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___息苦しさに目を覚ます。
身体は鉛のように重い。

指一本動かすことすらできないまま、ハクハクと自分の呼吸音だけが響いた。
天井に張り付いた視線を少しも動かせず、荒れる呼吸と脈打つ鼓動に耳を澄ませる。

生きている。

確かに確認できる自分の命の音に、思わず安堵してしまった。
苦しいのには変わりないが、それ以上の衝撃から抜け出せたことにこの上なく安堵していた。
あの夢から抜け出せたことに達成感すら覚える。


動けない状態が続いて、どれくらい経っただろうか?
数分だったようにも思えるし、数時間経ったと言われても納得できる。

私は汗びっしょりのベッドからようやく起き上がることができた。

幸いにも今日は休日。
学校は休みで、両親はご苦労なことに今日も仕事だ。


「……あの夢」


思い出すだけで頭を殴られたような激痛に襲われ、冷や汗がまた吹き出しそうになる。
しかし、あの夢が何なのか私には心当たりがあった。


この世界には、神様がいる。


「……」


夢の中で見たあの存在に何か当てはまる言葉をつけるとしたら……間違いなく"神様"だ。
確信できる。それほどまでに神々しく、圧倒的な存在だった。

幻だったとも思えない。
けれど現実だったのかも分からない。

だけど、もう神様を信じないという選択肢は私の中にはなかった。


「………着替えなきゃ」


落ち着かない心臓を無視するように、私はいつも通りの習慣を始めることにした。



それでも、心のどこかで悟っていたのかもしれない。
半信半疑だった神様の存在を見た。

それはつまり、もしかしたら私も"信者"になってしまったんじゃないかってこと。

信者はほとんど例外なく、何かしらの超能力……"力"を持っている。
もしかしたら私にも……なんて、どうしても考えてしまうのだ。



汗でびっしょり濡れた寝巻きを着替えて、朝ごはんにトーストを焼いた。
いつも通りの習慣をするだけで、心臓が落ち着いていくのを感じることができた。

今日の予定はどうしようか。

信者とか神様のことはどうしても気になる。
少しくらい情報収集をした方がいいかもしれない。

それなら本屋さんか図書館に行ってみよう。
ネットの情報でもいいけどいまいち信用できないし、気分転換に外に出た方がいいだろう。


お気に入りのブラウスに、動きやすいGパンを合わせたシンプルな格好にリュックを背負って外へ出た。
先に図書館に行ってみようと、最寄りの駅へ足を向ける。

しばらく歩いていると、近くの公園に出た。
公園を突っ切って行くと、少し近道になるのだ。

だけどいつもなら人なんていない小さな公園に、コートを着た長身の男がいた。
ブランコに座りブツブツと何かを呟き続けている。
手に持つスマホを顔に近づけたり離したりクルクルと上下を回転させたりして、不自然な行動ばかりをとっている。

ぶっちゃけ怪しい。不審者の鏡のような男だ。


「うーむ、ここら辺だと思うのだがね。やはりスマホの地図を頼るのではなく、ここらの地図を買ってくるべきだったか。
さっきの大通りに甘いバターの香り漂う魅力的なケーキ屋があって、今この公園だからおそらく方角は間違っていない。しかしこの現在地だと言い張るこの青い丸はなんだ?どう考えてもこの位置からズレているじゃないか。僕は今公園にいるんだぞ?なぜ住宅の真上を表示しているんだ君は」

ブンブンとスマホを振り、大きなため息をつく男。
公園を抜けていくのが近道だが、あの男の前を通るくらいなら少し遠回りでも違う道で行った方が安心だ。

私はそっと進路を変え、公園から離れることにした。



______


どうしてこんなに悪いことが続くんだろうか?

公園を離れ、あの不審者の目が届かない道から進もうとした。
そこまではよかった。なのに私は今、見知らぬ黒服の男達に囲まれている。


「お前が新しい信者だな?」

「ひ、人違いです!」

「嘘をつくな。リーダーの"力"から逃れられるわけがないだろう。
力の詳細を言え」

「ち、力なんて私……っ」


黒服の男達に囲まれて、私は逃げ道を失っていた。

いやいや力の詳細って言われても分からないし!
もし仮にあの夢の存在が神であっても分からないものは分からない!

しかし、能力を言わない私を見て隠していると勘違いしたのか黒服の男は腕を乱暴に掴んできた。


「は、離してください!警察を呼びますよ!?」

「呼んでも無駄だ。信者を一々助けるほど警察も暇じゃない。
警察が助けるのは、信者によって被害被った無能達だけだ」

「だ、誰か!誰か助けてください!!」


黒服の男の力は強く、抵抗してもまるで歯が立たない。
どうしようどうしようどうしよう!?

パニックを起こした私は泣きそうになるのを必死に堪え、助けを求め続けた。


「誰か!お願いです!助けてください!!」


声が響く。
しかし、住宅から人が出てくる気配などまるでなかった。


「助けてください!!襲われているんです!!」


声だけが虚しく響く。
誰も助けてくれないのだろうか?私は、どうなってしまうんだろうか?

目の前が涙でぼやける。腕を掴んでいる黒服の男は乱暴に私を連れて行こうとする。
それでも、私にできるのは助けを求めることだけだった。


「っ…誰か!!」


「実にテンプレートな事態ではないか!レディが黒服の男達に襲われている現場に遅れて現れる謎の男……僕はまるで漫画の主人公だ!
ならばこの僕が完璧なヒーローを演じ、このアクシデントを見事解決することこそが最高のエンドのために必要!!
そうは思わないかね、諸君!」


やけに通る男の声。そしてコートと片手には地図画面が開きっぱなしのスマホ。

……覚えがあった。

そこにいたのは私が公園で避けようとしていた不審者の男だった。


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