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第一部
あなたの力ではありません。
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「てっきり拘束されると思ったのですが、優しいのですね。」
リリーナとユイはベットと窓だけがある小さな部屋に連れて来られていた。武器は取り上げられたものの体の自由は奪われていない。
「とんでもない、姫様と別れたとはいえ元妻に乱暴なことができますでしょうか。」
公爵は大げさに手を広げ言った。
「公爵、この国と異世界に手を出すのを考え直していただけませんか?今ならまだ間に合います。」
「ふっ・・・見てください。」
公爵は窓から外を見るようリリーナとユイに促す。外では農場が見え、多くの人たちが作業をしている。
「メイザース家では作れなかった景色です。使われてない土地をここまで見事な農場にできる。私が王となればこの国はもっと栄えるでしょう。」
「あれは・・・。」
リリーナの視線の先ではこの世界にはない野菜が栽培され、雄太の家で見た小型のテーラーを使っている人もいる。
「異世界の力を使っての繁栄でしょう。あなたの力ではありません。」
「力を手に入れることができるのも能力の内ですよ。」
公爵は肩をすくめていた。リリーナはさらにあることに気づく。
「それに、働いている人たちの顔色がよくありません。服もボロボロです。酷使されているのではありませんか?お給料はちゃんと出していますか?」
公爵はそれを聞いて笑い出す。
「いいえ、給与は必要ないのです。だから満田君に安く販売できる。」
「・・・ま、まさか、あなた禁止されている奴隷を!?」
公爵はガハハと体を震わせながら笑った。
「そのまさかです。姫様がいなかったお陰で必要な労働力を簡単に手に入れることができましたよ。」
ユイは悔しさのあまり下唇を噛む。
「くっ、公爵様、あなたという人は。」
「・・・いつか、しっぺ返しが来ますよ公爵。」
「それはそれは、楽しみにしておきましょう。さて、姫様、ユイ殿、狭くて申し訳ありませんがしばらくこの部屋で生活してもらいます。私のことを理解し、手伝ってくれると言うまで。」
「それは、私もユイもないと思います。」
「言ったでしょう?私は乱暴は嫌いです。待ちますよ。いつまでも。時々、私と遊んでもらうこともあるかもしれませんがね。」
公爵は口を大きく開けて笑いながら部屋を出て行った。
――――――
ガチャリと入口の扉にカギを掛けられる。ユイはおもむろに窓を殴った。ガンッと音がする。だが、窓と拳の間には見えない壁のようなものがありキズ一つ付けられなかった。
「無駄でしょう。公爵が逃げ道を作っているとは思えません。何らかの防御魔法がかかっているはずです。」
リリーナはベットに腰を下ろした。
「さてと、困りました。まさかここまで公爵がことを進めているとは思いませんでした。気軽に説得、あわよくばユイの一発をと思っていましたが、甘かったですね。」
リリーナは苦笑いをする。
「姫様、何があっても私がお守りいたします。」
「ふふ、ありがとうユイ。ですが、外から助けが来ない限りここから逃げるのは難しいでしょうね。」
雄太さんは私の思いに気づいてもらえたでしょうか。幸いプリムが捕まりませんでした。彼女がいれば公爵に一矢報いることも可能なはず。
・・・今は待つしかありませんね。
「さて、取り急ぎできることはありません。ユイ、一緒に寝ましょうか。ベットは1つしかありませんし。」
「いえ、私はこの椅子で結構です。」
ユイは体をビクッと震わせ慌てて置いてあった椅子を掴む。
「そんなことおっしゃらずに。椅子では疲れ取れませんよ?」
「だ、大丈夫です。鍛えてありますから。ベットは姫様が使ってください。」
「ユイの体が柔らかくて気持ちいいのですが・・・。」
リリーナの声が聞こえないふりをしてユイは椅子を持って隅に行く。「一緒には寝ない、絶対に。」と小声でつぶやいていた。
――――――
「鍾乳洞の突破はこいつらを使う。」
牛田の指差したトラックを見る。中からは「ぶふーっ。」、「ぶもー。」といった鳴き声がしていた。
「豚2頭と牛4頭いる。どっちも雄だ。」
「わぁ、おっきい!」
プリムはその大きさに感動して目をキラキラさせる。
「くくく、十分太らせてあるし、牙や角も切ってない。こいつに噛まれたり、突かれたりしたらひとたまりもないぜ。」
何故そんな危険な動物を満田の説得に連れて来たのだろうか。聞くのが怖い。
「まず雄豚を鍾乳洞に突入させる。豚には狭くて暗い穴を直進する性質があるからな。出口まで走り抜けてもらう。」
なるほど、それで入口を警備している兵士を吹き飛ばそうということか。でも・・・。
「それだけで大丈夫か?」
相手も屈強な男たちだ。それに数もいるだろう。
「まあ聞けよ。豚の背中には発情したメス牛のニオイを染み込ませた布を付ける。そして雄牛を放つんだ。」
「・・・そうか、牛に豚を追いかけさせるのか。」
「そう、鍾乳洞の中で追いかけ追いかけられ、出た時には興奮していい感じに暴れてくれるはずだ。その混乱を利用して俺達は屋敷に向かう。」
俺は荷台にいる豚と牛を見た。人間の何倍も大きい体を持っている彼らが頼もしく見える。
「よし、それでいこう。兵士たちを突破して屋敷に入りリリーナ達を助ける。そしたら全力で逃げるんだ。」
俺達は力強く頷いた。
――――――
膝を曲げて屈伸をしたり、アキレス腱を伸ばしたりする。
農作業で体を使っているとはいえオッサンだからな。準備運動はしっかりしておかないと。
「ほら、黒崎。素手じゃ危ないからな。武器だ。」
そう言って鳥飼は荷台から何かを取り出し足元へと投げる。カランと音を立てて転がったそれは、毎日嫌と言うほど見てる農作業用のクワだった。
「道具は使い慣れた物が一番ってな。」
牛田、玉崎もすでに同じものを持っている。
「まるで一揆だな。」
プッと誰かが吹き出し笑いがこぼれた。
そうさ、これは農民の反乱なんだ。横暴な領主に対しての。
「よーし、そろそろ行くぞぉ!」
牛田が荷台の檻に付けられたカンヌキに手を掛ける。
「あ!ちょっと待って。」
プリムはトラックの傍に行き中の牛豚を見た。そして手を高く掲げると何事かつぶやく。すると淡い光が手から発せられ豚と牛を優しく包んでいた。
「防御魔法だよ。ちょっとした攻撃なら弾いてくれる。剣とかで切られちゃったら牛さん、豚さんだって痛いもんね。」
「「「なんていい子なんだ!!」」」
ミートリオは感動のあまり泣き出した。俺の自慢の娘だ。褒めるのはいいがあまり近寄るなよ。
――――――
まず玉崎が豚を誘導して鍾乳洞の入り口へと連れて来た。
「布をくれ。」
牛田からボロキレを受け取るとそれを豚の尻尾にしっかりと巻き付ける。
「オッケーだ。よぉしっ、行けっ!走れ!」
豚はお尻をパンッと叩かれると鍾乳洞の中に走って行く。次は牛田の番だ。
「もう走り出したくてたまらないみたいだ」
「ブモーッ。」、「ブモー。」と鼻息の荒い牛がトラックから降ろされる。鼻輪から手綱が引かれているが今にも振り払ってしまいそうだ。
「よーし、行けー!!」
牛田は入口で手綱を話す。牛は豚を追いかけて一目散に走り出した。
「俺達も行こう!!」
クワを手に持ったオッサンと女の子がその後に続いて洞窟へと入って行った。
――――――
「そろそろ交代かな。」
鍾乳洞の入り口を守る兵士の1人がつぶやく。それを聞いた他の兵士も「腹減ったな。」などと言った。
彼らの見張りという仕事は今日も何事もなく終わるはずだった。
きつい農作業は奴隷たちがやってくれる。俺達は立っているだけの楽な仕事だ。
ほとんどの兵士がそう思いだらけきっている。
この後に来るのが何かもわからずに。
『・・・ぶもー。』暗闇の奥から低い唸り声が聞こえていた。
リリーナとユイはベットと窓だけがある小さな部屋に連れて来られていた。武器は取り上げられたものの体の自由は奪われていない。
「とんでもない、姫様と別れたとはいえ元妻に乱暴なことができますでしょうか。」
公爵は大げさに手を広げ言った。
「公爵、この国と異世界に手を出すのを考え直していただけませんか?今ならまだ間に合います。」
「ふっ・・・見てください。」
公爵は窓から外を見るようリリーナとユイに促す。外では農場が見え、多くの人たちが作業をしている。
「メイザース家では作れなかった景色です。使われてない土地をここまで見事な農場にできる。私が王となればこの国はもっと栄えるでしょう。」
「あれは・・・。」
リリーナの視線の先ではこの世界にはない野菜が栽培され、雄太の家で見た小型のテーラーを使っている人もいる。
「異世界の力を使っての繁栄でしょう。あなたの力ではありません。」
「力を手に入れることができるのも能力の内ですよ。」
公爵は肩をすくめていた。リリーナはさらにあることに気づく。
「それに、働いている人たちの顔色がよくありません。服もボロボロです。酷使されているのではありませんか?お給料はちゃんと出していますか?」
公爵はそれを聞いて笑い出す。
「いいえ、給与は必要ないのです。だから満田君に安く販売できる。」
「・・・ま、まさか、あなた禁止されている奴隷を!?」
公爵はガハハと体を震わせながら笑った。
「そのまさかです。姫様がいなかったお陰で必要な労働力を簡単に手に入れることができましたよ。」
ユイは悔しさのあまり下唇を噛む。
「くっ、公爵様、あなたという人は。」
「・・・いつか、しっぺ返しが来ますよ公爵。」
「それはそれは、楽しみにしておきましょう。さて、姫様、ユイ殿、狭くて申し訳ありませんがしばらくこの部屋で生活してもらいます。私のことを理解し、手伝ってくれると言うまで。」
「それは、私もユイもないと思います。」
「言ったでしょう?私は乱暴は嫌いです。待ちますよ。いつまでも。時々、私と遊んでもらうこともあるかもしれませんがね。」
公爵は口を大きく開けて笑いながら部屋を出て行った。
――――――
ガチャリと入口の扉にカギを掛けられる。ユイはおもむろに窓を殴った。ガンッと音がする。だが、窓と拳の間には見えない壁のようなものがありキズ一つ付けられなかった。
「無駄でしょう。公爵が逃げ道を作っているとは思えません。何らかの防御魔法がかかっているはずです。」
リリーナはベットに腰を下ろした。
「さてと、困りました。まさかここまで公爵がことを進めているとは思いませんでした。気軽に説得、あわよくばユイの一発をと思っていましたが、甘かったですね。」
リリーナは苦笑いをする。
「姫様、何があっても私がお守りいたします。」
「ふふ、ありがとうユイ。ですが、外から助けが来ない限りここから逃げるのは難しいでしょうね。」
雄太さんは私の思いに気づいてもらえたでしょうか。幸いプリムが捕まりませんでした。彼女がいれば公爵に一矢報いることも可能なはず。
・・・今は待つしかありませんね。
「さて、取り急ぎできることはありません。ユイ、一緒に寝ましょうか。ベットは1つしかありませんし。」
「いえ、私はこの椅子で結構です。」
ユイは体をビクッと震わせ慌てて置いてあった椅子を掴む。
「そんなことおっしゃらずに。椅子では疲れ取れませんよ?」
「だ、大丈夫です。鍛えてありますから。ベットは姫様が使ってください。」
「ユイの体が柔らかくて気持ちいいのですが・・・。」
リリーナの声が聞こえないふりをしてユイは椅子を持って隅に行く。「一緒には寝ない、絶対に。」と小声でつぶやいていた。
――――――
「鍾乳洞の突破はこいつらを使う。」
牛田の指差したトラックを見る。中からは「ぶふーっ。」、「ぶもー。」といった鳴き声がしていた。
「豚2頭と牛4頭いる。どっちも雄だ。」
「わぁ、おっきい!」
プリムはその大きさに感動して目をキラキラさせる。
「くくく、十分太らせてあるし、牙や角も切ってない。こいつに噛まれたり、突かれたりしたらひとたまりもないぜ。」
何故そんな危険な動物を満田の説得に連れて来たのだろうか。聞くのが怖い。
「まず雄豚を鍾乳洞に突入させる。豚には狭くて暗い穴を直進する性質があるからな。出口まで走り抜けてもらう。」
なるほど、それで入口を警備している兵士を吹き飛ばそうということか。でも・・・。
「それだけで大丈夫か?」
相手も屈強な男たちだ。それに数もいるだろう。
「まあ聞けよ。豚の背中には発情したメス牛のニオイを染み込ませた布を付ける。そして雄牛を放つんだ。」
「・・・そうか、牛に豚を追いかけさせるのか。」
「そう、鍾乳洞の中で追いかけ追いかけられ、出た時には興奮していい感じに暴れてくれるはずだ。その混乱を利用して俺達は屋敷に向かう。」
俺は荷台にいる豚と牛を見た。人間の何倍も大きい体を持っている彼らが頼もしく見える。
「よし、それでいこう。兵士たちを突破して屋敷に入りリリーナ達を助ける。そしたら全力で逃げるんだ。」
俺達は力強く頷いた。
――――――
膝を曲げて屈伸をしたり、アキレス腱を伸ばしたりする。
農作業で体を使っているとはいえオッサンだからな。準備運動はしっかりしておかないと。
「ほら、黒崎。素手じゃ危ないからな。武器だ。」
そう言って鳥飼は荷台から何かを取り出し足元へと投げる。カランと音を立てて転がったそれは、毎日嫌と言うほど見てる農作業用のクワだった。
「道具は使い慣れた物が一番ってな。」
牛田、玉崎もすでに同じものを持っている。
「まるで一揆だな。」
プッと誰かが吹き出し笑いがこぼれた。
そうさ、これは農民の反乱なんだ。横暴な領主に対しての。
「よーし、そろそろ行くぞぉ!」
牛田が荷台の檻に付けられたカンヌキに手を掛ける。
「あ!ちょっと待って。」
プリムはトラックの傍に行き中の牛豚を見た。そして手を高く掲げると何事かつぶやく。すると淡い光が手から発せられ豚と牛を優しく包んでいた。
「防御魔法だよ。ちょっとした攻撃なら弾いてくれる。剣とかで切られちゃったら牛さん、豚さんだって痛いもんね。」
「「「なんていい子なんだ!!」」」
ミートリオは感動のあまり泣き出した。俺の自慢の娘だ。褒めるのはいいがあまり近寄るなよ。
――――――
まず玉崎が豚を誘導して鍾乳洞の入り口へと連れて来た。
「布をくれ。」
牛田からボロキレを受け取るとそれを豚の尻尾にしっかりと巻き付ける。
「オッケーだ。よぉしっ、行けっ!走れ!」
豚はお尻をパンッと叩かれると鍾乳洞の中に走って行く。次は牛田の番だ。
「もう走り出したくてたまらないみたいだ」
「ブモーッ。」、「ブモー。」と鼻息の荒い牛がトラックから降ろされる。鼻輪から手綱が引かれているが今にも振り払ってしまいそうだ。
「よーし、行けー!!」
牛田は入口で手綱を話す。牛は豚を追いかけて一目散に走り出した。
「俺達も行こう!!」
クワを手に持ったオッサンと女の子がその後に続いて洞窟へと入って行った。
――――――
「そろそろ交代かな。」
鍾乳洞の入り口を守る兵士の1人がつぶやく。それを聞いた他の兵士も「腹減ったな。」などと言った。
彼らの見張りという仕事は今日も何事もなく終わるはずだった。
きつい農作業は奴隷たちがやってくれる。俺達は立っているだけの楽な仕事だ。
ほとんどの兵士がそう思いだらけきっている。
この後に来るのが何かもわからずに。
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