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結局、私は鴉越文也さんの助手としてバイトをすることに決めた。

両親にバイトのことを相談して許可をもらったからである。
もちろん、それは信者のことや裁きの会などのことを伏せたけど、なんか怪しそうということだけ伝わるように話した。


『探偵の助手のバイト? いいと思うわよ社会経験になるし。
……え? なんか怪しそう? 犯罪の片棒担がされなければなんとでもなるわ。大丈夫大丈夫』


『若い間は少し無茶なことをした方が将来立派な大人になれるもんだ。
俺は応援してるよ。』

と、まあこんな感じだった。



「素晴らしい両親じゃないか!
君のことを考え、意志を尊重してくれている。まさに親の鏡と言えるだろう!」


バイトをすることを伝えに再び事務所に来た。
鴉さんは相変わらずだ。


「……それでも怪しいところでバイトって時点で少し心配してくれてもよかった気がするんですけどね」

「何を言っているんだ? この事務所のどこが怪しいというのかね!?
たくさんの書物、談話できるゆったりした椅子、香りのいい飲み物!」


正確には、床にまで散らかった小説だとかよく分からない専門書の山と、その本に埋め尽くされていたボロボロの椅子。

香りのいい飲み物だけはまあ合ってるけど、それ以上に鴉さん自身が怪しいというのは自覚がないようだ。

だって、もう春先なのに分厚いコートにボサボサの髪。癖っ毛でまとまりもない。
無精髭で清潔感のかけらもないし、話し方だって独特すぎてたまに意味がわからない。

これで怪しいと思わない方がおかしな話だ。


「しかし怪しいと思うならば一度しっかりとした雇用契約を結ぶべきかもしれないね。

一人、アテがあるんだ。
契約や取引についてのエキスパート。彼女以上に頼れる人間はいないと思うほどの人材がね。

彼女に頼んで、君のバイトの契約書を作ってもらおう。お互い安心して働けることは素晴らしい仕事をする上で必要不可欠なことだろうからね」

「アテ……ですか。」


……知り合いいたんだこの人。

なんか変人すぎて知り合いなんていないと勝手に思ってたけど、そりゃ一人二人はいるか。

でも、契約とか取引のエキスパートだなんて、なんかそんな言い方されるとちょっと怪しいような恐ろしいような。


「そうと決まれば早速彼女の元へ向かおう!
それほど距離は離れていないんだ。今日中には済ませてすぐに帰って来られる」


散らかった事務所の中で、本を踏まないようにフラフラと出口に向かって歩く鴉さん。
私は彼の勢いに負けて、彼の後ろを追いかけることにした。

事務所から出る間際、窓際に置かれている伏せられた写真立てを見つけたが、私は気にもとめなかった。


___



電車で2駅。
駅近の小さな一軒家の前で、仁王立ちする鴉さん。


「ここが彼女の家だ」

「彼女……ってことは女性なんですね」

「ああ。彼女も僕らと同じ信者だよ。
先ほども言った通り、契約や取引において彼女以上に信用できる人間はいない」


その一軒家には、"霧崎"という名前の標識があった。
どうやらその女性は霧崎という人のようだ。


鴉さんがインターホンを鳴らす。
インターホン越しに眠そうな女性の声が聞こえた。


「やあ茜君!鴉だ。君に依頼があってきたんだが__」

[他当たってくんない?今眠いんだけど]

「そういうわけにはいかないね。今回の依頼は僕一人のものじゃないんだ。
実は助手を雇用することにしてね。君に契約書を頼みたい」

[ハァ?アンタの助手?そりゃあその助手君は災難だね。
訴えられても弁護しないよ]

「その心配はないさ。真奈君は実に素晴らしい人材なんだ。
きっと君も気にいると思うんだが」

[知らないよ。とっとと帰って]

「君が出てくるまでいつまでも待つつもりだよ。
女性の身支度には時間がかかるものだからね。それを待つのも紳士の務めだろう?」

[紳士は会いたくないって言う女に無理やり合おうとするもんなの?
ホント勘弁して欲しいんだけど……]


ブツっとインターホンの音が切れる。
コレ、出て来ないんじゃ……と思っていたけど、数分後ガチャリと家の玄関が開いた。

そこから出てきたのはベリーショートの女性。
際どいタンクトップとショートパンツ姿で、太陽の光が眩しいのか険しい顔つきをしている。


「ハァー……だっる。
仕事の依頼料は100万円。出せないなら他当たってよ」


とんでもない金額を言った女性は、眠そうにあくびをした。





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