身体強化って、何気にチートじゃないですか!?

ルーグイウル

文字の大きさ
上 下
78 / 141
第4章 一通の手紙と令嬢の定め

成人の儀

しおりを挟む



「はぁ……もう1週間ですね……」


 ため息をつきながら、ティナはベッドの端に腰掛ける。隆人とロロノが捕らえられた怒涛の一日からはすでに1週間が経過していた。
 この1週間、ティナは軟禁されるかのように自宅から出ることの無い生活に逆戻りしている。


 習い事の数々をこなしてはまた自室に戻され、監視される毎日。家に戻ってから剣も握っていないし隆人達の顔も見れていない。
 一度セバスに隆人達のことについて聞いたが、やはり従う気はないようで、この1週間牢に入れられたままであるらしい。


 状況が何一つ好転する気配すら感じぬまま時間だけが無情に過ぎていった。


「どうしましょう。隆人様達は……多分大丈夫だとは思いますが、このままずっと幽閉なんてわけにはいかないですし」


 そう言って落ち込むティナ。
 と、そこに

  コンコン


「はい?」
「クリスティーナ様。旦那様がお呼びです。すぐに来るように、と」
「お父様が?わかりました」


 この1週間、ティナの父親オズワルドとは一言も口を聞いていない。というかそもそもあっても居ない。
 元々オズワルドは家族と団欒といったものとは無縁の男であり、ティナが家出する以前も親子で会話することすら珍しいといったレベルであった。


 そんなオズワルドからの呼び出し。ティナは不安を覚えながらも執務室へと足を運んでいった。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「来たか、クリスティーナ」
「お父様。話とはなんでしょう」
「お前には成人の儀を受けてもらう」
「っ!」


 息を飲むティナ。いつか来るとは思っていたが、予想以上にオズワルド、もといセバスによる準備が早かったということ。そして、


「……お父様は、エリザ姉様の事をもう忘れてしまったのですね」
「エリザベートの事は残念だった。成人の儀の最中に魔物に出くわすなんてな」
「エリザ姉様はあの事件で死んだのですよ!?それを残念で済ますなんて!」
「終わった事だ。今言っても仕方ないだろう。成人の儀は建国時点より続く、我がシャリエ家のしきたりだ。そもそも本来なら去年のうちには済んでいるはずのものなのに、お前が家を出るなんてしたせいで今頃やらねばいけないのだ。こちらの苦労を考えてくれ」


 オズワルドの言葉にティナは呆然とする。ティナには六つ上のエリザベートという姉がいた。つまりシャリエ家の長女。第一令嬢である。
 元々、エリザベートが現王太子殿下の婚約者であった。しかし、その婚姻が行われる間近、エリザベートの成人の儀の最中。偶然近くを通った魔物によって襲撃させる。


 エリザベートはその時に重傷を負い、まもなく亡くなった。そして、代わりにティナが王太子殿下の婚約者として据えられたのだ。


 年の離れた姉であるエリザベートとティナはとても親しくしており、彼女の死はティナに大きな悲しみをもたらした。
 ティナが家出を決行する引き金になったのも、ある意味でその悲しみから逃避しようとした結果でもあるのだ。


 にもかかわらずオズワルドはティナに対し成人の儀を行うように言う。ティナはそのことが信じられなかった。


「お父様。もし、断ると言ったらどうしますか?」
「構わんが、クリスティーナ。地下の牢にいる少年と獣人の事を忘れているのか?」
「っ!リュート様達をどうするつもりですか!」
「別にどうするつもりもない。彼らはクリスティーナと友好的な関係のようだからな。だがお前の態度次第ではどうなるか」
「くっ……。わかり、ました」


 オズワルドの言葉にティナは歯噛みする。つまり脅しである。実際隆人達の身柄はオズワルドが抑えており、下手をすれば彼らの命が危うくなる。
 もとより選択肢はなかった。


 その返答を聞き、オズワルドは言葉を続ける。


「それと、成人の儀が行われる霧の森は本来そこまで強力な魔物が出る場所ではない。だがたしかにエリザベートの時のような事が起きてはいけないからな。ティナには護衛をつける」
「護衛、ですか?」
「あぁ、入ってくれ」


 ガチャリと執務室の扉が開かれる。現れたのは見るからに熟練の冒険者達である。男女3人のパーティで真ん中の男は屈強な身体に巨大な斧を担いでいる。その姿にはティナも見覚えがあった。


「オズワルド様の命で、俺たちがクリスティーナ様の護衛をさせてもらう」
「『雷神の怒り』。お父様、護衛程度にAランクパーティを遣うのですか?」
「それだけ心配しておるのだ。前回のような事が絶対に起きないようにな。それと、彼らはお前の監視役も兼ねている」


 入ってきた男達は「雷神の怒り」というAランクパーティであり、シャリエ家お抱えの冒険者の中でも最大戦力である。彼らは数々の偉業を成し遂げた有名な冒険者であり、Aランク2人、Bランク1人のパーティである。
 中でもリーダーである戦斧を持った男はAランクでもトップクラスの実力者と言われており、その一撃は同じAランクの魔物すら粉砕するとの評判である。


 その実力ゆえ、シャリエ家の依頼でも多くは討伐などの荒事でシャリエ家の武の一面を強める存在である。
 ティナもまだ邸宅にいた頃、オズワルドが有する代表的な冒険者としてその名と姿を目にした事があった。


 オズワルドはその「雷神の怒り」を護衛兼ティナの監視としてつけるというのだ。


「あくまで念のため、だが。お前が彼らを見捨てて逃げないとも限らないからな。流石に、Aランクパーティ相手に逃げを演じるなんて愚かな事はしないであろう?」


 ティナが憎々しげな表情を強める。
 「雷神の怒り」の実力は本物であり、その強さはティナもよくわかっている。彼らの隙をつくことができるとは思えなかった。


「それでは、出発は明日。セバスが馬車を手配している。霧の森に着き次第成人の儀を執り行う」
「……はい」
「話は以上だ。行っていいぞ」


 オズワスドが話を終えて、再び書類仕事に戻る。その一方的な態度にティナはうなだれたまま、部屋を出て行った。



(今章はこれまでいなかったタイプが多いので書き手としては新鮮ではありますが難しいですね)
しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

半神の守護者

ぴっさま
ファンタジー
ロッドは何の力も無い少年だったが、異世界の創造神の血縁者だった。 超能力を手に入れたロッドは前世のペット、忠実な従者をお供に世界の守護者として邪神に立ち向かう。 〜概要〜 臨時パーティーにオークの群れの中に取り残されたロッドは、不思議な生き物に助けられこの世界の神と出会う。 実は神の遠い血縁者でこの世界の守護を頼まれたロッドは承諾し、通常では得られない超能力を得る。 そして魂の絆で結ばれたユニークモンスターのペット、従者のホムンクルスの少女を供にした旅が始まる。 ■注記 本作品のメインはファンタジー世界においての超能力の行使になります。 他サイトにも投稿中

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す

紅月シン
ファンタジー
 七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。  才能限界0。  それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。  レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。  つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。  だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。  その結果として実家の公爵家を追放されたことも。  同日に前世の記憶を思い出したことも。  一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。  その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。  スキル。  そして、自らのスキルである限界突破。  やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。 ※小説家になろう様にも投稿しています

異世界転生したのだけれど。〜チート隠して、目指せ! のんびり冒険者 (仮)

ひなた
ファンタジー
…どうやら私、神様のミスで死んだようです。 流行りの異世界転生?と内心(神様にモロバレしてたけど)わくわくしてたら案の定! 剣と魔法のファンタジー世界に転生することに。 せっかくだからと魔力多めにもらったら、多すぎた!? オマケに最後の最後にまたもや神様がミス! 世界で自分しかいない特殊個体の猫獣人に なっちゃって!? 規格外すぎて親に捨てられ早2年経ちました。 ……路上生活、そろそろやめたいと思います。 異世界転生わくわくしてたけど ちょっとだけ神様恨みそう。 脱路上生活!がしたかっただけなのに なんで無双してるんだ私???

神に異世界へ転生させられたので……自由に生きていく

霜月 祈叶 (霜月藍)
ファンタジー
小説漫画アニメではお馴染みの神の失敗で死んだ。 だから異世界で自由に生きていこうと決めた鈴村茉莉。 どう足掻いても異世界のせいかテンプレ発生。ゴブリン、オーク……盗賊。 でも目立ちたくない。目指せフリーダムライフ!

転生してテイマーになった僕の異世界冒険譚

ノデミチ
ファンタジー
田中六朗、18歳。 原因不明の発熱が続き、ほぼ寝たきりの生活。結果死亡。 気が付けば異世界。10歳の少年に! 女神が現れ話を聞くと、六朗は本来、この異世界ルーセリアに生まれるはずが、間違えて地球に生まれてしまったとの事。莫大な魔力を持ったが為に、地球では使う事が出来ず魔力過多で燃え尽きてしまったらしい。 お詫びの転生ということで、病気にならないチートな身体と莫大な魔力を授かり、「この世界では思う存分人生を楽しんでください」と。 寝たきりだった六朗は、ライトノベルやゲームが大好き。今、自分がその世界にいる! 勇者? 王様? 何になる? ライトノベルで好きだった「魔物使い=モンスターテイマー」をやってみよう! 六朗=ロックと名乗り、チートな身体と莫大な魔力で異世界を自由に生きる! カクヨムでも公開しました。

処理中です...