超文明日本

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血の月曜日事件

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モルゲン帝国バハーティン空軍基地

「コ、コトク元帥!?」

 コトクと呼ばれた男は、サギ・コトク元帥だ。彼はモルゲン帝国東部方面軍総司令官だ。
 ここバハーティン空軍基地は先日第2空挺団と交戦した部隊が駐屯していた基地だ。
 突如として現れたコトクに基地は騒然とする。

「君たちは東方の蛮族如きに敗北したそうだね?挙句、ケベルも奴らの捕虜になったと……君たちは帝国軍の面汚しだ。」

「……敵軍の技術力は我々の想定を遥かに凌駕していた、と生存していた兵士からの報告が!」

 コトクのあんまりな言い様に兵士の一人が反論する。

「その生存していたという兵士はどこだね?」

「私ですが……」

 一人の兵士が出てくる。体の所々に包帯を巻いている。

「ほう、君か。そんなにも身体がボロボロになっても帰還することができた君には賛辞の言葉を贈ろう。」

「ありがたき幸せです。」

「だが、」

 コトクの声は一気に冷酷なものへと変わる。

「君は蛮族を目の前にしながら何もできず、帝国に黒歴史を作ったことに変わりはない。」

 コトクは杖を兵士へと向ける。

「エニス」

 コトクがそう短く唱えると、杖の先から青い閃光が放たれ、それが兵士へ直撃する。

「な!?」

 場が騒然とする。兵士はその場に倒れ込んだ。息はしていない。死んだのだ。「エニス」は世界でも限られた魔導士しか使うことができない「死の呪文」であった。その限られた魔導士の一人がコトクであった。

「君らに少しでも期待していた私がバカだった。今日は10月7日か……ちょうど半月後には新たな部隊がここへ来る。君たちにもう用はない。後片付けは頼んだよ。」

 コトクを護衛していた兵士たちが一斉に基地の兵士たちをナイフで襲い始める。

 コトクは高笑いしながらその場を後にした。

――――――――――

「なんだこれは……」

 コトクが去ってから約半日後、ケベルは日本陸軍の護衛の下、バハーティン空軍基地を訪れていた。

 何とか攻撃を免れた少数の兵士が息も絶え絶えな兵士たちの看病を行っているその様は、さながら地獄絵図であった。

「こちらエスコート1!今すぐに衛生隊をこちらへ寄越せ!送れ!」

 護衛隊の隊長が本隊へ要請する。

「おい!何があった!?」

 ケベルは今にも死にそうな兵士の1人に問いかけた。

「コトク……元帥が……」

「コトク……?コトクだと!?」

 ケベルは声を荒らげる。

「ケベル大将!生きておられましたか!!」

 救護活動に当たっていた1人の兵士が呼びかけた。

「一体どうなっているんだ!!」

「先程コトク元帥がここへやって来て、2週間後には新部隊が来るからと我々を護衛に攻撃させたんです!!」

 ケベルの顔はみるみるうちに金剛力士像のような顔へと変わっていく。

「やはりあのクソッタレ皇帝に媚びてるグズは!!」

 最早ケベルには上官であるコトクや皇帝に対する忠誠心はない。

「さらに帝都からの情報なのですが、ランパール海とカルカマラでの敗戦を聞いた国民が宮城前広場で反戦デモを行ったところ、陸軍によって攻撃が行われ、多数の死者を出したとのことです!!」

 モルゲン政府は完全に情報秘匿の方向へと舵を切った。

「……残存兵を集めろ!!今すぐに!!」

――――――――――

南方方面軍集団司令部

「それではこれより作戦会議を始める。」

 日本陸軍の作戦会議、のはずだが、ここにはケベルやモーシャを初めとしたモルゲン軍司令官もいた。

「まず、政府軍側の情報が欲しい。」

 大河内大将がケベルへ問いかける。政府軍、というからには当然反政府軍がいる訳だが、その反政府軍こそがケベル達であった。そう、革命を起こすのだ。

「東部方面軍総司令官のコトク、あいつは厄介だ。大魔導石を使って身体能力をとてつもない程にまで強化している。剣では貫通することはできない。」

 騒然とする。剣では貫通することができない鋼鉄の体、もしかしたら銃でも貫通できないかもしれない。

「APFSDSなら貫通できるんじゃないか?鉄板なら軽く500mmは貫通できるし。」

「だがもし砲弾を避けられるだけの動体視力があったらどうするんだ?」

 誰もが頭を悩ます。まるでラスボスのような能力を持ったコトクをどうやって倒すか、思考を巡らせる。

「もう少し詳細な能力を教えてくれないか?」

 大河内はもう一度問いかける。

「通常の人間の約10倍の能力を持っている。力も、瞬発力も。しかも同じ能力を持った部下を5人も従えている。」

 皆が絶句する。1人でも厄介なのにそれが6人。最早打つ手なしかと誰もが思った。

「ならこちらも身体能力を強化すれば良いのではないか?」

 声がした方向へ視線が集まる。そこにはホログラム映像で映されている1人の人間がいた。

「はぁ……誰だこいつを呼んだのは?」

 モルゲン人がホログラム映像に困惑している中、大河内は呆れた風に問いかける。

 ホログラム映像に映っているのは三鷹浩之ひろゆきという人物だった。彼は国防軍科学技術研究所の科学者で、周りからはマッドサイエンティストとして煙たがられている。

「まるで相手は『キャプテン・アメリカ』みたいだねぇ……ならこちらも『キャプテン・ジャパン』を用意するだけじゃないかね?」

 その特徴的な喋り方は人をイライラさせる。事実、大河内はかなりムカついていた。

「何が言いたい?」

「はっはっは、簡単な話だ。まず……」

 三鷹は解説を始めるが、そのあまりにも現実離れした方法に場が凍りつく。

「俺たちはお遊戯をやってる訳じゃない。国民の命がかかってるんだ!」

「やはりこういうのは特殊部隊が得るべき能力だよなぁ……特戦群を用意してくれ。」

 三鷹はまるで話を聞いていない。

「もういい……好きにしてくれ。失敗したらタダじゃ済まないからな?」

「分かっているわ。ほんじゃ、またのー。」

 ホログラム映像が消失する。

「クソ、あの野郎は……」

「まあ落ち着いてください。彼は腕は確かです。彼が居たから今の日本はあるのですから……」

 大河内は部下に慰められる。

「ああ……じゃあ、改めて作戦会議を再開しよう……」

――――――――――

モルゲン東部のどこか

「司令、本当に良かったのでしょうか?」

 杖を磨いているコトクに部下が話しかける。

「何がだね?私が間違ったことをしているとでも?」

 コトクは杖を部下に向ける。

「い、いえ!決してそんな!ただ、今軍は継戦派と休戦派で対立しています。ケベルには絶大な影響力がありますから、休戦派を率いて反乱を起こすという可能性も……」

「おや忘れたのかね?ケベルは蛮族の捕虜だ。軍を率いることはできないし、もし仮に帰還したとしても、一度蛮族の捕虜となった恥晒しの言うことを聞く人間などいない。私こそが、2つの派閥を統合し、偉大なる我が祖国を勝利へと導くのだ!!」

「それもそうですね!私が間違っていました!」

 ここで大人しく部下の忠告を聞いておけば良かったものを……自らのエゴが自らの身を滅ぼす、典型的な例となることをこの時の彼はまだ知らない。
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