身体強化って、何気にチートじゃないですか!?

ルーグイウル

文字の大きさ
上 下
6 / 141
第1章 異世界へ

魔法という技能

しおりを挟む


 水源を発見し、魔物肉を食し衝撃を受けた次の日(体感で)、隆人は小部屋で目覚めると共にし声を上げる。


「今日は魔法のトレーニングをしよう!!」


 突然の決意。というのも、これまでの熊魔物や兎魔物との戦闘を経て、魔法を習得することが自分の生存率を大幅に上げると考えたのだ。


「咄嗟の時少しでも選択肢は多い方がいいし、魔法には色んな可能性がありそうだね」


 隆人はこの世界に来て既に一度魔法を使っている。といっても、突風を吹かせて体を少し動かしたという程度だが。


 なのでMP量も上がり、生きるのに必須なものの目処が立ったこのタイミングで魔法について色々試してみようと思い立ったのだ。


「とはいえ、どうやったらちゃんと魔法ができるのかさっぱりわからないんだよね」


 もちろん隆人に魔法についての知識なんてあるわけがなく、隆人が初めて魔法を使った時は残ったMPを絞り出してなんとかといった感じだった。


 その為、色々手探りで確かめてみるしか無い。


「とりあえず、熊魔物の時の魔法?的なのをやってみるのが手っ取り早いかな?……〈風よ〉!」


 詠唱と言うには短い単語を唱えながら魔力ーーMPを流していく。このMP消費の感覚は昨日魔道具となっていた短剣を使ってるうちに慣れていた為割とスムーズにいく。


 そしてその消費されたMPが隆人の想像した風のイメージと共に変換され、突風となり吹き付ける。
 今回は体勢を崩しているわけではない為体が幾らかなびいただけの結果に終わる。


「うーん、やっぱり出力が足りないんだよね、問題は詠唱の方なのかな……」


 あの時に比べかなりレベルが上がった今でも大した感じがしないことに歯痒さを覚える。


 MPが足りてないと言うより上手く変換できてないような感覚に、隆人はこれが詠唱に原因があると考えた。


 そして今度は同じ魔法のイメージをできる限りでそれっぽい詠唱で使ってみることにした。


「〈風よ、大いなる自然の息吹よ、集いてここに猛威を成せ!〉『突風』!!」


 い、痛い……。自分で言っといてなんだがこれは恥ずかしい。ついノリノリになって色々付け足してしまった。
 誰もいないから大丈夫だが、このダンジョンを出てこれを人前で唱える勇気は隆人にはない。


 そんな隆人の羞恥とは裏腹に流したMPが変換していく。消費量も想像するイメージも先程と同じだが今度は非常にスムーズに変換されていく。


  ヒュゴォォォ


 そして魔法の発動。だが結果は隆人の予想を裏切ることになった。いい意味で。


 発動した魔法は先程の魔法もどきとは比べものにならないものだった。産み出された風はまさに突風という勢いで小部屋の中に吹き付ける。


 使った本人である隆人も予期してなかった為に踏ん張りきれず横に1メートル程飛ばされてしまう。そして着地した隆人は思わず喜びをの声を上げた。


「うわぁっ……すごい、詠唱1つでこんなに変わるのか」


 使った魔法は全く同じなのに詠唱を変えただけでこの変化。この世界の魔法にはMPやイメージ以外にも詠唱が大きな要因であることがわかる。


「後は、色々試してみるしかないね!」




 隆人は様々に試行錯誤を行なっていく。
 詠唱の分を変えてみたり、逆にイメージや消費MPに変えて魔法を使ってみたり。


 そしてその結果を元に更に色々変えては魔法を唱えて……と繰り返していく。


 しばらくそんなことを続けていた隆人だったが、やがてひと段落したのか


「よし!こんなものかな」

 
 と満足げに呟いた。色々試すうちにある程度この世界の魔法についてわかってきた。


 あくまで肝にあるのはイメージと消費するMPである。魔法のイメージを元に、必要なMPを消費することでそれが魔法として現実に現れる。
 このイメージは正確である程効果が高く、現実に影響を及ぼす複雑さや規模の大きい魔法ほどより多くのMPが必要となる。MPが足りてなければ魔法は発動せず霧散してしまう。


 例えば、ただ「風を吹かせる」よりも「風を吹かせる」というイメージの方が同じ魔法でも強い風が吹くし、「拳に風を纏わせる」といった複雑なものや、「半径10メートルの竜巻を起こす」といった巨大なものは多くのMPを消費する。(ちなみに竜巻に至っては今の隆人には発動すらできなかった)


 そしてイメージとMPの他にもう一つ魔法の効果を決める要因があった。それが詠唱である。
 といっても、詠唱は必須と言うわけではない。適当な詠唱でも魔法は発動するし、非常に簡単なものなら詠唱がなくても発動させることはできる。


 しかし、詠唱をすることによってイメージが強固になると共に消費するMPを大幅に減らす事ができる。
 

 その効果は詠唱が短文であれば小さく、長文であれば大きい。といっても長ければいいと言うわけではなく、使う魔法に合わせて詠まなければならない。
 要は「っぽい」文章で無くてはいけないのだ。


 もちろん戦闘中に文章を詠むという危険はあるが、それ以上に本来使えないような強力な魔法が使えると言うアドバンテージは非常に大きい。


「まぁ簡単に言えば、イメージが核でMPが材料、詠唱はブースターってとこかな」


 そうして、この世界の魔法というシステムについてある程度理解した隆人は満足気に次のステップへ移る。


「よし、じゃあ今度は実践的な魔法にいってみよう」


 風を起こすというのも、状況によっては効果があるかもしれないが、やはり使用用途は限られる。


 それよりももっと直接的に戦闘に使える魔法、これが今一番欲しい魔法である。


 そして、風の攻撃魔法について、隆人はもう決めていた。


「〈風よ、束ねて刃を成し、彼の敵を切り裂かん〉『ウインドカッター』」


 風をまとめて空気を刃の形に形成し打ち出すようなイメージで発動する。


 風魔法とは言っても気圧を操作しているわけではなくその本質は魔力、つまりMPによって作り出された魔法的な風ということにある。
 それを利用して風を薄く圧縮させることで擬似的なカマイタチのような効果を生み出す。


  ドガッ


 魔法で生み出した風の刃が小部屋の壁に激突する。擬似的なかまいたちとは言え魔法で生み出したそれは自然現象とは桁違いであり、激突音を立てる。


 ダンジョンの壁は非常に硬い為傷をつけることはできなかったが、それでもかなりの威力があることはわかった。


「おぉ!これは良いね予想以上だよ」


 想像していた以上の結果に思わず隆人の顔も綻ぶ、魔法というものの可能性に改めて気づかされた。


「よし、じゃあ次は複数いってみよう〈風よ、束ねて刃を成し、彼の敵を切り裂かん〉」


 と、隆人は詠唱を始める。文章は先程と全く一緒だが、イメージする刃の数は2本。その分多くのMPを消費し、隆人の前に風の刃が2つ形成される。


「『ウインドカッター』!」


 そして射出。風の刃は2つともほぼ同時に壁に激突し、先程よりも大きい音を立てた。


「うん。複数でも問題ないみたいだね。じゃあ今度は防御系の魔法にしよう」


 そう言って次の魔法を編み上げていく。イメージに手間取ったが何度か失敗した末に形にするのに成功する。


 それは風が空気の層を作り出し攻撃を遮断するイメージ。


「〈風よ、連なり重なり層となり、害するものを遮る壁となれ〉『エアウォール』」


 詠唱をすると同時に魔法が発動し、隆人の前に風が集まっていき、空気の層が形成される。


「さて、防御力はどれくらいかな……?」


 壁の魔法を展開したまま次の魔法を詠唱する。そして発動したのは単発のウインドカッター、それが風の壁の50センチほど先に生み出される。だがその先は隆人の方に向いている。


 そして発動。魔法によって生み出された風の刃は隆人に向かって飛来し、風の壁に衝突すると同時に勢いをなくした後霧散した。


 これが風の壁の効果であり、層になった風が勢いと衝撃を吸収した結果である。


「いいね、これなら色んな場面で使えそうだ」


 魔法の有用性に満足した隆人はその後も色んな魔法を乱発していく。そしてーー


「あ……やっちゃった……」


 MPを全部使い切ってしまったところで、隆人の魔法のトレーニングは終わりを迎えた。
しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す

紅月シン
ファンタジー
 七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。  才能限界0。  それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。  レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。  つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。  だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。  その結果として実家の公爵家を追放されたことも。  同日に前世の記憶を思い出したことも。  一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。  その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。  スキル。  そして、自らのスキルである限界突破。  やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。 ※小説家になろう様にも投稿しています

神に異世界へ転生させられたので……自由に生きていく

霜月 祈叶 (霜月藍)
ファンタジー
小説漫画アニメではお馴染みの神の失敗で死んだ。 だから異世界で自由に生きていこうと決めた鈴村茉莉。 どう足掻いても異世界のせいかテンプレ発生。ゴブリン、オーク……盗賊。 でも目立ちたくない。目指せフリーダムライフ!

異世界転生したのだけれど。〜チート隠して、目指せ! のんびり冒険者 (仮)

ひなた
ファンタジー
…どうやら私、神様のミスで死んだようです。 流行りの異世界転生?と内心(神様にモロバレしてたけど)わくわくしてたら案の定! 剣と魔法のファンタジー世界に転生することに。 せっかくだからと魔力多めにもらったら、多すぎた!? オマケに最後の最後にまたもや神様がミス! 世界で自分しかいない特殊個体の猫獣人に なっちゃって!? 規格外すぎて親に捨てられ早2年経ちました。 ……路上生活、そろそろやめたいと思います。 異世界転生わくわくしてたけど ちょっとだけ神様恨みそう。 脱路上生活!がしたかっただけなのに なんで無双してるんだ私???

転生したら神だった。どうすんの?

埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの? 人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。

異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです

ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。 転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。 前世の記憶を頼りに善悪等を判断。 貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。 2人の兄と、私と、弟と母。 母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。 ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。 前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。

処理中です...