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第1章 異世界へ
ダンジョン探索(1)
しおりを挟む隆人がこの世界に転生してきてからだいたい2週間が経った。といってもちゃんと時間が測れているわけではないのだが。
流石に2週間ともなるとダンジョンでの生活にも慣れてきており、ルーティンワークのようなものもできてきていた。
基本的には起きてすぐ拠点である小部屋から外に出てMPが尽きるまで魔物を狩ってレベルを上げ、MPの尽きた後は回復するまで小部屋の中で戦闘の訓練したりそれまでの戦闘の振り返りをし、MPが回復したらまた外に出る。
そんな感じで毎日を過ごしていた。
安全マージンもろくに取ってない無茶苦茶なレベリングだった為、最初の方は魔物に囲まれて命からがら逃げ延びたり、強力な一撃をもらってかなりのけがを負ったりと色々あった。
しかし、そんな極限状態の中で生きてると人間はそれに順応するようで、日に日に気配の察知や戦闘技術に磨きがかかり、最近では窮地に追い込まれることも滅多に無くなった。ある程度の魔物相手ならば身体強化のユニークスキルを使用しなくても十分戦えるほどである。
そんなこんなで、パワーレベリングを続けた結果、二週間たった今ではかなりレベルが上がっていた。
隆人/人間族 LV. 56 job なし
HP 263/263 MP 152/152
STR 107
MND 88
VIT 95
AGI 91
魔法適正 風
スキル
ユニークスキル 身体強化 LV.4 〈神速〉〈剛力〉
パッシブスキル 危機回避 LV.1
習得スキル 天駆 LV.1
ストレージ LV.1
「だいぶレベルも上がったし、これならダンジョンの探索範囲を広げてもいいかもしれないね」
二週間の間、小部屋の外で魔物を狩っていた隆人だが、階層移動はしていない。
レベリングでこの階層を歩き回っているうちにすでに上に行く階段も下に行く階段も見つけてはいたが、その先に進むことはなかった。
魔物は一定時間で再出現するので数は十分だったというのもあるが、一番の理由は階層移動した先に何があるのか見当がつかないということである。
ここはファンタジーの世界でありそのダンジョンの中である。化け物が無数に巣くうこの空間に前世の常識が通じないということはすでに理解していた。
階段の先に地獄が広がっている可能性がある以上、ある程度のレベルがない以上迂闊には動けなかったのだ。
だが、2週間のレベリングによってステータスも隆人本人の技量も増した今であれば危険は少ないのではないか。
事実この階層の魔物相手ならそうそう下手を取ることはないであろう程強くなっている。
なので、そろそろ他階層の探索に出てもいい頃だと考えたのだ。
とは言え、階層移動の先に何が起こるかわからないのは変わらない。隆人も万全の準備をする。
「予備の短剣と……重たいけど念の為熊毛の外套も持ってった方がいいな……『収納』」
隆人が『収納』と唱えた瞬間、その手に持っていた短剣数本と熊魔物の毛皮から作った外套が消える。
これは隆人の最近新しく修得したスキル「ストレージ」の効果であり、さっきの言葉はその発動句である。
ストレージ LV.1 消費MP ~
発動句「収納/放出」
物体を異空間に収納することができる
異空間では時間の影響を受けない
収納で取り込み、放出で手元に取り出す
生物は収納不可
収納中の物体に応じてMPの使用不可
スキルレベルによって収納量変化
収納量の限界や、入れた分のMPが使えなくなってしまうというデメリットはかなり大きいが、それ以上に便利なスキルの為非常に重宝している。
「短剣と外套だけで20か、食料も追加しときたいけど、戦闘の可能性がある以上MPは十分残しておきたいよね」
実際、元々劣化を防ぐ目的で食料は少しだけストレージに入れてあるので、結局新しく追加することはなかった。
最終的にストレージに入ったのは短剣と外套に一日分程度の食料。残りは現地調達ということになった。
「よし、じゃあ新階層に出発といこうかな!」
上りと下りの階段があるが、今回は下ることにした。理由は近いから。下りの階段のある通路は小部屋の前の通路を進んだ先、水源のある大部屋に隣接していた。
隆人は水源の泉で十分に喉を潤した後、階段をどんどん降りて行く。隆人の心はワクワクと好奇心で満たされていた。
「さて、新階層はどんな世界が広がっているのかなっと」
階段はそこまで長くはなく、300段程度、大体30メートル程下った所で一番下に着く。そこから階段の上と同じような短い通路を抜けると……。
「…………いや、まぁその可能性もあるとは思ってたけどさ……」
隆人の目の前に広がっていたのはーー土色の大部屋だった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
階段を1つ下りた先の景色は隆人のいた階層とさして大差がない……どころか、同じといってもいいものだった。
普通に考えたら一回下の階層の環境がまったく同じであっても何も不思議はないのだが、ダンジョンの非常識を肌で感じ、十分な準備をして臨んた隆人からしたらなんとも釈然としない。
灼熱のマグマや極寒の吹雪すら想定していたためにまるで肩透かしのような気分になる。
「っと、敵がきたみたいだね」
ある意味予想外に直面し固まっていた隆人の感覚が魔物らしき気配を感じ取る。その音にふと我に返った隆人は気を取り直して警戒する。
階層の見た目は同じでも、もしかしたら存在している魔物は違うかもしれない、そう思っての全力警戒である。
隆人は大部屋の先、気配を感じた一本の通路を睨む。気配はなおもこちらに進んできている。そして数秒後、魔物がその姿を現わす。
「…………ゴブリン、だな」
通路から姿を現したのは1匹の人型の魔物だった。体躯は隆人より少し小さい程度、緑色の体表を様々な装備が覆っている。まさにゴブリンといった様相である。
そして、隆人が上階で何度も戦ったことのある魔物でもある。
上階でレベリングしていた時に単体は元より、数匹の群れとも戦ったことがある。
もちろん前世のゲームや小説のように非常に弱いなんてことはなく、むしろ小回りの効いた動きからの攻撃は強力で、更に群れることもあり危険度が増す
だが、戦い慣れている隆人からしたら特に単体ではそこまで脅威でもない。
「グギャァァァ」
「身体強化は……いらないな」
こちらに気づき叫び声をあげながら近づいてくるゴブリンに隆人は油断なく構える。周囲からの乱入も警戒し、気配探知を広げる。
そしてゴブリンは手に持った鈍器のような物を隆人に対し振るってくる。
「……はっ」
隆人はそれをサイドステップでかわし、カウンター気味に短剣を繰り出す。
それを察知したのかゴブリンも回避行動を取るが、隆人の短剣はゴブリンの体を大きく切り裂く。
大きな損傷を受けたゴブリンはその場で絶命する。気配を見る限り、周囲からの乱入もないようだ。
「うーん、身体強化ありならもっと綺麗にできるんだけど、まぁ及第点かな。……それよりも」
と、隆人は周囲を見る。上階と同じような構造のダンジョンに全く同じ敵。
「こうなったら、もう少し進んでみるのも手かもね、それで危なそうなら戻ろうか」
ダンジョン探索を続行することを決めた隆人は現れる魔物を討伐しながら階段を見つけては下りると言うことを何度か続ける。
そこから二階下までは全く同じ構造同じ魔物ばかりであった。そして三階下に下りた時、周囲の環境に変化が訪れる。
階段を下り通路が続いてることまではこれまでと同じだったが、その通路の先は全く違っていた。
「これは、森?」
そう、通路を抜けた隆人の視線の前に広がっていたのはまさに森のような世界であった。
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