42 / 43
幕間 (第一部 ⇒ 第二部)
ちょっと裏に来なさい。
しおりを挟む
「チビ、おすわり!」
「ワフッ。」
「お手!」
「ワフッ。」
「偉い、偉い。よくできたね。」
朝から元気だなぁ。
まだ薄暗いのに屋敷の前ではプリムが楽しそうにチビと遊んでいた。昨日会ったばかりなのにもう親友のようだ。
「おーい。朝っぱらからはしゃぎすぎると仕事がきつくなるぞ。」
「あっ、雄太。おはよう。ほら、チビも挨拶して。」
プリムは最高の笑顔をくれたが、チビは「フッ。」と鼻で笑ってそっぽを向いてしまった。こいつ絶対俺のことを自分より下に見てる。
「プリム、そいつをちゃんとしつけとけよ。誰が助けてやったのか、よーく教えといてくれ。」
チビの世話はプリムがするということに昨日決まった。
本当はリリーナが適任で本人もそのつもりに見えたが、夕食の後、チビはリリーナの部屋に入るのを嫌がった。
もしかしたら野生のカンが働き、リリーナと一緒に寝るのは危険だと察知したのかもしれない。
ユイに至っては近寄ることすらできずに論外。まぁ、そりゃそうか。
満を持して買って出たのがプリムだった。
「雄太、チビはお利口さんだよ? ね、チビッ。ほらっ、これ、取っておいで~。」
プリムが木の枝を思いっきり投げる。するとチビは体に似合わずもの凄いスピードで落下地点へ先回りし、空中でそれをくわえるとプリムのところへ戻って来た。
「いい子いい子。」
チビは尻尾をバタバタと振っている。
「・・・プリム、それ貸してくれ。そら、取って来い!」
ブンッ。
・・・ヒューンッ。
・・・・・・・・・・カランッ。
木の枝は地面に落ち、そして寂しく横たわったままだった。
「ファフッ。」
自分で取りにいけよ、そんな目でチビはこちらを見てその場に寝そべった。
「・・・雄太、チビに馬鹿にされてない?」
「う、うるさい。お願いだからそんな目で見ないで。」
プリムの憐れむような視線に耐えられなくなり、俺は倉庫へと急いだ。
――――――――
・・・やっぱり、いるわけないか。
倉庫の作業場は薄暗く、いつも癒しとやる気をくれる女の子や文句を言いながらも手伝ってくれる女の子はいなかった。
なんだろう、みぞおちの辺りがキュッと締め付けられるような・・・。
昨日のことをことを思い出し、顔が熱くなるのがわかる。
俺はブンブンッと頭を振った。
「し、仕事しなきゃ。仕事。」
とりあえず体を動かしていれば余計なことは考えないだろう、そう思って作業台に向かう。しかし、1人でいるとあれこれと考えてしまい、まったく集中することはできなかった。
「む、無理だ。プ、プリム! プリムさん、お願い来てください!」
「なーに?」
トテテテッと小走りでプリムが倉庫へとやって来る。その無邪気な顔を見て俺はどこかホッとした。
「・・・仕事、手伝ってくれ。頼む。」
「えー!? ボク、チビと一緒に遊びたい。」
「そんなにむくれないでくれ・・・店に連れて行ってやるから。」
「本当!? ・・・頑張ります!!」
この世界で初めてお出かけできるとわかり、プリムは猛烈な勢いでピーマンを袋に詰め始めた。
「わぁ。すごい! どんどん進んでいくね!!」
車の外で流れていく景色を見て、プリムはかなり興奮していた。反対にチビは助手席の足元にうずくまって立ち上がろうとさえしない。
商品作りを終えた俺達は出荷のために車で店へと向かっている。
「プリム、チビは動いている車の中が怖いってさ。」
「チビ、一緒にお外見ようよぉ。」
そう言いながらプリムはチビを抱きかかえた。彼女の手の中でチビはプルプルと震えてこちらに助けを求める。
「プリム、窓を開けるともっと気持ちいいぞ。」
ちょっと仕返しいてやろうか。そう思った俺はスイッチを操作し、助手席の窓を全開にした。風が勢いよく顔に当たり、プリムは「すご~い!!」とはしゃぐ。
・・・娘っていいもんだな。
そう思っていると、チビがいつの間にかぐったりとして、うなだれていた。
「ははっ。やり過ぎたかな。プリム、チビはそろそろ降ろしてやってくれ。」
これで俺のことを少しは上に見てくれるといいが・・・。
――――――
「・・・雄ちゃん。こんな子どもに手を出したらさすがに犯罪だと思うの。」
「ヒデちゃん、待って。完璧に誤解だから。」
鍛え抜かれたマッチョな体、鮮やかな青ひげ。店長のヒデちゃんは一緒に来たプリムを見て俺をロリコンと思ったらしかった。
「おはようございます! ボク、プリムって言います。雄太のお嫁さんです!!」
どうしてお前は教科書通りテンプレの嘘をつく?
「な、なんですってー!?」
「ヒ、ヒデちゃんも騙されないで。こいつふざけてるだけだから。」
外見は男そのものだけど、中身は乙女。それがヒデちゃん。そのピュアな心は何人をも疑わない。
「そ、そうよね。ふぅ。まったくビックリさせないでよね。もう、ダメよ。お嬢ちゃん。大人をからかっちゃ。」
彼はその大きな手でプリムの頭を撫でた。だが、プリムは気持ちよさそうにするわけではなく、頬を思いっきり膨らませる。
「むー! ボク、本気だよ。雄太のお嫁さんにボクはなる!」
お前はどこかの海賊か!
「・・・雄ちゃん。ちょっと裏に来なさい。」
「あ、ちょっと、ヒデちゃん。何で俺の腕を掴んでるのかな? ははっ、それにその顔、怖いなぁ。店の裏で何を・・・あ、やめて! コブラは! コブラは! いやああああ!!!」
「男嫌いで二十歳くらいの女の子はどうしたのよーーー!!!」
ヒデちゃんに関節を決められ、俺はあっという間に意識を失った。
「ワフッ。」
「お手!」
「ワフッ。」
「偉い、偉い。よくできたね。」
朝から元気だなぁ。
まだ薄暗いのに屋敷の前ではプリムが楽しそうにチビと遊んでいた。昨日会ったばかりなのにもう親友のようだ。
「おーい。朝っぱらからはしゃぎすぎると仕事がきつくなるぞ。」
「あっ、雄太。おはよう。ほら、チビも挨拶して。」
プリムは最高の笑顔をくれたが、チビは「フッ。」と鼻で笑ってそっぽを向いてしまった。こいつ絶対俺のことを自分より下に見てる。
「プリム、そいつをちゃんとしつけとけよ。誰が助けてやったのか、よーく教えといてくれ。」
チビの世話はプリムがするということに昨日決まった。
本当はリリーナが適任で本人もそのつもりに見えたが、夕食の後、チビはリリーナの部屋に入るのを嫌がった。
もしかしたら野生のカンが働き、リリーナと一緒に寝るのは危険だと察知したのかもしれない。
ユイに至っては近寄ることすらできずに論外。まぁ、そりゃそうか。
満を持して買って出たのがプリムだった。
「雄太、チビはお利口さんだよ? ね、チビッ。ほらっ、これ、取っておいで~。」
プリムが木の枝を思いっきり投げる。するとチビは体に似合わずもの凄いスピードで落下地点へ先回りし、空中でそれをくわえるとプリムのところへ戻って来た。
「いい子いい子。」
チビは尻尾をバタバタと振っている。
「・・・プリム、それ貸してくれ。そら、取って来い!」
ブンッ。
・・・ヒューンッ。
・・・・・・・・・・カランッ。
木の枝は地面に落ち、そして寂しく横たわったままだった。
「ファフッ。」
自分で取りにいけよ、そんな目でチビはこちらを見てその場に寝そべった。
「・・・雄太、チビに馬鹿にされてない?」
「う、うるさい。お願いだからそんな目で見ないで。」
プリムの憐れむような視線に耐えられなくなり、俺は倉庫へと急いだ。
――――――――
・・・やっぱり、いるわけないか。
倉庫の作業場は薄暗く、いつも癒しとやる気をくれる女の子や文句を言いながらも手伝ってくれる女の子はいなかった。
なんだろう、みぞおちの辺りがキュッと締め付けられるような・・・。
昨日のことをことを思い出し、顔が熱くなるのがわかる。
俺はブンブンッと頭を振った。
「し、仕事しなきゃ。仕事。」
とりあえず体を動かしていれば余計なことは考えないだろう、そう思って作業台に向かう。しかし、1人でいるとあれこれと考えてしまい、まったく集中することはできなかった。
「む、無理だ。プ、プリム! プリムさん、お願い来てください!」
「なーに?」
トテテテッと小走りでプリムが倉庫へとやって来る。その無邪気な顔を見て俺はどこかホッとした。
「・・・仕事、手伝ってくれ。頼む。」
「えー!? ボク、チビと一緒に遊びたい。」
「そんなにむくれないでくれ・・・店に連れて行ってやるから。」
「本当!? ・・・頑張ります!!」
この世界で初めてお出かけできるとわかり、プリムは猛烈な勢いでピーマンを袋に詰め始めた。
「わぁ。すごい! どんどん進んでいくね!!」
車の外で流れていく景色を見て、プリムはかなり興奮していた。反対にチビは助手席の足元にうずくまって立ち上がろうとさえしない。
商品作りを終えた俺達は出荷のために車で店へと向かっている。
「プリム、チビは動いている車の中が怖いってさ。」
「チビ、一緒にお外見ようよぉ。」
そう言いながらプリムはチビを抱きかかえた。彼女の手の中でチビはプルプルと震えてこちらに助けを求める。
「プリム、窓を開けるともっと気持ちいいぞ。」
ちょっと仕返しいてやろうか。そう思った俺はスイッチを操作し、助手席の窓を全開にした。風が勢いよく顔に当たり、プリムは「すご~い!!」とはしゃぐ。
・・・娘っていいもんだな。
そう思っていると、チビがいつの間にかぐったりとして、うなだれていた。
「ははっ。やり過ぎたかな。プリム、チビはそろそろ降ろしてやってくれ。」
これで俺のことを少しは上に見てくれるといいが・・・。
――――――
「・・・雄ちゃん。こんな子どもに手を出したらさすがに犯罪だと思うの。」
「ヒデちゃん、待って。完璧に誤解だから。」
鍛え抜かれたマッチョな体、鮮やかな青ひげ。店長のヒデちゃんは一緒に来たプリムを見て俺をロリコンと思ったらしかった。
「おはようございます! ボク、プリムって言います。雄太のお嫁さんです!!」
どうしてお前は教科書通りテンプレの嘘をつく?
「な、なんですってー!?」
「ヒ、ヒデちゃんも騙されないで。こいつふざけてるだけだから。」
外見は男そのものだけど、中身は乙女。それがヒデちゃん。そのピュアな心は何人をも疑わない。
「そ、そうよね。ふぅ。まったくビックリさせないでよね。もう、ダメよ。お嬢ちゃん。大人をからかっちゃ。」
彼はその大きな手でプリムの頭を撫でた。だが、プリムは気持ちよさそうにするわけではなく、頬を思いっきり膨らませる。
「むー! ボク、本気だよ。雄太のお嫁さんにボクはなる!」
お前はどこかの海賊か!
「・・・雄ちゃん。ちょっと裏に来なさい。」
「あ、ちょっと、ヒデちゃん。何で俺の腕を掴んでるのかな? ははっ、それにその顔、怖いなぁ。店の裏で何を・・・あ、やめて! コブラは! コブラは! いやああああ!!!」
「男嫌いで二十歳くらいの女の子はどうしたのよーーー!!!」
ヒデちゃんに関節を決められ、俺はあっという間に意識を失った。
0
お気に入りに追加
128
あなたにおすすめの小説
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜
EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」
優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。
傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。
そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。
次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。
最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。
しかし、運命がそれを許さない。
一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか?
※他サイトにも掲載中

のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する
美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」
御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。
ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。
✳︎不定期更新です。
21/12/17 1巻発売!
22/05/25 2巻発売!
コミカライズ決定!
20/11/19 HOTランキング1位
ありがとうございます!
ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス
於田縫紀
ファンタジー
雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。
場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。
留学生は同棲JKエルフちゃん ~地球の常識と違うようでぐいぐい迫ってくる~
滝川 海老郎
恋愛
地球へ転移してきたエルフ。公務員の父のせいでエルフは日本の俺の家で同棲して留学生女子高生として学校へ通うことに。常識をまったく知らないエルフは俺にぐいぐい迫ってくるようになり、なんだか俺のことが大好きらしい。巨乳エルフちゃんが主人公を襲う。
JKエルフちゃんと俺の現代日本ラブコメディー、ここに開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる