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第5章 森王動乱
遭遇
しおりを挟むピクッ
戦場を縦横無尽に駆け巡る遊撃部隊。森王ラルフを探し、隆人やロロノが探知した強い気配を放つ魔物を次々に討伐していく。隆人達とエルフ騎士団の精鋭でAランクを始めとする魔物側の強力な戦力を削っていくが、かのオーガの姿は未だ見つけられずにいた。
しかし、隆人の魔法によって広がった魔物達の間隔、そしてエルフ達の設置した罠に本隊の奮闘。加えて隆人達遊撃部隊が魔物達の群れにいる強力な個体を倒して回っている事で、着実に魔物達の分断に成功している。
次の魔物の場へと向かう一行であったが、突然足を止めたロロノが耳をピクピクと動かしながら首を回す。その様子を見た隆人が同じように足を止めて寄る。
「どうしたんだい?ロロノ」
「リュートさま、においが消えたのです」
「匂い?」
隆人の問いにロロノが森の一方を指差しながら答える。その指が指す方向にはエルフ騎士団の左翼部隊が配備されているはずである。
「そっちは……エルフの人達と魔物の群れがぶつかってる地点だね。戦闘の最前線だし、魔物の匂い、数が減るのはおかしくないよ」
「そうじゃないのです、消えたのはエルフさんたちのにおいなのです」
隆人の言葉にロロノがかぶりを振る。ロロノの答えに隆人が気になってそちらに意識を向けると、ロロノの言う通り騎士団の左翼側にいたはずのエルフの気配が全く消えていた。
つい先ほどまではそこには150ほどのエルフの気配があった。それは間違いない。しかし今、そこにはエルフの気配は1つたりとも存在しないのだ。
ここは戦場。行われている戦いは当然命がけであり、殺し殺されるの中で隠密と奇襲に徹しているとは言え、エルフの数が減っていくのはある種当然ではある。
だがそれも段階的なものであり、一気に全てのエルフが殺されるなどそうそうあり得る事ではない。
ましてエルフ達は弱くない。個々の実力としては他の種族達と同様にAやBに届く者は僅かで、騎士団を構成するエルフ達の殆どはDやE、せいぜいがCというところであるが、その連携と技量には眼を見張るものがある。
しっかりと地の利を活かし、的確な遠距離攻撃で前衛のサポート、格上相手には深追いせず時間をかけて複数人で対応する。それによって、防衛戦という厳しい状況の中、ここまでエルフ達はかなり少ない損耗で魔物達をしのいできた。
だからこそ、余計に150ものエルフが一度に、というのが考え難く感じてしまう。
「どうした?リュート殿にロロノ殿。急に立ち止まって」
「あぁ、悪いねシルヴィア、みんなも」
「構わんが、何か見つけたのか?」
突然足を止めた2人に気づいた遊撃部隊の他の面々が疑問を浮かべながら戻ってくる。
そして皆の心情をシルヴィアが代弁して言葉にする。
「実はね、里を護る本隊の左翼側にいたエルフ達の気配が完全に消えたんだよ」
「何っ!?それは事実なのか?」
「うん。ロロノが気づいて俺が気配探知で探ったからね。間違いないよ」
「信じられん……。いやもちろん2人を疑う訳ではない。2人の探知能力はここまで見てきた、恐らく左翼が崩れたというのは事実だろう。だが、左翼の護りを任されていたのは第6隊とそれを率いるベルワイス隊長だ。ベルワイスはエルフの中では若く調子に乗る事も多いがその実力は本物。騎士団の中でも弓の腕は随一と評されている」
問いに対する隆人の返答に、シルヴィアが心からの驚きを見せる。シルヴィアは騎士団長として部下の実力を把握していたし、十分左翼の防衛を担える物だと考えていた。ベルワイスと第6隊なら例えAランクであっても他の隊を呼ぶ時間を稼ぐくらいならできるであろう。
だからこそ、隆人の言葉には驚愕せざるを得なかった。
「彼らが全く歯が立たない相手、一体どれほどの」
「それがわからないんだよ。そこだけぽっかりと空いたみたいにエルフだけじゃなくて魔物の気配も感じられない」
そう、多数のエルフが一気に倒された場所、そこにはそれを成した魔物がいるはずである。
だが、その気配が感じられない。それがむしろ不自然に感じられた。
皆の頭に一つ答えが浮かぶ。
「リュート様、それは」
「ティナ。うん、森王ラルフである可能性はあると思う。とにかく、左翼部隊の方へ向かってみよう」
遊撃部隊は踵を返し、エルフ達の左翼部隊が存在した場所へと駆ける。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「これは……」
「酷い……」
周囲を見渡したシルヴィアとティナが言葉を失ったようにつぶやく。
「凄惨、という他ないね」
「みんな、死んでるのです……」
隆人とロロノも動揺を隠しきれないという様子である。左翼部隊があった場所、その現状はそれほどのものであった。
辺りに散らばる大量の死体。胴と脚が別れたものに、木にへばりつくもの、押しつぶされたかのように地面転がるもの、その全てがエルフ達のものであり、漏れ出た死臭が混ざり合う。
地獄のような攻撃にティナが口元を押さえてえずく。ロロノも、シルヴィア達エルフ達もそれは同様であり、皆一様にこみ上げてくるものを抑えるような表情を見せる。
少し落ち着いたところで隆人が声を発する。
「でも、おそらくこれを行ったのは」
「あぁ、この死体の傷の状況、それにベルワイスだけでなく、第3隊デネル隊長に第4隊カレラ隊長、この2人までこうも簡単に。そんなことができる魔物なんて一体しかいない。森王ラルフの仕業で間違えないだろう」
「俺も同意だよ。でも、ラルフの姿は見当たらないね、もうここから去った後みたいだ」
「……そうだな、どうだリュート殿、探知は出来そうか?」
「いや、やっぱりダメみたいだ。ラルフが気配を絶つ技能も持ってるのはほぼ確実だね。ロロノは何か感じるかい?」
「ダメなのです……。でも、なんとなくあっちな気がするのです」
そう言ってロロノが指を指す、そちらはエルフ騎士団の本隊がある方向である。
「獣人の第六感ってやつかな。まぁほかに当てもないし、そっちに向かってみよう」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「第一陣は何とかしのげたようだな。カイルク」
「はい、里長様。あくまで一時的にではありますが」
エルフ本隊。無限に思えるような魔物との競り合いだが、副団長カイルクと里長の活躍もあり、なんとか瓦解することなく、一陣を乗り切った。
もちろん、これで魔物達が終わりなんて訳はなく、分断したことによるしばしの隙間。すぐに次の魔物達が姿を見せるだろうし、今も既にちらほらと魔物は現れている。
だが、ここまでひっきりなしに続いた戦闘で身体もそうだが精神が削れており、一瞬の休息が取れただけでもかなり大きな意味をなしていた。
「さて、もう一踏ん張りといきましょう」
「うむ……ん?」
何かを感じ取ったような里長、すぐに目を見開き、大声を上げる。
「皆の者、構えよ!左側来るぞ」
里長の言葉に隊が武器を構えて本隊の左側へと意識を向ける。その直後、その左側から一体の魔物を姿を見せた。
「あ、あれは……」
「間違いない。ラルフだ」
現れた魔物を見て里長が断定を述べる。となりにいたカイルクがごくりと息を飲んだ。
だが、怯んだのは一瞬で、カイルクは騎士団に指示を出す。
「打て!こちらに近づかせるな!」
指揮官であるカイルクの命と同時、構えていた魔法と矢が次々にラルフを襲う。しかし、
「ーーーーー!」
「なっ、効いてない」
無数の魔法と矢がラルフに迫る。ラルフはその大剣を抜き、大きく一振りした。ラルフの大剣とエルフ魔法、そして矢が激突、爆煙があがる。しかし煙が晴れた中で、ラルフは無傷で立っていた。
ラルフが大剣を構え直す。だが次の瞬間、その背後から青い閃光が走り、反応したラルフの大剣と閃光が激突した。
「やっと見つけたよ。森王ラルフ!」
(なるべくグロ描写はしないように気をつけていますが、やはりこう言う戦闘の中で状況説明しようとすると多少書かざるを得ないといいますか……気を悪くした方がいたらすみません……)
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