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第4章 一通の手紙と令嬢の定め
退屈はチートも殺す?
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(何もやる事がない時ほど時間の流れが恐ろしく長く感じる事ありますよね)
ティナーークリスティーナ・グランザム・シャリエ公爵令嬢に届いた一枚の手紙。それは彼女にシャリエ領への帰還を命ずるものであった。
その命に従うティナについていくことにした隆人は、手紙の主オズワルドの遣いでティナ達の護衛担当のBランクパーティ「蒼翼」と共にディアラを出発した。……のだが。
「暇だね」
「暇ですね」
「ひまなのです」
シャリエ領へと向かう馬車の中で、隆人、ティナ、ロロノの3人が揃って溜め息をこぼす。
意気揚々と出発した一行であったが、やがてある問題に直面した。そう、退屈である。
この世界の街は防衛などの観点から、広大な大地にまとまってポツポツと点在するような分布であり、その間の距離はかなり長く。場所によっては最寄りの街やその周辺の村まで一日以上の時間がかかることも珍しくはない。
と言っても、隆人達が出発したディアラは僻地という程ではなく、それほど長時間の移動が必要というわけではない。
目指しているシャリエ領への道程で最も近くにあるトニという村までは5時間程度といったところである。
そして、そこで休憩を取り、再びつぎの目的地へと出発する予定であった。
しかし、単調な移動は短期間でも十分な程、3人に飽きを生んでいた。
「まさか、ここまで何もないとは……」
「楽なのも考えものですね」
「ずっとおなじなのです」
最初の方は良かった。隆人にとっては初の街の外であり、ティナも行きはその足で必死に歩いてきた為、ロロノは商品として運ばれてきた為、このような旅は初めてであり、馬車の窓から見える景色や3人での会話に花を咲かせていた。
しかし、それも時間が経つにつれてシーンとした雰囲気に変わる。
ディアラの周囲は辺り一面が草原になっている。一説にはすぐ下の地盤に超硬度の迷宮の天井部が存在し根を張れないことや、生育に必要な土地の生命力の大部分を迷宮に持っていかれているからなどと言われてはいるが真実は定かではない。
しかし、それによって木々すらも少ない原っぱが続いており、景色が全く変わらないのだ。
更に、ディアラは大都市であり、多くの商人が訪れる。その為、そこに至る道も街道程きちんと整備されてはいないにせよ、あぜ道程度には整っている。
それが変わり映えしない時間を助長している。
「あ、魔物なのです!」
と、窓の外を眺めていたロロノが声を上げる。どうやら遠くに魔物を発見したらしい。
「どこですか?私には見えませんが」
「うーん……あぁ、確かに遠くに狼みたいなのが二匹こっちに向かってきているね。ロロノはよく見つけたよ」
「えへへなのです」
獣人の高い身体能力は視力にも適応される。ロロノのいう方角に隆人も視線を向けてみたが、それなりにいい目をしている隆人ですらも目を凝らさないと見えない程である。
隆人に褒められ笑顔を見せるロロノ。
「報告した方がいいでしょうか」
「いや、大丈夫だと思うよ。……ほらね」
ティナの問いに隆人が答えると同時に、ビシュッという音を立てて、狼の方向へと矢と水の玉が飛んでいく。
それら一直線に狼の方へと飛び、それぞれが別の狼の体に直撃する。
矢の方はその勢いのまま地面へと狼の一匹を縫い付け、その個体はしばらくジタバタとしたのち動かなくなる。水の玉は狼の頭部に着弾すると同時に破裂し、その頭を吹き飛ばした。
それらは、馬車の囲むように馬に乗って並走している冒険者パーティ「蒼翼」の2人、魔法使いと斥候から放たれたものであった。
先程から、偶に魔物が出現したりといった事は起きているのだが、その度にこの2人が遠距離からの先制攻撃で一撃で沈めている。
特に矢を放った斥候の男は、本職は索敵だが弓の技術も凄まじいものがあり、遠距離、しかも馬に乗ってバランスの悪いにも関わらず正確無比な一射で魔物達を沈めていく。
さすが公爵家お抱え冒険者で各人が高い実力を有すのBランクパーティである。しかしそれもまた隆人にとっては退屈なのだ。
護衛される側なので戦闘に参加できないのは仕方ないが、それでもこうも一方的に一撃で戦闘が終わってしまえば見ている側としても飽きてしまう。
しかも迷宮内と違ってこの辺には森等の魔物の巣と呼ばれるような場所もない為、魔物達のレベルもその殆どがFランクというレベル。
変わり映えしない景色に安定した道、偶に出てくる魔物達も弱く、遠距離攻撃一撃で終わってしまう。そのような刺激の少ない時間がディアラを出てからしばらくの間ずっと続いているのだ。
これから、このような形でいくつかの街を経由しては宿泊したりしながら、目的地であるシャリエ公爵領へと向かっていく。
中にはこれよりもっと長く、半日以上ずっと馬車に揺られる日もある予定である。
しかし、たった5時間の移動でここまでの退屈を覚えていてはこの先どうなることやら、前途多難である。それなりに危機を乗り越えてきた隆人にとっても、これまでにないピンチであった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
それから、ガタガタと揺れる馬車の中、一行は何も変化のない旅路を過ごしていく。時折魔物が出てはその直後には「蒼翼」によって仕留められていった。
「クリスティーナ様とお連れの方、そろそろトニの村が見えてきましたよ」
「…………あぁ、やっと着いたね」
「長かったです……」
そして馬車に乗ってからおよそ5時間後、御者の位置に座っていた「蒼翼」の1人が荷台に顔を覗かせる。
その頃には隆人達は肉体とはまた別の疲労によってぐったりとしていた。
そんなこんなで、太陽が頂点にたどり着く頃には最初の目的地であるトニの村に到着したのであった。
ティナーークリスティーナ・グランザム・シャリエ公爵令嬢に届いた一枚の手紙。それは彼女にシャリエ領への帰還を命ずるものであった。
その命に従うティナについていくことにした隆人は、手紙の主オズワルドの遣いでティナ達の護衛担当のBランクパーティ「蒼翼」と共にディアラを出発した。……のだが。
「暇だね」
「暇ですね」
「ひまなのです」
シャリエ領へと向かう馬車の中で、隆人、ティナ、ロロノの3人が揃って溜め息をこぼす。
意気揚々と出発した一行であったが、やがてある問題に直面した。そう、退屈である。
この世界の街は防衛などの観点から、広大な大地にまとまってポツポツと点在するような分布であり、その間の距離はかなり長く。場所によっては最寄りの街やその周辺の村まで一日以上の時間がかかることも珍しくはない。
と言っても、隆人達が出発したディアラは僻地という程ではなく、それほど長時間の移動が必要というわけではない。
目指しているシャリエ領への道程で最も近くにあるトニという村までは5時間程度といったところである。
そして、そこで休憩を取り、再びつぎの目的地へと出発する予定であった。
しかし、単調な移動は短期間でも十分な程、3人に飽きを生んでいた。
「まさか、ここまで何もないとは……」
「楽なのも考えものですね」
「ずっとおなじなのです」
最初の方は良かった。隆人にとっては初の街の外であり、ティナも行きはその足で必死に歩いてきた為、ロロノは商品として運ばれてきた為、このような旅は初めてであり、馬車の窓から見える景色や3人での会話に花を咲かせていた。
しかし、それも時間が経つにつれてシーンとした雰囲気に変わる。
ディアラの周囲は辺り一面が草原になっている。一説にはすぐ下の地盤に超硬度の迷宮の天井部が存在し根を張れないことや、生育に必要な土地の生命力の大部分を迷宮に持っていかれているからなどと言われてはいるが真実は定かではない。
しかし、それによって木々すらも少ない原っぱが続いており、景色が全く変わらないのだ。
更に、ディアラは大都市であり、多くの商人が訪れる。その為、そこに至る道も街道程きちんと整備されてはいないにせよ、あぜ道程度には整っている。
それが変わり映えしない時間を助長している。
「あ、魔物なのです!」
と、窓の外を眺めていたロロノが声を上げる。どうやら遠くに魔物を発見したらしい。
「どこですか?私には見えませんが」
「うーん……あぁ、確かに遠くに狼みたいなのが二匹こっちに向かってきているね。ロロノはよく見つけたよ」
「えへへなのです」
獣人の高い身体能力は視力にも適応される。ロロノのいう方角に隆人も視線を向けてみたが、それなりにいい目をしている隆人ですらも目を凝らさないと見えない程である。
隆人に褒められ笑顔を見せるロロノ。
「報告した方がいいでしょうか」
「いや、大丈夫だと思うよ。……ほらね」
ティナの問いに隆人が答えると同時に、ビシュッという音を立てて、狼の方向へと矢と水の玉が飛んでいく。
それら一直線に狼の方へと飛び、それぞれが別の狼の体に直撃する。
矢の方はその勢いのまま地面へと狼の一匹を縫い付け、その個体はしばらくジタバタとしたのち動かなくなる。水の玉は狼の頭部に着弾すると同時に破裂し、その頭を吹き飛ばした。
それらは、馬車の囲むように馬に乗って並走している冒険者パーティ「蒼翼」の2人、魔法使いと斥候から放たれたものであった。
先程から、偶に魔物が出現したりといった事は起きているのだが、その度にこの2人が遠距離からの先制攻撃で一撃で沈めている。
特に矢を放った斥候の男は、本職は索敵だが弓の技術も凄まじいものがあり、遠距離、しかも馬に乗ってバランスの悪いにも関わらず正確無比な一射で魔物達を沈めていく。
さすが公爵家お抱え冒険者で各人が高い実力を有すのBランクパーティである。しかしそれもまた隆人にとっては退屈なのだ。
護衛される側なので戦闘に参加できないのは仕方ないが、それでもこうも一方的に一撃で戦闘が終わってしまえば見ている側としても飽きてしまう。
しかも迷宮内と違ってこの辺には森等の魔物の巣と呼ばれるような場所もない為、魔物達のレベルもその殆どがFランクというレベル。
変わり映えしない景色に安定した道、偶に出てくる魔物達も弱く、遠距離攻撃一撃で終わってしまう。そのような刺激の少ない時間がディアラを出てからしばらくの間ずっと続いているのだ。
これから、このような形でいくつかの街を経由しては宿泊したりしながら、目的地であるシャリエ公爵領へと向かっていく。
中にはこれよりもっと長く、半日以上ずっと馬車に揺られる日もある予定である。
しかし、たった5時間の移動でここまでの退屈を覚えていてはこの先どうなることやら、前途多難である。それなりに危機を乗り越えてきた隆人にとっても、これまでにないピンチであった。
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それから、ガタガタと揺れる馬車の中、一行は何も変化のない旅路を過ごしていく。時折魔物が出てはその直後には「蒼翼」によって仕留められていった。
「クリスティーナ様とお連れの方、そろそろトニの村が見えてきましたよ」
「…………あぁ、やっと着いたね」
「長かったです……」
そして馬車に乗ってからおよそ5時間後、御者の位置に座っていた「蒼翼」の1人が荷台に顔を覗かせる。
その頃には隆人達は肉体とはまた別の疲労によってぐったりとしていた。
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