身体強化って、何気にチートじゃないですか!?

ルーグイウル

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6章 大闘祭

エドワード

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「いやぁすごかったね魔法使い級。あそこまで派手な撃ち合いはなかなか見れないよ」
「そうですね、実力のある方もたくさんいましたし、各試合ともそれぞれ見応えのある試合でした」
「中でもアリシアという者は別格だったな、使った魔法は1つだが、恐ろしい腕だ」
「[煌炎の魔女]だっけ?仰々しい異名がつくだけの事はある。相当な使い手だね」
「すごい炎だったのです!」


 魔法使い級の全予選を観戦した隆人達が興奮冷めやらぬといった様子で話す。それだけ予選の試合は盛り上がるものであった。
 多種多様な魔法に見たことのないスキルの数々、そして観客の度肝を抜く大魔法。会場を沸かせるには十分であった。



 だがそれもやがて収まる。魔法使い級の試合が終わると共に観客達がちらほらと立ち上がり闘技場を後にしていく。


「あれ?みんな帰っていくね」
「毎年の事ですよ、事情で強者も混ざる魔法使い級に比べて戦士級は新人なども多く大きく質が下がりますし、斥候級は一般人には面白みに欠けます。本戦となればもう少し人も増えますが予選から注目して見ているのはよほどの物好きか"お抱え"候補を探す貴族の方々くらいですね」


 そう皮肉げに笑うグリンジャー。だが事実まさにその通りであり、戦士系jobの実力者は揃って形態が近く上位である無差別級に出場するので、戦士級に顔を出すのは基本Dランク以下、稀にCランクが出場する程度である。そして斥候級に出場する者達はそのjobらしく秀でるのは隠密や索敵、あまり見ていて盛り上がるものではない。


 そんな中、近くに座っていた観客の会話が耳に入る。


「おい、聞いたか?今回の戦士級、あのエドワード・グランザム・シャリエが出るらしいぞ?」

  ピクッ

「まじか?エドワードって言ったら今の王国軍分隊長、あの[麗剣の貴公子]だろ?なんでそんな奴が戦士級なんかに」
「大方軍の示威目的だろうよ、最近目立った出番が無かったからな、ここらで若手の有望株に活躍させておこうって腹だろ」
「軍も大変だねぇ」
「だが楽しみなのは事実、噂でしか聞かなかったその実力を見る事ができるんだからな」
「確かに、コネで出世したボンボンって話もあったからな、もし噂通りの腕なら戦士級くらい楽勝で優勝してくれるだろうよ」


 本人達にとっては他愛ない会話なのだろうが、偶然にもそのそばで聞いていた者たちにとっては他愛ないものでは全くなかった。


「ほう、[麗剣の貴公子]といえばかの武功に優れるシャリエ公爵家の次男でありながら、その剣の腕一本で王国軍の分隊長の一人に名を連ねるまでになった武人。その剣の冴えはかなりのものだとか。
 ディアラにも名が届く者をこんな場所で見る事ができるとは思いませんでしたね」


 耳にした話に純粋な興奮を示すグリンジャー、その名前は割と有名か部類に入るようである。
 そんなグリンジャーを傍目に、隆人がティナへと囁きかける。


(ねぇティナ。エドワード・って……)
(……はい、私の兄です。そして、私の剣の最初の師でもあります)


 以前ティナは、家を飛び出す前に周りにいた者に戦いの術を学んだと話していた。魔法は父オズワルドの盟友である魔法使いから、そして剣は剣術に秀でた兄から。
 その兄というのが、このエドワードであったのだろう。

 
(強いのかい?君のお兄さんは)
(はい、兄は幼少から天才と呼ばれていましたし、少なくとも私が教えを請うていた頃は一度も剣を当てることすらできませんでした。もちろん5年も前ですしあの頃は魔法との併用などの技術はなかったので根拠にはなりませんが)


 それは尺度としてはひどく曖昧なものであるが、隆人とであった頃のティナは戦い方こそ愚直でレベルも今に比べれば低かったが、その剣筋に関しては評価するに値するレベルであった。それにセンスも申し分ない。当時ですらソロでCランクだったことからもそれは言えるだろう。
 そんなティナが、5年前の出発時にどれだけだったのかは明確では無いにしろ一撃も当たらなかったというのは、そのエドワードという男、実力に期待が持てる。


「リュートくん?どうしましたか?」
「いや、そのエドワードって人がどんな戦いをするのか楽しみでね」
「ははは、私もですよ。……おや、始まるようですね」 


 グリンジャーの言葉通り、戦場の準備が終わり、四方の門が開く。中からぞろぞろと選手が歩き出してくる。


『魔法使い級の次は戦士級、肉体が躍動する近接戦闘の戦いだ!ルールは簡単、選手達には会場中央円形の足場の上で戦ってもらう、そして足場から周囲の水へと落ちるか、戦闘不能になった時点で失格だ!ちなみに武器は殺傷を防ぐ為、こちらが用意した刃潰ししたものを使ってもらうぞ!』


 簡単に言えば先ほどの魔法使い級を地上戦に落としたもの。ある意味非常にシンプルなルールである。そして互いの距離が近いため近接戦闘の多発生は必至。
 だからこそ近距離において強いものが生き残る。


 そこに他の選手達と同様にエドワードが軽装の騎士鎧を着て現れる。やや痩せ型長身の体躯を揺らしながら、目を細めてゆっくりと闘技場の中央へと進む。


「へぇ……」


 その姿を見とめて隆人が息を吐く。その口元は歪んでいる。そしてその横には同じように口元を歪める者が。


「リュートくん、わかりますか?」
「うん、強いねあれは。確かに話にあるだけの実力はありそうだね」


 この場にいる者たちの中でも戦闘に対する嗅覚が強い二人、隆人とグリンジャー。エドワードの歩きの所作や雰囲気から強者の匂い嗅ぎ取ったのだろう。
 

『さぁ、予選第1試合、勝利をもぎ取るのは一体誰なのか。試合……開始!」
 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「………………」
「その澄ました顔、気にくわねぇな。まずはてめぇから落としてやるよ!」


 中央でたたずむエドワードに、イラつかせたような表情を見せる男がにじり寄っていく。支給品の斧を掲げて威嚇するようである。


「……うるさいね」
「っ!なんだとてめぇ!」


 エドワードの言葉に血を登らせたエドワードが斧を振り回し接近する。対するエドワードもゆったりとした動きで剣を構える。戦闘態勢と言うにはあまりにも無造作であるが。
 そしてゼロ距離までよった男が斧をエドワードに振り下ろした。刃潰ししてあるとは言えもとより重さのある斧、重力の力も相まってかなりの威力である。


  ズパン


「動きが悪すぎる」
「なっ!?武器がーーがはっ」


 しかしその斧はエドワードの頭蓋を割る前に付け根を斬り飛ばされる。観客の中でエドワードの剣筋が見えたのは隆人達を含む極一部の者だけだ。
 だがその威力は、本来切れるはずのない剣が斧の持ち手の木を切った事で証明される。


 そして得物を失った男はその隙に剣撃の姿勢から流れるように振り抜かれた蹴りを胴にモロに受け、数メートル程他の選手を巻き込みながらとび、場外へ落下する。


「なかなかの速度だが、隙ありだ!」
「ーーそれはこちらの台詞だよ」


 蹴りの姿勢のエドワードに背後から急接近する人影。細みの男で手には鉤爪を装備している。もちろん刃先は平たくなっているが。
 攻撃後の隙を狙った男の攻撃だが、エドワードはその姿を見ることなく流れるような身のこなしで爪の軌道から体を逸らす。


 そのまま、エドワードの剣の柄が鉤爪の男の首元へと吸い込まれる。その攻撃はドッと軽い音と共に鉤爪の男の意識を刈り取る。
 一拍ののち、その体が地面に落ちた。


「お、おいなんだあいつ。2人の男を一瞬で」
「……!?あいつは[麗剣の貴公子]じゃねぇか!前にAランクの魔物を刈る王国軍の部隊にいるのを見たぞ」
「王国軍分隊長じゃねぇか!なんでそんな奴が戦士級こんなとこにいやがる」
「ちくしょう、無差別級じゃ歯が立たねえからこっちで活躍して貴族に宣伝しようと思ってたのに」
「こうなったら仕方ねえ、全員でやっちまえ!あいつさえいなくなればどうにでもなる」


 選手達のいる足場が慌ただしくなる。圧倒的な強者を前に選手達一時休戦し、目の前の邪魔者を排除することに決めたようだ。
 

「はぁ。隊長に言われて出場したけど、歯ごたえのない相手ばかりだね。どうせなら無差別級の方に出場したかったよ」
「いくぞぉ!この人数でかかればいくら[麗剣の貴公子]とは言えひとたまりもない」
「長引かせる意味もないし、すぐに終わらせてしまおうか」


 まるで波のように全方位から一丸となって寄ってくる選手達。それを落ち着いた様子で眺めているエドワード。
 元よりあまり距離のなかった両陣営はどんどんと狭まり、対峙する。
 剣や斧、爪に鞭手甲槍……様々な得物を持った選手達がエドワードへと雪崩れ込んだ。


 そしてまもなく。


 倒れ伏す、はたまた場外の水に浮かぶいくつもの人達の中央で、無傷のままのエドワードが立っているという結果で幕を閉じた。


 圧倒的な実力の差。元より質の劣る戦士級の出場者達など足元にも及ばない。会場で観戦していた全ての者が戦士級のエドワードの優勝を確信した。


(大幅に更新途絶えでしまいもうしわけないです。前回かなり格好つけて登場したアリシアですが本格的にストーリーに登場はも少し先になります笑).
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