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しおりを挟む契約書を書き終えた霧崎さんは、その契約書を私たちに渡してきた。
「これでよければサインして。
一応アンタ達同士の雇用契約書が結ばれたこと前提でアタシとの契約書は書いたから、真奈がこの鴉のとこで働くって決めたらアタシとの契約書も目を通してね」
「流石だ茜君!僕一人では中々こういった書類は書けないからね。
まさに契約を司どる僕らの救世主と言ったところか!」
「変人鴉にしつこく迫られて面倒だから付き合ってあげただけ。
それに真奈の力は結構期待できるからね。見えるとこに置いておいた方がアタシも都合が良さそうだから」
「あの……私、実は自分の力のことも、よく分かってないんですけど……」
私の言葉に、霧崎さんは目を丸くした。
そしてキッと鴉さんを見つめ、いや睨みつける。
「本人の力の自覚もまだな訳? マジで信じられないんだけど。
それなのに契約とか詐欺スレスレじゃん」
「何を言うんだ茜君!彼女の力は僕もまだよく分かっていない。だがしかし!
第六感が囁いているのだよ……彼女は立派な助手になってくれるとね!」
「助手の能力どうこうじゃなくて、アンタが変人すぎて助手の一人も雇えなかっただけでしょ。
ここぞとばかりに弱みにつけ込んで学生を助手に囲い込もうとするなんて……ホントアンタ嫌い」
ハァ……と霧崎さんはため息をついてから私を見た。
呆れているような表情で見られてしまって、なぜか私は悪いことしたかなーなんて気持ちになってしまう。
「……力のことちゃんと聞かせて。アタシの勘では相手の考えてることが分かるとかそう言う感じじゃないの?」
「えっと……」
「力を使った時、何が見えたの?」
余談すら許さないような直接的な言い方に、私の鼓動はどんどん速くなる。
震える声で、私はやっと言葉を出した。
「なんか……さっき霧崎さんの後ろに……【狂気】って見えました。
あと、鴉さんが助けてくれた時……襲ってきた信者狩りの男の人の後ろに【使命】とか【焦り】とか……そういう言葉が見えて……」
「言葉が見える……か。【狂気】ってのは多分、力を使ってる者に見えてるんだろうね。
力を使いすぎると、人っておかしくなるらしいから」
「お、おかしくなる……?」
霧崎さんの言葉に、私は恐る恐る聞き返した。
しかし、答えを返してきたのは霧崎さんじゃなくて鴉さんだった。
「"力"はそれこそ人が扱うには過ぎた力なのさ。力に溺れた者は大抵まともな人格、感性や感情を失っていく。
神は何を考えてこんな力我々に与えたのか分からない。しかしどういう形であれ、いつか我々は力に溺れる。
そうなるように神は我々に力を授けたのかもしれないと僕は思えてしまうよ」
「……」
鴉さんの言ってることを、どこか理解してしまう自分がいた。
私は人の顔色ばかり見て生きてきたし、皆何を考えてるのかなってビクビクしながら暮らしてきた。
そんな私が__
「……多分、私の力……相手の心情が見える力なのかもしれません。
まだ……ちょっと分からないんですけど」
「まあ完全にそうだとは分からないけど、多分合ってるんじゃない?
商談とかそういうのに便利そうだよね」
相手の心情が見える力……
それならあの信者狩りの人の後ろに見えた言葉も納得がいく。
だけど【狂気】という言葉がやっぱり気になる。
【狂気】という文字が力を使ってる人の後ろに見えるものなら、信者狩りに遭った時に鴉さんも力を使っていたんだろう。
鴉さんの後ろに見えたあの【狂気】という文字は、霧崎さんのよりも何倍も大きく見えた。
文字の大きさも何か関係あるのだろうか?大きい言葉と小さい言葉、何が違うんだろうか?
「とにかくさっさと契約書見て終わらせちゃってよ。
あんま暇だとアタシ眠くなるし」
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