身体強化って、何気にチートじゃないですか!?

ルーグイウル

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第5章 森王動乱

幕間 side.とある1匹の小鬼

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(表現が過激かもなので注意を……)


「ウゥ……?」


 キョロキョロと辺りを見回す。視界に映るのは木と草のみ。
 僕が何者か、ここがどこなのか、なぜここにいるのか、何もわからない。


「ガルルゥ」


 背後に気配を感じて振り向く。そこにいたのは狼のような姿をした生き物であり、僕に対して明確に敵意を持っている。
 突き刺さるような害意に、身が竦む。


「ガゥ!」
「ウワァッ」


 飛びかかってくる。迫る爪と牙に命の危険を感じて、咄嗟に移動する。転ぶように倒れてなんとかその突撃を回避する。
 だが、避けきれずに爪の一本が頰をかすめた。ポタリと血が落ちる。


 戦慄する。目の前の存在は違い無く僕の命を奪おうとしているのだと決定的に理解する。
 嫌だ。怖い。死にたくない。


 戦わなければ。死なない為にはこの狼を殺すしかない。半ば強迫観念のように戦意が湧き出す。


「ガァ!」
「死二タク、ナイ」


 また狼が迫る。殺意をもって牙で嚙みつく。


 怖い。あの牙が僕の体を貫く、想像するだけでも恐怖で背筋が凍る。
 でもやらないと。この狼を、「殺す。」


 牙をかいくぐりその胴へと飛びつく。そのまま地面へと倒し。前足にのしかかるように膝を使い抑え込む。そうすれば動けないと僕は


 事実、狼はジタバタともがくが、抜け出す事は出来ない。狼が動けないうちに拳を握る。


「ウオオオォ」
「ガ、ゥゥ」


 そして殴る、殴る。狼の頭部を握った拳で殴り続ける。僕の中にある恐怖を全て吐き出すように。


 狼も抵抗しようと一層に暴れるけど、僕にのしかかられているせいで鋭い爪を持つ腕は上がらず、牙も空気を食べるだけ。


 でも、退いたら今度はこちらがやられる。目の前の狼が発する殺意はそれだけ強い。
 だからこそ、ひたすら殴り続ける。



 ……いつまでそうしていただろうか。それはまるで無限に続くかのような時間だった。その間僕は一度を拳を止める事なく振り続けた。
 はじめは抵抗も強かったが、それもじりじりと弱くなっていき、遂になんの反応も示さなくなる。


 狼から生気が全く感じなくなってようやく、僕はその拳を止める。
 


「ハァ、ハァ……」


 肩を上下させ荒く息をする。肉体的な疲労もそうだが、精神的な消耗が非常に大きい。未だに体の震えが収まらない。


 視線を落とす。狼はピクリとも動く様子はない。どうやら本当に死んだみたいだ。 


  ー僕が殺したー


 ゾワリと今更になって実感が迫る。先程まで生きていた存在、その命を今自分がこの手で奪ったのだ。さっきまでとはまた別の意味で自分の手が震えるのがわかる。
 そして同時に悟った。この世界は戦わねば生きることができないのだと。


 力が弱ければあっという間に強い者に殺され、強き者のみが生存を勝ち得ることができる。
 戦いは嫌いだ。でも逃げているばかりではやがて殺される。生き残る為には強くなるしかない。


 
 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 それからしばらくの時間が過ぎた。僕は森で生き続けている。数えきれぬほどその命を狙われ、時に戦い、時に死にものぐるいで逃げ、生存するという事実を守り続けてきた。


 何度も死にかけながら、頭と体、僕の全てをもって窮地を乗り越えてきた。


 そして今やこの体も大きくなりその力も増している。心身ともにかなりの成長を遂げていた。


「ガッ!?ガウッ」


 僕の進行方向にいた魔物がこちらをみて驚き、逃げるように退く。それも一体だけではなく、その場にいた魔物達のほとんどが一斉に道を開ける。


 いつからだろうか、力をつけていく中である時からこのような反応をされることが増えてきた。本能で力の差を理解しているのだろう。
 遠くから怯えたような目を向ける者や中には服従するかのような姿勢を見せる者もいる。


 昼夜問わず襲われ続けた頃からは信じられないような光景。もちろんこれはほんの一部であって、未だ見境なく襲ってくる魔物も多いけど、戦い嫌いな僕としては無駄な戦いをすることなく、無意味に命が散らされる事がないのはいい事だと思う。
 

「…….戦闘、アッチカ」


 遠くで戦闘の気配を捉える。おそらくまた何かが戦っているのだろう。普段であれば意に介することはないのに、今回だけはなぜか無視できない。どうにも気になってしまう。
 不思議に思いながらもそちらへと足を向けた。



 
「くっ!下がっているんだ、ハイリヒ」
「アルバートル様!無茶です!」


 戦いの気配がする方へ向かうと、そこでは人型の生き物と複数の魔物が戦闘を行っていた。魔物は小さな群れを作る四足歩行の魔物で、この森の中でもかなり強い部類にはいる。そして相手の人型の、たしかエルフとかいう若者2人はかなり消耗しているのが見て取れる。


 大きいエルフが小さいエルフを後ろにかばうように立ち、魔物達が囲むように広がり先頭が最初に飛びかかっていく。


「うぉぉぉぉ!」
「アルバートル様!!」

「見テラレナイ」


 その様子に体が勝手に動き双方の間へと割り込む。魔物達の攻撃を受け止める。


「オーガ!?なんでこんなところに」


 僕の姿をみたエルフ達が叫んでいる。オーガ、そう、僕は人間達にとってはオーガと呼ばれる存在らしい。以前遭遇した人間が僕をみてそう呼んでいるのを聞いた。
 だけど、そんな事に対して興味はない、僕は未だ寄ってくる魔物達を横目に睨む。


「……渇望カツボウ
「「「キャン!?」」」


 魔物達が急に力が抜けたように突っ伏す。これが僕の力。少し前に瀕死の重傷を受けた際に手に入れたもので、相手の生力を奪う。
 ついでに掴んでいた先頭の魔物を群に向けて投げる。それで魔物達は力の差を察し動きを止める。ひらりと腕を振ると一目散に逃げていった。


「貴様!止まれ!」
「よせ、ハイリヒ。……このオーガ、言葉を発していた。もしかして、理性があるのか?」
「…………」
「私はアルバートル、クラリアンテ。君は一体何者なんだ……?」


 小さいエルフが剣を向けるが、大きいエルフがそれを制する。どうやらこちらは僕に殺意を向けていないようだ。
 話かけて来ているようだが、それを無視して僕は森の奥へと戻っていった。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ふむ……」
「里へ戻りましょうアルバートル様、時期里長がこんなところにいては皆が心配します」
「それもそうだな」

 


 ーーこの時はまだ誰も知らない。やがてこのオーガが大森林の魔物達を支配する『森王ラルフ』と呼ばれるようになる事を。



(幕間です!いつもとは違う視点で書いていたら思いの他時間が……汗
投稿開始から一年が経ちました!まさかここまで書き続けられるとは最初は思っていませんでした。これも読んでくれるみなさんのおかげです。これからもよろしくお願いします!)

 
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