113 / 141
第5章 森王動乱
遭遇
しおりを挟むピクッ
戦場を縦横無尽に駆け巡る遊撃部隊。森王ラルフを探し、隆人やロロノが探知した強い気配を放つ魔物を次々に討伐していく。隆人達とエルフ騎士団の精鋭でAランクを始めとする魔物側の強力な戦力を削っていくが、かのオーガの姿は未だ見つけられずにいた。
しかし、隆人の魔法によって広がった魔物達の間隔、そしてエルフ達の設置した罠に本隊の奮闘。加えて隆人達遊撃部隊が魔物達の群れにいる強力な個体を倒して回っている事で、着実に魔物達の分断に成功している。
次の魔物の場へと向かう一行であったが、突然足を止めたロロノが耳をピクピクと動かしながら首を回す。その様子を見た隆人が同じように足を止めて寄る。
「どうしたんだい?ロロノ」
「リュートさま、においが消えたのです」
「匂い?」
隆人の問いにロロノが森の一方を指差しながら答える。その指が指す方向にはエルフ騎士団の左翼部隊が配備されているはずである。
「そっちは……エルフの人達と魔物の群れがぶつかってる地点だね。戦闘の最前線だし、魔物の匂い、数が減るのはおかしくないよ」
「そうじゃないのです、消えたのはエルフさんたちのにおいなのです」
隆人の言葉にロロノがかぶりを振る。ロロノの答えに隆人が気になってそちらに意識を向けると、ロロノの言う通り騎士団の左翼側にいたはずのエルフの気配が全く消えていた。
つい先ほどまではそこには150ほどのエルフの気配があった。それは間違いない。しかし今、そこにはエルフの気配は1つたりとも存在しないのだ。
ここは戦場。行われている戦いは当然命がけであり、殺し殺されるの中で隠密と奇襲に徹しているとは言え、エルフの数が減っていくのはある種当然ではある。
だがそれも段階的なものであり、一気に全てのエルフが殺されるなどそうそうあり得る事ではない。
ましてエルフ達は弱くない。個々の実力としては他の種族達と同様にAやBに届く者は僅かで、騎士団を構成するエルフ達の殆どはDやE、せいぜいがCというところであるが、その連携と技量には眼を見張るものがある。
しっかりと地の利を活かし、的確な遠距離攻撃で前衛のサポート、格上相手には深追いせず時間をかけて複数人で対応する。それによって、防衛戦という厳しい状況の中、ここまでエルフ達はかなり少ない損耗で魔物達をしのいできた。
だからこそ、余計に150ものエルフが一度に、というのが考え難く感じてしまう。
「どうした?リュート殿にロロノ殿。急に立ち止まって」
「あぁ、悪いねシルヴィア、みんなも」
「構わんが、何か見つけたのか?」
突然足を止めた2人に気づいた遊撃部隊の他の面々が疑問を浮かべながら戻ってくる。
そして皆の心情をシルヴィアが代弁して言葉にする。
「実はね、里を護る本隊の左翼側にいたエルフ達の気配が完全に消えたんだよ」
「何っ!?それは事実なのか?」
「うん。ロロノが気づいて俺が気配探知で探ったからね。間違いないよ」
「信じられん……。いやもちろん2人を疑う訳ではない。2人の探知能力はここまで見てきた、恐らく左翼が崩れたというのは事実だろう。だが、左翼の護りを任されていたのは第6隊とそれを率いるベルワイス隊長だ。ベルワイスはエルフの中では若く調子に乗る事も多いがその実力は本物。騎士団の中でも弓の腕は随一と評されている」
問いに対する隆人の返答に、シルヴィアが心からの驚きを見せる。シルヴィアは騎士団長として部下の実力を把握していたし、十分左翼の防衛を担える物だと考えていた。ベルワイスと第6隊なら例えAランクであっても他の隊を呼ぶ時間を稼ぐくらいならできるであろう。
だからこそ、隆人の言葉には驚愕せざるを得なかった。
「彼らが全く歯が立たない相手、一体どれほどの」
「それがわからないんだよ。そこだけぽっかりと空いたみたいにエルフだけじゃなくて魔物の気配も感じられない」
そう、多数のエルフが一気に倒された場所、そこにはそれを成した魔物がいるはずである。
だが、その気配が感じられない。それがむしろ不自然に感じられた。
皆の頭に一つ答えが浮かぶ。
「リュート様、それは」
「ティナ。うん、森王ラルフである可能性はあると思う。とにかく、左翼部隊の方へ向かってみよう」
遊撃部隊は踵を返し、エルフ達の左翼部隊が存在した場所へと駆ける。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「これは……」
「酷い……」
周囲を見渡したシルヴィアとティナが言葉を失ったようにつぶやく。
「凄惨、という他ないね」
「みんな、死んでるのです……」
隆人とロロノも動揺を隠しきれないという様子である。左翼部隊があった場所、その現状はそれほどのものであった。
辺りに散らばる大量の死体。胴と脚が別れたものに、木にへばりつくもの、押しつぶされたかのように地面転がるもの、その全てがエルフ達のものであり、漏れ出た死臭が混ざり合う。
地獄のような攻撃にティナが口元を押さえてえずく。ロロノも、シルヴィア達エルフ達もそれは同様であり、皆一様にこみ上げてくるものを抑えるような表情を見せる。
少し落ち着いたところで隆人が声を発する。
「でも、おそらくこれを行ったのは」
「あぁ、この死体の傷の状況、それにベルワイスだけでなく、第3隊デネル隊長に第4隊カレラ隊長、この2人までこうも簡単に。そんなことができる魔物なんて一体しかいない。森王ラルフの仕業で間違えないだろう」
「俺も同意だよ。でも、ラルフの姿は見当たらないね、もうここから去った後みたいだ」
「……そうだな、どうだリュート殿、探知は出来そうか?」
「いや、やっぱりダメみたいだ。ラルフが気配を絶つ技能も持ってるのはほぼ確実だね。ロロノは何か感じるかい?」
「ダメなのです……。でも、なんとなくあっちな気がするのです」
そう言ってロロノが指を指す、そちらはエルフ騎士団の本隊がある方向である。
「獣人の第六感ってやつかな。まぁほかに当てもないし、そっちに向かってみよう」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「第一陣は何とかしのげたようだな。カイルク」
「はい、里長様。あくまで一時的にではありますが」
エルフ本隊。無限に思えるような魔物との競り合いだが、副団長カイルクと里長の活躍もあり、なんとか瓦解することなく、一陣を乗り切った。
もちろん、これで魔物達が終わりなんて訳はなく、分断したことによるしばしの隙間。すぐに次の魔物達が姿を見せるだろうし、今も既にちらほらと魔物は現れている。
だが、ここまでひっきりなしに続いた戦闘で身体もそうだが精神が削れており、一瞬の休息が取れただけでもかなり大きな意味をなしていた。
「さて、もう一踏ん張りといきましょう」
「うむ……ん?」
何かを感じ取ったような里長、すぐに目を見開き、大声を上げる。
「皆の者、構えよ!左側来るぞ」
里長の言葉に隊が武器を構えて本隊の左側へと意識を向ける。その直後、その左側から一体の魔物を姿を見せた。
「あ、あれは……」
「間違いない。ラルフだ」
現れた魔物を見て里長が断定を述べる。となりにいたカイルクがごくりと息を飲んだ。
だが、怯んだのは一瞬で、カイルクは騎士団に指示を出す。
「打て!こちらに近づかせるな!」
指揮官であるカイルクの命と同時、構えていた魔法と矢が次々にラルフを襲う。しかし、
「ーーーーー!」
「なっ、効いてない」
無数の魔法と矢がラルフに迫る。ラルフはその大剣を抜き、大きく一振りした。ラルフの大剣とエルフ魔法、そして矢が激突、爆煙があがる。しかし煙が晴れた中で、ラルフは無傷で立っていた。
ラルフが大剣を構え直す。だが次の瞬間、その背後から青い閃光が走り、反応したラルフの大剣と閃光が激突した。
「やっと見つけたよ。森王ラルフ!」
(なるべくグロ描写はしないように気をつけていますが、やはりこう言う戦闘の中で状況説明しようとすると多少書かざるを得ないといいますか……気を悪くした方がいたらすみません……)
1
お気に入りに追加
1,331
あなたにおすすめの小説

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL

ダンマス(異端者)
AN@RCHY
ファンタジー
幼女女神に召喚で呼び出されたシュウ。
元の世界に戻れないことを知って自由気ままに過ごすことを決めた。
人の作ったレールなんかのってやらねえぞ!
地球での痕跡をすべて消されて、幼女女神に召喚された風間修。そこで突然、ダンジョンマスターになって他のダンジョンマスターたちと競えと言われた。
戻りたくても戻る事の出来ない現実を受け入れ、異世界へ旅立つ。
始めこそ異世界だとワクワクしていたが、すぐに碇石からズレおかしなことを始めた。
小説になろうで『AN@CHY』名義で投稿している、同タイトルをアルファポリスにも投稿させていただきます。
向こうの小説を多少修正して投稿しています。
修正をかけながらなので更新ペースは不明です。
転生してテイマーになった僕の異世界冒険譚
ノデミチ
ファンタジー
田中六朗、18歳。
原因不明の発熱が続き、ほぼ寝たきりの生活。結果死亡。
気が付けば異世界。10歳の少年に!
女神が現れ話を聞くと、六朗は本来、この異世界ルーセリアに生まれるはずが、間違えて地球に生まれてしまったとの事。莫大な魔力を持ったが為に、地球では使う事が出来ず魔力過多で燃え尽きてしまったらしい。
お詫びの転生ということで、病気にならないチートな身体と莫大な魔力を授かり、「この世界では思う存分人生を楽しんでください」と。
寝たきりだった六朗は、ライトノベルやゲームが大好き。今、自分がその世界にいる!
勇者? 王様? 何になる? ライトノベルで好きだった「魔物使い=モンスターテイマー」をやってみよう!
六朗=ロックと名乗り、チートな身体と莫大な魔力で異世界を自由に生きる!
カクヨムでも公開しました。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で最強に・・・(旧:学園最強に・・・)
こたろう文庫
ファンタジー
カクヨムにて日間・週間共に総合ランキング1位!
死神が間違えたせいで俺は死んだらしい。俺にそう説明する神は何かと俺をイラつかせる。異世界に転生させるからスキルを選ぶように言われたので、神にイラついていた俺は1回しか使えない強奪スキルを神相手に使ってやった。
閑散とした村に子供として転生した為、強奪したスキルのチート度合いがわからず、学校に入学後も無自覚のまま周りを振り回す僕の話
2作目になります。
まだ読まれてない方はこちらもよろしくおねがいします。
「クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される」
うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました
akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」
帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。
謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。
しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。
勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!?
転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。
※9月16日
タイトル変更致しました。
前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。
仲間を強くして無双していく話です。
『小説家になろう』様でも公開しています。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す
紅月シン
ファンタジー
七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。
才能限界0。
それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。
レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。
つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。
だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。
その結果として実家の公爵家を追放されたことも。
同日に前世の記憶を思い出したことも。
一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。
その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。
スキル。
そして、自らのスキルである限界突破。
やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。
※小説家になろう様にも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる