身体強化って、何気にチートじゃないですか!?

ルーグイウル

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第1章 異世界へ

生き抜く為の決戦

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⚠︎微グロあります



 どれくらい寝ていたのだろうか。目が覚めた時隆人の目には相変わらず土らしきもので作られた壁と天井だけが映る。


 時間を計る手段が何もない以上、今が朝なのか夜なのかすらも把握できない。体内時計もこれまでの濃密な出来事のせいでまるで使い物にならない。


 命がけの戦いがあったというのが嘘のような静寂に逆に不気味さを感じてしまう。



  隆人/人間族 LV.1  job なし

 HP 25/25  MP 13/13

  STR  6
  MND  4
  VIT  6
  AGI  5
         


「回復は……したな」


 ギリギリだったHPもMPも完全に回復していた。驚くことに火傷や内臓の損傷、骨折までも綺麗に完治していた。


「HPとMPは時間経過で自動回復、か?俺としてはありがたいけどほんとにゲームみたいな世界だ」


 いくらか寝ていたとは言え、感覚的にそう何日も寝ていたわけではない。元の世界なら間違いなく全治何ヶ月というレベルの怪我が少しの休息で治ることに改めてファンタジーを感じてしまう。


 とはいえ、それで浮かれた結果が先ほどの窮地であり、あと少しで死ぬというところまでいったのだ。
 気を抜いたら危険だと言うことは文字通り痛いほど理解した。


「どうしようか……。地上に出ようにも、外はあの熊みたいな化け物がほかにもいるだろうし、かといってこの部屋に居続けるわけにもいかないし……」


 生物である以上、水分と栄養の補給は必須である。だがそれをする為には化け物がいる外に出なければいけない。
 幸いにも、身体強化の恩恵かそれとも異世界故かはわからないが、今のところ問題はない。だがそれもいつまでかわからない以上、水分と食料の確保は急務であった。


「そういえば、さっき身体強化を使ったときに、遠くで水音が聞こえたな……。近くに水源があるのかな?」


 身体強化を使った際、副次的な要素としてなのか、身体能力だけでなく一時的にだが五感もかなり強化された。先程、熊魔物と遭遇し身体強化を使った際に強化された聴覚が水の流れる音を捉えていた。
 運が良ければ、生きるのに必要な水源を確保することができるかもしれない。


「となると、行くしかないか……」


 ボソッと呟きながらじっと小部屋の出口を見つめる。それは一つ判断を間違えれば即死につながる地獄のような環境が広がる、外の世界への"入り口"である。
 

「………………よし」


 やがて、隆人は覚悟を決めたように一歩ずつ出口に向かって進む。そして出口を通り抜けた時、


「……やっぱりね、そんな気はしてたよ」



 隆人の視線の先には、あの熊魔物がいた。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 熊魔物はこちらに獰猛な視線を向けてくる。その目には野生的な殺気が多量に混ぜ込まれている。


 その姿に先程一瞬で瀕死に追いやられた記憶が鮮明に蘇り、隆人は思わず一歩後ずさる。


「恐怖に呑まれたら負けだ!気合いを入れろ自分!」


 自分に叱咤する。先程わかった通り、この化け物相手に一瞬でも遅れると死ぬ。それ程危険な相手なのだ。


「集中するんだ……。スペックでは圧倒的に劣るけど、あいつ知性は低い。本能任せの攻撃なら身体強化の五感で反応できる。なにより、倒せなきゃ俺が死ぬ」


 そうして深呼吸を2、3度、隆人の目が鋭くなる。不必要な情報が切り捨てられ、集中力が高まっていく。


 一瞬の静寂。


「グガァァァァァァ!」

「『身体強化ブースト』!!」


 熊魔物が動いた。目を見開き、咆哮と共に一直線に突っ込んでくる。隆人もそれに対するように発動句を唱え、身体強化のスキルを発動させる。


 再び、血の抜かれるようなMP消費の感覚と共にスキルが発動し、隆人の身体から青白いオーラが吹き出す。身体が軽くなると同時に五感が鋭く尖っていく。
 それはまるで自分以外が少しだけ減速したように感じる。


 そして隆人はその全神経をもって熊魔物を注視する。
 対する熊魔物は先程と全く同じように右腕を持ち上げ、振り下ろしてくる。


 隆人の極限まで高まった集中力と視覚は熊魔物の振り下ろす攻撃を今度こそ完全に捉えた。


 ブォォン


 熊魔物の右腕が振り下ろされる。その威力は先程十分理解した。絶対に喰らえない。
 その攻撃を目で捉えていた隆人は、振るわれる腕から離れるように後方に跳躍し回避する。先程同じ動きだが今度は十分な距離をとっている。


「お前の速度とリーチはもうさっき見た!」


 着地すると同時に再び地を蹴る。ただし今度は正面、右手を振り下ろした勢いで硬直する熊魔物に向けて突貫する。


「グルァァァァァァァ!」


 熊魔物は迫ってくる隆人を見て、今度は左腕を横薙ぎに振るってくる。愚直なまでの力任せの一撃、だがその威力は人1人を殺すのには十分過ぎるものを持っている。


「!今だっ!!」


 それを視界に捉えた隆人は攻撃に怯むのではなくむしろ更に加速する。そして熊魔物の左腕を十分引き付けたところで身をかがめ、自らの進行方向を少し右にずらす。
 そうすることで、まるで火の棒をくぐるように左腕の下を通り熊魔物の背後に抜ける。周囲をゆらめく炎がチリチリと隆人に熱を感じさせる。


「うおぉぉぉぉぉ!!!」


 そうして死角に回り込んだ隆人は、振り向きざまに拳を握り熊魔物の背中、その中で炎の無いところに向けて全力で拳撃を放つ。
 

「効いてない!?」


 全霊を込めたその一撃はしかし、熊魔物の分厚い筋肉と毛皮によって阻まれ、ほとんどダメージが与えられた様子がない。


「ガァァァァァァァァァア」


 それでも気には障ったのかまるで虫でも払うかのように無造作に腕を振るう。


「やばっ!」


 それを察知した隆人は回避……するのを諦め、振るわれる腕にタイミングを合わせて後方に跳躍することで攻撃の勢いを殺す。


 無造作故に力が入ってなかったことに加え後方への跳躍によって威力の大部分を削ぐことができたが、それでもかなりの衝撃が隆人の身体に響く。


 壁に叩きつけられはしなかったものの、それでも隆人の身体は3メートル程飛んだ後地面を数度転がる。


「いててててっ、まずいなぁ……」


 一瞬だけステータスを見る。


  隆人/人間族 LV. 1 job なし

 HP  9/25  MP  3/13

  STR  6(+1)
  MND  4
  VIT  6(+1)
  AGI  5(+1)


「……今ので半分以上もっていかれてる。もう次はないかな……」


 今の攻撃で、隆人の体は全身至るところが軋み、火傷や転がったことによる裂傷が生まれていた。
 先頭続行は不可能ではないがかなり厳しい。


「しかも、攻撃は全然効かないし、安全地帯の小部屋にいく入り口はあの熊の後ろだし……」


 正直なところ、状況は隆人にとってかなり絶望的なものであった。


「どうしたらいいかな……っ!!」


「グァァァァ!!」


 更に、熊魔物が吠えると周囲にゆらめく炎から分裂するように4つ火の玉が現れ、つぎの瞬間それら炎弾が次々に隆人にむかって飛来してくる。


「そんなのもできるのかよ!」


 と、隆人は横っ飛びで炎弾を辛くも回避する。


 そこに熊魔物の追撃が迫る。無理やり身を捩りなんとか回避行動を取った隆人のすぐ横を右の爪が豪速で通り過ぎる。


「くそっ、考えさせてもくれないね!」


 そう悪態をつきながら、後退し熊魔物から距離を取る。


「でも身体強化はそう長くはもたない。なんとかこの状況を打開しないと……」


 そう思案しながら、隆人は再び集中を高め、突貫してくる熊魔物の腕を見切って回避する。




 そして数分の間、戦いは膠着している。隆人を切り裂こうと何度も爪を振り、時には炎弾をも放ってくる熊魔物、その一切を回避するが決め手に欠ける隆人。


 そのまま、ただ時間だけが過ぎていった。


 そしてその膠着は唐突に終わりを迎える。



「グガァァァァァァ!!」


 もう何度目かの熊魔物による右手の振り下ろし、隆人もそれを余裕を持って回避ーー


  ガクン


「っ!?しまった!!」


 ーーしようとして、急に体勢を大きく崩す。見ると今まで隆人の身体から出ていた青白いオーラが消えている。


 そう、身体強化のタイムリミットである。


 身体能力強化の方はあくまでちょっとした補正のようなものであったが、敵の攻撃を回避しようとした瞬間、力がほんの少しだけ抜けたことに身体がついていかなかった。


 無慈悲に迫る熊魔物の鋭い爪、勝ちを確信した熊魔物がニヤリと笑ったような気がした。
 頼みの身体強化は切れ、再発動のMPは無い。ここから回避行動を取ってももう間に合わない。


「ここまでかな……」


 隆人の表情に諦めの色が浮かぶ。まるで走馬灯のように減速する世界の中これまでの事が脳裏に浮かぶ。
 と、隆人の頭にひっかかるものがあった。更に熊魔物の炎弾。そこからある可能性が浮かぶ。


 そしてその思考に急かされるように、隆人は全霊を込め力一杯叫ぶ。


「〈風〉!!!!」


 次の瞬間、洞窟内にもかからわず、突風が吹く。とはいえ、ダメージどころか人1人少し浮かせるかといったレベルの風である。
 ただ、体勢を崩した隆人を爪の軌道からずらすにはそれで十分であった。


  ドゴンッッ


 隆人にトドメを刺すため振るわれた全力の攻撃は空を切り、勢いよく地面に激突した。地面の破片があたりに飛び散る。
 熊魔物はその攻撃の反動で爪を振るった前かがみのまま少し固まった。それを見た隆人は、


「ここだ!」


 一気に立ち上がり、硬直した熊魔物が反撃をする前に、ある一点に向けて手刀を突き出す。
 それは生物において非常に脆く、かつ露出している部位、すなわちーーーー眼球。
 それは強靭な筋肉を持つ熊魔物とて例外では無い。


 熊魔物が前かがみになることで始めて届くようになったそこに、隆人の手刀が深々と突き刺さる。


「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」


 そして砲声。熊魔物の眼球を貫いた隆人の手刀はその更に奥、脳に到達しそのまま破壊する。


「アアアアアアアアアアアアアアアアア」


 熊魔物の絶叫。耐え難い激痛に悶えるように暴れ出す。隆人も刺さっていた腕ごと吹き飛ばされる。


 そうして十数秒程暴れていた熊魔物だったがやがてその勢いも衰え、最後には糸が切れたようにあっさりと崩れ落ちた。


 それでもしばらくは警戒をしていた隆人だが、それでま熊魔物が動き出さないのを確認すると、


「ふぅ……倒したぁ……」


 その場にへたり込んだ。

 初めて魔物を討伐することに成功して瞬間であった。
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