身体強化って、何気にチートじゃないですか!?

ルーグイウル

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第5章 森王動乱

出立、そして新たな。

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 祝勝と送別を兼ねた宴から一夜。里の一角には大勢の人が隆人たちの見送りに訪れていた。


「もう出発するのだな」
「うん、今日中には街道に出て、距離を稼がないといけないからね。まさかこんなお見送りになるとは思ってなかったから申し訳ないけど」


 そう言って苦笑いを浮かべる隆人。周囲を囲うように所狭しとエルフが並ぶ。里長によるとほぼ里のエルフ全てが集まっているらしく、宴会場でもかなりの数がいたが、今目の前にいるのはその比ではない。
 正面には里長。その両脇にはシルヴィアと副団長のカイルクが控える。そしてその後ろには騎士団が各部隊長を先頭に整列している。
 その異様はまさに驚いたおどろきの一言である。


「すまぬな、お主達が今日発つと皆に伝えたらこうなってしまった。なにせ里を救った英雄がさるというのだからな」
「その英雄というのはやめて欲しいかな。俺たちはDランクパーティ「暁の風」として里長さんから依頼を受諾て、それを成功させただけなんだからね」
「それではそういう事にしておこう。だがお主達は変わらず謙虚なのだな。だがそれもお主の人望を上げる要素なのやもしれぬ」


 そう言って口元を上げる里長。里を救ったこともあるがそれを除いても、隆人に対して好感を抱いているのが伝わる。


「それでは、依頼主としてお主達への報酬の話をしようか」
「「あ……」」


 忘れていた……。隆人とティナが口を開け呆然とする。これだけ冒険者パーティとして依頼を受けたと言っておきながら肝心の報酬の話を一切していなかったのだ。
 隆人としては依頼というのはあくまで体裁を整える為というのもあるか、抜けていると言わざるを得ない。


 そしてそれは冒険者としては先達であるティナも同様であり、2人してばつが悪そうに笑う。


「そんな顔をするな。もちろんこれだけの事を成し遂げてもらったのだ、儂のもちうる限りの報酬を準備してるおるよ。満足してもらえるかはわからんがな」


 おどおどとする隆人達に里長が朗らかに笑う。そして並ぶ騎士団の列の後ろから何やら荷物を抱えたエルフが歩いてくる。
 何やら布に包まれた棒に小さな袋、それらを大事そうに里長の元へと届ける。里長はそれを受け取り隆人達へと近寄る。



「我々の里では貨幣はあまり流通してなくてな、代わりに現物で何か渡そうと思う」


 そう言ってまず小袋の方を開ける。中には大量の葉っぱが詰められている。一瞬なんの変哲のない葉に見えるが、とても強い生命力を感じる。


「……これは?」
「霊樹アトムの若葉、我々が霊樹を管理する中で毎ごく偶に凝縮された葉が落ちてくる。世界樹の分体である霊樹の葉は生命力と魔力に溢れているからそのままでも回復作用があるためこうして霊樹の恵みとして保存して納めておるのだ。おそらく外でもそれなりの価値はあるはずだと思うのだが」
「とんでもないですよ!それなりどころか霊樹の葉なんて魔道具の素材としても触媒としても最高峰。それもこれだけのかずとなればそれこそひと財産じゃないですか!!」


 無言で袋を覗いていたティナが、2人の会話に言わずにはいられないとばかりに割り込む。
 曰く霊樹の葉というのはその内包する生命力と魔力親和性でもって、すり潰し粉末にしてもよし、エキスを抽出してもよし、複数の触媒同士を繋ぐ仲介媒体の役割もこなせる植物系統で最高級の品質をもつ素材なのだという。


 当然その価値も品質に応じて高く、滅多に出回らない為、オークションの目玉商品としてあげられる事も多く、葉っぱ一枚でもAランクの魔物の部位1つと同等の値段がつけられる事も少なくない。

 
 それが一袋となれば確かにティナの言う通りひと財産と言っても過言ではないだろう。


「いいのかな?それだけの物をこんなにたくさん貰っちゃっても」
「構わんよ、お主達の活躍を見ればこれくらいは妥当だろう。そもそもこの葉達は儂らが使うよりお主達が使う方がいい物だろうからな」


 そこまで言うのなら、と隆人もこれ以上固辞するのも悪いと霊樹の葉がたっぷりと入った小袋を受け取る。中身が葉っぱなだけあった非常に軽いが溢れ出る何かを感じる。


 そんな隆人をよそに、里長はもう一つ手にもった棒のような何かを包む布を解いていく。


 受け取った小袋を見ていた隆人が何かにピクリと反応する。
 布が解かれた中から現れたのは一本の無骨な杖であった。まるで一本の枝からそのまま削り出されたような外見。だがその存在感は凄まじく隆人達の目が自然に吸い寄せられる。


「そして本命の報酬はこちらだ。……シルヴィアに聞いたのだが、お主が開戦と同時に放ったあの天変地異の如き竜巻の魔法、里にいた儂にも魔力の奔流が感じられたが、あの魔法は良質な杖を使い捨てにせねば使えぬのだとな」
「あぁ『テンペスト』だね。うん、あの魔法は全力で撃つと魔力の圧力で杖が内側から崩壊してしまうって欠点がある」
「ならばこの杖が報酬に相応しいのではないかと思ってな。この杖の名は『久遠の杖』。太古の昔、世界樹から落ちた太き枝がそのまま杖と成ったと言うエルフの至宝。この杖はその銘がごとく不変。如何なるものからも害されぬ世界樹の加護が込められていると言われている」


 エルフの至宝。この杖から感じられる力をしてみればそれも納得であり、この杖ならば隆人の膨大な魔力を使う魔法をも受け入れ、更に高めてくれるような予感がする。


 だが果たしてそんな品を里長の判断で受け取っていいものなのか。隆人が周囲を伺うと周りのエルフ達もこの杖を報酬とする事は初耳であったようでざわついている。だがその聞こえてくる声は否定的なものではなく、隆人達になら渡してもいいのではないかと言う好意的なもので占められている。


 それだけ認められている。そう感じた隆人は嬉しさがこみ上げる。そして里長の手から「久遠の杖」を恭しく受け取った。


「ありがたく受け取らせてもらうよ。それじゃあここで試し打ちーーは流石にできないね」
「……そうしてもらえると助かる」


 試し打ち、と言った瞬間里長の穏やかな顔がピキリと固まる。冷や汗を流すその様子に隆人がすぐに訂正するとホッと声が漏れるほど息を漏らす。
 それはティナ達も同様であり、ここで「テンペスト」を撃とうものならいくら全力ではないと言えどここら一帯は悲惨になるだろう。杖を受け取りテンションの上がっていた隆人も頭が冷えたようで苦笑いしながら杖をストレージへと「収納」した。


「それと、お2人さんにはこれを渡そう」


 隆人が杖を受け取った後、里長が今度はティナ達に声をかける。促されるまま前に出た2人に里長が小さな何かを手渡す。


「イヤリング?」
「うむ、これも我が里の宝身につけた者に自然の加護を宿すイヤリングだ。この先きっとお主達を護ってくれるだろう」
「きれいなのです……」


 渡されたのは精緻なイヤリング。それぞれに翡翠色の、彼らエルフの眼と同じ色の玉が付いている。


「同時にこれは我らエルフがその者達を"友"と認めた証でもあるのだ。大森林へと訪れた折、このイヤリングに魔力を込めればそれは我々に伝わり、迎えを出そう。また、近くに寄った時にでもこの里を訪れてほしい」
「はい!わかりました」
「友達なのです~」


 イヤリングを受け取った2人が嬉しさを滲ませながらこたえる。その返答に里長が満足げに頷く。


 そんな中、物憂げな顔をしている者が1人、シルヴィアである。その顔は別れを寂しがるというのもあるが何か悩んでいるようである。
 その様子をちらりと一瞥した里長が、決意とばかりに言葉を発する。


「シルヴィア、お前もこの者達と共に行くのだ」
「ーー里長様!?」


 突然振られた話にシルヴィアが素っ頓狂な声で驚きを示す。しかし里長はその様子は流し続ける。


「幼き頃より騎士団の一員として育ったお前が外の世界に憧れていたのは知っている。そして強さの高みを望んでいることも。今回の救援を森の外に求めようとしたのも外への想いが無意識にそうさせたのかもしれん。そしてこの者達との出会いでその想いが強くなったのだろう?この者達といけばその望みが叶うかもしれぬと」
「それは……。しかし、わたしには騎士団長のしての責務が!ラルフが倒れたと言えまだ里の周囲は荒れており警戒が必要なはずです」
「それは副団長であるカイルクに任せればよかろう?騎士団の皆もお前がいなくなっただけで崩れるほどやわではなかろうて」
「ですが、彼らにも決める権利が」
「俺たちなら歓迎するよ。シルヴィアさんなら俺たちの仲間にも相応しいと思うな」


 話を振られた隆人が明るくこたえる。ここでの数日間でシルヴィアの人柄を知った隆人達はシルヴィアに好感を抱いており、「暁の風」の一員として迎えることに抵抗はない。
 内も外も壁が無くなっている。それを理解したシルヴィアがもう一度里長を見る。里長がそれに応え頷きを返すと、シルヴィアの表情がみるみる明るくなる。


 そして里長がその体を今度は逆側に控えたカイルクへと向ける。


「聞いていたな?」
「はっ」
「カイルク・バルバロイ。貴殿を今を持ってエルフ騎士団の新たな団長とする。これまで以上に里の力となってくれ」
「はい、里長様。この身をもって努めさせていただきます!」
「そして、シルヴィア、お前はその者達と共に外の世界を旅してくるがよい。そしてーーまた一緒にこの里を訪ねてくれ」
「里長様ーーいえ、ハイリヒおじさま。行ってきます」


 里長と騎士団長としてではない、久方ぶりの言葉を交わし、シルヴィアが隆人達の前へ進む。


「それでは改めて、シルヴィア・クラリアンテだ。まだ若輩だが、リュート殿達と共に歩ませてくれ」
「うん、歓迎するよ。シルヴィアさん」


  ワァーーー

 と、これまでで一番の歓声が辺りを包み込む。シルヴィアの出発を皆が祝福しているのだ。


 そしてシルヴィアは隆人達と共にその歓声に背中を押されながら、エルフ族の里を後にした。




(これにて5章「森王動乱」終了です!次回から6章が始まります!6章では新たなキャラクターや久々の登場の人達などかなり大きな章になる予定です。未だ投稿荒れていますが頑張って書いていきたいと思います)
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