鬼手紙一過去編一

ぶるまど

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目を閉じたら見えるもの

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【淡月家*淡月  夕日編】一前編一




一一夏休みが始まると、俺は秋人達に引っ張りだこになることが多かった。いつものように、双雨公園で遊んでいた。
俺の右手には秋人。左手には緋都瀬が手を握りしめていた。信司や玲奈達はどうしたらいいか分からず、秋人と緋都瀬を見つめていた。


「ひー!そろそろ諦めろよ!!夕日兄ちゃんは、俺とだるまさんが転んだして遊ぶんだよ!!」
「やだ!昨日もだるまさんやったじゃないか!今日はかくれんぼするの!!」
「なにを~!!」
「俺だってゆずらないよ~!!」

「はいはい。そこまでにしとけって」
「「わっ」」


小さくため息をつくと、夕日は秋人と緋都瀬の頭を同時に撫でた。その事に驚いた二人は同時に声を上げた。
秋人と緋都瀬の目が、夕日へと向けられた。


「俺の体力が続く限りだけど、だるまさんと隠れんぼをしてやるよ!」
「「え!?いいの!?」」
「ああ!さ!まずは、だるまさんからやるぞ!」
「わーい!やったー!!」


秋人と緋都瀬はハイタッチして、喜んでいた。信司達も、秋人と緋都瀬が仲良くなったのを見て、喜んでいた。
いつも思う。この二人は、小さな喧嘩はあれど仲が良いのだと。
  
頭の片隅で、そんなことを考えながらだるまさん転んだで遊んだ。遊びに一番強いのは秋人だ。
どんな遊びをしても彼は一番だった。鬼ごっこでも自慢の足の早さを生かして、俺から逃げ切ったり、かくれんぼでも一番最後まで隠れていたこともあった。
秋人は、《遊びの天才》だと俺は思う。
すばしっこい上に、頭もよく回るし、どんな方法で俺を驚かせるかを常に考えているのだ。


(まあ…振り回せてる事に変わりはないんだけどな…)


結局、だるまさん転んだは秋人の勝ちになってしまった。次は緋都瀬の好きなかくれんぼをすることになった。
目隠しをして、数字を数えている間考えていたのは、今日の夜行われる《鬼月祭》についてだった。

《鬼月祭》とは鬼神様の半身を宿す志津子様から、極秘に執り行われる儀式のことだ。
双鬼村は千年前から月と鬼の関係が深かったらしく、言い伝えでは『鬼宿しに《月ノ歌》を捧げれば、力を授けられる』と伝えられてきた。
その言い伝えを美智代様は今夜実行されようとしている。
志津子様から《鬼月祭》で、鬼の力を授かるのは一一俺と、弟の優璃だった。


「……」
(優璃…か)


数を数え終わった俺は、目を開けた。突然優璃の事が頭に浮かんだ俺は、一種の不安に包まれた。
優璃は、初の試みである《鬼月祭》に緊張している俺と違ってお気軽だった。俺と優璃は正反対。喧嘩はしたことはない。ただ俺は…優璃のことが苦手でいつも秋人達と遊んでいる事が多かった。
その方が息苦しくないからだ。


「さて…探しに行くか…」


頭を振った俺は、隠れている秋人達を探すために、歩き出した。


***




夕方になって、蜩が鳴き始めた。大きな木の裏や茂みの中に緋都瀬や玲奈達を見つけることが出来た。
いつものごとく、最後の一人となった秋人を探し回っていたのだが、彼は一向に見つからなかった。
だが、中々見つからなかった。基本的にかくれんぼをするときは、公園内でと決めているのだが、公園の隅々を探しても、彼は見付からなかった。


「どこに行ったんだ…!?秋人…!」


段々と焦りが滲み出てきた。時刻は五時半。秋人達には門限があって、夕飯時である六時には帰るようになっている。

『あと三十分で秋人を見付けられるのか?』という不安が頭をよぎった瞬間一一公園の入口から一匹の犬が歩いてきた。
緋都瀬がすぐに反応し、声を上げた。


「あっ!青の助だ!!」
「え?」


青の助は麻里子おばあさんが飼っている犬だ。緋都瀬達が駆け出すと共に俺もあとをついて行った。
青の助の背中で、秋人は寝息を立てていた。
恐らくは、隠れている時に青の助の背中で寝てしまったのだと思う。
緋都瀬も同じ考えに至ったのか…両手で口元を抑えて笑っていた。
今にも大爆笑しそうになるのを抑えているのだと思う。
『偉いぞ。緋都瀬』…と心の中で彼を褒めつつ、俺は秋人の背中を撫でながら、言った。


「秋人…起きろ」
「んー……もう、お腹いっぱいだよ…母さん…」
「大婆様に怒られても知らないぞー」
「ふえっ!?」
「おっと!」


寝言を言っていた秋人は大婆様…美智代様の事を言うと速攻で目を開けた。
咄嗟に起きたので、秋人はバランスを崩し、落下しそうになったが、俺が受け止めた事で無事だった。
手の中に収まった秋人は、目を瞬かせると顔全体を赤くしながら言った。


「ゆ、夕日兄ちゃん!!俺をだましたな!!」
「騙してないよ。大婆様が怒ったら、怖いって事がお前が一番よく知ってるだろ?」
「むむ~!それは、そうだけど…」
「ぷっ!あはははは!もう、無理!!ガマンの限界!!あははははは!!アキ~!かっこ悪いぞ~!!」
「わ、笑うなよ!!ひー!!」


我慢の糸が切れたように、緋都瀬は笑い始めた。大爆笑しているのは緋都瀬だけで、信司達は困惑しているようだった。秋人は顔を赤くしたまま、緋都瀬に飛び付かんばかりの勢いだったので止めた。


「はいはい。今日はここまでにしよう。門限まで時間がないぞ!」
「え!?い、今何時!?」
「五時…四十分だな」
「げっ!やばい…!み、みんな!今日は帰るぞ!」
『はーい!』


夕日の言葉を聞いて、焦り始めた秋人は緋都瀬達へと向かって言った。緋都瀬達は息ぴったりに返事を返した。


「夕日兄ちゃん!またねー!」
「ああ。気をつけてな!」


秋人達は、それぞれの家へと帰るために俺に手を振りながら帰って行った。残ったのは俺と青の助だけだった。
青の助は俺のことを見つめていた。俺は、屈むと青の助と同じ目線になり、頭を撫でた。


「ありがとな…青の助…おかげで助かったよ」
『ワン!』
「お前も麻理子ばあちゃんの家に帰りな」
『ワンワン!』


青の助は分かったとでも言うように、俺に背中を向けて去って行った。ちょうど、公園の入口では麻理子ばあちゃんがいたから一緒に帰って行ったようだ。


「………」
(俺も帰らないとな…)


子ども達の賑やかな声が消え、一人だけ残された俺は、辺りを見回した後双雨公園を後にしたのであった。


***



淡月家の屋敷は、静寂に包まれていた。ちょうど満月を迎えた双鬼村では、隠された祭りが行われようとした。


「…………」
「…………」

広間には、夕日と優璃が背筋を伸ばして正座していた。二人は正装していた。《鬼月祭》のためだけに繕われたものだった。
二人を囲むように広間の入口となる障子には各家の当主達が仮面をつけて鎮座していた。
灯りは蝋燭のみで、お互いに顔を見ることは難しかった。

お互いに無言ではあったが、緊張しているというのは伝わってきた。

シャン…シャン…シャン
静かに鈴の音が、響き渡ってきた。
障子が開けられ、志津子が入って来ると自然と頭を下げた。
鈴の音が出ているのは、神楽鈴だった。志津子がゆっくりと、確実に近付いてきた。

「頭を上げなさい」

「………」
「………」

頭上から志津子の声が聞こえ、頭を上げた。
志津子の顔は暗闇でよく分からないが、笑みを浮かべているようだった。


「これより…淡月 夕日と淡月  優璃に《傍観鬼》の力と《刻鬼》の力を与えます。
篠人達よ。鬼神様に歌を捧げなさい。歌と共に、この子らに鬼の力が継承されることでしょう」


シャン。シャン。シャンシャン。
志津子が神楽鈴を鳴らしていく。鈴の音と共に、当主達が歌を口ずさみ始めた。


『きじんさまや  おいでなさ   つきのはざまにおいでなさ
おにのこ  つくりて  はなちやさ  よやみの  みおさめ  ふるいたて 
ささのびと  みおくり   さりゆくは おくるがゆえのえにしかな』

歌が終わると、志津子は神楽鈴を夕日の頭の上へと触れた。
一つの赤い鈴が、夕日の頭へと落ちた。


「……っ」


夕日の腹部が波打った。これは、鬼の力が継承されたことを意味していた。成功したと思った夕日は、志津子へと頭を下げた。
続いて、優璃の頭へと夕日と同じ行為を行った。

「………」
「………」
(笑ってる…?)

一一横目で、優璃の顔を見てみた。


優璃は、笑っていた。
自身に宿した《刻鬼》の存在を感じたからなのか?
いや。違う。
何故かは分からなかったが…夕日は、優璃のことが恐ろしく感じた。
志津子が神楽鈴を収め、夕日と優璃を見つめながら言った。


「無事に、鬼の力は継承されました。おめでとう。貴方たちは…《鬼月祭》を終えました。
これからも…鬼神様のために、仕えなさい。分かりましたね?」
「「はい」」
「良いお返事です。それでは、これにて…淡月家の《鬼月祭》は終わりたいと思います」


志津子は立ち去り、当主達も夕日達に頭を下げた後、広間から立ち去って言った。
残された夕日と優璃は何も話すことはなかったが、手はつないでいた。


「兄さん」
「…どうした?」

ぽつりと、優璃が呟くように言った。夕日は優璃へと顔を向けると一一彼は一筋の涙を流してから言った。


「明日…兄さんに嫌われることをするかもしれない」
「…どういう事だ?」
「ふふ…それは、秘密だよ。僕と《刻鬼》様だけの秘密なんだ」
「…そうか…」


【あの時…俺は知らなかった。
顔を下に向けた俺を悲しげに見つめてくる優璃に気付くことが出来なかった。

俺は、あまりにも…弟に関心がなかったんだ。

もっと俺が、ちゃんと話を聞いてやっていれば、あんな悲劇は起きなかったかもしれない。

後悔は深く、罪の意識が消えることはない。

今思い出している間も一一涙は止まってはくれなかった】



END

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