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第1章 異世界へ
成長の手応え
しおりを挟むこちらに向かって突っ込んでる3つの弾丸の如き兎の魔物。対する隆人はそれをしっかり見据え作ったばかりの短剣を構える。
兎達は複雑に動きながらもかなりの速度で接近し、30メートル近くあった距離は一瞬で縮まっていく。
隆人もそれに応えるように、
「『身体強化』」
自らのユニークスキルを発動させる。MPが10消費され、その分青白いオーラと共に身体能力が上昇する。
流石に何度も使ってるので、この感覚にもかなり慣れてきた。
隆人/人間族 LV. 28 job なし
HP 136/185 MP 41/102
STR 75(+15)
MND 60
VIT 73(+14)
AGI 69(+13)
「ふぅん、こうして使ってみると、上昇幅も結構変わるもんだね……っと!」
一瞬ステータスの欄に目を向ける隆人だが、その意識はしっかりと兎魔物達の方に向けている。
三匹の兎魔物のうち、先陣切ってきた一体。その攻撃を見切った隆人は突撃が当たる直前に身体を半歩ずらすことで斜線から外れる。
そして兎魔物とすれ違う瞬間、右手に持った白い短剣を首筋めがけて振るう。
スパッ
短剣はその切れ味と強化した隆人自身の攻撃力が合わさり、ほとんど抵抗を感じることなく兎魔物の首を刎ねた。
首を絶たれ絶命した兎の身体は突撃の勢いのまま隆人の後方へドサッと音を立てて落ちた。
しかし、隆人はその様子を一切気にすることはなく、兎魔物の首を刎ねた後、すぐその場から跳躍する。
直後、先程まで隆人がいた場所に二体目の兎魔物の突撃が着弾し派手な音を立てる。
兎魔物達による時間差を付けた連続攻撃、それを上空に跳ぶことで回避したのだ。
「あっぶな、知性と言うよりは本能による連携って感じかな?身体強化がなかったら危なかった」
先程まで隆人のいた地面に突撃を仕掛けた兎魔物は、すぐに体勢を立て直し、空中にいる隆人目掛けて再度突撃をしかけてくる。
さらに、隆人の強化された五感は横の壁を蹴って三体目の兎魔物も突撃してきているのを知覚した。
再度行われた兎魔物の時間差連携攻撃。空中にいる為に自由に身動きの取れない隆人に直撃ーーすることはなかった。
「はぁっっ!!」
気勢を上げ、何もないはずの空中を蹴り隆人の身体が横に移動する。
隆人が新しく手に入れたスキル天駆の効果である。
三体目の兎魔物からも距離を取るように移動しながら二体目の攻撃を躱す。
まるで一瞬そこに足場があったかのような移動。予期せぬ動きに兎魔物の攻撃は空を切る。
同時に、短剣でその首筋を切り裂く。スパッと言う音と共に兎魔物の首が深く裂かれ、血を吹きながら地面に落ちる。
「よし、これで後1匹!」
と、ほぼ同時に着地した三体目の兎魔物を迎え撃とうとそちらに視線を向けると、最後の兎魔物は勝てないと悟ったのか全力で逃走していた。
素早さだけで言えば身体強化中の隆人を上回る兎魔物の全力逃走に隆人の足では追いつくことができない。
ーーそう、身体強化だけなら。
「逃がさないよ!『神速』」
どんどん離れていく兎魔物を見て、隆人はもう一つの新スキルを発動させる。
身体を纏っている身体強化の魔力、その流れが明らかに変わったのが感じられる。
隆人/人間族 LV. 28 job なし
HP 136/185 MP 31/102
STR 75
MND 60
VIT 73
AGI 69(+42)
先程まで身体能力全てにかかっていた効果がAGIに集約する。
そして疾駆。一点集中で強化された隆人の足は驚くべき加速を生み出し、一瞬のうちに兎魔物との距離を埋め追いつく。
そして、他の二体と同様に短剣で首を断とうと短剣を握る手に力を込め、振るう。不意にMPが消費された感覚があり、
ボゥッ
短剣から炎が吹き出した。短剣を包んだ炎は兎魔物の首を切ると同時にその体に襲いかかる。
「うぉ!?熱っ……くない?」
短剣から吹き出した炎は当然隆人の右手にも触れているが熱は感じず、焼けた様子もない。
対して兎魔物は一瞬で炎に包まれ全身を焼き尽くされた。相当温度が高かったのか殆どの部位が焼失している。
「これは……魔道具、か?」
短剣に力を込めた瞬間MPが吸われ短剣から炎が出た。ゲームとかではこんな武器をよく魔道具と呼んでいた。
「自分のMPで出た炎だから熱くない?またご都合主義なシステムだね、俺はありがたいけど」
そこまで考えて意識を兎魔物達に移す、途端に隆人の口から笑みがこぼれた。
「予想外の事もあったけど、連携してくる魔物相手に新スキルを駆使して完勝。十分な結果だね」
辺りには三体の兎魔物達の死体が転がっている。一体は丸焦げになってしまっているが、残りの二体はきれいに首だけを刎ねている。
対するこちらは無傷である。完璧といえる戦果であった。
やがて、三体の兎魔物の死体が熊魔物の時と同じように淡く輝き始め、その後霧散した光の一部ーー経験値が隆人に向かって飛んで来た。
それを吸収した隆人はまた体が軽くなり溢れる力が増したのを感じた。どうやらこの戦闘でもレベルがだいぶ上がったらしい。
隆人/人間族 LV. 34 job なし
HP 148/201 MP 33/115
STR 81
MND 67
VIT 80
AGI 74
魔法適正 風
スキル
ユニークスキル 身体強化 LV.3 〈神速〉
パッシブスキル 無し
習得スキル 天駆 LV.1
熊魔物より劣るとは言え三体のしかもスペック上は格上の魔物相手である。内包している経験値もそれなりのものだったのだろう。
レベルアップし、HPMP共に問題ない程度であることを確認した隆人は水源探しを再開した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
幸いなことに、水源はすぐに見つけることができた。あの通路の先は小部屋の数倍はあろうかという広間になっており、そこに大きな泉があったのだ。
水は壁の一部分から湧いているようであり、非常に澄んだその水はかなり綺麗であり。飲料水とするのに問題ないように感じられた。
「うん、美味しい!!これで水分の問題は解消だね」
念の為肌や舌に順につけた後、何も問題ないのを確認し飲んでみると、まるでミネラルウォーターと思うほど美味しかった。
これでダンジョンで生きていく為に必須である水分の確保に成功した。
「ここにずっといても危険だし、今日のところはこれで帰るかな……」
目的を達成した隆人は通路に置いてある兎魔物達の死体のうち綺麗なままの2つを拾い、小部屋に戻っていった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「さて、食事にしようか」
小部屋に戻った隆人は熊魔物の死体を見ながら呟いた。
水源の確保ができた以上、次にやるべき食料の確保であり、その為に熊魔物の肉が使えないかと考えたのだ。
念の為、爪を作る加工をするときに熊魔物の死体は血抜きをして干しておいた。
といっても、首元を切って小部屋のゴツゴツしたところに逆さまに立てかけただけなのだが。
「火についてはさっきの短剣が使えると思うし、これで魔物の肉が食えるのであれば飲食の両方の問題がクリアできるね」
まず、熊魔物の肉を戦闘に使ったのとは別の短剣を使ってブロックサイズに切り分けていく。3メートル超えの巨体に加え慣れない動きの為にかなりの時間を要したが、なんとか10センチ四方のブロックをいくつか切り分ける。
更にそのうちの1個を切り厚さ2センチに切っていく。
そして短剣に力を込めるようにしてMPを消費して炎を出す。試行錯誤しながら火力を調整した後、分厚いステーキ状の熊肉を焼いていく。
「んー、こんなもんかな?」
裏返したり火に強弱をつけたりしながら焼くこと5~6分、肉にかなり火が通る。ミディアム手前といったところであろうか。料理というには荒いがステーキの様相を呈していた。
初めてにしては上手くいった魔物肉の調理に、隆人のテンションも上がる。
「いただきます!」
そして、焼けた肉に盛大に食らいついた。
「んっ…………!?う、うまぁ!!」
上手い。ただその一言に尽きる。十分な肉質でありながら必要以上に硬くなく、噛むたびに肉汁が溢れる。前世でも食べたことが無いような上質な肉。
かなりの空腹であったというのも影響しているのであろう。あまりの美味しさに一ブロック焼いてあった肉が瞬く間に無くなっていく。
「これが食えるならダンジョン生活、ありかもしれないな……」
追加で焼いた2ブロックを更に胃に放り込んだ後、隆人は満足気に睡眠についた。
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