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第4章 一通の手紙と令嬢の定め
成人の儀
しおりを挟む「はぁ……もう1週間ですね……」
ため息をつきながら、ティナはベッドの端に腰掛ける。隆人とロロノが捕らえられた怒涛の一日からはすでに1週間が経過していた。
この1週間、ティナは軟禁されるかのように自宅から出ることの無い生活に逆戻りしている。
習い事の数々をこなしてはまた自室に戻され、監視される毎日。家に戻ってから剣も握っていないし隆人達の顔も見れていない。
一度セバスに隆人達のことについて聞いたが、やはり従う気はないようで、この1週間牢に入れられたままであるらしい。
状況が何一つ好転する気配すら感じぬまま時間だけが無情に過ぎていった。
「どうしましょう。隆人様達は……多分大丈夫だとは思いますが、このままずっと幽閉なんてわけにはいかないですし」
そう言って落ち込むティナ。
と、そこに
コンコン
「はい?」
「クリスティーナ様。旦那様がお呼びです。すぐに来るように、と」
「お父様が?わかりました」
この1週間、ティナの父親オズワルドとは一言も口を聞いていない。というかそもそもあっても居ない。
元々オズワルドは家族と団欒といったものとは無縁の男であり、ティナが家出する以前も親子で会話することすら珍しいといったレベルであった。
そんなオズワルドからの呼び出し。ティナは不安を覚えながらも執務室へと足を運んでいった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「来たか、クリスティーナ」
「お父様。話とはなんでしょう」
「お前には成人の儀を受けてもらう」
「っ!」
息を飲むティナ。いつか来るとは思っていたが、予想以上にオズワルド、もといセバスによる準備が早かったということ。そして、
「……お父様は、エリザ姉様の事をもう忘れてしまったのですね」
「エリザベートの事は残念だった。成人の儀の最中に魔物に出くわすなんてな」
「エリザ姉様はあの事件で死んだのですよ!?それを残念で済ますなんて!」
「終わった事だ。今言っても仕方ないだろう。成人の儀は建国時点より続く、我がシャリエ家のしきたりだ。そもそも本来なら去年のうちには済んでいるはずのものなのに、お前が家を出るなんてしたせいで今頃やらねばいけないのだ。こちらの苦労を考えてくれ」
オズワルドの言葉にティナは呆然とする。ティナには六つ上のエリザベートという姉がいた。つまりシャリエ家の長女。第一令嬢である。
元々、エリザベートが現王太子殿下の婚約者であった。しかし、その婚姻が行われる間近、エリザベートの成人の儀の最中。偶然近くを通った魔物によって襲撃させる。
エリザベートはその時に重傷を負い、まもなく亡くなった。そして、代わりにティナが王太子殿下の婚約者として据えられたのだ。
年の離れた姉であるエリザベートとティナはとても親しくしており、彼女の死はティナに大きな悲しみをもたらした。
ティナが家出を決行する引き金になったのも、ある意味でその悲しみから逃避しようとした結果でもあるのだ。
にもかかわらずオズワルドはティナに対し成人の儀を行うように言う。ティナはそのことが信じられなかった。
「お父様。もし、断ると言ったらどうしますか?」
「構わんが、クリスティーナ。地下の牢にいる少年と獣人の事を忘れているのか?」
「っ!リュート様達をどうするつもりですか!」
「別にどうするつもりもない。彼らはクリスティーナと友好的な関係のようだからな。だがお前の態度次第ではどうなるか」
「くっ……。わかり、ました」
オズワルドの言葉にティナは歯噛みする。つまり脅しである。実際隆人達の身柄はオズワルドが抑えており、下手をすれば彼らの命が危うくなる。
もとより選択肢はなかった。
その返答を聞き、オズワルドは言葉を続ける。
「それと、成人の儀が行われる霧の森は本来そこまで強力な魔物が出る場所ではない。だがたしかにエリザベートの時のような事が起きてはいけないからな。ティナには護衛をつける」
「護衛、ですか?」
「あぁ、入ってくれ」
ガチャリと執務室の扉が開かれる。現れたのは見るからに熟練の冒険者達である。男女3人のパーティで真ん中の男は屈強な身体に巨大な斧を担いでいる。その姿にはティナも見覚えがあった。
「オズワルド様の命で、俺たちがクリスティーナ様の護衛をさせてもらう」
「『雷神の怒り』。お父様、護衛程度にAランクパーティを遣うのですか?」
「それだけ心配しておるのだ。前回のような事が絶対に起きないようにな。それと、彼らはお前の監視役も兼ねている」
入ってきた男達は「雷神の怒り」というAランクパーティであり、シャリエ家お抱えの冒険者の中でも最大戦力である。彼らは数々の偉業を成し遂げた有名な冒険者であり、Aランク2人、Bランク1人のパーティである。
中でもリーダーである戦斧を持った男はAランクでもトップクラスの実力者と言われており、その一撃は同じAランクの魔物すら粉砕するとの評判である。
その実力ゆえ、シャリエ家の依頼でも多くは討伐などの荒事でシャリエ家の武の一面を強める存在である。
ティナもまだ邸宅にいた頃、オズワルドが有する代表的な冒険者としてその名と姿を目にした事があった。
オズワルドはその「雷神の怒り」を護衛兼ティナの監視としてつけるというのだ。
「あくまで念のため、だが。お前が彼らを見捨てて逃げないとも限らないからな。流石に、Aランクパーティ相手に逃げを演じるなんて愚かな事はしないであろう?」
ティナが憎々しげな表情を強める。
「雷神の怒り」の実力は本物であり、その強さはティナもよくわかっている。彼らの隙をつくことができるとは思えなかった。
「それでは、出発は明日。セバスが馬車を手配している。霧の森に着き次第成人の儀を執り行う」
「……はい」
「話は以上だ。行っていいぞ」
オズワスドが話を終えて、再び書類仕事に戻る。その一方的な態度にティナはうなだれたまま、部屋を出て行った。
(今章はこれまでいなかったタイプが多いので書き手としては新鮮ではありますが難しいですね)
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