身体強化って、何気にチートじゃないですか!?

ルーグイウル

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第3章 獣人少女ロロノ

幕間 暗躍する影

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(幕間です!異常事態の裏に潜む陰謀ってなにかと心が躍る気がします。side.ロロノもどこかで入れたいのですが、発言がひらがな多めなので見づらくなりそうなのが悩みところです)



  コン  コン  コン  コン


 薄暗い部屋の中で響く乾いた音。音が聞こえる方へと視線を向けると見るからに上流階級といった雰囲気の男が椅子に掛けながら、テーブルを爪で打っている。
 この部屋には何人かの男達が存在しており、その殆どが部屋の隅で直立している。
 そんな中唯一椅子に座したこの男がいかにも不機嫌といった様子で瞑目している。
 

「それで」


 男が閉じられていた目を開き言葉を発する。それはゾッとするような冷たい声色で、視線は向けられていないにもかかわらず、テーブルの向かいに立っていた3人の男達が一斉に背すじを伸ばす。


「わざわざ呼び立てたという事はそれ程の問題が起きたんだろうな?」
「は、はい」


 座っている男から発せられるプレッシャーに3人の男が達は血の気の失ったような顔をしながらもなんとか声を発する。
 その様子はこの場にいる全ての者に双方の"格"の違いが伝えることだろう。


 3人の男達は全身にべったりと嫌な汗が吹き出しているのを感じながらも、報告という義務を果たすべく言葉を繋ぐ。


「グランザムの第迷宮ディアラ、その深層にて待機させていた使役竜種なのですが、その……。か、壊滅したそうです」
「何?」


 コツン、という音を最後に先程からずっとテーブルを叩いていた指が止まる。そして辺りはシンとした痛いほどの静寂に包まれる。
 そして男はテーブルへと向けていた視線を正面にいる男たちへと向け、目を細める。

 
 放たれていたプレッシャーが更に強さを増す。まさに嵐という程の圧力に3人の男が縮こまる。


「どういうことだ」
「は、はい。実は先日、竜種の管理をしている部隊から『使役契約が一方的に破棄された』との報告がありまして」
「その為、確認の人員を契約が破棄されたらしき場所周辺へと派遣したのですが」
「そこで、大量の竜種の死体が発見されたという事です」


 派遣された調査班の人員達は相当に驚いたらしい。何せ一体でも脅威となる竜種、それが膨大と表現しても足りないであろう数が死体となって転がっている。巨体がまるでゴミのように無造作に山となっている通路の端に積み上がっているのだ。
 調査班は急いで帰投し報告したのだという。
 

 継々に話される内容を不快げに聞く男だが、やがて3人の男達の報告が終わったところで重々しく口を開く。


 
「それで、被害はどの程度なのだ。壊滅と言っていたが」
「……ぜ、全滅です。生存個体は存在しておりません」
「馬鹿な!?」


 予想以上に深刻な事態のため被害状況を把握する必要があるとの考えによってなされた質問であるが、その答えは男の想像をはるかに超えるものであった。男は思わず瞠目する。
 同時に、部屋の側壁に立っていた内の1人、小太りの男から荒げた声が響く。


「500体以上の竜種の群れ、一体一体がAランクを超える力を持ち、10体ほどではあるが上位種もいる。しかもその中には黒竜もいたではないか!”王級”には及ばないが、上級竜の率いる竜種の大群。小国程度なら消せる戦力なのだぞ!?」
「騒ぐな」
「はっ……はい」


 竜種というのは一体でも一般には過剰ともいえる暴威だが、統率されたならばその脅威度がけた違いに上がる。まして黒竜のように個としての戦力もさることながら高い知性を有す個体に率いられたそれは、もはや災害と言え、およそ町レベルで対処するレベルではない。
 男の言う通り、小国の戦力程度であれば蹂躙できる戦力なのである。


 それが全滅したという事実に声を荒げた小太りの男だったが、未だ座ったままの男から発せられた声によって鎮められる。


「我々の動きが王国に察知でもされたのか?それとも運悪くSランク冒険者バケモノ共にでも見つかったのか」
「いえ、王宮騎士団及びに目立った動きはありません。また直接依頼をしたという報告もありません。Sランク冒険者達の動向については完全に掴めてはおりませんが」


 男の呟きに、先程からずっと男の横に無言で控えていた老紳士が答える。男はその返答に「そうか」とだけ返事をし再び下がらせた。


「そんな事より、どうするのですか!竜種部隊は我々が現状で動かせる手駒としては最大級の一つ。これを失ったのは我々にとって大打撃です!」
「黙れ」


 そこで耐えきれなくなったのか、報告をしていた3人の男達のうちの1人が悲鳴じみた声を上げる。
 再び座した男が威圧のこもった声を発するが今度は止まらない。


「しかし!これは緊急事態でゃっ!?」
「2度は言わん」


 発火。冷たい声が部屋中に反響したと思った次の瞬間、喚いていた男の身体から火が噴き出したのだ。
 しかもただの火ではない。暗い闇のような炎。一目で禍々しい魔力が込められていることがわかる。


「たすけてくれぇぇぁぁぁぁぁ」


 喚き声が悲鳴に変わるが暗い炎はお構いなく身体を包んでいく。そしてものの数秒で先程まで喚いていた男の身体は燃え尽き、炎ごと跡形もなく空気に溶けた。
 膨大な魔力の込められた炎。更にそれを相手の肉体の内側に干渉し発動させるなど並みの技量と魔力ではない。


「これで静かになったろう」


 そしてそれを為した本人は何事もなかったように話を元に戻す。
 一連の出来事で、部屋は男を中心として先程とは打って変わった整然とした雰囲気に変化している。


「報告は以上か?」


 座した男は再び口を開き、2人になった男達に問いかける。未だ停止していた2人だったがその言葉に我に返り、首を振る。


「い、いえ、もう一つ。同じく大迷宮ディアラで実験中でした寄生型魔物が討伐されました」
「……ディアラ固有の魔物か。確か強力な個体へと成長させる為に一時的に低級生物の多い下層の奥地に設置していたな」
「はい。しかし依頼の最中であったBランクパーティ『太陽の剣』に発見されて討伐されたとの事です」
「[両断グリンジャー]か、しかしAランク冒険者がいるとは言え、ディアラの有象無象に倒されるとはな。もう少しマシな戦力になるかと期待したが外れであったな」


 男はがっかりしたような様子で話を終えさせた。
 そこに先程の老紳士が再び一歩前に出て、座したままの男に話しかける。


「それで、どういたしましょうか」
「うむ」


 老紳士の言葉に悩むような仕草を見せる。少しの間目を閉じていた男だが、すぐにまた目を開く。


「しばらくは潜らざるを得んな。予定が大幅に遅れる事になるであろうが仕方ない。これ以上は王都に気づかれるかもしれん。ディアラからは手を引く、グランザムでの他の作戦についても変更を加える」
「「「「はっ」」」」


 男の言葉に部屋にいた他の者たちが一斉に返事をする。
 そして男は席を立ち、背後の扉から部屋を出て行った。



「よもや我々のあずかり知らぬところで、世界が変化しているようだな。念の為に気にかけておくか」


 最後に男から発せられたそんな呟きは音となる事なく誰の耳にも届かずに消えた。

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