身体強化って、何気にチートじゃないですか!?

ルーグイウル

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6章 大闘祭

訪問者

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「職別級、予想以上に観ていて楽しめたね」
「はい!各職の差異がよく際立たされていて、見ていて白熱しました。中でも魔法使い級の『煌炎の魔女』アリシア・ベイベリオンさんは凄まじかったですね」
「ティナの兄方もかなりの武芸者だったな、剣の型は違えど技量の高さは見ていて伝わってきた」
「リューさんもいたのです!」


 大闘祭1日目を終えた隆人達4人は、宿に戻ってくるや否や口々に一日の感想を交わし合う。4人ともが始めて味わう闘争の祭典、その刺激は彼等の気を昂らせるには十分なものであった。もう一日も終わるというのにその熱は冷める様子もない。


「あの職別級が前哨戦って事は明日の無差別級はどんな人たちが出場するのかな、今から楽しみだよ」
「私もです、ディアラからこれまで身につけてきた力がどれだけ通じるのか」


 そう盛り上がりを見せる4人、今日の興奮と明日への期待が皆の口を止めさせない。

 
 だがその盛り上がりもやがて終わりを迎える。


「……ん?」
「……です?」
「どうかなさいました?リュート様、ロロノ」


 ふと様子が変わり外を見つめるようにする2人に疑問符を浮かべるティナ、だが2人がその問いに答える前に、部屋の扉がノックされる。


「お客様、夜分に失礼致します。お客様方にご用があると言う方が外に見えております」


 隆人がノックに応じるとともに扉が開き、この宿の主人である燕尾服の男が姿を見せる。だがティナはこんな時分に尋ねてくる者に心当たりはない。一瞬太陽の剣の面々グリンジャーたちかとも思ったがそもそも彼らにはこの宿の場所は教えていない。


 どうしますか?と隆人に判断を仰ごうとするが、その一歩前に隆人が答えた。


「構わないよ、通してくれ」


 その隆人の返事を受け、宿主が恭しく一例をした後部屋を後にする。


「よろしかったのですか?だれかもわかりませんのに」
「大丈夫、敵ならわざわざこんなところを狙ったりはしないし、わざと垂れ流しにしているらしいこの気配はおそらく……」



 そして再びガチャリと音を立てて開く扉。その向こうにいたのは、腰に剣を携え軽度な制服にその身を包んだ予想外の客であった。


「冒険者パーティ『暁の風』。私は王国直轄軍所属第四分隊隊長エドワード・グランザム・シャリエと申します。このような夜分の訪問で失礼します」


 その男ーーエドワードは部屋に入るや否や軍式の敬礼でもって隆人達に挨拶する。その挙動にはやはり無駄がない。


 そのままの姿勢でゆっくりと視線を4人の間で動かすエドワード。値踏みするかのようなその目にロロノやシルヴィアが身構える。ピリリとした空気を纏うエドワードによって場の雰囲気が変わる。
 やがてその視線はティナの方向で止まった。




「クリスティィーナァァァァ!!!おぉ我が愛しの妹!!!見ないうちにまた一層に美しくなったなぁ!!!お前が家を出た5年間、いったいどれほど心配したことか!!!さぁ、また昔みたいに『お兄ちゃん』と呼んでくれ!!!」
「「………………は?」」


 

 一瞬前とは全く別の意味で場が硬直する。あまりに予想外で突然な出来事に隆人ですらも唖然としたままである。そして当事者であるティナは羞恥で俯き、エドワードは1人熱を増す。


「落ち着いてくださいエド兄様」
「どうしたんだい?前はすぐに寄ってきたじゃないか。将来はエドお兄ちゃんと結婚するって言っていただろう?ほら!」
「いつの話ですか!子供の言葉をいつまでも真に受けないでください、エド兄様、いえ!」
「さん!?。」


 その一言が精神的に重い一撃となったようだ。さん付けをされたエドワードは顔面をハンマーで殴られたように大きくのけぞり、天を仰いだまま動きを止める。それから再起動するまで数分を要した。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「お見苦しい姿をお見せしました。5年ぶりの愛しき妹の姿につい気持ちがはやってしまって」
「構わないよ。それで、王国軍の分隊長にもあろう人がこんな時間に何の用なのかな?」


 再起動を経てやっと落ち着いたエドワードは現在、部屋にある椅子に座り隆人と対面している。
 ちなみに、2人が腰掛けた時点で机には防音結晶が置かれている。それだけこの後の話が重要でかつ機密性の高いものだということがわかる。


「いえ、立場上軍属として名乗りましたが、今回の要件は軍によるものではなくシャリエ家としてのものです。この宿の場所もセバスさんが探し出しました」
「なるほど、あの人なら確かに俺たちの宿泊場所くらい特定するくらいできてもおかしくない」


 シャリエ公爵家に使える執事であるセバス。現当主オズワルドの盟友でもある彼は個人としての腕も確かであり、執事としての雑務だけでなくシャリエ家の影の部分をも支えている。
 そんな彼の手にかかれば1日程度で隆人達の宿泊する宿を特定するくらいわけないのだろう。


「内容が内容なので本来であれば父上が直接伝えたかったようですがこの時期は忙しいですからね。手が離せない父上の代わりに私が遣わされたというわけです。あいにく私も軍の令で戦士級への出場があった為この時間になってしまいましたが」
「問題ないよ。それで、要件って?」
「はい。先日のクリスティーナの成人の儀で起きた一連の件についてです」


 申し訳なさげに話すエドワードに、隆人が気にする必要はないと手振りで返し続きを催促する。
 先日の一件、ティナの成人の儀に際してシャリエ家お抱えの冒険者パーティ「雷神の怒り」が裏切り、オズワルドとティナを暗殺を実行、さらに「雷神の怒り」のリーダーガイルの変貌。
 あれだけのおおごとだが、今となってはだいぶ前の出来事に感じる。


「その後『雷神の怒り』の面々や君たちの証言をもとにあの一件の裏についてシャリエ家の暗部が調査したところ、不可思議な点が存在しました。
 それは情報の速さ。あの一件の直後「雷神の怒り」がシャリエ家を離反したという噂が急速に広まっています。恐らく『雷神の怒り』が成功すればよし、失敗しても彼らが処断されその事実を広めることで戦力と権力両方を削げるとの狙いなのだろうとのことです。
 これだけの事を成せる権力ちからに周到さ、公爵家の残る2家どちらかによるものに間違いないでしょう。証拠は今後探していくでしょうが相手が相手ゆえ一筋縄ではいかないでしょうね。君たちも気をつけていてください、クリスティーナがシャリエ家と縁を切ったとは言えこの件とは無関係ではありませんので。とは言え今回、リューさんが斥候級へ出場した事でシャリエ家からの離反という噂は払拭されたので、やつらもしばらくは様子見に走ると思われますが」


 矢継ぎ早に繰り出される情報の数々、単なる諍いのはずが大貴族同士の権力争いにまで発展するとは、予想外の話に特に標的であったティナが驚きをあらわにする。
 ちなみに部外者であるシルヴィアは既に話についていけておらず、ロロノはほぼ開幕からポカーンとしている。


 それはさておき、エドワードが話を続ける。


「そしてガイルを連れて行ったという黒衣の男ですが……そちらに関してはまだ情報が足りていません。『雷神の怒り』達と依頼主の窓口を担い、肉塊と化したガイルを連れ去った事実はあるのですが、その素性が全く掴めていないのです。ガイルが服用した錠剤についても同様です」
「そっちについては俺たちが少し情報を持ってるよ。おそらくあの黒衣の男は魔族、それか魔族に与する側の者だと思う」
「魔族!?それは事実ですか」
「うん、あの後別件でガイルと似た姿の敵と遭遇したんだけど、その件に魔族が黒幕として関わっていたんだよ。これについては大闘際が終わる頃に冒険者ギルドから正式に情報が出ると思う」
「まさか公爵家が魔族と繋がっているとは、信じられません……。早急に調査の強化と対策が必要ですね。私としてもギルドの発表の前に軍として色々と動かねばいけないでしょう」


 魔族という単語を聞き、目に見えて顔つきが変わるエドワード、それほど魔族の存在がお伽話以上に恐れ警戒されているという事だろう。


「魔族達もまだ表立って行動する様子は見られませんし、これまで見つからずに暗躍していた点からみてもかなり慎重を喫しているよう、戦力と警備が整った大闘際中を狙う事はないと思いますが警戒に越した事はありません。公爵家のことと合わせて警戒はしておいてください」
「うん、わかったよ」


 エドワードの言葉に隆人が頷くのを確認し、エドワードが席を立つ。要件が済んだのだろう。確かに重要な情報もあったし、魔族についてこちらから説明に赴く手間も省けた。突然の訪問ではあったがエドワードとの話は非常に有意義なものであった。


「それでは、私はこの話を本家に父に伝えなければいけませんので、君たちは無差別級に出るのでしょう?戦うことはできませんが、父の話にある実力を見ることができるのを楽しみにしています」


 立ち上がったエドワードが机に置かれた防音結晶を取りしまおうとするが、その手が途中で止まる。


「あぁ、そうだ。もう一つ」
「ん?まだ何かあったのかな?」
「いえ、これは私個人の要件なのですが」


 そう言って再び防音結晶を置いたエドワードがそのまま隆人へと近づき、耳元で囁く。


「父上はクリスティーナを君と一緒に行かせる事を許したようだけど私は違う。もし愛しのクリスティーナに何かあれば、"殺す"」
「なんだそんなことか。言われるまでもないよ」


 一瞬だけピシリと刺すような殺気が隆人を襲う。隆人はそれを飄々と受け流し、逆に挑発じみた口調でエドワードに返した。


 そして今度こそ防音結晶を回収し、エドワードが宿の部屋を後にした。


「リュート様、兄がその、色々とすみません」
「ん?大丈夫だよ。それより、早く休まないとね。魔族や公爵家のこともあるけど、それよりまずは明日の予選に集中しないと」
「そうですね!予選とは言え油断はできません。しっかりと体調を整えておかないと」


 突然の訪問者という騒動などもあったが、こうして、大闘際1日目が終わりを告げた。


 ーーそして、大闘際2日目。ついに無差別級の予選が開幕する。



(10日ぶりの更新です申し訳ありません。エドワードは超重シスコンというまた面倒なキャラクターです笑……相変わらず筆は止まっていますが、次回はあまり間が空きすぎないように頑張ります)
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