身体強化って、何気にチートじゃないですか!?

ルーグイウル

文字の大きさ
上 下
82 / 141
第4章 一通の手紙と令嬢の定め

魔に落ちる斧

しおりを挟む
「死んでくれや」

   ズドン

 斥候の男ーーリューと入れ替わりにガイルが戦斧を振りかぶりティナに迫る。間一髪で反応し後退したティナが寸前まで立っていた場所に戦斧の一撃が地面に突き刺さる。
 轟音を立てて斧が森の地面を陥没させる。


「すごいパワーですね……」
「ちょこまかと!」


 ガイルは突き刺さった斧を抜きすぐさま追撃する。ティナもすぐさま大勢を立て直し正面から迎え撃つ。
 風切り音を立てながら接近する戦斧をティナはしっかりと見切り、剣を合わせる。


「どおらぁっ!」
「きゃぁっ」


 斧を剣の腹で合わせ滑らせるように流すティナ、しかし受け止めた斧のパワーは想像以上であり、腕が痺れる。
 更に流れるように斧が回り、連撃を繰り出す。


 1度目でたたらを踏んだティナを追い詰めるように次々と斧を振り回すガイル。力任せに見えてその攻撃には技があり、おお振りながら隙はなく、受けづらい角度からの攻撃が散りばめられている。


「流石Aランクです……。パワーと技量も桁違いですね」
「お嬢様のくせにやるじゃねぇか、予想以上だぜ」


 おお振りの一撃の衝撃をティナが利用し、大きく後ろに飛ぶことで連撃が中断する。なんとか退避したがそのパワーを受けていた為かティナの息が荒くなる。
 対するガイルは余裕を見せ、まだ小手調べといった感じである。


「お前たち!なぜこんな事をする!これまで長い間我が家のお抱えとして仕事をしてきたじゃないか!」


 そのタイミングを待っていたように、傍観者となっていたオズワルドが怒声を上げる。
 その声にガイルがニヤリと口を歪める。


「別に俺たちは力と金さえあればなんでもいいんだよ。今まではあんたが一番高く俺たちを雇ってくれていた。そして今回依頼してきて奴があんたより羽振りがよかった、ただそれだけの事だ」
「なっ!?」


 ガイルの言葉に瞠目するオズワルド。長年戦力として抱えていたAランク冒険者のまさかの一言にこれ以上の言葉が出てこない。
 と、森の奥からヒュッと音を立てて何かが飛来し、オズワルドの太もも辺りに突き刺さる。


「な、んだ……?」
「あんたは一旦寝ててくれ」


 森から飛来したのは細い針状のものであり、太ももに深く突き刺さっている。どうやらその針には速攻性の麻痺毒が塗ってあるらしく、オズワルドの身体がガクンと揺れ、崩れた。


「お父様!……さっきの斥候ですか」
「ご明察、こういう森みたいな障害物がたくさんある場所はリューの庭だからなぁ」


 先程ガイルと入れ替わりに隠れたリュー。彼が木々の間を縫って移動しながら暗器を飛ばしてきている。気を抜けば毒つきの暗器で行動不能にされるのだろう。


「なるほど、スゥ……『天眼』」


 敵がどこから攻撃するかわからない。それを自覚した時点でティナは集中し、スキル天眼を発動する。
 ティナの目が淡く輝き、発動とともにティナの視界が全方位に拡大する。


「いきます!」


 そして今度はティナの突撃、数的有利と場のアドバンテージを取られている以上このままではジリ貧である。
 また、既に完了の伝令が出ている以上、しばらくは増援など望める様子はない。少なく残った人も「雷神の怒り」の最後の一人、魔法使いと互いに牽制しあっている。


 本来魔法使いは近距離に非常に弱いjobであるが、流石Aランクパーティの一員だけあり、ある程度の近接戦闘は習得しているらしく小剣で対応している。 
 また、速度を重視したのか小型の魔法攻撃を散発して接近を防ぐと共に離脱者を妨害している。


 時間はティナの味方ではない。故に先手必勝で落とすのが最も勝算が高い戦法であった。


 走りながら、ティナは手に持った精霊剣に魔力を流していく。時折狙ったように森の奥から飛んでくる暗器は、天眼で視認し回避する。
 授かった精霊剣は魔力親和性が段違いであり、ティナが流した全てを吸い込んでくれる。


「魔力剣・爆!」
「うぉ!?」


 剣に魔力を流したまま激突するティナ、受け止めようとしたガイルの斧にぶつかる瞬間、込めた魔力を放出する。
 前方に指向性を持たせた魔力の放出は受け止めようとしていたガイルに対し物理的な衝撃となる。


 精霊剣によりムラなく放たれた魔力剣・爆は、ガイルを後ろにのけぞらせるほどの威力を発揮する。


 もちろん使い手であるティナにもそれなりの反動は来ているが、ここを逃す手はない。 
 飛ばされようとする身体をぐっと抑え、強く踏み込む。


 そして剣線。精霊剣が描く軌跡は虹色に光り、ガイルの身体を何本も走る。踏み込みが浅く着ている防具を超えて大きなダメージは通らなかったものの、ガイルの勢いを殺し隙を作ることに成功する。
 そして、ティナは追うように精霊剣を走らせる。


 狙うは足。防御がしづらく、また負傷させる事が出来れば回復さえすれば冒険者生活には支障なく過ごせるし、それでいて行動を止めるには十分である。
 対冒険者の捕縛でよく使われる手である。

 
 ティナは精霊剣を低く滑らせ、のけぞった事で一瞬動きの硬直したガイルの脚の腱を狙う。


「ちぃっ!!」
「届かないっ」


 精霊剣がガイルの足を切る。と思った瞬間、ガイルが無理やり身体を捻り、斧を足と精霊剣との間に挟み入れる。
 ガチィと変な音が響き、ガイルが吹き飛ばされる形で再びティナと距離が開く。


「はぁはぁ……くそっ」
「チャンス、逃しました」


 先手必勝の機会を逃したティナは悔しげに、対するガイルは先程までの余裕は嘘のように息を荒げ、憎々しげにティナを睨む。


「Cランクの分際でっ!Aランク冒険者に対等にでもなったつもりになってるんじゃねぇぞ!」


 そしてガイルは懐から何かを取り出したと思ったらそれを一気に口に含む。
 そして直後、ドクンとガイルの身体が痙攣する。


 筋肉は更に盛り上り、大きな身体は更にもうひと回り大きくなる。
 目は血走ったように赤くなる。


「なっ!?なんですか、それは!」
「ははははははは!これだ!俺が求めるのは圧倒的な力だ!テメェなんて吹き飛ばしてやるよ!」


 そしてガイルの身体が消える。つぎの瞬間、ガイルの姿はブレ、そしてティナの身体が宙に浮いた。



(2話連続の遅れ申し訳ありません!次回はもう少し余裕を持って書きたいです!汗)
しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

転生してテイマーになった僕の異世界冒険譚

ノデミチ
ファンタジー
田中六朗、18歳。 原因不明の発熱が続き、ほぼ寝たきりの生活。結果死亡。 気が付けば異世界。10歳の少年に! 女神が現れ話を聞くと、六朗は本来、この異世界ルーセリアに生まれるはずが、間違えて地球に生まれてしまったとの事。莫大な魔力を持ったが為に、地球では使う事が出来ず魔力過多で燃え尽きてしまったらしい。 お詫びの転生ということで、病気にならないチートな身体と莫大な魔力を授かり、「この世界では思う存分人生を楽しんでください」と。 寝たきりだった六朗は、ライトノベルやゲームが大好き。今、自分がその世界にいる! 勇者? 王様? 何になる? ライトノベルで好きだった「魔物使い=モンスターテイマー」をやってみよう! 六朗=ロックと名乗り、チートな身体と莫大な魔力で異世界を自由に生きる! カクヨムでも公開しました。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で最強に・・・(旧:学園最強に・・・)

こたろう文庫
ファンタジー
カクヨムにて日間・週間共に総合ランキング1位! 死神が間違えたせいで俺は死んだらしい。俺にそう説明する神は何かと俺をイラつかせる。異世界に転生させるからスキルを選ぶように言われたので、神にイラついていた俺は1回しか使えない強奪スキルを神相手に使ってやった。 閑散とした村に子供として転生した為、強奪したスキルのチート度合いがわからず、学校に入学後も無自覚のまま周りを振り回す僕の話 2作目になります。 まだ読まれてない方はこちらもよろしくおねがいします。 「クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される」

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

伯爵家の三男は冒険者を目指す!

おとうふ
ファンタジー
2024年8月、更新再開しました! 佐藤良太はとある高校に通う極普通の高校生である。いつものように彼女の伶奈と一緒に歩いて下校していたところ、信号無視のトラックが猛スピードで突っ込んで来るのが見えた。良太は咄嗟に彼女を突き飛ばしたが、彼は迫り来るトラックを前に為すすべも無く、あっけなくこの世を去った。 彼が最後に見たものは、驚愕した表情で自分を見る彼女と、完全にキメているとしか思えない、トラックの運転手の異常な目だった... (...伶奈、ごめん...) 異世界に転生した良太は、とりあえず父の勧める通りに冒険者を目指すこととなる。学校での出会いや、地球では体験したことのない様々な出来事が彼を待っている。 初めて投稿する作品ですので、温かい目で見ていただければ幸いです。 誤字・脱字やおかしな表現や展開など、指摘があれば遠慮なくお願い致します。 1話1話はとても短くなっていますので、サクサク読めるかなと思います。

前世の記憶さん。こんにちは。

満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。 周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。 主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。 恋愛は当分先に入れる予定です。 主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです! 小説になろう様にも掲載しています。

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

処理中です...