身体強化って、何気にチートじゃないですか!?

ルーグイウル

文字の大きさ
上 下
115 / 141
第5章 森王動乱

黒衣の扇動者

しおりを挟む
 隆人とラルフによる戦闘。異次元で行われるその戦闘に、魔力弾による横槍が入れられる。 


 そして不快げな声と共にその魔力弾が放たれた方向から、黒衣の人影が現れた。周囲の者たちの視線がそちらに集中する。
 隆人だけは正面のラルフに視線を向けて警戒を怠っていないが。


 しかし森王ラルフは先程までとは打って変わり、その動きを止めている。


「黒装束!?まさか、成人の儀の時の!」


 その姿を見て、ティナが叫ぶ。そして、同時に蘇る記憶。先日、レティシアの森にて突如現れた全身を真っ黒な装束に包んだ男が、怪物と化したガイルの肉塊を掻っ攫っていった。
 隆人達も抵抗したが、隆人が既に身体強化・Ⅶの発動後で相当に動きが鈍っていたとはいえ、精霊の魔法を得たティナにロロノ、隆人の3人がかりでも全く相手にならなかった。


 しかも、その男はティナの姉であったエリザベートを五年前に殺害した仇である可能性もある。そんな男と同じ黒装束の男を前に警戒心を露わにする。


「ティナさま、この人はちがうのです」
「ロロノ?違うとは」
「このまえの人とこのくろい人、においが別人なのです」


 ティナの隣にいたロロノが真剣な顔で首を振る。獣人特有の高い嗅覚でにおいを判別したのだろう。ちらりとティナが隆人を見ると、彼も気配で同様の事を感じたのであろう。視線をラルフに向けたまま頷く。
 そして視線はそのまま口を開いた。


「何者なのかな?いきなり攻撃してくるなんて、味方ではないようだけど」
「……何者だと?それはこちらの台詞だ。このバイサール様の邪魔をしやがって、お前達がいなければ今頃エルフ族と霊樹アトムは滅びていたはずだったのだ」


 バイサールと名乗ったその男が吐き捨てるように言う。そして苛立ちを見せながらその黒衣を脱ぎ捨てる。


「その姿……まさか、貴様は魔族か!」


 淡い赤色の肌に頭には二本の角、背中には悪魔を連想させる黒い翼、纏っていた黒き衣の中にあったその者は人型でありながら、およそ普通の人間とはかけ離れたその姿。エルフ族や獣人族も人間族とは少し違った外見をしているが、そんな比ではない。もっと禍々しい何か。
 そんな姿に、里長が驚きを発する。


「馬鹿な、貴様ら魔族は遥か太古に我々エルフや精霊、人間族らの手によって完全に絶滅したはずなのだぞ!」
「その通りだ、流石長命なエルフ族だけあってよく知っている。我ら魔族は忌々しい多種族によって滅ぼされた。だが完全にじゃない。魔族はその存在を隠しながら力を蓄え続けていた」


 周囲にいる全ての者を睨みつけながらバイサールが話す。その目その声に並々ならない怨恨が込められている。


「しかしそれもまもなくだ。もうすぐこの世界は闇に染まる。先ずは手始めに邪魔な世界樹の枝であるこの霊樹アトムとそれを護るエルフ族を滅ぼすのだ。その為にこの大森林の王たる怪物を何重にもかけた隷属魔法で自我を奪い従わせ、エルフ族の里を襲わせたのだからな」


 バイサールから語られた言葉。今この第森林で起きている森王の凶変と率いられた魔物によるエルフ族の里への襲撃、その全てがこのバイサールによって、魔族によって仕組まれたものであるという事実。
 それはこの場にいるもの達にとっては驚愕に値するものであった。


「何をしている、"早くその男を殺せ"」
「ーーーーー!!」
「くっ、また動き出したねっ」


 バイサールがラルフに命を下す。するとそれまで一時動きを止めていたラルフが再び動きだす。
 隆人もすかさず反応し、青いオーラをたなびかせながらラルフを迎え撃つ。既に先程までの傷は自己修復と「ヒール」によって双方共に回復済みであり、完全な仕切り直しでの戦闘再開である。


「バイサール、と言ったな」
「ん?」


 すぐ近くで爆風や魔力が吹き荒れる中、里長が鋭い声を発する。


「お主が、この全ての惨状の元凶、なのだな」
「そうだと言っただろう。だからどうした?」
「……許しがたい。同胞と自然の、命を奪った報いを受けよ。貴様を滅する!『森の裁き』」


 里長が怒りの形相と共に式句を唱える。すると森がざわりと蠢く。そしてバイサールの近くにあった木々から枝が伸び、彼を突き刺す。
 しかしバイサールは寸前でその身を翻し、枝から逃れていた。


「エルフの族長、英雄ハイリヒ・バルバロイ。計画では一応警戒していたが、木々を操るスキルか、中々に面白いものを持ってんな」
「余裕でいられるのも、今のうちだ魔族」


 里長とバイサールとの間にも戦闘の気配が漂う。その様子をみた隆人が、ラルフとの戦闘を継続しながら、声を上げる。


「ティナ、ロロノ。森王ラルフは俺に任せて、2人は里長と一緒にあのバイサールって魔族の方を頼んだよ!」
「リュートさま……わかったのです!」

「里長様、私たちも微力ながらお手伝いさせてもらいます」
「お主達か、感謝する。君達も戦ってくれるのであれば心強い」


 ティナとロロノの参戦に、里長が喜びを見せる。バイサールは強者、それは里長も既に理解している。ここでティナやロロノという強力な戦力が自らに助力してくれるというのは非常に心強い。
 

「里長様、私も僭越ながら助力させていただきます」
「おぉ、シルヴィア騎士団長もか」


 さらにもう一つの声、エルフの騎士団であるティナが名乗りをあげたのだ。
 

「カイルク、騎士団の後の指揮は任せる。皆を安全な距離まで後退させてくれ」
「ですか、シルヴィア団長と里長様を置いて逃げるなどできるわけないでしょう」
「今はそんなことを言っている場合ではない。それに、みてみろ」


 シルヴィアがカイルクの視線を誘導する。そちらをみると、茂る木の間から魔物たちの姿が見えた。
 ラルフの登場とともにぱったりと途絶えた魔物の進行だが、再び動きだしたようである。


「魔物の進行が再開した。副団長と騎士団にはそっちを任せたい。里を守護してくれ」
「……わかりました。騎士団は私が預かります、団長、ご武運を」


 うむ、とシルヴィアが頷き、カイルクがエルフ達に指示を飛ばす。
 戦闘の激化に浮き足立っていた兵士達もカイルクの指示のもと、素早く戦闘の中心地からは距離を取りつつ、各隊が魔物へと対応していく。


 それをみて満足げに笑ったシルヴィアが、里長の隣へと並びバイサールに視線を向ける。


「他の魔物達は騎士団に任せて、我々であのバイサールという魔族を倒しましょう」
「無論、森の平穏を乱したその行い、必ず贖わせようぞ」
「魔族……実物を見るのは初めてですが、エルフの皆様のために、負けられません」
「うでがなるのですー」


 戦意と魔力をみなぎらせながら、4人8つの瞳がしっかりとバイサールを見据える。


「ふん、たかだか4人。有象無象がいくら集まろうとこの魔将バイサール様と『制言ギアス』の敵ではない」


 バイサールは背中の黒い翼を広げ、宙へと浮かぶ。赤みがかった瞳を、眼下に並ぶ4人に向ける。


 すぐ横では隆人とラルフの戦いも激しく繰り広げられている。既に隆人も「氷河の剣」を出し、二刀対大剣一本の戦いへとシフトしている。
 入り乱れる青い線と白い線がぶつかり合い火花を散らしている。


 エルフと魔物の激突、その戦況はまた新たな段階へと展開していく。


(異世界モノでありながら隆人の影響か肉弾戦の多い印象のあるのが密かな悩みです…….。バイサールはちょっとこれまでと違うタイプな敵になっています)
しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

転生してテイマーになった僕の異世界冒険譚

ノデミチ
ファンタジー
田中六朗、18歳。 原因不明の発熱が続き、ほぼ寝たきりの生活。結果死亡。 気が付けば異世界。10歳の少年に! 女神が現れ話を聞くと、六朗は本来、この異世界ルーセリアに生まれるはずが、間違えて地球に生まれてしまったとの事。莫大な魔力を持ったが為に、地球では使う事が出来ず魔力過多で燃え尽きてしまったらしい。 お詫びの転生ということで、病気にならないチートな身体と莫大な魔力を授かり、「この世界では思う存分人生を楽しんでください」と。 寝たきりだった六朗は、ライトノベルやゲームが大好き。今、自分がその世界にいる! 勇者? 王様? 何になる? ライトノベルで好きだった「魔物使い=モンスターテイマー」をやってみよう! 六朗=ロックと名乗り、チートな身体と莫大な魔力で異世界を自由に生きる! カクヨムでも公開しました。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で最強に・・・(旧:学園最強に・・・)

こたろう文庫
ファンタジー
カクヨムにて日間・週間共に総合ランキング1位! 死神が間違えたせいで俺は死んだらしい。俺にそう説明する神は何かと俺をイラつかせる。異世界に転生させるからスキルを選ぶように言われたので、神にイラついていた俺は1回しか使えない強奪スキルを神相手に使ってやった。 閑散とした村に子供として転生した為、強奪したスキルのチート度合いがわからず、学校に入学後も無自覚のまま周りを振り回す僕の話 2作目になります。 まだ読まれてない方はこちらもよろしくおねがいします。 「クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される」

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

伯爵家の三男は冒険者を目指す!

おとうふ
ファンタジー
2024年8月、更新再開しました! 佐藤良太はとある高校に通う極普通の高校生である。いつものように彼女の伶奈と一緒に歩いて下校していたところ、信号無視のトラックが猛スピードで突っ込んで来るのが見えた。良太は咄嗟に彼女を突き飛ばしたが、彼は迫り来るトラックを前に為すすべも無く、あっけなくこの世を去った。 彼が最後に見たものは、驚愕した表情で自分を見る彼女と、完全にキメているとしか思えない、トラックの運転手の異常な目だった... (...伶奈、ごめん...) 異世界に転生した良太は、とりあえず父の勧める通りに冒険者を目指すこととなる。学校での出会いや、地球では体験したことのない様々な出来事が彼を待っている。 初めて投稿する作品ですので、温かい目で見ていただければ幸いです。 誤字・脱字やおかしな表現や展開など、指摘があれば遠慮なくお願い致します。 1話1話はとても短くなっていますので、サクサク読めるかなと思います。

前世の記憶さん。こんにちは。

満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。 周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。 主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。 恋愛は当分先に入れる予定です。 主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです! 小説になろう様にも掲載しています。

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

処理中です...