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第1章 異世界へ
初戦、そして死線
しおりを挟む異世界に来た興奮そのままにダンジョンの小部屋を飛び出した隆人。その目に映ったのは、通路の50メートル程先にいる炎を纏った巨大な二足歩行の熊だった。
「あれが、魔物?遠くから見た感じでも体長3メートルくらいあるし……腕めっちゃ太いし、何より燃えてるし……まさにファンタジーの生き物……」
もちろん、燃えているといっても火だるまというわけではなく、腕や体の一部の周囲を炎がゆらゆらと漂っているだけである。
だが、その異様な存在感と圧力は、50メートル程離れた場所にいる隆人にもビシビシと伝わってくる。
「ゲームで似たような魔物見たことあるな、グリズリーだったっけ?まぁそいつは炎纏ってなかったけど……。てかあれ初戦で戦う相手じゃないでしょ」
そんな風に愚痴る隆人だが、その頭にはもう戦う以外の選択肢は無かった。隆人のなかでは、この世界での自分の力を試したいというのと、異世界転生という非日常のワクワクが勝っていた。
「今俺にできるのは身体強化のユニークスキルだけ……」
呟きながら、自分の持つ唯一のスキルに意識を向ける。するとステータスの時と同じように詳細が頭に浮かんでくる。
身体強化 LV 1 消費MP 10~
発動句 「ブースト」
MPを消費して自分の身体能力を一定時間上昇させる。
ただし、MNDには補正がかからない。
MPの消費量とスキルレベルによって上昇率変動。
スキルレベルに応じて派生スキル解放。
「まぁ、予想通りかな。とりあえず、試しに使ってみるか……『身体強化』」
発動句を唱えると、血がごっそり抜かれる様な感覚の後、身体から青白いオーラが吹き出す。それと共に隆人の身体が少し軽くなり、五感が鋭敏になる。
「こんな感じになるのか……最初のはMPが消費された感覚かな。さて、どれだけ変わったのかな」
身体強化の効果が気になった隆人はステータスを開く。この感覚にも慣れて来た。
隆人/人間族 LV.1 job なし
HP 25/25 MP 3/13
STR 6(+1)
MND 4
VIT 6(+1)
AGI 5(+1)
「う、うーん…微妙だなぁ……」
確かにステータスは上昇した。だが結果を言えばMPの8割近く消費して上がったのはたったの1。
割合で上昇する為、レベルが低いと上昇率も低いのは頭ではわかっていても、釈然としない思いが出てくる。
「これは流石に厳しいよな……っ!?」
突然、背中を冷たいものが走る。ふと見ると先ほどの熊魔物がこっちを見ていた。
「グルゥ……」
熊魔物の雰囲気がガラッと変わり先ほどまでとは明らかに違う圧力が隆人を襲う。すぐに隆人は彼我の格の違いを本能的に理解させられる。
「死」が頭をよぎる。
先ほどまでの興奮は一気に冷め、警戒心は一気に最高まで高まる。半身でいつでも行動できるような体勢をとり、熊魔物の行動に注視する。
「グゥ………………ガァァァァァァァ!!!」
それを見て熊魔物が雄叫びを上げる。そしてその勢いのまま、こちらに向かって突っ込んでくる。
「っ!?速すぎる!!」
熊魔物がその強靭な肉体をフルに使った突進。その速度は凄まじく、50メートル程もあったはずの互いの距離は一瞬のうちに10メートルを切る。
見ると、鋭い爪を持つ右手をもち上げており、今にも振るわれようとしていた。
「これは、まずい!!」
身体強化によって増幅された五感と生物としての本能が攻撃の危険性を察知する。まともに食らったら死ぬ。その感覚に急かされるように全力で後方に跳躍して回避する。
ブォォン
直後、風切り音とは思えない音を立てながら袈裟懸けに振るわれた熊魔物の爪が一瞬前まで隆人がいた場所を切り裂いた。そして爪の先端部は防御姿勢を取っていた隆人の左腕を少しだけひっかく。たったそれだけで、
「ぐあっっ」
隆人の身体は宙に浮いた。左腕にとんでもない衝撃を受けたと思ったと同時に隆人は吹っ飛ばされたのだ。
そのまま水平に飛んだ隆人の身体は、すぐ後ろにあった小部屋の出口を通り、小部屋の反対側の壁に鈍い音を立てながら激突する。
肺の中にあった空気が一気に吐き出され、視界が明滅する。激痛に意識を手放しそうになるが、それをなんとか振り払い起き上がった隆人はすぐに状況を確認する。
隆人/人間族 LV.1 job なし
HP 2/25 MP 3/13
STR 6(+1)
MND 4
VIT 6(+1)
AGI 5(+1)
「んなっ!?」
HPが1割を切っていた。確かに衝撃であらぬ方向に曲がった左腕はおそらく折れているし、内臓も損傷している。更に、纏っていた炎の影響で左半身が火傷で爛れている。客観的に見れば十分瀕死といっていい状態である。
ただ、今はあくまで攻撃に掠っただけなのだ。もし直撃していたらと思うと肝が冷える。
そこまで考えて、隆人は自分の通ってきた出口を見る。未だ熊魔物は出口のすぐ向こうに佇んでいた。しかし、一向に中に入ってこようとはしない。
「もしかして、入って来れないのか?」
その様子をみて隆人は仮設を立てる。この部屋自体がモンスターの進入不可領域、つまりダンジョンにおけるセーフティポイントなんじゃないか、と。
その予測を裏付けるように熊魔物は唐突に踵を返す。その姿は追跡をやめたと言うより、まるで先程まで敵がいたことすら忘れたようである。
それでも隆人は警戒を解かず、じっと出口を見つめる。その後しばらくしても熊魔物が戻ってこないとわかると、ふっと息を吐き警戒を解く。
「生き延びた……か……」
そして、電源が切れるように意識を手放した。
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