5 / 141
第1章 異世界へ
成長の手応え
しおりを挟むこちらに向かって突っ込んでる3つの弾丸の如き兎の魔物。対する隆人はそれをしっかり見据え作ったばかりの短剣を構える。
兎達は複雑に動きながらもかなりの速度で接近し、30メートル近くあった距離は一瞬で縮まっていく。
隆人もそれに応えるように、
「『身体強化』」
自らのユニークスキルを発動させる。MPが10消費され、その分青白いオーラと共に身体能力が上昇する。
流石に何度も使ってるので、この感覚にもかなり慣れてきた。
隆人/人間族 LV. 28 job なし
HP 136/185 MP 41/102
STR 75(+15)
MND 60
VIT 73(+14)
AGI 69(+13)
「ふぅん、こうして使ってみると、上昇幅も結構変わるもんだね……っと!」
一瞬ステータスの欄に目を向ける隆人だが、その意識はしっかりと兎魔物達の方に向けている。
三匹の兎魔物のうち、先陣切ってきた一体。その攻撃を見切った隆人は突撃が当たる直前に身体を半歩ずらすことで斜線から外れる。
そして兎魔物とすれ違う瞬間、右手に持った白い短剣を首筋めがけて振るう。
スパッ
短剣はその切れ味と強化した隆人自身の攻撃力が合わさり、ほとんど抵抗を感じることなく兎魔物の首を刎ねた。
首を絶たれ絶命した兎の身体は突撃の勢いのまま隆人の後方へドサッと音を立てて落ちた。
しかし、隆人はその様子を一切気にすることはなく、兎魔物の首を刎ねた後、すぐその場から跳躍する。
直後、先程まで隆人がいた場所に二体目の兎魔物の突撃が着弾し派手な音を立てる。
兎魔物達による時間差を付けた連続攻撃、それを上空に跳ぶことで回避したのだ。
「あっぶな、知性と言うよりは本能による連携って感じかな?身体強化がなかったら危なかった」
先程まで隆人のいた地面に突撃を仕掛けた兎魔物は、すぐに体勢を立て直し、空中にいる隆人目掛けて再度突撃をしかけてくる。
さらに、隆人の強化された五感は横の壁を蹴って三体目の兎魔物も突撃してきているのを知覚した。
再度行われた兎魔物の時間差連携攻撃。空中にいる為に自由に身動きの取れない隆人に直撃ーーすることはなかった。
「はぁっっ!!」
気勢を上げ、何もないはずの空中を蹴り隆人の身体が横に移動する。
隆人が新しく手に入れたスキル天駆の効果である。
三体目の兎魔物からも距離を取るように移動しながら二体目の攻撃を躱す。
まるで一瞬そこに足場があったかのような移動。予期せぬ動きに兎魔物の攻撃は空を切る。
同時に、短剣でその首筋を切り裂く。スパッと言う音と共に兎魔物の首が深く裂かれ、血を吹きながら地面に落ちる。
「よし、これで後1匹!」
と、ほぼ同時に着地した三体目の兎魔物を迎え撃とうとそちらに視線を向けると、最後の兎魔物は勝てないと悟ったのか全力で逃走していた。
素早さだけで言えば身体強化中の隆人を上回る兎魔物の全力逃走に隆人の足では追いつくことができない。
ーーそう、身体強化だけなら。
「逃がさないよ!『神速』」
どんどん離れていく兎魔物を見て、隆人はもう一つの新スキルを発動させる。
身体を纏っている身体強化の魔力、その流れが明らかに変わったのが感じられる。
隆人/人間族 LV. 28 job なし
HP 136/185 MP 31/102
STR 75
MND 60
VIT 73
AGI 69(+42)
先程まで身体能力全てにかかっていた効果がAGIに集約する。
そして疾駆。一点集中で強化された隆人の足は驚くべき加速を生み出し、一瞬のうちに兎魔物との距離を埋め追いつく。
そして、他の二体と同様に短剣で首を断とうと短剣を握る手に力を込め、振るう。不意にMPが消費された感覚があり、
ボゥッ
短剣から炎が吹き出した。短剣を包んだ炎は兎魔物の首を切ると同時にその体に襲いかかる。
「うぉ!?熱っ……くない?」
短剣から吹き出した炎は当然隆人の右手にも触れているが熱は感じず、焼けた様子もない。
対して兎魔物は一瞬で炎に包まれ全身を焼き尽くされた。相当温度が高かったのか殆どの部位が焼失している。
「これは……魔道具、か?」
短剣に力を込めた瞬間MPが吸われ短剣から炎が出た。ゲームとかではこんな武器をよく魔道具と呼んでいた。
「自分のMPで出た炎だから熱くない?またご都合主義なシステムだね、俺はありがたいけど」
そこまで考えて意識を兎魔物達に移す、途端に隆人の口から笑みがこぼれた。
「予想外の事もあったけど、連携してくる魔物相手に新スキルを駆使して完勝。十分な結果だね」
辺りには三体の兎魔物達の死体が転がっている。一体は丸焦げになってしまっているが、残りの二体はきれいに首だけを刎ねている。
対するこちらは無傷である。完璧といえる戦果であった。
やがて、三体の兎魔物の死体が熊魔物の時と同じように淡く輝き始め、その後霧散した光の一部ーー経験値が隆人に向かって飛んで来た。
それを吸収した隆人はまた体が軽くなり溢れる力が増したのを感じた。どうやらこの戦闘でもレベルがだいぶ上がったらしい。
隆人/人間族 LV. 34 job なし
HP 148/201 MP 33/115
STR 81
MND 67
VIT 80
AGI 74
魔法適正 風
スキル
ユニークスキル 身体強化 LV.3 〈神速〉
パッシブスキル 無し
習得スキル 天駆 LV.1
熊魔物より劣るとは言え三体のしかもスペック上は格上の魔物相手である。内包している経験値もそれなりのものだったのだろう。
レベルアップし、HPMP共に問題ない程度であることを確認した隆人は水源探しを再開した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
幸いなことに、水源はすぐに見つけることができた。あの通路の先は小部屋の数倍はあろうかという広間になっており、そこに大きな泉があったのだ。
水は壁の一部分から湧いているようであり、非常に澄んだその水はかなり綺麗であり。飲料水とするのに問題ないように感じられた。
「うん、美味しい!!これで水分の問題は解消だね」
念の為肌や舌に順につけた後、何も問題ないのを確認し飲んでみると、まるでミネラルウォーターと思うほど美味しかった。
これでダンジョンで生きていく為に必須である水分の確保に成功した。
「ここにずっといても危険だし、今日のところはこれで帰るかな……」
目的を達成した隆人は通路に置いてある兎魔物達の死体のうち綺麗なままの2つを拾い、小部屋に戻っていった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「さて、食事にしようか」
小部屋に戻った隆人は熊魔物の死体を見ながら呟いた。
水源の確保ができた以上、次にやるべき食料の確保であり、その為に熊魔物の肉が使えないかと考えたのだ。
念の為、爪を作る加工をするときに熊魔物の死体は血抜きをして干しておいた。
といっても、首元を切って小部屋のゴツゴツしたところに逆さまに立てかけただけなのだが。
「火についてはさっきの短剣が使えると思うし、これで魔物の肉が食えるのであれば飲食の両方の問題がクリアできるね」
まず、熊魔物の肉を戦闘に使ったのとは別の短剣を使ってブロックサイズに切り分けていく。3メートル超えの巨体に加え慣れない動きの為にかなりの時間を要したが、なんとか10センチ四方のブロックをいくつか切り分ける。
更にそのうちの1個を切り厚さ2センチに切っていく。
そして短剣に力を込めるようにしてMPを消費して炎を出す。試行錯誤しながら火力を調整した後、分厚いステーキ状の熊肉を焼いていく。
「んー、こんなもんかな?」
裏返したり火に強弱をつけたりしながら焼くこと5~6分、肉にかなり火が通る。ミディアム手前といったところであろうか。料理というには荒いがステーキの様相を呈していた。
初めてにしては上手くいった魔物肉の調理に、隆人のテンションも上がる。
「いただきます!」
そして、焼けた肉に盛大に食らいついた。
「んっ…………!?う、うまぁ!!」
上手い。ただその一言に尽きる。十分な肉質でありながら必要以上に硬くなく、噛むたびに肉汁が溢れる。前世でも食べたことが無いような上質な肉。
かなりの空腹であったというのも影響しているのであろう。あまりの美味しさに一ブロック焼いてあった肉が瞬く間に無くなっていく。
「これが食えるならダンジョン生活、ありかもしれないな……」
追加で焼いた2ブロックを更に胃に放り込んだ後、隆人は満足気に睡眠についた。
4
お気に入りに追加
1,331
あなたにおすすめの小説

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
転生してテイマーになった僕の異世界冒険譚
ノデミチ
ファンタジー
田中六朗、18歳。
原因不明の発熱が続き、ほぼ寝たきりの生活。結果死亡。
気が付けば異世界。10歳の少年に!
女神が現れ話を聞くと、六朗は本来、この異世界ルーセリアに生まれるはずが、間違えて地球に生まれてしまったとの事。莫大な魔力を持ったが為に、地球では使う事が出来ず魔力過多で燃え尽きてしまったらしい。
お詫びの転生ということで、病気にならないチートな身体と莫大な魔力を授かり、「この世界では思う存分人生を楽しんでください」と。
寝たきりだった六朗は、ライトノベルやゲームが大好き。今、自分がその世界にいる!
勇者? 王様? 何になる? ライトノベルで好きだった「魔物使い=モンスターテイマー」をやってみよう!
六朗=ロックと名乗り、チートな身体と莫大な魔力で異世界を自由に生きる!
カクヨムでも公開しました。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で最強に・・・(旧:学園最強に・・・)
こたろう文庫
ファンタジー
カクヨムにて日間・週間共に総合ランキング1位!
死神が間違えたせいで俺は死んだらしい。俺にそう説明する神は何かと俺をイラつかせる。異世界に転生させるからスキルを選ぶように言われたので、神にイラついていた俺は1回しか使えない強奪スキルを神相手に使ってやった。
閑散とした村に子供として転生した為、強奪したスキルのチート度合いがわからず、学校に入学後も無自覚のまま周りを振り回す僕の話
2作目になります。
まだ読まれてない方はこちらもよろしくおねがいします。
「クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される」
うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました
akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」
帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。
謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。
しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。
勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!?
転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。
※9月16日
タイトル変更致しました。
前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。
仲間を強くして無双していく話です。
『小説家になろう』様でも公開しています。

伯爵家の三男は冒険者を目指す!
おとうふ
ファンタジー
2024年8月、更新再開しました!
佐藤良太はとある高校に通う極普通の高校生である。いつものように彼女の伶奈と一緒に歩いて下校していたところ、信号無視のトラックが猛スピードで突っ込んで来るのが見えた。良太は咄嗟に彼女を突き飛ばしたが、彼は迫り来るトラックを前に為すすべも無く、あっけなくこの世を去った。
彼が最後に見たものは、驚愕した表情で自分を見る彼女と、完全にキメているとしか思えない、トラックの運転手の異常な目だった...
(...伶奈、ごめん...)
異世界に転生した良太は、とりあえず父の勧める通りに冒険者を目指すこととなる。学校での出会いや、地球では体験したことのない様々な出来事が彼を待っている。
初めて投稿する作品ですので、温かい目で見ていただければ幸いです。
誤字・脱字やおかしな表現や展開など、指摘があれば遠慮なくお願い致します。
1話1話はとても短くなっていますので、サクサク読めるかなと思います。

前世の記憶さん。こんにちは。
満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。
周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。
主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。
恋愛は当分先に入れる予定です。
主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです!
小説になろう様にも掲載しています。

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)
いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。
全く親父の奴!勝手に消えやがって!
親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。
俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。
母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。
なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな?
なら、出ていくよ!
俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ!
これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。
カクヨム様にて先行掲載中です。
不定期更新です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる