。
***
時の穴で秋人は緋都瀬達を保護している鈴白神社の中へと辿り着いた。 秋人が現れると緋都瀬達は歓喜の声を上げた。 玲奈は誰よりも早く秋人に抱き着いてきた。
「お、おい…? 玲奈…?」
「もう…! 心配してたのよ…! 秋人君…!!」
「あぁ…心配かけて…悪い…」
「ううん…いいの! ねぇ! 秋人君! 秋声様のお力を取り戻したのって本当なの!?」
「本当だ。 誰から聞いたんだ?」
「緋都瀬から聞いたの! 秋人君と会った時違和感を感じたから、力を取り戻したんじゃないかと思ったんだって! そうでしょ? 緋都瀬?」
「うん。 そうだよ」
玲奈の言葉に緋都瀬は嬉しそうに頷いた。 秋人に頭を撫でられると玲奈は顔を赤くさせたが、何かに気付いたのか、秋人から離れると羽華の背中に隠れながら言った。
「急に抱きついたりして…ごめんなさい…!!」
「いや…いいさ。 怒ってないよ。 玲奈」
「そ、そうなの?」
「あぁ…まぁな」
「……っ」
秋人が微笑むと玲奈は秋人から顔を反らした。 そんな玲奈を羽華と真樹枝は優しく見つめていた。 神社内を見回した秋人は緋都瀬に気になった事を聞いてみた。
「優璃兄ちゃんはまだなのか?」
「そう言えば…まだ見たいだね…」
緋都瀬の言葉に秋人が疑問と心配が入り交じった顔をした時だった。 紫色の穴が開くと優璃と女性が現れた。 その女性を見て、秋人は大きく目を見開いた。
「母さん…!?」
「秋人…!!」
優璃が助け出したのは五十嵐 秋世だった。 秋人は秋世の元に行こうとしたが、先に秋世が秋人の元に走ると息子の事を強く抱き締めたのであった。
END
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