身体強化って、何気にチートじゃないですか!?

ルーグイウル

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第5章 森王動乱

3人旅

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 無限に広がるかのような木々と草むら。そして黄緑色に染まる大地に点々と存在する深緑の木々、小さな森が幾つも点在している。そんな中を貫く心無しか整備された一本の道に3つの動点。
 それは人であり男女2人の人間と一人の獣人の少女であった。


「ーーそう。彼らの名は隆人、ティナ、ロロノ。Dランクパーティ『暁の風』である」
「……何しているんですか?リュート様」


 公都シャリエを出発した隆人達は、次の目的地である王都へと足を向けた。
 そして徒歩に退屈を感じた隆人が突然下手なナレーターよろしく語り始めたのである。


「もしかしてリュート様のいた異世界の風習か何かなのでしょうか?」
「あ、えっとね……。うん、そうなんだよ」
「みんなひとりごとしてるのです?」
「」


 ロロノの純粋な一言。一瞬、全てを地球ののせいにして逃れようとした隆人であったが、その無垢な一言がクリティカルヒットする。
 "ひとりごと"という言葉が隆人の頭をぐるぐると回る。


 隆人の(精神面の)HPが一気に八割程持っていかれた。


「……ま、まぁそんな事より、王都へはどのくらいかかるのかな?」


 致命傷クラスの精神攻撃からなんとか立ち直った隆人が話題を転換する。
 冷や汗を流しているのは見なかったことにする。


「そうですね……。私も王都に行くのは初めてなので詳しくは知らないのですが、聞いた話によると馬で一週間といったところだそうです。ディアラからシャリエまでの距離よりは少し短いくらいですかね」
「なるほど、結構あるんだね。歩いて行こうと思ったのは失敗したかな」
「急ぎというわけではありませんし、このようなのもいいのではと思います」
「ロロノはばしゃがいやなのです……」


 隆人達は始め、馬車や移動の馬を利用して王都まで目指すつもりでいた。
 基本的的にこの世界での長距離移動において馬は最もポピュラーな移動手段である。冒険者達は自前で馬を借りたり、目的地の同じ商隊の護衛として雇われ、馬車に相席したりするのである。


 ちなみに、出発前にティナがシャリエの冒険者ギルドで掲示板を眺めていたのも、ちょうど王都に向かう商隊の護衛の依頼が出ていないかという確認も兼ねていた。
 ほとんどダメ元であったのだが。


 そして個人で馬を借りるという案の方は割とすぐに却下された。何しろ馬を借りたところで誰も乗る事が出来ないのだ。
 地球育ちであり病弱な身体であったがゆえに乗馬など触れる機会すら無かった隆人、まだ幼い獣人の少女であり、奴隷暮らしの長かったロロノに、箱入りでありそもそも外に出る機会も手段も関わる事がなく、冒険者時代もディアラから外に出る事がなかったティナである。
 このメンツに馬の操作などできるわけなかった。


「おっと、そんな話していたら。左右に魔物だね」


 回想等しながら歩いていると視界の先の街道沿いの背高い草叢からピョコリと魔物達が顔を出す。同時に左奥に槍を構えたゴブリンのような魔物の集団が頭を見せている。


「ロロノは右なのです!」
「では私が左を」
 

 隆人が何かを発する前に一緒に歩いていたロロノとティナが動く。ロロノは携えていた銀羽槍を構えて、近くに現れた右の敵へと走り出す。
 と、同時にティナは剣を抜くことはなく魔力を高めていく。


「たあいもない、のです!」
「〈聖炎は矢を成し敵を撃つ〉『聖炎矢』」


 ロロノが軽い足取りで魔物の元に到達するや否や銀羽槍による一閃。数匹の魔物達はロロノに気を向けた頃にはその胴に穴が空いているか、分断されるか、そのどちらかに分けられていた。


 そしてそのロロノと時を同じくしてティナの元に炎球が生み出され、それが数本ほどの火の矢へと姿を変える。
 そして射出された聖炎の矢達は乱れる事なく離れた場にいるゴブリン達へと飛んでいく。


 ゴブリン達も迫り来る火に気づくが彼らのもつボロ槍ではティナの精霊の炎を防ぐことなどできるはずもなく、彼らは槍ごとその聖炎によって焼き尽くされた。
 しかも火でありながら精霊の炎は全く周りの草叢には影響を与えていない。魔物の姿だけが綺麗さっぱり消えていた。


 ここまで発見から数秒である。


「やるね、2人とも」
「ありがとうございます」
「ありがとなのです」


 その対処の速さと的確さに隆人が手放しに賞賛を見せる。先程から何度も魔物達と遭遇しているのだが、このように1分と経たずに終わるのだ。


「これでは確かに馬も必要ありませんね。私たちの進行速度は馬にも近しいですし」
「確かにね、魔物と遭遇での立ち止まりは無いからね。それに俺たちだけなら普通の移動速度も速いし」


 一般的に見てレベルの高い3人はその移動速度もかなり早く。特に意識して加速しているわけではなくても、通常の徒歩を上回る速度である。
 

「それに、私たちは荷物がありませんから。リュート様のストレージに食料の備蓄等が全て収まっていますし、その分移動に余裕ができますよね」


 普通、パーティで移動する際一番問題となるのが荷物である。特にパーティメンバーの飲食品はパーティの生死に直結する必需品であり、同時に最も荷物の割合を占めるものである。


 冒険者が長距離移動に馬を使うのも、そのような荷物を背負ったままの移動は体力を消耗させると共に進行速度を大幅に送らせるのだ。


 だが、隆人には大容量のスキル「ストレージ」がある。制限はあるが、それでも3人分の食料を詰め込むには余裕がある。
 必需品の類をストレージに入れた隆人達は荷物が軽くなり、移動速度が上がったのだ。


 今3人は怒涛の勢いで街道を駆け抜けているのである。


 そして一行はそのまま陽が落ちて辺りが暗くなる少し前まで王都への道を歩き続け、陽が落ちるとともに進行を止め、そこで野宿をする。


 彼らは順調に目的地への道を進んでいった。



(1日遅れの投稿となり申し訳ありません汗。
私ごとではありますが、先日成人式を迎えさせていただきました。今後も成人として大人の一員として努力を重ねたいと思います)


 
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