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幸せの呼び方
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【奈多野家*奈多野 美弦編】一第一話一
一
一一幼い頃から、泰斗さんのことが好きだった…と素直に言えれば、どれだけ良かっただろう。
私が看護師の資格を取って、泰斗さんの診療所で働いているのは不思議な気分だった。 双鬼村の掟には古い歴史があると真人さんは言っていた。 女性がどこの家に嫁ぐかは全て、大婆様がお決めになるのだ。
何故かと言うと、大婆様が《鬼灯の花石》占いで見えた女性達は必ず子宝に恵まれるそうだ。
当時の私は『そんな事あるはずがない』と信じていなかったが……結果は大当たりだった。 美弦さんとの間に、羽星海と羽華という子どもに恵まれたのだ。
今の生活に不満はない。 美弦さんは昔からの幼馴染みでよく知っていたし、美衣奈の家も近所でよく広場で井戸端会議することもある。
でも…一つだけ心残りだったことがある。
(美衣奈みたいに…告白すれば、よかったな…)
書類整理をしながら、私は考え込んでいた。 そう。 先程も言った通り…思いを寄せていた泰斗さんに告白していない。 だから、胸の中に黒い靄が掛かったような感覚に陥ってしまうのだと思う。
美衣奈は蓮叶さんの所に嫁ぐ前に、力也さんに告白していた。 返事は聞かなかったそうだ。 実に美衣奈らしいと思った。
当時の私は…恥ずかしがり屋で、泰斗さんに告白できなかった。 そのままズルズルと今の今まで、こんな状態にいるのだ。 おかげで胸焼けしそうである。
「はぁ…」
大きなため息をついた。 1度だけ美衣奈に今の私の気持ちを相談してみたら『近くに泰斗がいるんだから、告白すればいいじゃない』と言われてしまった。 確かにその通りだと思う。 でも、出来ない理由があった。 幼い頃から変わらない私の恥ずかしがり屋な性格も問題があるのは自分でよく分かっている。
だが、泰斗さんに告白できるタイミングなどほとんどないも当然だった。 診療所では患者さんを診察に通したり、手伝いもしないといけないし、診療所まで来れない人の所まで泰斗さんや私が訪問看護に行かなければならないしで忙しい日々を送っていた。
学生の時のように自由がないことを、感じていると、はらりと書類の隙間から何かが落ちてきた。
「あら?何かしら…?」
疑問符を浮かべながら、落ちた物を拾うと手紙のようだった。 端には小さな文字で『ゆーちゃんへ』と書かれていた。 その文字を見た時心臓が高鳴ったのを感じた。
「これって…泰斗さんの文字…?」
顔が一気に赤くなった。 自分で自分の言葉に赤くなってどうするんだと若干怒りつつ、手紙を開いて見ようか悩んでいると、ノックの音が響いた。
「はい!」
「結花? ちょっとこっちに戻って来てくれる?」
「うん。今行くね!」
雛瀬の声が扉の向こうから、聞こえた。 手紙はポケットに入れようとしたが、入りきれなかったので、バインダーに挟むと部屋を出た。
***
「何か、嬉しいことでもあった?」
「え?」
今日あったことを振り返りながら、布団に潜っていると、美弦さんが穏やかな口調で話しかけた。 一瞬動きが止まってしまったが、すぐに動き出すと美弦さんの胸に飛び込むようにして、抱き着いた。 「あいた」という声が聞こえたので、「ごめんなさい」と言うと「いいよ」と返ってきた。
美弦は私の事を抱き締め返しながら、言った。
「で、どうなの?嬉しいことあったのかな?」
「ふふ…ちょっとね…」
「教えてほしいなぁ」
「だーめ。教えませーん」
「ええ~…どうしてかな?」
「どうしてもです。 乙女の秘密は探るものではありませんよ」
「あはは…そうだね。ごめんよ。 結花ちゃんが嬉しそうにしてると俺も嬉しいから、つい聞いちゃったんだ」
「ふ、ふーん…そうですか」
美弦さんは、いつも優しくて穏やかな人だ。 彼が怒った所を、私は見たことがなかった。 羽星海が美弦さんのように穏やかで優しくて、賢く育ったのも彼を見ながら、育ってきたからだろう。
羽華も羽星海や美弦さんを見習ってほしいものだ。 あの子は昔の私にそっくりなので、接し方に困る時がある。
「美弦さん、一つ聞いてもいいですか?」
「ん?」
「羽華の事なんですけどね…時々あの子にきつく叱ってしまう時があるんです」
「うん」
「もしも…美弦さんが私と同じだったら、どうしますか?」
「うーーん……難しいなぁ…俺は昔から泰ちゃんや信ちゃんと悪さして、大婆様に叱られた時の記憶しかないからなぁ」
「ですよねぇ…」
顔を下に向け、何度目かのため息をついた。 そんな私を見て、美弦さんは苦笑しながらも言った。
「結花ちゃん…怒らないで聞いてね?」
「?」
顔を上げると、穏やかに笑っている美弦さんと目が合った。
「俺は怒ることが苦手だからさ…つい羽華を甘やかしちゃうんだよね…だから、結花ちゃんが羽華に怒ってくれるから、すごく助かってるんだ」
「あ~…なるほど…バランスが良いって事ですか?」
「あはは…うん。 そうなんだ。 怒ったかな?」
「…怒ってないです。 私…そんなに羽華に対して厳しくしてたかしら…?」
私が上を向き、両手を組んで考え込んでいると、美弦さんも上を向いて、目を閉じながら言った。
「俺はそんなに気に病む必要はないと思うけどなぁ…相談事なら、美衣奈ちゃんにしてみたらどうかな?」
「…考えてみます」
「うん…この話は終わりにして…寝ようか…」
「はい…って…寝てるじゃないですか…」
美弦さんは気持ち良さげに眠っていた。 少し肌蹴た布団を掛け直すと、結花も目を閉じたのであった。
END
一
一一幼い頃から、泰斗さんのことが好きだった…と素直に言えれば、どれだけ良かっただろう。
私が看護師の資格を取って、泰斗さんの診療所で働いているのは不思議な気分だった。 双鬼村の掟には古い歴史があると真人さんは言っていた。 女性がどこの家に嫁ぐかは全て、大婆様がお決めになるのだ。
何故かと言うと、大婆様が《鬼灯の花石》占いで見えた女性達は必ず子宝に恵まれるそうだ。
当時の私は『そんな事あるはずがない』と信じていなかったが……結果は大当たりだった。 美弦さんとの間に、羽星海と羽華という子どもに恵まれたのだ。
今の生活に不満はない。 美弦さんは昔からの幼馴染みでよく知っていたし、美衣奈の家も近所でよく広場で井戸端会議することもある。
でも…一つだけ心残りだったことがある。
(美衣奈みたいに…告白すれば、よかったな…)
書類整理をしながら、私は考え込んでいた。 そう。 先程も言った通り…思いを寄せていた泰斗さんに告白していない。 だから、胸の中に黒い靄が掛かったような感覚に陥ってしまうのだと思う。
美衣奈は蓮叶さんの所に嫁ぐ前に、力也さんに告白していた。 返事は聞かなかったそうだ。 実に美衣奈らしいと思った。
当時の私は…恥ずかしがり屋で、泰斗さんに告白できなかった。 そのままズルズルと今の今まで、こんな状態にいるのだ。 おかげで胸焼けしそうである。
「はぁ…」
大きなため息をついた。 1度だけ美衣奈に今の私の気持ちを相談してみたら『近くに泰斗がいるんだから、告白すればいいじゃない』と言われてしまった。 確かにその通りだと思う。 でも、出来ない理由があった。 幼い頃から変わらない私の恥ずかしがり屋な性格も問題があるのは自分でよく分かっている。
だが、泰斗さんに告白できるタイミングなどほとんどないも当然だった。 診療所では患者さんを診察に通したり、手伝いもしないといけないし、診療所まで来れない人の所まで泰斗さんや私が訪問看護に行かなければならないしで忙しい日々を送っていた。
学生の時のように自由がないことを、感じていると、はらりと書類の隙間から何かが落ちてきた。
「あら?何かしら…?」
疑問符を浮かべながら、落ちた物を拾うと手紙のようだった。 端には小さな文字で『ゆーちゃんへ』と書かれていた。 その文字を見た時心臓が高鳴ったのを感じた。
「これって…泰斗さんの文字…?」
顔が一気に赤くなった。 自分で自分の言葉に赤くなってどうするんだと若干怒りつつ、手紙を開いて見ようか悩んでいると、ノックの音が響いた。
「はい!」
「結花? ちょっとこっちに戻って来てくれる?」
「うん。今行くね!」
雛瀬の声が扉の向こうから、聞こえた。 手紙はポケットに入れようとしたが、入りきれなかったので、バインダーに挟むと部屋を出た。
***
「何か、嬉しいことでもあった?」
「え?」
今日あったことを振り返りながら、布団に潜っていると、美弦さんが穏やかな口調で話しかけた。 一瞬動きが止まってしまったが、すぐに動き出すと美弦さんの胸に飛び込むようにして、抱き着いた。 「あいた」という声が聞こえたので、「ごめんなさい」と言うと「いいよ」と返ってきた。
美弦は私の事を抱き締め返しながら、言った。
「で、どうなの?嬉しいことあったのかな?」
「ふふ…ちょっとね…」
「教えてほしいなぁ」
「だーめ。教えませーん」
「ええ~…どうしてかな?」
「どうしてもです。 乙女の秘密は探るものではありませんよ」
「あはは…そうだね。ごめんよ。 結花ちゃんが嬉しそうにしてると俺も嬉しいから、つい聞いちゃったんだ」
「ふ、ふーん…そうですか」
美弦さんは、いつも優しくて穏やかな人だ。 彼が怒った所を、私は見たことがなかった。 羽星海が美弦さんのように穏やかで優しくて、賢く育ったのも彼を見ながら、育ってきたからだろう。
羽華も羽星海や美弦さんを見習ってほしいものだ。 あの子は昔の私にそっくりなので、接し方に困る時がある。
「美弦さん、一つ聞いてもいいですか?」
「ん?」
「羽華の事なんですけどね…時々あの子にきつく叱ってしまう時があるんです」
「うん」
「もしも…美弦さんが私と同じだったら、どうしますか?」
「うーーん……難しいなぁ…俺は昔から泰ちゃんや信ちゃんと悪さして、大婆様に叱られた時の記憶しかないからなぁ」
「ですよねぇ…」
顔を下に向け、何度目かのため息をついた。 そんな私を見て、美弦さんは苦笑しながらも言った。
「結花ちゃん…怒らないで聞いてね?」
「?」
顔を上げると、穏やかに笑っている美弦さんと目が合った。
「俺は怒ることが苦手だからさ…つい羽華を甘やかしちゃうんだよね…だから、結花ちゃんが羽華に怒ってくれるから、すごく助かってるんだ」
「あ~…なるほど…バランスが良いって事ですか?」
「あはは…うん。 そうなんだ。 怒ったかな?」
「…怒ってないです。 私…そんなに羽華に対して厳しくしてたかしら…?」
私が上を向き、両手を組んで考え込んでいると、美弦さんも上を向いて、目を閉じながら言った。
「俺はそんなに気に病む必要はないと思うけどなぁ…相談事なら、美衣奈ちゃんにしてみたらどうかな?」
「…考えてみます」
「うん…この話は終わりにして…寝ようか…」
「はい…って…寝てるじゃないですか…」
美弦さんは気持ち良さげに眠っていた。 少し肌蹴た布団を掛け直すと、結花も目を閉じたのであった。
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