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第4章 一通の手紙と令嬢の定め
決意の離別
しおりを挟む「…………」
「…………」
公都シャリエ。その中央に位置するシャリエ公爵邸の執務室にて、隆人ティナロロノの3人とオズワルドが向かい合っている。
お互い無言を貫いておりその空気は緊迫といっていいものである。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
霧の森跡でのガイルとの戦闘、そして謎の男との連戦を終えた隆人達は、その後処理に奔走した。
先ず、麻痺毒により身体の自由を奪われていたオズワルドに、リューから回収した薬をしようすると共に隆人が「ヒール」を発動させ回復を待つ。
ついでに御者兼護衛の男たちにもヒールを施し、数人に伝令として戻らせた。
そしてロロノが拘束していた「雷神の怒り」の残った2人から話を聞く。
しかし案の定ではあるが雷神の怒りの面々は重要な情報を持ってはいなかった。
様々な質問によって分かったのは、依頼主があの謎の男であり、あの男から多額の依頼金でもってティナの暗殺及びオズワルドの誘拐を依頼された事。
そしてガイルが飲んで怪物化したあの粒も同様に男から受け取ったものであり、一つ服用する事で自らの限界を超えた力を手に入れることができるという効能があるということ。そしてガイルが激情に駆られ過剰摂取した事が怪物化の原因であるという事であった。
その後も詰問を続けた隆人達であったが、それ以上は有益な情報も得られず、オズワルドも動けるほどに回復したために、一行は帰路へと着いたのであった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
そして邸宅の、今度こそ客室で一夜を明かし、早朝から隆人はティナ達と一緒に応接室へと呼ばれた。どちらかと言えばメインは隆人やロロノではなくティナなのであろうが。そしてかれこれ数分間程の間、このような無言の空間が構築されているのだ。
オズワルドはずっと塾考しているようで話しかけられるような雰囲気ではなく。セバスも主人がそんな状態である為に、一歩引いたところでまるで空気のように微動だにしない。
隆人達は隆人達で状況が把握できていないので下手を打つまいと無言を貫いている。
あたりは異様な緊張感である。
「あ、あの……お父様?」
遂に無言に耐えきれなくなったティナが沈黙を破り声を上げる。
オズワルドは最初、その声にも反応した様子はなかったのだが、やがて一つ大きなため息を吐いてから顔を上げる。
その顔はかつてないほどの決意に彩られていた。
「我が娘、クリスティーナ・グランザム・シャリエは先の冒険者パーティ『雷神の怒り』による反逆において死亡した」
「……え?」
まさに決死というような表情のオズワルドから発せられた言葉、それはティナにとって全くの予想外の言葉であった。
ティナはこの通りピンピンしているし、普通に目の前に立っているのだ。それが見えない訳もあるまいし、突然の言葉にティナが戸惑いを浮かべる。
「そうだな?セバス」
「はい、旦那様。『雷神の怒り』の三名、ガイル、リュー、バーバラによる反乱によりお嬢様は非常に残念ながらその命を落とされました」
「あぁ。私の最後の娘であったのに、このような形で別れになってしまうとは……。反乱の逆賊達に先陣を切って突撃した事、私にとって誇りであるぞ」
ティナの戸惑いをよそに話はどんどんと進んでいく。そしてオズワルドは視線を隆人へと移した。
「それでお前達、『暁の風』と言ったかな?」
「はい」
「はいなのです」
「このような結末は不本意ではあるが、クリスティーナが亡くなった以上、これで君たちをここに拘束しておく理由は消えた。ここから出てもらって構わん。無論これらの事を口外されては困るからな、口止めは解放の条件として含ませてもらうがな」
「!?」
突然の解放宣言、そしてそれはティナの思考をある一つの答えに導く。
そして表情を戸惑いから驚愕へと変えて双眸でオズワルドを見つめる。
「お父様!」
「……お前たちのような薄汚い冒険者にはもう用はない。理解したのであれば早々にここから立ち去るがよい」
そう言い放つオズワルド、同時に応接室の後ろのドアが開く。見ると出口まで一直線に道が開けている。
驚愕の表情を浮かべていたティナであったが、やがて落ち着きを取り戻すとともに、オズワルドを問い正そうと一歩強く前に踏み出す。
しかしその歩は一歩以上進むことはない。
その言葉、その行動、その表情、オズワルドの見せるものの数々がその全てを物語っている。
オズワルドの抱く想いと決意を感じ取ったティナは、一歩進めていた足を戻し、体を反転させる。
そして開け放たれたドアから応接室を後にしようとする。
「よいのだな?」
と、背後から聞こえる声。ティナはその声に対し、振り向く事なく答える。
「はい」
「これから先お前はシャリエ家の娘ではなく、クリスティーナという1人の冒険者として生きる事になる。この先多くの困難に直面するであろう。そしてその全てをお前は自らの力のみで乗り越えねばならんのだ」
「分かっています。これが私の選んだ選択です。それに私は、1人じゃありませんから」
「……そうか」
呟くようなオズワルドの言葉、その言葉には様々な想いが溢れていた。
「行きましょう、リュート様、ロロノ」
「もういいのかい?」
「えぇ、大丈夫です!」
「そうか。わかった」
「出発なのです!」
いつも通り元気なロロノの掛け声を最後に、隆人達3人は応接室を後にした。
「お父様、今までありがとうございました」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
3人か去った後の応接室、神妙な顔つきで座るオズワルドとその傍に控えるセバスが未だ動くことなくいる。
と、オズワルドが口を開く。
「お前だろう?セバス」
「なんのことでしょうか」
「とぼけなくて良い。彼らの監視、緩くなるように手を回していたのだろう?」
「……お気づきでしたか」
実は隆人達が地下牢に幽閉されている時、セバスはその監視が緩くなるように様々に手を打っていたのだ。
例えばオズワルドの命である「監視の強化」を担当に伝えず通常の作業に留めさせたり、隆人達の房を看守から見えづらい場所にしたり、と多岐に渡る。
「お前はクリスティーナを実の孫のように可愛がっていたからな。彼らが牢を飛び出しクリスティーナを攫っていくことを願っていたのだろう」
「申し訳ございません。いかなる罰も甘んじて受けさせていただきます」
「たしかに、明確な裏切り行為であるからな」
オズワルドが信頼を置く執事という役職であるセバスにとって、主人の命に背くというのは最も許されざる行為である。いかに気を許している間柄であってもそれは超えてはならない一線であるのだ。
セバスは厳罰をも覚悟する。
「だが、結果的にその行動によって私のそしてクリスティーナの命が救われたのだ。お前を責めるわけにもいかん。今回の件は目を瞑ろう」
「旦那様……」
「それよりも、『雷神の怒り』の件について、もう少し詳しく調べてみてくれ、何やら裏がありそうなのでな」
オズワルドは先の一件、特にガイルやリューの言っていた言葉が気になっていた。もしかしたら予想以上に深刻な事態なのではないか、と。
それ故に、調査を命じたのだ。
「それとーー今夜時間はあるか?今日は少々飲みたい気分なのでな」
「……!かしこまりました。今日くらい羽目を外してもよろしいでしょう」
そう言ってオズワルドとセバスは穏やかに笑った。
(第4章閉幕です!色々とアクシデントがありましたがなんとか進め切ることができました!
次回から第5章に入っていくつもりです。今後も今作をよろしくお願いします)
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