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第4章 一通の手紙と令嬢の定め
逆臣の刃
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成人の儀を行うために、精霊界との穴である霧の森の中心、シャリエ家のみが入ることができる祠へと足を運んだティナは、そこで精霊と出会う。
精霊に気に入られたティナは彼女から祝福を授かる。おまけに霊剣から絆を抽出した一振りの剣も渡された。
その後すぐにまばゆい光に飲まれる。
「んんっ……。ここは?」
光が収まり、落ち着いたそこは森の中である。しかしあれほど濃くかかっていた霧は完全に消えている。
それどころか、今の今まで目の前にあったはずの祠も台座も、三本の長石もなくなっている。
「さっきのは夢だったのでしょうか……」
ぼんやりと呟くティナ。先程までの非現実的な出来事を思い返す。まるで狐につままれたような表情である。
しかし、腰に差がった二本の霊剣と身体を巡る暖かい魔力が、この出来事が事実だと教えてくる。
「クリスティーナよ、儀は順調に終えられたようだな」
「お父様」
未だぼんやりとしたティナの元にオズワルドが向かってくる。後ろには護衛の者たちと「雷神の怒り」の3人が付いてきている。
「結界の霧が収まったのでな、無事成人の儀を終えたとわかり、この者たちと赴いたのだ」
「お父様、これは?」
「あぁ、霧と祠の間の事か。あれらも含めて霧の結界だからな。加護を与えて精霊が去り、霧が収まると同時に姿を隠すようになっているのだよ。そして、また穴から溢れる魔力が霧を生み、結界が発動するとまた祠は森の中心に姿を現わすのだ」
なんと、あの広間そのものが賢者の施した結界なのだという。予想をはるかに超える規模にティナの驚きが増す。
「ところでクリスティーナ、その腰に刺さった霊剣はなんだ?二本に増えているようだが」
「これですね。これは……」
驚きを飲み込んだティナは、オズワルドからの問いに答える。そして広間での話、精霊との出会いや祝福を受けた事を話していく。
「なるほど、たしかに相当精霊に気に入られたようであるな。実際に姿を見て会話しただけでなく、加護を超えて祝福を受けるとは。つまりその剣は精霊剣だったのか」
ティナの話に頷いたオズワルドは、納得するような仕草を見せる。その中の単語に気になるものがあったティナは追うように尋ねる。
「精霊剣、ですか?」
「あぁ、お前が精霊から受け取ったその新しい剣だ。精霊より授かりし剣。かつての英雄レティシア・グランザム・シャリエ様も精霊剣を手に無数の魔を倒したという。元々成人の儀に使うその霊剣も、レティシア様の使っていた精霊剣のレプリカでな」
「精霊剣、レティシア様の使っていた剣……」
オズワルドの答えにティナは感慨深さを感じる。英雄レティシアの使っていた剣と同じものが手元にあるという事を実感する。
「まぁなんにせよ、これで成人の儀が終えられたのは事実なのだ。これで王太子殿下との婚姻も進められる」
「はい、そうですね……」
続いて出たオズワルドの言葉にティナは急に現実に戻されたように俯く。
元々、この儀を行う理由はしきたりであるというのと同時に王太子殿下との婚姻の為にシャリエ家として成人が認められていないというのではいけないというものである。
しかし、精霊との出会いや精霊剣の事で一時的にそのことを忘れていたティナには悲しみを連想させるものであった。
そんなティナを置き、オズワルドは周囲にいる護衛に声をかける。
「お前達、今すぐ屋敷に戻り、成人の儀を終えたとセバスに伝えろ、そして今後の準備を進めておくように、と」
「はっ。しかし、旦那様の護衛が」
「『雷神の怒り』がおる。儀が終わった以上、クリスティーナだけの護衛をしている理由はないからな、こいつらならワシとクリスティーナの2人の護衛程度造作もない。半数程度はこちらに残すしな。それより急いで伝えよ」
「わかりました。では直ちに」
オズワルドの催促を受け、護衛を担当していた者たち数人が足早に森の外へ直線距離で木々を抜け、走っていく。脚力に優れた者達のようで、森という足場の不安定な中を軽やかに駆け、すぐに見えなくなった。
それを見送ったオズワルドは残った護衛達やクリスティーナ、「雷神の怒り」に向き直る。
「では、ワシらも向かうとしよう。あまり時間もない、急がねばな」
「はい。そうで……っ!?」
ガキィン
鈍い音がなる。言葉を発しようとしていた途中であったティナがいきなり息をのみ、手に持っていた精霊剣を後方に向けて振るっていた。
精霊剣がぶつかったのは金属の針、しかも先端には何やら液体が付いているようで黄緑色にテカっている。
「おいおい、しくじるなよリュー」
「すまないなガイル。まさか気づかれるとは思わなかった」
針を手にしていたのは「雷神の怒り」の1人である斥候のようなリューという男である。いつのまにかティナの後ろに回りこんでおり、その針を刺してきたのだ。
リューはリーダーである戦斧の男ーーガイルに驚きとばつの悪さを見せる。
「おいお前達!一体なんの真似だ!」
「なんの真似って旦那様よぉ、見たらわかるだろ?襲撃だよ」
「こんな事をしてどうなるかわかっているのだろうな!」
オズワルドが「雷神の怒り」に向けて恫喝する。護衛であったはずの最腕利き達がいきなり自分達に襲いかかってきたのだから当然である。
その間に針を弾き距離をとっていたティナが、リューという斥候の男に問いを発する。
「なんでこんな事を!」
「すまないなお嬢様、お嬢様が生きていたら困る人達がいるんだ。俺達はその困っている人に雇われてお嬢様の命と旦那様、いやオズワルドの身柄確保を依頼された」
「そう言うこった、まぁーー」
と、リューが後退し木の陰へと身を隠す。そして入れ替わるように戦斧の男ガイルがティナに向けて突撃する。
「ーー死んでくれや」
(投稿遅れてすみません!近況報告にも書きますが、リアルが忙しくなってきている為、投稿時間を23時から24時ごろに遅らせたいと思います。楽しみにしている方には申し訳ありません)
精霊に気に入られたティナは彼女から祝福を授かる。おまけに霊剣から絆を抽出した一振りの剣も渡された。
その後すぐにまばゆい光に飲まれる。
「んんっ……。ここは?」
光が収まり、落ち着いたそこは森の中である。しかしあれほど濃くかかっていた霧は完全に消えている。
それどころか、今の今まで目の前にあったはずの祠も台座も、三本の長石もなくなっている。
「さっきのは夢だったのでしょうか……」
ぼんやりと呟くティナ。先程までの非現実的な出来事を思い返す。まるで狐につままれたような表情である。
しかし、腰に差がった二本の霊剣と身体を巡る暖かい魔力が、この出来事が事実だと教えてくる。
「クリスティーナよ、儀は順調に終えられたようだな」
「お父様」
未だぼんやりとしたティナの元にオズワルドが向かってくる。後ろには護衛の者たちと「雷神の怒り」の3人が付いてきている。
「結界の霧が収まったのでな、無事成人の儀を終えたとわかり、この者たちと赴いたのだ」
「お父様、これは?」
「あぁ、霧と祠の間の事か。あれらも含めて霧の結界だからな。加護を与えて精霊が去り、霧が収まると同時に姿を隠すようになっているのだよ。そして、また穴から溢れる魔力が霧を生み、結界が発動するとまた祠は森の中心に姿を現わすのだ」
なんと、あの広間そのものが賢者の施した結界なのだという。予想をはるかに超える規模にティナの驚きが増す。
「ところでクリスティーナ、その腰に刺さった霊剣はなんだ?二本に増えているようだが」
「これですね。これは……」
驚きを飲み込んだティナは、オズワルドからの問いに答える。そして広間での話、精霊との出会いや祝福を受けた事を話していく。
「なるほど、たしかに相当精霊に気に入られたようであるな。実際に姿を見て会話しただけでなく、加護を超えて祝福を受けるとは。つまりその剣は精霊剣だったのか」
ティナの話に頷いたオズワルドは、納得するような仕草を見せる。その中の単語に気になるものがあったティナは追うように尋ねる。
「精霊剣、ですか?」
「あぁ、お前が精霊から受け取ったその新しい剣だ。精霊より授かりし剣。かつての英雄レティシア・グランザム・シャリエ様も精霊剣を手に無数の魔を倒したという。元々成人の儀に使うその霊剣も、レティシア様の使っていた精霊剣のレプリカでな」
「精霊剣、レティシア様の使っていた剣……」
オズワルドの答えにティナは感慨深さを感じる。英雄レティシアの使っていた剣と同じものが手元にあるという事を実感する。
「まぁなんにせよ、これで成人の儀が終えられたのは事実なのだ。これで王太子殿下との婚姻も進められる」
「はい、そうですね……」
続いて出たオズワルドの言葉にティナは急に現実に戻されたように俯く。
元々、この儀を行う理由はしきたりであるというのと同時に王太子殿下との婚姻の為にシャリエ家として成人が認められていないというのではいけないというものである。
しかし、精霊との出会いや精霊剣の事で一時的にそのことを忘れていたティナには悲しみを連想させるものであった。
そんなティナを置き、オズワルドは周囲にいる護衛に声をかける。
「お前達、今すぐ屋敷に戻り、成人の儀を終えたとセバスに伝えろ、そして今後の準備を進めておくように、と」
「はっ。しかし、旦那様の護衛が」
「『雷神の怒り』がおる。儀が終わった以上、クリスティーナだけの護衛をしている理由はないからな、こいつらならワシとクリスティーナの2人の護衛程度造作もない。半数程度はこちらに残すしな。それより急いで伝えよ」
「わかりました。では直ちに」
オズワルドの催促を受け、護衛を担当していた者たち数人が足早に森の外へ直線距離で木々を抜け、走っていく。脚力に優れた者達のようで、森という足場の不安定な中を軽やかに駆け、すぐに見えなくなった。
それを見送ったオズワルドは残った護衛達やクリスティーナ、「雷神の怒り」に向き直る。
「では、ワシらも向かうとしよう。あまり時間もない、急がねばな」
「はい。そうで……っ!?」
ガキィン
鈍い音がなる。言葉を発しようとしていた途中であったティナがいきなり息をのみ、手に持っていた精霊剣を後方に向けて振るっていた。
精霊剣がぶつかったのは金属の針、しかも先端には何やら液体が付いているようで黄緑色にテカっている。
「おいおい、しくじるなよリュー」
「すまないなガイル。まさか気づかれるとは思わなかった」
針を手にしていたのは「雷神の怒り」の1人である斥候のようなリューという男である。いつのまにかティナの後ろに回りこんでおり、その針を刺してきたのだ。
リューはリーダーである戦斧の男ーーガイルに驚きとばつの悪さを見せる。
「おいお前達!一体なんの真似だ!」
「なんの真似って旦那様よぉ、見たらわかるだろ?襲撃だよ」
「こんな事をしてどうなるかわかっているのだろうな!」
オズワルドが「雷神の怒り」に向けて恫喝する。護衛であったはずの最腕利き達がいきなり自分達に襲いかかってきたのだから当然である。
その間に針を弾き距離をとっていたティナが、リューという斥候の男に問いを発する。
「なんでこんな事を!」
「すまないなお嬢様、お嬢様が生きていたら困る人達がいるんだ。俺達はその困っている人に雇われてお嬢様の命と旦那様、いやオズワルドの身柄確保を依頼された」
「そう言うこった、まぁーー」
と、リューが後退し木の陰へと身を隠す。そして入れ替わるように戦斧の男ガイルがティナに向けて突撃する。
「ーー死んでくれや」
(投稿遅れてすみません!近況報告にも書きますが、リアルが忙しくなってきている為、投稿時間を23時から24時ごろに遅らせたいと思います。楽しみにしている方には申し訳ありません)
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