身体強化って、何気にチートじゃないですか!?

ルーグイウル

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第3章 獣人少女ロロノ

地獄の特訓

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(今回から数回特訓の話が続きます。魔物との戦いが多くなりますね)



 隆人の特訓開始の声と同時に、対峙した魔物--エルダーゴブリンが突撃してくる。
 数あるゴブリンの中でも最上の分類に位置し、単体でもCランクの魔物であるエルダーゴブリン、その突撃はおよそゴブリンとは思えない程の速度である


 最初にあったティナ達との距離はどんどん詰まっていく。


「ま、まずは……牽制!」


 突然のことに驚きを見せていたティナ達であるが、Cランク冒険者であるティナはすぐに落ち着きを見せ、先ず自分がやるべき事を考える。


「〈燃え盛る炎よ、我が意の元にかの敵を打ち抜け〉『炎弾』!」


 接近するエルダーゴブリンに対し、ティナは魔法の詠唱をする。使うのは1番得意としている魔法である炎弾。
 単純ゆえに素早く発動し、生成された炎の玉は一直線にエルダーゴブリンへと飛んでいく。


「ギャギャッ」


 エルダーゴブリンも炎の玉の危険性に気づいたのか、突撃を止め避ける。炎弾は迷宮の床に着弾し弾け消えた。
 だが、避けられたティナに狼狽えた様子はない。そもそも今の魔法の目的は牽制である。


 魔物には基本的に知性と呼べるものは存在しない。しかしそれとは別に生存本能は存在する。自分にとって危険なモノであれば警戒するし、攻撃であれば避ける。


 だからこその牽制である。素早い攻撃や遠距離攻撃で相手の攻撃の先手を取り警戒させる。
 これにより対処する余裕を得ると共に、戦いを優位に進めることができる。接近戦が得意なスピードや膂力のある魔物に有効な対策である。


 今もティナの魔法攻撃を警戒したエルダーゴブリンは突撃をやめ、一定距離を維持するように動いている。


「ロロノ、大丈夫ですか?」
「はい!大丈夫なのです」


 そこでエルダーゴブリンに驚いていたロロノも我に帰る。初めて魔物と正面で相対したのだが、その胆力は中々ものがあるようだ、ティナの問いかけにも元気に返答する。


「ギギャァ!」
「っ!ロロノ、来ますよ」


 ティナの魔法を警戒し一定距離を保つようにしていたエルダーゴブリンだが、痺れを切らしたのか少しずつ距離を詰める。
 そして吠え声のようなものを上げると同時、再び一気に突撃してきた。
 

「〈燃え盛る炎よ、我が意の元にっ!」


 再び炎弾の魔法を唱えようとするが、エルダーゴブリンもそれを警戒しているのだろう。先程以上のスピードで一気に加速してきた。
 そして、魔法の詠唱で一瞬動きを止めてしまっていたティナに手に持った鈍器のようなものを振るう。


「止めるのです!」


 ロロノが、先程の攻撃により狙われているティナの前に割り込み、振るってきた持っている鈍器のようなものを両手で持った銀羽槍で受け止める。


  ガギィ


「重たいのです……」


 硬いものがぶつかる鈍い音と共にお互いの武器がぶつかる。一瞬拮抗したかと思ったが、そこには純然たる力の差がある。


 ロロノと銀羽槍はすぐに押し込まれ、エルダーゴブリンが武器を振り抜くと共に斜め後方に飛ばされる。


「きゃぁなのです!」
「ロっ……はぁ!」


 ティナは一瞬ロロノの事を心配するが、即座に判断をしエルダーゴブリンに愛剣を振りぬく。
 エルダーゴブリンは既に今武器を振り抜いたところであり、体勢は整っていない。ロロノが身体を張って作った隙、その瞬間を逃さないべく振るわれたティナの愛剣はエルダーゴブリンを切りつける。


「……浅いっ」


 しかしティナは直ぐに歯嚙みをしたような表情を浮かべる。振るわれた剣はエルダーゴブリンの左脇腹あたりを深く切り裂いた。だがその一撃は絶命させるには至らない。
 剣の一撃を受けたエルダーゴブリンはそのまま少し後退する。動きは多少鈍くなったがそれだけである。


 エルダーゴブリンは再び接近しティナへ武器を振ってくる。


「くぅっ」


 それを剣の刃で受け止めるティナ。一瞬判断が遅れた事に加え、ティナはそこまでパワーがあるわけではない。
 剣は弾かれ今度はティナが大きく後ろに後退する。


「ギギッ」
「きゃっ」


 そこへ追撃するように攻撃を仕掛けるエルダーゴブリン。一撃目で体勢が崩されていたティナはそれをなんとか凌ぐ。
 しかし完全に防戦一方である。


 魔法で状況を変えようにもこの攻撃を受けながらでは集中できないし、何より気をぬくとエルダーゴブリンの攻撃をまともに受けてしまう。
 だが、ティナのパワーではエルダーゴブリンの攻撃を弾く事は出来ないし立て直すすべがない。


 苦しい状況、ティナは心の中で隆人に助けを求めるが割り込んでくる気配はない。
 そうしている間にも、少しずつティナは後退しやがて背中に何かが当たる。迷宮の壁である。


「しまった!」
「ギャァ!!」


 もう下がれない、エルダーゴブリンの攻撃が眼前に迫る。ここまでですね、とティナが諦めの表情を浮かべる。
 しかし、そこに一本の光明が差す。


「はぁぁぁ!なのです」


 横から飛び込んで来る小さな影、ロロノである。先の攻撃で飛ばされた彼女だが、今さっき体勢を立て直し、ピンチのティナに文字通り横槍を叩き込んだのだ。


 走り込んだ勢いを利用して槍を突き出すロロノ、銀羽槍はそのままエルダーゴブリンに突き刺さる。
 ロロノ自体の攻撃力は低いが、その手にある銀羽槍はドワーフの男の力作である。銀羽槍はエルダーゴブリンの今度は右側の脇腹に突き刺さる。


 突然真横から攻撃を受けた事でエルダーゴブリンは怯みティナへの攻撃を中断する。


「ここです!!」


 千載一遇のチャンス、ティナは今度こそ力一杯愛剣を振り下ろす。
 渾身の力がこもったそれは今度こそエルダーゴブリンの頭を砕いた。


 グラリと揺れるエルダーゴブリンの身体、そして崩れるように倒れ絶命した。


「か、勝ちました……」


 ティナとロロノはその場でヘタリ込む。息を見出しはぁはぁと荒く息を吐いている。


 そこに隆人がやってくる。


「いやぁ、一時はどうなるかと思ったけど大丈夫だったね、2人ともおめでとう」


 そう言って隆人は2人にそれぞれ瓶詰めの液体を渡す。ティナが見覚えのあるものだ。


「これは……MPポーションですか?」
「うん、とりあえずそれ飲んで、後……『ヒール』」


 隆人がヒールのスキルを発動する。淡い光が2人を包み、2人のHPが回復する。


「どうしたんですか、これ」
「事前にたくさん買っておいたんだよ、尽きないくらいにはね」
「そうなんですか……」
「あ、そうそう。特訓中はステータス画面は見ないこと、レベルやステータスが上がっていることを自覚したらそれに頼った戦い方になっちゃうからね」
「は、はい」
「わかったのです」
「さぁ、早く飲んだ方がいいと思うよ、すぐ次がくるし」
「……次?」


 ティナが隆人の言葉に疑問符を浮かべる。隆人の口から出たのは驚くべきものだった。


「まさかこれで終わりなわけないでしょ?早く回復して次の魔物いくよ!回復はたくさんあるから安心してね!」
「ひえぇ……」


 ティナは絶望のたっぷりこもった顔でそう呟いた。
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