身体強化って、何気にチートじゃないですか!?

ルーグイウル

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第5章 森王動乱

エルフの危機

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「エルフ族を救う?いきなりなんの話かな」


 オークに襲われている女性を助けた隆人。助けたその女性から頼みがあると頭を下げられる。
 そしてその頼みとは、隆人の考えるものを斜め上に通り過ぎるものであった。


「そうだな、流石にいきなり過ぎたか。戸惑わせてしまったようで申し訳ない。だが我々もそれだけ切羽詰まっていてな。詳しい話は里に着いてからにしたい」
「へぇ、この近くにエルフの里があるんだね」
「うむ、本来であれば人間に教えたりしないのだがな。現在は火急の事態ゆえそうも言っていられなくてな。私の使命は強き者を見つけてくる事。そして私のこの翡翠眼ですら底が見えない貴殿なら、我々を救ってくれるかもしれん」
「翡翠眼?」

「翡翠眼はエルフが持つ固有スキルですよ、リュート様。視力の上昇に加えて、隠された本質を見抜く『看破』の効果を供えていると言われています」


 聞きなれない単語に疑問符を浮かべる隆人、その答えは正面のシルヴィアでなく、背後から聞こえてきた。
 隆人が視線を後ろに向けると、そこには追いついてきたティナとロロノの姿があった。


「固有スキル?あぁ、確か、特定の種族だけが有する特殊なスキルで、種族全体が有していたり、一部だけが習得していたりするってあれかな?」 


 ロロノの、つまり獣人の持つ「獣化」の事で一度ティナから固有スキルについて聞いたことのある隆人はその説明から当たりをつける。
 隆人の答えにティナは鷹揚に頷く。


「はい。ちなみに翡翠眼は前者ですね。エルフという種族その全てが持つ特殊な眼だと言われています」
「その者の言う通り、翡翠眼は我々エルフ全員が持つスキルだが、その程度には個体差があるのだ。私は看破には自信があったのだがな」


 ティナの言葉にシルヴィアが肯定と否定と織り交ぜた返答を返す。
 そして、シルヴィアの緑色の瞳が淡くエメラルドの輝きを放つ。そして驚嘆が浮かばれる。


「私の看破では相手のレベルや隠された罠等を見破ることができる。……驚いたな。そちらの者たちもかなりの強者のようだ」
「へぇ、レベルが見えるって言うのは本当みたいだね」
「ロロノつよいのです?」


 ティナLV.135ロロノLV.97。一般的にみたら十分、いや超が付くほどの高レベルである。もちろんレベルがイコール強さではないが、それでもある程度の指標としての意味はあるのだ。
 目の前に現れたのが全員強者であるという事実にシルヴィアが目を丸くする。


「だがこれは我々にとっては願ってもない幸運だ、貴殿らが悪辣の類ではないという事はこの眼で分かる事だしな」


 そう言ってくるりと回り、シルヴィアは視線を森の中へ向ける。


「着いてきてくれ、3人一緒で構わない」




 
 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 大森林の中を早足で進む隆人達3人とシルヴィア、時折複雑に進行方向を変えながら、どんどんと森の深部へと足を進めていく。


「直線で向かう訳ではないのですね?」
「里の周囲にはこれまで先代達が築いてきた、人避けの結界が幾重にも重ねられていてな、ただ向かうだけでは永遠にたどり着けないようになっているのだ」
「なるほど、魔力の気配がおかしいのはそういうことか」



 どれだけ進んでも木々しか現れない中をぐねぐねと方向定まらず進むシルヴィアに、疑惑を浮かべたティナがたまらず尋ねる。
 その返答は隆人には納得できるものであったようである。事実、先程から隆人はシルヴィアが向きを変える直前に何かに反応していた。
 
 
「それで、道中で説明してくれるって話だったけど」
「あぁ。それにしてもこちらもあまり説明が出来なかった手前、よく着いてきてくれたな。疑われても仕方ないと思ったのだが」


 いよいよ気になったという風で隆人がシルヴィアに尋ねる。シルヴィアも足を止めることなく視線も前を向けたまま隆人の問いに答える。
 だがその前に、ずっと気になっていた事を隆人に逆に問いかける。


 会ったばかりのシルヴィア、滅多にいないエルフを自称し、対して説明をした訳でもなく、いきなり森の奥へと連れて行かれる。普通であれば非常に怪しい案件であり、疑わずに着いてきた隆人に何か裏があるように感じるのは当然であろう。


「疑ってはいるよ?そりゃこんな事いきなり言われて完全に信じるなんて無理だよ」
「それではなぜ故に」
「別にこれで間違えであっても、それならそうで森を出ればいいだけだからね。このくらいの結界なら中に向かうのは無理でも外に脱出するくらいならなんとか出来るし」
「そ、そうか……」


 疑った上でもし裏切られても何も問題がないのだと、確信を持って言い切る隆人にシルヴィアが苦笑いを浮かべる。
 だが、すぐにそんな場合ではないと思考を切り替える。そして事の詳細を話し始めた。


「説明するにはまず、大森林という環境から話さなければな。大森林というのは見ての通り超規模の密林であり、多種多様な生命体が群生している。それは我々エルフ然り、また森で日々生まれ続ける魔物達然り。
 そして我々エルフは、この大森林の豊かな自然と生息する魔物達を糧とすることで長い間人間に見つかる事なく繁栄させてきた。我々と大森林は均衡を保っていたのだ。
 しかし今、その状況が変わろうとしているのだ」


 そこで一度言葉を切る。そして息を整え再び話し出す。


「森には一体の魔物がおる。その魔物は遥か昔に生まれ、その強さより長年この森の主として座してきた。だがその強さとは裏腹におとなしい性格であり、魔物でありながら争いを行わない魔物で、多くの魔物がその下で押さえ込まれ、あるいは庇護する事で、森のバランスは保たれていた。
 しかし、その魔物が突如として我々エルフ族や自ら庇護下の魔物以外を襲い始めたのだ。突然のことに我々もパニックに陥り、多くの同胞たちが命を落としたのだ」


 そう言って悔しげに拳を握るシルヴィア。
 と、そんなシルヴィアの元に飛来する物が3つ。それは矢であり、三方向からそれぞれ襲いかかる。


 すぐに反応しかわそうとするが、その前に隆人がシルヴィアの前に立ち、矢を全て切り払った。


「何者だ!!」


 同時に聞こえてくる誰何の声。正面方向から風に乗って届いてきた声に隆人が答える。


「俺は隆人。エルフの里に用があってきたんだ」
「なっ!?貴様、どこでそれを!里を守る者として、我々の存在を知る以上生かしてはおけん」


 隆人の返答が彼らに何かを感じられたのか、風に乗って声とともに強い殺気が飛んでくる。


「まて!お前達、私だ!騎士団長シルヴィア・クラリアンテだ」


 予想外の状況に焦りを帯びた声で木々の向こうに話しかける。


「シルヴィア様!?……なるほど、貴様らシルヴィア様を捕らえてここまで案内させたのだな。その外道、許せぬ!」


 だが、返ってきたのは更に強い殺気。憎しみの足されたそれが隆人達に降りかかる。
 それは他の2方向も同様であり、戦闘はもう避けられないと全員が悟った。


 相手、おそらくエルフの監視隊であろう彼らもそれを悟ったのか、漏れていた殺気と気配を消し、木々の中に溶け込ませた。


「あー……完全に血の気が登っているね……。ティナ、ロロノ、相手は3人だからそれぞれ1人ずつ頼むよ。殺さないようにして捕らえてね」
「はい、わかりました!」
「りょうかいなのですー」


 隆人の言葉にすぐに応えた2人はそれぞれ左右の敵へと意識を向ける。距離は離れていて気配も既に消しているようだが、その技量は隆人のそれとは比べるまでもなく、ティナとロロノはそれぞれの方法で相手の位置を掴む。


 そしてふたたび飛んでくる矢。今度は牽制ではなく命を狩るためのものであり、本数も速度も増している。
 それらを隆人達3人が得物によって撃ち落とし、開戦の火蓋が切られた。


(投稿大幅に遅れて申し訳ありません!
そして今回が第100話めの投稿です!ここまで続けてこれたのは読んでくださる皆様のおかげです。今後ともよろしくお願いします!)
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