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第1章 辺獄妄執譚
第52話 現代社会性ドグラ・マグラ
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【注意】今回の話の描写で気分を害す恐れがあります。苦手な方は読み飛ばしてください。
クリエイターは、側近達の最終調整を終えると、屋敷の庭に出て側近達、ルム達、聖と共にチンギス・ハーンの船に向かおうとしていた。
庭に出ると、聖は移動方法についてクリエイターに尋ねた。
「旦那様、皆さんとは別行動をするので、あのUFOに乗らないのはわかりますが、私達は何で行くんですか?」
すると、クリエイターは聖に微笑んで
「大丈夫だよ、我が家の執事が送迎してくてる」
と、言うと続けて
「イカロス、頼むぞ」
と、言うとイカロスは
「かしこまりました、我が君」
と、言うと皆の前に出て能力を発動した。
能力を発動すると、イカロスは全身が弾け一同バラバラの粒子になると、空中で粒子が急速に分裂し大きな煙の塊の様になると、徐々に隙間を埋めていき、スピノサウルスをベースに口が嘴に変わり、ペンギンの様な腹をしてオオグンカンドリの様な手(羽根)を持ち、体にあった大きさのダチョウの様な足を付け、ツバメの様な尻尾を持った怪物に変形し地に伏せた。
「さあ、行こうか」
変身したイカロスにクリエイターが乗り上から手を伸ばして聖を乗せると、他の側近とルム達も乗り込み、全員背鰭に捕まるとクリエイターは、楽しそうに
「じゃあ、全速力で言ってくれ」
と、イカロスに言うとイカロスは
「御意!」
と、言い走り出した。イカロスが、走り出すと聖は
「旦那様?
これどの位のスピードで飛ぶんですか?
あまり速そうには見えませんが……」
と、心配そうに尋ねると、クリエイターは嬉しそうに微笑んで
「良く聞いてくれた!
なんと、マッハ3.2だ!ちゃんと捕まっててくれ!」
と、聖に言うと聖は驚いて
「え!?
旦那様、冗談ですよね?」
と、聖が言うと、クリエイターは
「危ないから、喋るのは止めた方が良い」
と、言いイカロスが飛び始めた。
聖が驚く間も無く、イカロスは急激に加速した。良く見ると、翼から普段武装に使われているナノマシンらしき物を飛ばしながら加速している。聖は、自分やルム達は大丈夫だろうが、他の側近は大丈夫なのかと思って後ろを振り向くと、皆、立ったまま背鰭を掴んで普通にしていた。聖が色々見ている間にイカロスは、チンギス・ハーンの船まで到達し急激に減速した。
「おっと!
さあ、ついた!
イカロス、このまま船に降りてくれ」
と、クリエイターがイカロスに指示を出し、イカロスが
「御意」
と、応えるとバサバサと力強く羽をはためかせ、ゆっくりとチンギス・ハーンの船に着陸した。着陸する途中でハーンは、黄金の粒子を纏わせた矢をイカロスに向けて幾つもそれにいち早く気づいたルベが武装のギミックを発動した。
「冥府の門!」
ルベが、ギミックを発動させると蒼い火の玉がイカロスの周りに幾つも展開され、矢がイカロスに近づくと、半透明の皮膚のない人の腕が掴んで消滅させた。
ハーンは、それを見て海から水の柱を伸ばし先端を矢の様に変えてイカロスを落とそうとしたが、スパークルがそれを見て欠伸をしながら
「はぁ~
単純でつまんないよ」
と、水の柱の周りに幾つ物小規模の爆発を起こし、水を操るのを困難にした。
だが、ハーンはそれでも水を操り小さな礫の様に飛ばすとそれを見たクリエイターが、
「フラッフィー頼むよ」
と、言った。するとフラッフィーと呼ばれたメイド服姿の少年は
「は~い!
任せて神様!」
と、元気良く応えると、礫が飛んでくる場所へ礫より少し大きい位の大きさの小さな結界を展開させて、礫を防いだ。ハーンは、防がれた後も水を操ろうとしたが、結界に触れると水は消滅した。
そして、水の礫からイカロスを守るとフラッフィーはイカロスの背中から下を覗き込み、ハーンに対して
「返すよ~」
と、言うとハーンの目の前に鏡の様な結界が現れ、ハーンがそれに映ると、ハーンの体に礫が体に刺さったら開くであろう大きさの穴が幾つも空いた。
「うあああああッ!」
ハーンが、突如自分を襲った謎の攻撃に悲鳴をあげた所でイカロスが船に着陸した。
イカロスが乗船に成功するとクリエイター達は背中から飛び降りて、ハーンの前に立った。すると、イカロスも元の執事姿へと戻った。全員の準備が整うと、クリエイターは苦しむハーンに対して、
「さて、チンギス・ハーン
僕の仲間をいたぶってくれたお礼をしないとね」
クリエイターが、そう言うと
「テディ、煉獄へわざわざ出向いてくれたお客様にギフトを渡して」
と、言うとテディと呼ばれたメイド服姿の少年は
「わ、わかりました。神様……」
と、ハーンを見て少し怖がりながら、ハーンを見てイメージを固めると、能力で人形を生成した。
すると、テディはその人形をポケットから出したリボンでラッピングし始めた。
すると、ハーンは、
「うああああああああッ!」
と叫び、体を人形が締め付けられているのと同じ様に締め付けられ身動きが取れなくなった。
すると、ハーンは霧になって逃げようと思い、霧になったが何故か体を変化させる事が出来ない。
「うあああああッ!
何故だ!能力が!」
と、ハーンが叫ぶとクリエイターは、
「テディは自分で生成した人形と対象を量子もつれ状態にして繋げるんだ。だが、通常の量子もつれと違い物体として現象が発生すると言う事象に優劣が現れるのが、テディの能力の面白い所で、君が霧になろうとしても人形が霧の状態では無い場合は、人形の状態が優先されるんだ。つまり、君はもう体を帰られない」
クリエイターが、そう言うとハーンは、
「貴様、この儂にこんな真似をして許されると思っているのか!」
と、怒鳴って影を操り、クリエイターの影から具現化された影の腕を伸ばし、クリエイターの首を閉めようとすると、
「無駄だよ~」
と、スパークルが空中で小規模の爆発を起こして影を散らした。
それに、激怒したハーンは海底の泥を船まで這わせ、海の水を大量の矢に変えると、クリエイターは、それを嘲りながら周りを見渡し
「ここは、眺めが悪いな
お客様をゲストルームにご招待しよう」
と、言い自分達の足元に異空間倉庫へのゲートを開き全員を中へと収納した。
すると、何も無い白い部屋でクリエイターは、ハーンにこう言った。
「さてと、ここには水も土も無いし、人に影も出来ない。その上、君は縛られ動けもしない、脳筋能力の配下が多い事を恨むんだな」
クリエイターが、そう言うとハーンは落ち着き払い、逆に此方を嘲笑する様に
「俺をどうするつもりだ?
人質にしようとしてもアルゴノーツは、俺の事を何とも思っていない。殺すならさっさと殺した方がお前達の為だぞ?俺が自由になったらお前を惨殺し、連れの女を弄ぶ。それこそが俺の一番の幸福だ!」
と、言うとクリエイターは、ハーンを持ち上げハーンの顔を鋭く睨み付けこう言った。
「僕を一番不快にさせる発言を撤回しろ!」
ハーンは、クリエイターに睨まれるとクリエイターを笑ってこう言った。
「あははははッ!
どの発言だよ?お喋りだから忘れちまった!
お前を惨殺するか?
それとも、ああ……
連れの女を弄ぶか?
おいおい、嘘だろ!?
お前、そんな事で不快になるのか?
あはははははっ!馬鹿みてえだ!」
ハーンが、大笑いするとクリエイターは、ハーンの口に手を突っ込んでハーンの舌を引きちぎった。
「うぇぁぁぁッ!」
ハーンが、悶えるとクリエイターは、ハーンの口の中にナノマシンを吹きかけ、舌を治すと
「お前には、呆れたよ
状況が理解出来ない程、馬鹿だとは思わなかった」
クリエイターが、そう言うとハーンは、ニヤついて
「状況はちゃんと理解しているさ
お前が連れを大事にする奴ってわかったんだ
それなら、こうだ!」
ハーンは、そう言って能力でクリエイターの後ろにいた聖の腕を捻って背中につける様に動かし
「お前の女が、どうなっても良いなら、俺を解放しな!」
と、言った。すると、聖は何も無かったかの様に腕を作り替えて元に戻した。それを見たハーンは、驚いて
「は!?
ま、まあ、その女の能力なんだろう?
でも、全員そうは行くかな?」
と、言うと今度はスパークルに同じ事をした。すると、スパークルの腕が弾け空中で粒子になると元の腕の形に戻した。
ハーンは、それを見て驚いた。
「僕の側近は、体を完全にナノマシンで構成してある。彼らの意思で僕が作りかえた。彼らにも効かないぞ」
と、クリエイターが言うとハーンは、
「なんだよそれ!
体を作りかえた?
なんでわざわざそんな事を……
しかも、望んだ?
そんなはずないだろ!」
と、ハーンが言うと、クリエイターはハーンをゴミを見るような目で見て
「お前は、自分の好き勝手生きたがな、現代では産まれた瞬間から詰んでる人間だっているんだよ。体を捨てる程の覚悟を持って安寧を求める奴だっているんだよ!
彼らをおかしいと思うか?
それは、お前が何一つ失わずに全てを奪ったからだ。真に大切な物なんて無いんだろ?
ただ、本能の赴くままに暴れていただけなんだろ?お前みたいな醜い猿が人類に混ざって好き勝手生きてるせいで彼らの様な無辜の人間が苦しむんだよッ!お前の人生に彼らの悲しみの千分の一でも悲しみがあったなら、お前はもう少し人間らしかったろうな……」
と、吐き捨てる様に言うと、ハーンはそれを聞いて
「バカバカしい、産まれた瞬間から詰んでる?何も持ってないなら奪えば良いだろ!俺だってそうしたさ。自分を哀れんでる奴らが傷を舐め合う為に寄り添うなら、そんな哀れな集団俺が滅ぼしてやる!お前らが息してるだけで、不快なんだよ。何も出来ないって言い訳して何もしない糞共を見ると吐き気がする。」
と言うと、クリエイターは、指先から青い小さな光を出して2m程の高さの上空に浮かべると、
「フラッフィー、あれを囲むように結界を張ってくれ」
と、言うとフラッフィーは
「わかりました~!」
と、元気に応えて指示通りに結界を作った。
すると、クリエイターはそれを見ると
「ブラックアウトやってくれ」
と、言うとブラックアウトは
「はいはい、了解」
と、ハーンに向けえ能力を発動した。
ブラックアウトに能力をかけられると、ハーンは急に意識を失い、真っ暗な世界で目を覚ました。そこでは、自分が誰だかわからなくなり、凄まじい恐怖がハーンを襲った。
「ここは、何処?
儂?僕?私?俺?は何?」
そう思っていると、ハーンは突如ぬるま湯に浸かった様な感覚になり、心地よい浮遊感を感じて安らいだ。そう思うと、次は目の前が気味の悪い肌色と丸で自分を縛る網の様な赤が見えた。すると、次の瞬間、声が聞こえた。女の声だった。
「このクソガキ!
お前が出来たせいで私は、私は!
ああ、もう!
勝手に出来るんじゃねえよ!
私の体から出ていけよ!
この寄生虫が!
もう、嫌……
なんで、こんな目に会わなきゃいけないの?」
と、情緒不安定な怒鳴り声と、泣き声が聞こえ凄まじい恐怖に襲われた。言葉の意味は理解できないが、この感情は直感でわかった。嫌悪だ。それから、暫くその嫌悪感を振りかけられ、疲れきった所で
「頑張ってください!
もう少しですよ!」
ふと、目を覚ますと知らない男の声が聞こえた。何かと思っていると突如押し出される様に何処かに呑まれ始めた。なんだこれは、嫌だ、嫌だ!必死で抵抗しようとしてもどうしても押し出される。嫌だ!
何かにのまれる様な感覚の後、目を焼くほどの光と、強烈な寒さに襲われた。
ここは、何処なんだ?嫌だ!あの場所へ帰りたい!必死でそれを伝えようと始めてだから伝わるかはわからないが、声を出してみた。
「うああああああああああああぁぁん!」
魂からの叫びを聞きつけた巨大な生き物達は、私に毛布をかけて包んでくれた。
良かった。通じたんだ……これで、あの場所に
私が、そう安堵すると現実は私を裏切った。
それから、眠った様に月日は経過し私は想像を超える広い世界の中に投げ出され、さらに想像を超える不安を抱えながら、日々母親の悪態に苦しみながら成長して行った。
小学校に入ると、同級生が私を自分達とは違うと言って苦しめた。
ふてぶてしい顔で太った少年が私に言った。
「なんで、そんなに汚いんだよ
気持ち悪いなあ、お前の家って犬小屋か?」
綺麗に整った髪の少年が私に言った。
「どうして、誰とも仲良くしないんだ?
お前、皆が嫌いなのか?」
可愛い顔をした少女が私に言った。
「ねえ、どうしてお父さんがいないの?
どうやって産まれたの?本当に人間?」
お調子者で人気者の少年が私に言った。
「どうして、いつも泣きそうなんだ?
それに、お前って不器用だよな
何にも出来ないじゃないか
普通に生きてればこれくらい出来るだろ?」
どうして皆、私にそんなに質問するんだ?
私は、そんなに人と違うのか?
そもそも何故、人と違うといけないんだ?
それに、普通とはなんだ?
その者の通常の状態ならば、それは相対的な者では無いのか?
わからない、何もわからない。何もわからないから何も出来ない。誰も教えてくれない。
家に帰ると、母さんが昨日とは違う男と仲良くしていた。男は酒を飲んでいた。母さんをベタベタと触って気持ち悪い。
男は、僕を見てこう言った。
「おっ!帰って来たか~
おかえり~
お母さん借りてるよ~」
そう言って男は、母さんの胸をベタベタと触っていた。母さんは、僕に見向きもせずに男に
「ねえ、やめてよ~
あいつが見てるじゃん」
と、男に媚びる様にそう言った。すると、男は
「あいつって自分の子だろ?
酷い奴だな~」
そう言いながら、ベタベタと母さんを触っている。それに対して母さんは、
「だって、あいつ気持ち悪いんだもん
いつも、暗い顔してるし、何か一人でぶつぶつ言うし、本読んで笑うんだよ~
きっと、どっかおかしいんだよ」
と、言った。すると、男は
「確かに、それは気持ち悪いな~
おい、お前笑って見せろよ」
と、僕に言った。僕は、バカバカしいと思いながら、男に笑いかけた。すると、男は
「うわっ
なんだよその顔、笑い方知らないのか?
本当に障害者なんじゃないのか?」
と、言った。すると、母さんは、
「絶対そうだよ
こんな子 、なんで産んじゃったんだろう」
と、酒を飲んだ。僕は、母さん達が僕を不快に思うんだと思って、自分の部屋に行こうとすると、母さんは
「ちょっと、どこいくの?
お客さんがいるんだから、一人でどっかに行かないでよ!全く、なんでこいつこんなに馬鹿なの?」
と、言った。僕は、それを聞いて荷物を置き、母さん達がいる食卓に言って座った。
やる事もないので、俯きながら男が早く帰るのを祈って机の上の枝豆を食べていると
「ちょっと!これはアンタの物じゃないの!
私が、ご飯食べさせてないみたいじゃない!
タダ飯食いの癖にホントふざけんなよ!」
母さんは、そう言って僕の顔を殴った。
僕は、それに耐えて
「ごめんなさい」
と、言った。すると、母さんは
「なんだよ!その顔は!
私が悪いのかよ!」
と、僕をまた殴った。すると、僕はまた
「ごめんなさい」
と、言った。僕は、無意識に泣いていた。
すると、母さんはそれを見て
「泣くなよ!
もう!
なんなんだよ!気持ち悪いんだよ!
どっか行けよ!」
と、僕を殴った。
僕は、それを聞いて自分の部屋に行った。
僕は、部屋で一人泣いていた。
「僕が、何をしたんだ?
僕の何がいけないんだ?
わからない!
わかんないよッ!」
僕は、そのまま眠った。
そんな毎日が長く長く続き、僕は、高校三年生になった。進路は未だ決まらず、成績も悪く、母さんは、大学に行くお金は無いと僕を罵った。それどころか、高校に入ると自分で稼げるのに飯代をたかるな寄生虫!と言って僕に何もくれなくなった。
僕は、家に帰るのが嫌で放課後になってもアルバイトの時間になるまで学校にいた。
すると、部活をしている同級生に邪魔だと言われ、いつも怒鳴られた。彼らは、僕が必死で買った教科書や文房具を破壊してそれを楽しんだ。それは、犯罪では無いのか?何故、平然とそんな事が出来る?人を殺すのは悪いとわかっていて何故、人の物を破壊するのは、ダメだとわからない。僕は、学校の先生にそれを打ち明けると、先生は
「ねえ、それがどうしたの?
そんなのよくある事でしょ?
皆と仲良くしない貴方が悪いんでしょ?
なんで、人と仲良くする努力を怠って一方的に被害者面するの?
頭がおかしいとしか思えない!
大変なのは貴方だけじゃないのよ!」
と、僕を怒った。僕は、ダメだと思って警察に相談した。すると、警察は
「は?
同級生が虐めるから逮捕してくれ?
お前、頭おかしいだろ
帰れよ!
こっちは、働いてんだよ!
たく、暇なガキは良いよな」
と、言って帰された。
僕は、頭がおかしいのか?
みんなそう言う。
高校生になると、皆が使う普通とは、社会的慣習から考えて大多数がそうしている事を普通と言っているとわかった。
ならば、僕はおかしいんだ。
だって、普通に生きてない。
僕は、誰にも愛されてない。
僕は、誰にも必要とされてない。
僕は、皆を不快にさせている。
ならば、僕は何故生きている?
何故、生きていなければいけないんだ?
皆が、僕を嫌い、僕も生きる事が嫌ならば、僕が、死ねば全て解決ではないか!
それなのに、何故自殺してはいけないんだ!
そんな事を考えながら僕は生きていた。
誰か、僕を助けて……
そうこうしているうちに月日は流れ、なんとか就職出来た僕は、毎日必死に働いていた。
働き始めると、僕は家を出て一人暮らしを始めた。僕は、人生で初めて努力をして褒められた。それが、嬉しくて僕は、必死で働いた。
就職し始めて暫くし、長い休暇が取れて僕は、職場の人に言われた事もあって、母さんにお土産を持って実家に帰る事にした。
母さんは、僕が就職した後に再婚し今では、二人で実家に住んでいる。
こんなに、褒められたんだ。僕は頑張った。
きっと、母さんも僕を褒めてくれる。
そう思って意気揚々と実家に帰り、久しぶり自家の鍵を使って家に入った。
まだ、母さん達は働いているのか、家は静かだった。僕は、家の中を歩き食卓へ向かった。すると、母さんが机に突っ伏して寝ていた。風邪を引くだろうと思い、母さんを起こそうとした。
母さんに触れると、冷たかった。
母さんを抱き起こすと、血がついていた。
母さんは、目を覚まさなかった。
僕は、何が起こっているのか理解するのを放棄し、食卓の上に置いてあった。大量の手紙に目をやった。
借金の借用書だった。
名義は、新しい父さんの物だった。
父さんと連絡がつかなかった。
借金の額は、僕の年収の30倍だった。
僕は、目の前が真っ暗になった。
僕は、必死で働いた。
もう、涙は出なかった。
涙は幼少期に枯れ尽くした。
僕は、寝る間も惜しんで働いた。
それでも水、借金の利息で食うに困った。
借金は、知らないうちに増えていった。
仕事が終わって寝る前に、僕は再び考えた。
何故、生きていなくてはいけないのかと
そして結論に至った。
法治国家に暮らしている以上、人は産まれながらに国民という義務を与えられる。
国民は、国を存続させる為に納税をしなければならない。
国民は、その為に働かなければならない。
国民は、働く為に学校に通わされ、事実上国に借金をする。
国民は、それを返せと強要されている。
国民は、国からしたら平等だという。
国民は、法に守られているという。
「ははははははははははははっ!
あははははははははははは!
ははははははは、はあ、はあ
僕はいつ国に守られたんだ?
僕は、他人と平等か?
学校は、僕をキチンと教育したか?
全て形だけの、おままごとじゃないか!
じゃあ、僕を助けてくれよ!
どうすれば、いいんだよ!
警察なんか当てになんねえよ!
結局、金が全てだろ!
資本主義では、国なんてあって無いようなもんじゃねえかよ!
親に当たりハズレつけんなよ!
もう、嫌だよ
生きていたく無いよ!
努力なんて貧困の前では無意味だ!
死にたい、死にたい!
誰か僕を殺してくれ!
今まで散々虐めてきただろ!
中途半端に生かすなよ!
こんなのただの拷問だよ!
殺してくれ、殺してくれよ……」
ブラックアウトの能力をかけられたチンギス・ハーンはそこで目を覚ました。
能力が解けても、彼はまだ虚ろな目で
「殺してくれ……殺してくれ……」
と、呟いている。
クリエイターは、それを見てテディに
「じゃあ、テディ、準備は整った。
やってくれ」
と言い、テディは
「は、はい
わかりました、神様」
と、言った。すると、テディは人形に五寸釘を持たせ、人形の手を動かし、人形の頭に釘を突き刺した。
すると、ハーンの頭に穴が空き、ハーンは絶命した。ハーンが絶命すると、ハーンはフラッフィーの結界の中にある青い光のある場所で目を覚ました。
「はっ!
ここは何処だ?
儂は……」
ハーンが、目を覚ますとクリエイターは結界の中に入ってハーンから聖遺物を奪いこう言った。
「君は、先程自殺をした。
つまり、君は僕の庇護下に入ったんだ
神の恩恵が与えられる事に感謝してくれ
君は、先程まで現代社会に絶望していたが、これからは、肉体的な苦痛を受けて貰う。
君は、君が殺した人間の苦痛全てを味わうまでここで蘇り続ける。それが、君に出来る唯一の贖いだ。では、頑張ってくれ」
クリエイターは、そう言うと突如ハーンの前から消えて、ハーンはやっと自分の状況を思い出した。そして、この結界から脱出しようと、結界の壁を殴ろうとすると何故か手が振れなかった。いや、手が無かったと言った方が正確だ。
ハーンが、驚いて自分の手を見ると腐り落ちて膿んでいた。ハーンが、それを見て驚いていると、もう片方の手に焼けるような痛みが走った。ハーンが驚いて手を見ると、手は溶けた蝋燭の様にぐちゃぐちゃになっていた。
結界の外では、メイド服を着た少年三人が仲良く人形を持っていて、とても愛らしかった。だが、良く見ると、少年達の持っている所は、一方は腐り始めていて、もう一方は酸で溶けていた。
「ガーデン、ゼリーゆっくりと能力を発動してくれ、すぐに死ぬのはつまらない」
クリエイターは、そう言って笑いながら、二人の少年に指示を出した。
すると、二人は
「は~い!神様!」
と、嬉しそうに応えた。
人形を抱いている少年は、それを見て
「神様、僕は?」
と、上目遣いでクリエイターに尋ねた。すると、クリエイターは微笑んで
「テディ、君は人形のお腹を押してあげて」
と、優しく言った。
すると、テディは嬉しそうに
「はい!神様!」
と、言って人形の腹を一生懸命押し始めた。
すると、結界の中でハーンは、
「ガはッ!
うえぉほッ!」
と、胃の中の物を吐き出した後、暫くして血も吐き出した。
腕の腐敗臭と、酸性の薬品と肉が反応した匂い、吐瀉物の匂い、血なまぐさい匂いにむせ返りハーンは、痛みと悪臭に悲鳴を挙げた。
だが、悲鳴は結界の中で反響し、徐々に大きくなって耳をつんざいた。
「嫌だ、嫌だ!
助けてくれ!」
ハーンは、心のそこからそう叫ぶが、結界の外には聞こえない。
遂にハーンは、絶命し安堵すると、再び息を吹き返し、絶命した後、今度は激しい爆発に呑まれて全身を焼かれた。一度の爆発では死なず、何度も何度も味わった。
死ぬと、生き返り、死に、生き返り、無限にも感じた時間の中ハーンは苦しみ続け、遂には、何も考えられなくなった。
クリエイターは、側近達の最終調整を終えると、屋敷の庭に出て側近達、ルム達、聖と共にチンギス・ハーンの船に向かおうとしていた。
庭に出ると、聖は移動方法についてクリエイターに尋ねた。
「旦那様、皆さんとは別行動をするので、あのUFOに乗らないのはわかりますが、私達は何で行くんですか?」
すると、クリエイターは聖に微笑んで
「大丈夫だよ、我が家の執事が送迎してくてる」
と、言うと続けて
「イカロス、頼むぞ」
と、言うとイカロスは
「かしこまりました、我が君」
と、言うと皆の前に出て能力を発動した。
能力を発動すると、イカロスは全身が弾け一同バラバラの粒子になると、空中で粒子が急速に分裂し大きな煙の塊の様になると、徐々に隙間を埋めていき、スピノサウルスをベースに口が嘴に変わり、ペンギンの様な腹をしてオオグンカンドリの様な手(羽根)を持ち、体にあった大きさのダチョウの様な足を付け、ツバメの様な尻尾を持った怪物に変形し地に伏せた。
「さあ、行こうか」
変身したイカロスにクリエイターが乗り上から手を伸ばして聖を乗せると、他の側近とルム達も乗り込み、全員背鰭に捕まるとクリエイターは、楽しそうに
「じゃあ、全速力で言ってくれ」
と、イカロスに言うとイカロスは
「御意!」
と、言い走り出した。イカロスが、走り出すと聖は
「旦那様?
これどの位のスピードで飛ぶんですか?
あまり速そうには見えませんが……」
と、心配そうに尋ねると、クリエイターは嬉しそうに微笑んで
「良く聞いてくれた!
なんと、マッハ3.2だ!ちゃんと捕まっててくれ!」
と、聖に言うと聖は驚いて
「え!?
旦那様、冗談ですよね?」
と、聖が言うと、クリエイターは
「危ないから、喋るのは止めた方が良い」
と、言いイカロスが飛び始めた。
聖が驚く間も無く、イカロスは急激に加速した。良く見ると、翼から普段武装に使われているナノマシンらしき物を飛ばしながら加速している。聖は、自分やルム達は大丈夫だろうが、他の側近は大丈夫なのかと思って後ろを振り向くと、皆、立ったまま背鰭を掴んで普通にしていた。聖が色々見ている間にイカロスは、チンギス・ハーンの船まで到達し急激に減速した。
「おっと!
さあ、ついた!
イカロス、このまま船に降りてくれ」
と、クリエイターがイカロスに指示を出し、イカロスが
「御意」
と、応えるとバサバサと力強く羽をはためかせ、ゆっくりとチンギス・ハーンの船に着陸した。着陸する途中でハーンは、黄金の粒子を纏わせた矢をイカロスに向けて幾つもそれにいち早く気づいたルベが武装のギミックを発動した。
「冥府の門!」
ルベが、ギミックを発動させると蒼い火の玉がイカロスの周りに幾つも展開され、矢がイカロスに近づくと、半透明の皮膚のない人の腕が掴んで消滅させた。
ハーンは、それを見て海から水の柱を伸ばし先端を矢の様に変えてイカロスを落とそうとしたが、スパークルがそれを見て欠伸をしながら
「はぁ~
単純でつまんないよ」
と、水の柱の周りに幾つ物小規模の爆発を起こし、水を操るのを困難にした。
だが、ハーンはそれでも水を操り小さな礫の様に飛ばすとそれを見たクリエイターが、
「フラッフィー頼むよ」
と、言った。するとフラッフィーと呼ばれたメイド服姿の少年は
「は~い!
任せて神様!」
と、元気良く応えると、礫が飛んでくる場所へ礫より少し大きい位の大きさの小さな結界を展開させて、礫を防いだ。ハーンは、防がれた後も水を操ろうとしたが、結界に触れると水は消滅した。
そして、水の礫からイカロスを守るとフラッフィーはイカロスの背中から下を覗き込み、ハーンに対して
「返すよ~」
と、言うとハーンの目の前に鏡の様な結界が現れ、ハーンがそれに映ると、ハーンの体に礫が体に刺さったら開くであろう大きさの穴が幾つも空いた。
「うあああああッ!」
ハーンが、突如自分を襲った謎の攻撃に悲鳴をあげた所でイカロスが船に着陸した。
イカロスが乗船に成功するとクリエイター達は背中から飛び降りて、ハーンの前に立った。すると、イカロスも元の執事姿へと戻った。全員の準備が整うと、クリエイターは苦しむハーンに対して、
「さて、チンギス・ハーン
僕の仲間をいたぶってくれたお礼をしないとね」
クリエイターが、そう言うと
「テディ、煉獄へわざわざ出向いてくれたお客様にギフトを渡して」
と、言うとテディと呼ばれたメイド服姿の少年は
「わ、わかりました。神様……」
と、ハーンを見て少し怖がりながら、ハーンを見てイメージを固めると、能力で人形を生成した。
すると、テディはその人形をポケットから出したリボンでラッピングし始めた。
すると、ハーンは、
「うああああああああッ!」
と叫び、体を人形が締め付けられているのと同じ様に締め付けられ身動きが取れなくなった。
すると、ハーンは霧になって逃げようと思い、霧になったが何故か体を変化させる事が出来ない。
「うあああああッ!
何故だ!能力が!」
と、ハーンが叫ぶとクリエイターは、
「テディは自分で生成した人形と対象を量子もつれ状態にして繋げるんだ。だが、通常の量子もつれと違い物体として現象が発生すると言う事象に優劣が現れるのが、テディの能力の面白い所で、君が霧になろうとしても人形が霧の状態では無い場合は、人形の状態が優先されるんだ。つまり、君はもう体を帰られない」
クリエイターが、そう言うとハーンは、
「貴様、この儂にこんな真似をして許されると思っているのか!」
と、怒鳴って影を操り、クリエイターの影から具現化された影の腕を伸ばし、クリエイターの首を閉めようとすると、
「無駄だよ~」
と、スパークルが空中で小規模の爆発を起こして影を散らした。
それに、激怒したハーンは海底の泥を船まで這わせ、海の水を大量の矢に変えると、クリエイターは、それを嘲りながら周りを見渡し
「ここは、眺めが悪いな
お客様をゲストルームにご招待しよう」
と、言い自分達の足元に異空間倉庫へのゲートを開き全員を中へと収納した。
すると、何も無い白い部屋でクリエイターは、ハーンにこう言った。
「さてと、ここには水も土も無いし、人に影も出来ない。その上、君は縛られ動けもしない、脳筋能力の配下が多い事を恨むんだな」
クリエイターが、そう言うとハーンは落ち着き払い、逆に此方を嘲笑する様に
「俺をどうするつもりだ?
人質にしようとしてもアルゴノーツは、俺の事を何とも思っていない。殺すならさっさと殺した方がお前達の為だぞ?俺が自由になったらお前を惨殺し、連れの女を弄ぶ。それこそが俺の一番の幸福だ!」
と、言うとクリエイターは、ハーンを持ち上げハーンの顔を鋭く睨み付けこう言った。
「僕を一番不快にさせる発言を撤回しろ!」
ハーンは、クリエイターに睨まれるとクリエイターを笑ってこう言った。
「あははははッ!
どの発言だよ?お喋りだから忘れちまった!
お前を惨殺するか?
それとも、ああ……
連れの女を弄ぶか?
おいおい、嘘だろ!?
お前、そんな事で不快になるのか?
あはははははっ!馬鹿みてえだ!」
ハーンが、大笑いするとクリエイターは、ハーンの口に手を突っ込んでハーンの舌を引きちぎった。
「うぇぁぁぁッ!」
ハーンが、悶えるとクリエイターは、ハーンの口の中にナノマシンを吹きかけ、舌を治すと
「お前には、呆れたよ
状況が理解出来ない程、馬鹿だとは思わなかった」
クリエイターが、そう言うとハーンは、ニヤついて
「状況はちゃんと理解しているさ
お前が連れを大事にする奴ってわかったんだ
それなら、こうだ!」
ハーンは、そう言って能力でクリエイターの後ろにいた聖の腕を捻って背中につける様に動かし
「お前の女が、どうなっても良いなら、俺を解放しな!」
と、言った。すると、聖は何も無かったかの様に腕を作り替えて元に戻した。それを見たハーンは、驚いて
「は!?
ま、まあ、その女の能力なんだろう?
でも、全員そうは行くかな?」
と、言うと今度はスパークルに同じ事をした。すると、スパークルの腕が弾け空中で粒子になると元の腕の形に戻した。
ハーンは、それを見て驚いた。
「僕の側近は、体を完全にナノマシンで構成してある。彼らの意思で僕が作りかえた。彼らにも効かないぞ」
と、クリエイターが言うとハーンは、
「なんだよそれ!
体を作りかえた?
なんでわざわざそんな事を……
しかも、望んだ?
そんなはずないだろ!」
と、ハーンが言うと、クリエイターはハーンをゴミを見るような目で見て
「お前は、自分の好き勝手生きたがな、現代では産まれた瞬間から詰んでる人間だっているんだよ。体を捨てる程の覚悟を持って安寧を求める奴だっているんだよ!
彼らをおかしいと思うか?
それは、お前が何一つ失わずに全てを奪ったからだ。真に大切な物なんて無いんだろ?
ただ、本能の赴くままに暴れていただけなんだろ?お前みたいな醜い猿が人類に混ざって好き勝手生きてるせいで彼らの様な無辜の人間が苦しむんだよッ!お前の人生に彼らの悲しみの千分の一でも悲しみがあったなら、お前はもう少し人間らしかったろうな……」
と、吐き捨てる様に言うと、ハーンはそれを聞いて
「バカバカしい、産まれた瞬間から詰んでる?何も持ってないなら奪えば良いだろ!俺だってそうしたさ。自分を哀れんでる奴らが傷を舐め合う為に寄り添うなら、そんな哀れな集団俺が滅ぼしてやる!お前らが息してるだけで、不快なんだよ。何も出来ないって言い訳して何もしない糞共を見ると吐き気がする。」
と言うと、クリエイターは、指先から青い小さな光を出して2m程の高さの上空に浮かべると、
「フラッフィー、あれを囲むように結界を張ってくれ」
と、言うとフラッフィーは
「わかりました~!」
と、元気に応えて指示通りに結界を作った。
すると、クリエイターはそれを見ると
「ブラックアウトやってくれ」
と、言うとブラックアウトは
「はいはい、了解」
と、ハーンに向けえ能力を発動した。
ブラックアウトに能力をかけられると、ハーンは急に意識を失い、真っ暗な世界で目を覚ました。そこでは、自分が誰だかわからなくなり、凄まじい恐怖がハーンを襲った。
「ここは、何処?
儂?僕?私?俺?は何?」
そう思っていると、ハーンは突如ぬるま湯に浸かった様な感覚になり、心地よい浮遊感を感じて安らいだ。そう思うと、次は目の前が気味の悪い肌色と丸で自分を縛る網の様な赤が見えた。すると、次の瞬間、声が聞こえた。女の声だった。
「このクソガキ!
お前が出来たせいで私は、私は!
ああ、もう!
勝手に出来るんじゃねえよ!
私の体から出ていけよ!
この寄生虫が!
もう、嫌……
なんで、こんな目に会わなきゃいけないの?」
と、情緒不安定な怒鳴り声と、泣き声が聞こえ凄まじい恐怖に襲われた。言葉の意味は理解できないが、この感情は直感でわかった。嫌悪だ。それから、暫くその嫌悪感を振りかけられ、疲れきった所で
「頑張ってください!
もう少しですよ!」
ふと、目を覚ますと知らない男の声が聞こえた。何かと思っていると突如押し出される様に何処かに呑まれ始めた。なんだこれは、嫌だ、嫌だ!必死で抵抗しようとしてもどうしても押し出される。嫌だ!
何かにのまれる様な感覚の後、目を焼くほどの光と、強烈な寒さに襲われた。
ここは、何処なんだ?嫌だ!あの場所へ帰りたい!必死でそれを伝えようと始めてだから伝わるかはわからないが、声を出してみた。
「うああああああああああああぁぁん!」
魂からの叫びを聞きつけた巨大な生き物達は、私に毛布をかけて包んでくれた。
良かった。通じたんだ……これで、あの場所に
私が、そう安堵すると現実は私を裏切った。
それから、眠った様に月日は経過し私は想像を超える広い世界の中に投げ出され、さらに想像を超える不安を抱えながら、日々母親の悪態に苦しみながら成長して行った。
小学校に入ると、同級生が私を自分達とは違うと言って苦しめた。
ふてぶてしい顔で太った少年が私に言った。
「なんで、そんなに汚いんだよ
気持ち悪いなあ、お前の家って犬小屋か?」
綺麗に整った髪の少年が私に言った。
「どうして、誰とも仲良くしないんだ?
お前、皆が嫌いなのか?」
可愛い顔をした少女が私に言った。
「ねえ、どうしてお父さんがいないの?
どうやって産まれたの?本当に人間?」
お調子者で人気者の少年が私に言った。
「どうして、いつも泣きそうなんだ?
それに、お前って不器用だよな
何にも出来ないじゃないか
普通に生きてればこれくらい出来るだろ?」
どうして皆、私にそんなに質問するんだ?
私は、そんなに人と違うのか?
そもそも何故、人と違うといけないんだ?
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その者の通常の状態ならば、それは相対的な者では無いのか?
わからない、何もわからない。何もわからないから何も出来ない。誰も教えてくれない。
家に帰ると、母さんが昨日とは違う男と仲良くしていた。男は酒を飲んでいた。母さんをベタベタと触って気持ち悪い。
男は、僕を見てこう言った。
「おっ!帰って来たか~
おかえり~
お母さん借りてるよ~」
そう言って男は、母さんの胸をベタベタと触っていた。母さんは、僕に見向きもせずに男に
「ねえ、やめてよ~
あいつが見てるじゃん」
と、男に媚びる様にそう言った。すると、男は
「あいつって自分の子だろ?
酷い奴だな~」
そう言いながら、ベタベタと母さんを触っている。それに対して母さんは、
「だって、あいつ気持ち悪いんだもん
いつも、暗い顔してるし、何か一人でぶつぶつ言うし、本読んで笑うんだよ~
きっと、どっかおかしいんだよ」
と、言った。すると、男は
「確かに、それは気持ち悪いな~
おい、お前笑って見せろよ」
と、僕に言った。僕は、バカバカしいと思いながら、男に笑いかけた。すると、男は
「うわっ
なんだよその顔、笑い方知らないのか?
本当に障害者なんじゃないのか?」
と、言った。すると、母さんは、
「絶対そうだよ
こんな子 、なんで産んじゃったんだろう」
と、酒を飲んだ。僕は、母さん達が僕を不快に思うんだと思って、自分の部屋に行こうとすると、母さんは
「ちょっと、どこいくの?
お客さんがいるんだから、一人でどっかに行かないでよ!全く、なんでこいつこんなに馬鹿なの?」
と、言った。僕は、それを聞いて荷物を置き、母さん達がいる食卓に言って座った。
やる事もないので、俯きながら男が早く帰るのを祈って机の上の枝豆を食べていると
「ちょっと!これはアンタの物じゃないの!
私が、ご飯食べさせてないみたいじゃない!
タダ飯食いの癖にホントふざけんなよ!」
母さんは、そう言って僕の顔を殴った。
僕は、それに耐えて
「ごめんなさい」
と、言った。すると、母さんは
「なんだよ!その顔は!
私が悪いのかよ!」
と、僕をまた殴った。すると、僕はまた
「ごめんなさい」
と、言った。僕は、無意識に泣いていた。
すると、母さんはそれを見て
「泣くなよ!
もう!
なんなんだよ!気持ち悪いんだよ!
どっか行けよ!」
と、僕を殴った。
僕は、それを聞いて自分の部屋に行った。
僕は、部屋で一人泣いていた。
「僕が、何をしたんだ?
僕の何がいけないんだ?
わからない!
わかんないよッ!」
僕は、そのまま眠った。
そんな毎日が長く長く続き、僕は、高校三年生になった。進路は未だ決まらず、成績も悪く、母さんは、大学に行くお金は無いと僕を罵った。それどころか、高校に入ると自分で稼げるのに飯代をたかるな寄生虫!と言って僕に何もくれなくなった。
僕は、家に帰るのが嫌で放課後になってもアルバイトの時間になるまで学校にいた。
すると、部活をしている同級生に邪魔だと言われ、いつも怒鳴られた。彼らは、僕が必死で買った教科書や文房具を破壊してそれを楽しんだ。それは、犯罪では無いのか?何故、平然とそんな事が出来る?人を殺すのは悪いとわかっていて何故、人の物を破壊するのは、ダメだとわからない。僕は、学校の先生にそれを打ち明けると、先生は
「ねえ、それがどうしたの?
そんなのよくある事でしょ?
皆と仲良くしない貴方が悪いんでしょ?
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と、僕を怒った。僕は、ダメだと思って警察に相談した。すると、警察は
「は?
同級生が虐めるから逮捕してくれ?
お前、頭おかしいだろ
帰れよ!
こっちは、働いてんだよ!
たく、暇なガキは良いよな」
と、言って帰された。
僕は、頭がおかしいのか?
みんなそう言う。
高校生になると、皆が使う普通とは、社会的慣習から考えて大多数がそうしている事を普通と言っているとわかった。
ならば、僕はおかしいんだ。
だって、普通に生きてない。
僕は、誰にも愛されてない。
僕は、誰にも必要とされてない。
僕は、皆を不快にさせている。
ならば、僕は何故生きている?
何故、生きていなければいけないんだ?
皆が、僕を嫌い、僕も生きる事が嫌ならば、僕が、死ねば全て解決ではないか!
それなのに、何故自殺してはいけないんだ!
そんな事を考えながら僕は生きていた。
誰か、僕を助けて……
そうこうしているうちに月日は流れ、なんとか就職出来た僕は、毎日必死に働いていた。
働き始めると、僕は家を出て一人暮らしを始めた。僕は、人生で初めて努力をして褒められた。それが、嬉しくて僕は、必死で働いた。
就職し始めて暫くし、長い休暇が取れて僕は、職場の人に言われた事もあって、母さんにお土産を持って実家に帰る事にした。
母さんは、僕が就職した後に再婚し今では、二人で実家に住んでいる。
こんなに、褒められたんだ。僕は頑張った。
きっと、母さんも僕を褒めてくれる。
そう思って意気揚々と実家に帰り、久しぶり自家の鍵を使って家に入った。
まだ、母さん達は働いているのか、家は静かだった。僕は、家の中を歩き食卓へ向かった。すると、母さんが机に突っ伏して寝ていた。風邪を引くだろうと思い、母さんを起こそうとした。
母さんに触れると、冷たかった。
母さんを抱き起こすと、血がついていた。
母さんは、目を覚まさなかった。
僕は、何が起こっているのか理解するのを放棄し、食卓の上に置いてあった。大量の手紙に目をやった。
借金の借用書だった。
名義は、新しい父さんの物だった。
父さんと連絡がつかなかった。
借金の額は、僕の年収の30倍だった。
僕は、目の前が真っ暗になった。
僕は、必死で働いた。
もう、涙は出なかった。
涙は幼少期に枯れ尽くした。
僕は、寝る間も惜しんで働いた。
それでも水、借金の利息で食うに困った。
借金は、知らないうちに増えていった。
仕事が終わって寝る前に、僕は再び考えた。
何故、生きていなくてはいけないのかと
そして結論に至った。
法治国家に暮らしている以上、人は産まれながらに国民という義務を与えられる。
国民は、国を存続させる為に納税をしなければならない。
国民は、その為に働かなければならない。
国民は、働く為に学校に通わされ、事実上国に借金をする。
国民は、それを返せと強要されている。
国民は、国からしたら平等だという。
国民は、法に守られているという。
「ははははははははははははっ!
あははははははははははは!
ははははははは、はあ、はあ
僕はいつ国に守られたんだ?
僕は、他人と平等か?
学校は、僕をキチンと教育したか?
全て形だけの、おままごとじゃないか!
じゃあ、僕を助けてくれよ!
どうすれば、いいんだよ!
警察なんか当てになんねえよ!
結局、金が全てだろ!
資本主義では、国なんてあって無いようなもんじゃねえかよ!
親に当たりハズレつけんなよ!
もう、嫌だよ
生きていたく無いよ!
努力なんて貧困の前では無意味だ!
死にたい、死にたい!
誰か僕を殺してくれ!
今まで散々虐めてきただろ!
中途半端に生かすなよ!
こんなのただの拷問だよ!
殺してくれ、殺してくれよ……」
ブラックアウトの能力をかけられたチンギス・ハーンはそこで目を覚ました。
能力が解けても、彼はまだ虚ろな目で
「殺してくれ……殺してくれ……」
と、呟いている。
クリエイターは、それを見てテディに
「じゃあ、テディ、準備は整った。
やってくれ」
と言い、テディは
「は、はい
わかりました、神様」
と、言った。すると、テディは人形に五寸釘を持たせ、人形の手を動かし、人形の頭に釘を突き刺した。
すると、ハーンの頭に穴が空き、ハーンは絶命した。ハーンが絶命すると、ハーンはフラッフィーの結界の中にある青い光のある場所で目を覚ました。
「はっ!
ここは何処だ?
儂は……」
ハーンが、目を覚ますとクリエイターは結界の中に入ってハーンから聖遺物を奪いこう言った。
「君は、先程自殺をした。
つまり、君は僕の庇護下に入ったんだ
神の恩恵が与えられる事に感謝してくれ
君は、先程まで現代社会に絶望していたが、これからは、肉体的な苦痛を受けて貰う。
君は、君が殺した人間の苦痛全てを味わうまでここで蘇り続ける。それが、君に出来る唯一の贖いだ。では、頑張ってくれ」
クリエイターは、そう言うと突如ハーンの前から消えて、ハーンはやっと自分の状況を思い出した。そして、この結界から脱出しようと、結界の壁を殴ろうとすると何故か手が振れなかった。いや、手が無かったと言った方が正確だ。
ハーンが、驚いて自分の手を見ると腐り落ちて膿んでいた。ハーンが、それを見て驚いていると、もう片方の手に焼けるような痛みが走った。ハーンが驚いて手を見ると、手は溶けた蝋燭の様にぐちゃぐちゃになっていた。
結界の外では、メイド服を着た少年三人が仲良く人形を持っていて、とても愛らしかった。だが、良く見ると、少年達の持っている所は、一方は腐り始めていて、もう一方は酸で溶けていた。
「ガーデン、ゼリーゆっくりと能力を発動してくれ、すぐに死ぬのはつまらない」
クリエイターは、そう言って笑いながら、二人の少年に指示を出した。
すると、二人は
「は~い!神様!」
と、嬉しそうに応えた。
人形を抱いている少年は、それを見て
「神様、僕は?」
と、上目遣いでクリエイターに尋ねた。すると、クリエイターは微笑んで
「テディ、君は人形のお腹を押してあげて」
と、優しく言った。
すると、テディは嬉しそうに
「はい!神様!」
と、言って人形の腹を一生懸命押し始めた。
すると、結界の中でハーンは、
「ガはッ!
うえぉほッ!」
と、胃の中の物を吐き出した後、暫くして血も吐き出した。
腕の腐敗臭と、酸性の薬品と肉が反応した匂い、吐瀉物の匂い、血なまぐさい匂いにむせ返りハーンは、痛みと悪臭に悲鳴を挙げた。
だが、悲鳴は結界の中で反響し、徐々に大きくなって耳をつんざいた。
「嫌だ、嫌だ!
助けてくれ!」
ハーンは、心のそこからそう叫ぶが、結界の外には聞こえない。
遂にハーンは、絶命し安堵すると、再び息を吹き返し、絶命した後、今度は激しい爆発に呑まれて全身を焼かれた。一度の爆発では死なず、何度も何度も味わった。
死ぬと、生き返り、死に、生き返り、無限にも感じた時間の中ハーンは苦しみ続け、遂には、何も考えられなくなった。
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