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第1章 異世界へ
魔法という技能
しおりを挟む水源を発見し、魔物肉を食し衝撃を受けた次の日(体感で)、隆人は小部屋で目覚めると共にし声を上げる。
「今日は魔法のトレーニングをしよう!!」
突然の決意。というのも、これまでの熊魔物や兎魔物との戦闘を経て、魔法を習得することが自分の生存率を大幅に上げると考えたのだ。
「咄嗟の時少しでも選択肢は多い方がいいし、魔法には色んな可能性がありそうだね」
隆人はこの世界に来て既に一度魔法を使っている。といっても、突風を吹かせて体を少し動かしたという程度だが。
なのでMP量も上がり、生きるのに必須なものの目処が立ったこのタイミングで魔法について色々試してみようと思い立ったのだ。
「とはいえ、どうやったらちゃんと魔法ができるのかさっぱりわからないんだよね」
もちろん隆人に魔法についての知識なんてあるわけがなく、隆人が初めて魔法を使った時は残ったMPを絞り出してなんとかといった感じだった。
その為、色々手探りで確かめてみるしか無い。
「とりあえず、熊魔物の時の魔法?的なのをやってみるのが手っ取り早いかな?……〈風よ〉!」
詠唱と言うには短い単語を唱えながら魔力ーーMPを流していく。このMP消費の感覚は昨日魔道具となっていた短剣を使ってるうちに慣れていた為割とスムーズにいく。
そしてその消費されたMPが隆人の想像した風のイメージと共に変換され、突風となり吹き付ける。
今回は体勢を崩しているわけではない為体が幾らかなびいただけの結果に終わる。
「うーん、やっぱり出力が足りないんだよね、問題は詠唱の方なのかな……」
あの時に比べかなりレベルが上がった今でも大した感じがしないことに歯痒さを覚える。
MPが足りてないと言うより上手く変換できてないような感覚に、隆人はこれが詠唱に原因があると考えた。
そして今度は同じ魔法のイメージをできる限りでそれっぽい詠唱で使ってみることにした。
「〈風よ、大いなる自然の息吹よ、集いてここに猛威を成せ!〉『突風』!!」
い、痛い……。自分で言っといてなんだがこれは恥ずかしい。ついノリノリになって色々付け足してしまった。
誰もいないから大丈夫だが、このダンジョンを出てこれを人前で唱える勇気は隆人にはない。
そんな隆人の羞恥とは裏腹に流したMPが変換していく。消費量も想像するイメージも先程と同じだが今度は非常にスムーズに変換されていく。
ヒュゴォォォ
そして魔法の発動。だが結果は隆人の予想を裏切ることになった。いい意味で。
発動した魔法は先程の魔法もどきとは比べものにならないものだった。産み出された風はまさに突風という勢いで小部屋の中に吹き付ける。
使った本人である隆人も予期してなかった為に踏ん張りきれず横に1メートル程飛ばされてしまう。そして着地した隆人は思わず喜びをの声を上げた。
「うわぁっ……すごい、詠唱1つでこんなに変わるのか」
使った魔法は全く同じなのに詠唱を変えただけでこの変化。この世界の魔法にはMPやイメージ以外にも詠唱が大きな要因であることがわかる。
「後は、色々試してみるしかないね!」
隆人は様々に試行錯誤を行なっていく。
詠唱の分を変えてみたり、逆にイメージや消費MPに変えて魔法を使ってみたり。
そしてその結果を元に更に色々変えては魔法を唱えて……と繰り返していく。
しばらくそんなことを続けていた隆人だったが、やがてひと段落したのか
「よし!こんなものかな」
と満足げに呟いた。色々試すうちにある程度この世界の魔法についてわかってきた。
あくまで肝にあるのはイメージと消費するMPである。魔法のイメージを元に、必要なMPを消費することでそれが魔法として現実に現れる。
このイメージは正確である程効果が高く、現実に影響を及ぼす複雑さや規模の大きい魔法ほどより多くのMPが必要となる。MPが足りてなければ魔法は発動せず霧散してしまう。
例えば、ただ「風を吹かせる」よりも「自分に横から風を吹かせる」というイメージの方が同じ魔法でも強い風が吹くし、「拳に風を纏わせる」といった複雑なものや、「半径10メートルの竜巻を起こす」といった巨大なものは多くのMPを消費する。(ちなみに竜巻に至っては今の隆人には発動すらできなかった)
そしてイメージとMPの他にもう一つ魔法の効果を決める要因があった。それが詠唱である。
といっても、詠唱は必須と言うわけではない。適当な詠唱でも魔法は発動するし、非常に簡単なものなら詠唱がなくても発動させることはできる。
しかし、詠唱をすることによってイメージが強固になると共に消費するMPを大幅に減らす事ができる。
その効果は詠唱が短文であれば小さく、長文であれば大きい。といっても長ければいいと言うわけではなく、使う魔法に合わせて詠まなければならない。
要は「っぽい」文章で無くてはいけないのだ。
もちろん戦闘中に文章を詠むという危険はあるが、それ以上に本来使えないような強力な魔法が使えると言うアドバンテージは非常に大きい。
「まぁ簡単に言えば、イメージが核でMPが材料、詠唱はブースターってとこかな」
そうして、この世界の魔法というシステムについてある程度理解した隆人は満足気に次のステップへ移る。
「よし、じゃあ今度は実践的な魔法にいってみよう」
風を起こすというのも、状況によっては効果があるかもしれないが、やはり使用用途は限られる。
それよりももっと直接的に戦闘に使える魔法、これが今一番欲しい魔法である。
そして、風の攻撃魔法について、隆人はもう決めていた。
「〈風よ、束ねて刃を成し、彼の敵を切り裂かん〉『ウインドカッター』」
風をまとめて空気を刃の形に形成し打ち出すようなイメージで発動する。
風魔法とは言っても気圧を操作しているわけではなくその本質は魔力、つまりMPによって作り出された魔法的な風ということにある。
それを利用して風を薄く圧縮させることで擬似的なカマイタチのような効果を生み出す。
ドガッ
魔法で生み出した風の刃が小部屋の壁に激突する。擬似的なかまいたちとは言え魔法で生み出したそれは自然現象とは桁違いであり、激突音を立てる。
ダンジョンの壁は非常に硬い為傷をつけることはできなかったが、それでもかなりの威力があることはわかった。
「おぉ!これは良いね予想以上だよ」
想像していた以上の結果に思わず隆人の顔も綻ぶ、魔法というものの可能性に改めて気づかされた。
「よし、じゃあ次は複数いってみよう〈風よ、束ねて刃を成し、彼の敵を切り裂かん〉」
と、隆人は詠唱を始める。文章は先程と全く一緒だが、イメージする刃の数は2本。その分多くのMPを消費し、隆人の前に風の刃が2つ形成される。
「『ウインドカッター』!」
そして射出。風の刃は2つともほぼ同時に壁に激突し、先程よりも大きい音を立てた。
「うん。複数でも問題ないみたいだね。じゃあ今度は防御系の魔法にしよう」
そう言って次の魔法を編み上げていく。イメージに手間取ったが何度か失敗した末に形にするのに成功する。
それは風が空気の層を作り出し攻撃を遮断するイメージ。
「〈風よ、連なり重なり層となり、害するものを遮る壁となれ〉『エアウォール』」
詠唱をすると同時に魔法が発動し、隆人の前に風が集まっていき、空気の層が形成される。
「さて、防御力はどれくらいかな……?」
壁の魔法を展開したまま次の魔法を詠唱する。そして発動したのは単発のウインドカッター、それが風の壁の50センチほど先に生み出される。だがその先は隆人の方に向いている。
そして発動。魔法によって生み出された風の刃は隆人に向かって飛来し、風の壁に衝突すると同時に勢いをなくした後霧散した。
これが風の壁の効果であり、層になった風が勢いと衝撃を吸収した結果である。
「いいね、これなら色んな場面で使えそうだ」
魔法の有用性に満足した隆人はその後も色んな魔法を乱発していく。そしてーー
「あ……やっちゃった……」
MPを全部使い切ってしまったところで、隆人の魔法のトレーニングは終わりを迎えた。
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